北野天満宮
一月四日、佑暉は京都市上京区にある北野天満宮を訪れた。サキの合格祈願も兼ねて初詣に行きたいと正美に志願したところ、それならばと快くそこを勧めてくれたのだ。
三箇日も終わると、客足は徐々に減っていく。年末年始は八つの客室すべて埋まっており、目も回るほどの忙しさで参拝どころではなかった。仲居たちが朝から晩まで走り回っているので、佑暉も手伝わずにはいられなかったのだ。結局、年明けからの三日間は旅館の外に出ることも叶わなかった。
佑暉は朝の七時半頃に旅館を出発し、一旦京都駅に出ると、バス乗り場から北野天満宮行きのバスに乗った。バスで三十分ほどかけ、「北野天満宮前」と表示されたバス停で降りる。
北野天満宮は、菅原道真公を祭神として祀る神社の総本社であり、学問の神様としての信仰も厚い。
四日の朝だというのに、すでに多くの人々が訪れていた。参拝客の顔ぶれを見れば、制服を着た中高生たちが多く見受けられる。やはり学問の神様と言われるだけのことはあるな、と佑暉は感嘆するのだった。
鳥居をくぐると、松や杉に囲まれた参道にはずらりと屋台が並び、その混雑ぶりは祇園祭の時のことを佑暉に想起させた。食べ物の匂いや、子供のはしゃぎ声がいたるところに響き、朝から大賑わいであった。真っ直ぐ足を進めると、やがて楼門が見える。
佑暉は、出かける前に正美から言われたことがあった。
「門の近くに『お手水舎』っていう手を洗うところがあるから、お詣りする前にそこで手を洗いなさいね」
と、念を押されていたのだ。
さらに、その作法についても正美は丁寧に教えてくれた。佑暉は忘れないように聞いたことをスマートフォンのメモ帳に書き込み、バスの中でそれを繰り返し読みながら、心の中で何度も復唱していた。
手水舎は楼門をくぐって右手にある。佑暉はそこに行くと、右手に柄杓を持って水を救い、左手を洗った。次に、それを左手に持ち替えて右手を洗う。さらに逆の手に持ち替えると水を左手に受け、口をすすぐ。最後に柄杓を縦にすると、残り水が柄を伝って下に流れ落ちる。
佑暉は柄杓を元の場所に戻し、拝殿へ足を運んだ。拝殿の前は、参拝客が長蛇の列を成していた。佑暉は、列の最後尾に並んだ。拝殿の両脇には梅と松が植わっていて、その間を参拝者が歩いていく。
目の前に拝殿が現れると、佑暉は十円を投じる。旅館「ふたまつ」の商売繁盛、そしてサキの高校合格を祈った。「二拝二拍手一拝」という、神社の礼法も忘れなかった。
佑暉は帰る前、授与所で「学業成就」の御守を一つ購入した。サキも個人で合格祈願に行ったかもしれないとも思ったが、自分がここに来た証を彼女に見せたい、彼女にこれを渡したい、という一心で購入したのだ。
彼女が必ず合格できるように……そんな願いを込めて、大切にそれを持ち帰った。
翌朝、正美に御守をサキの置屋まで届けてもらった。初めは自分で届けようとしたが、正美に「置屋さんから、男はんが何しに来はったん、とか言われるんちゃう?」と冗談めいたことを言われ、真に受けた彼はやむを得ず彼女に頼ることにしたのだった。
それを除いては、佑暉はやりたかったことはすべてやったという、達成感にありつくことができた。そうして、これまで長い間更新していなかったブログを再開させたり、旅館の手伝いに励んだりして段々と恒常を取り戻していき、サキの受験が終わるのを待つことにした。
地味に手水の作法について書いておきました。
是非、神社で参拝する際に参考にしてみてください。




