メーネ-6
「もう一度お願いします」ぼっさんがメーネさんに懇願している。
「はい」と今度はフォークを上向きにして火を灯すメーネさん。
おおぉと感嘆する僕たち。
そのまま火を大きくして、ゴミ箱にちり紙を投げ入れるように火球をグリルの中へ放り入れた。
「「「おおおオォォォ!」」」三人で興奮してしまう。
カッコイイと小さく声を出しすっかり骨抜き状態のぼっさん。
「フォークっていうのがまた良いよね。木の棒とか杖じゃなくて。なんか新しいよね」うにやんの感想。
「なぜフォークなんですか?」
「えーっと。たまたまフォークがテーブルの上にあったからで、別になんでも良いですよ。一応指先から直接出せれますけど、熱いので」軽く笑うメーネさん。「あ、ほら炭に火が付いてきたのでグリルに網を乗せましょ」
網を用意する係のぼっさんが動く。
「カラルルさんは魔法使えないんですか?」
「私は駄目ですねー。家系的に使えない感じです」
「へー。遺伝みたいなものがあるんですね。じゃあメーネさんの両親は使えるってことですか?」
「えぇ。母親が使えますね」
「なるほど」
ぼっさんがグリルに網を置き終えた。お疲れ様です。
「じゃあ早速焼いていきましょう」
メーネさんの始まりの合図とともに、食材が乗った皿とトングを持つぼっさん。
網上には牛タンやカルビ、ロースなどが次々と置かれていき、野菜も赤色のアスパラガスや、大きな枝豆、星型の玉ねぎが炎のリングへと入れられる。
「その紫色の野菜は何者? 部外者ではないの?」ぼっさんが神聖なるリングに見覚えの無きものを入れようとしたため僕は制止した。
「これテンランカだよ」
「テンランカ……どこかで聞き覚えのあるワードだ」
「チヴェカさんにご馳走してもらった時にシキさんが質問してなかった? テンランカって何?って」うにやんがヒントをくれる。
あぁ。かすかに覚えているような。
「あっ! 平たく楕円型で紫色の野菜てチヴェカさんが言ってた気がする」
「それそれ、そのテンランカをスライスしたものがこちらです」ぼっさんがグリルを示す。
網に置かれたテンランカのスライスは中身まで紫色だ。
「ぼっさんも良く知ってるね」
「食材の買い物してると目に入ってくるからね。購入したことはないけど」
「じゃあぼっさんも初めて食すわけだ」
「ああ。丁寧に焼いていこう」
「うん」
テンランカは僕とぼっさんからの期待の眼差しを一身に受けることとなった。
「さっきの魔法はどうやって出したんですか? ボクたちも使えたりしません?」うにやんがメーネさんに話しかける。
「えーと。みなさんが使えるかどうかは試してみないと分かりませんが。出し方としては、例えば指先から火を出したいのであれば、指先に意識を集中させて、さらに指先から火を灯すイメージをすることでしょうか」とメーネさんの右手人差し指から弱々しい火が現れる。
うにやんと僕は人差し指を空に向け試してみる。
「…………」
「…………」
隣のグループの楽しげな声が聞こえてくる。
「…………」
「ダメだね」うにやんが音を上げる。
「僕も出る気がしない」
「私もやっぱり出ないみたい」カラルルさんも試していた。
「まぁこればっかりは仕方の無いことですよ」メーネさんが宥めてくれる。
「できたよー」ぼっさんが僕たちを呼び、テーブルには焼きあがった肉肉野菜達が皿に盛り付けられていた。
我々はいただきますをして肉野菜プレートにナイフとフォークを介入させる。
「じゃがいもみたいな食感だね」僕は早速テンランカに手をつけていた。
「うん。でもじゃがいもと違い甘みがあると思う」ぼっさんも食べている。
「お肉もいい焼き加減で美味しいですよ」メーネさんは肉を細かくして机上のピィノくんにも分け与えている。
うにやんとカラルルさんも舌鼓を打つ。
「ありがとうございます」ちょっくら照れているぼっさん。
「あ、ぼっさんも試してみたら」
「魔法のこと?」
「いえす」
ぼっさんはナイフとフォークをテーブルに置き人差し指を伸ばし、意識を集中させるため目を瞑る。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
瞼を閉じた状態でぼっさんが質問してくる。
「今自分のイメージでは指先から可憐な青い炎が舞い踊っているんだけど、どう?」
「出てないよ」




