ドラゴン-4
「無論あなたの言う通り身軽に動ける武器が有効的だと思いますよ。でも今日はこの子を使いたい気分なので……」ミラルエさんはそっと剣に顔を向ける。
口振りから察するに毎回違う武器を使っているようだ。感情論で答えられたらもう言うことはないので質問したおんちゃんも言葉が続かない。
そして僕たちはシャヌラの町を抜け草原へと足を踏み入れた。
罪無き草たちを圧迫し始めてから三〇分経過。徐々に言葉数も少なくなり、ミラルエさんは上空を気にするようになる。
僕たちがこの世界に現れた場所同様木々はほとんど生えておらず、歩く方向にはほぼほぼ地平線が広がっているだけだ。
僕も真似して青白いグラデーションに染まっている空を見上げているが特に何も見つからない。
「空を警戒する理由は何ですか?」
「ぅぅん」気の抜けたような声が返ってくる。「どっちから説明しよう……」これは独り言。「ウルフレームは肉食であることは知ってます?」
「……いえ。それは知らなかったです」
ぼっさんも驚きの顔をしている。眼鏡の彼は以前ウルフレームは何も食べない。魔力のようなもので動いていると憶測を立てていたからだ。
「ウルフレームの身体の中はカラッポで臓器は無いんですよね?」
「そう。しかし、口から食べ物を通すことで何かしらのエネルギーに変換しているみたいなの」と返答しながらもミラルエさんレーダーは上空を見据えている。「それで、先ほどあなたが言ったように身体の中はがらんどうだから、食べ物は顔を通過したら地面に落ちちゃうの。ボディは張りぼてで紙に覆われてるけど首から胸元に沿って破けてるのよ彼らは。面白いでしょ」一瞬こちらを向いて微笑むミラルエさん。
「面白おかしいと思います」
「前説は終わりで次に私が上空を見ている理由なんだけど、メカブドリを探してるの」
「めかぶ……鳥?」
「うん。羽ばたいてる姿が漂っている海藻に見えるからメカブドリ」
なぜメカブをチョイスしたのか? ワカメでも昆布でも良さそうだが……。まぁいいや。
「そのメカブドリは他の生き物の食べ残しを餌としていて、ウルフレームが落としていく肉をよく啄ばんでるの、なのでウルフレームの群れが移動しているのであれば、その付近の空にはメカブドリが群れをなしているという訳なのさ」
「なるほどです。そのため空を監視していると」
顎を上げる目的が分かったので、僕たちもより一層意識してメカブドリを探すように目を凝らした。
あれこれそれこれで数分後には青空に発生するノイズを十一時方向で発見することとなる。
「メカブドリですよね」ぼっさんが聞く。
「おそらく。こちらに向かって飛んで来てるから、ウルフレーム達もこちらに向かって直進しているはずです」ミラルエさんは左右を見渡す。「あなた方はあそこのコブに伏せていて下さい」と十時方向にある地面の膨らみを指差す。
僕たちは息せきと指示された場所へ移動しうつ伏せとなった。
我々が移動している間にミラルエさんも相手方向に直進し、僕たちの右前方で立ち止まる。
ミラルエさんは剣のグリップを両手で握り後ずさりしながら刀身を日天に晒し、支えを失った鞘は草上へと倒れ込んだ。剣は両刃づくりであり刀身に沿って中心に溝が彫られ、銀色の肌は陽の光を受け鈍く輝いている。
切っ先でズルズルと地面を掘り進めながら鞘から距離を取るミラルエさん。華奢な体躯に長身のつるぎという組み合わせにギャップ萌えを感じることが出来る。
しかし、本当に大丈夫だろうか?と声に出さずともみな思っているはずだ。そしてミラルエさんからは「手出し無用ですから」と忠告を受けているのでこの小山から、もう静観することしかできない。
待機してから数分後、大空にてひらひらと波打つように羽を動かす鳥の群れを視認出来るようになり、その鳥達の眼下にはオモチャのような出で立ちの狼が八頭下卑た笑いを描きながらぎろぎろと凝望している。
ミラルエ・ノクストラを。




