43.公園のクマ
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「狐野様ですね、お荷物をお預かりしています」
翌日、昨日より更に豪華な朝食バイキングを食べていた僕は、ホテルのフロントに呼ばれた。
笑顔を振りまくフロントマンは、切手の上に判子が2つ押された茶色い封筒を僕に手渡した。
渡された封筒の裏面には、差出人の名前の代わりに笑った猫のマークのスタンプが押されていて、誰からの荷物かは聞くまでもなく、中には原稿が一枚入っいて、右端に小さく13とページ数が振られていた。
♢♦︎
公園に着いたキツネさんは、入り口でコトリさんの羽根を見つけました。
「あれれ? 今度は2枚も落ちてるぞ」
「グーグー」
「ん? なんだ?」
キツネさんが羽根を拾っていると、遠くのベンチで、大きなクマさんがイビキをかきながら寝ていました。
「クマさん、クマさん」
「ん? おやキツネさん。どうしたんだい?」
「ここにコトリさんが来ませんでしたか?」
「来たよ。さっきまでここに座って一緒にお昼寝をしていたんだ」
きつさんはクマさんの隣に座りました。
「そういえば、コトリさんは、今からあの山に登るって言ってたな」
クマさんは遠くに見える山を指差しました。
「ありがとう、クマさん」
「また来てね」
「わかった。それじゃあね」
キツネさんは山に向かって歩きだしました。
♦︎♢
ホテルの外に出た。今日も蒸し暑くなそうだ。昨日の晩に下調べをしておいた「弘前りんご公園」行きのバス停に向け、僕は歩き出した。
20分ほどで目的地に到着したりんご園の入口。両脇に細い木がたくさんあり、それは多分、リンゴの木だろう。想像よりも遥かに低い。またその下には「ジョナゴールド」や「ふじ」などの品種が書かれた立て札があり、リンゴの甘い香りが僕の顔に当たった。
「こんにちは」
呼ばれた声に驚いて振り向くと、僕は自然に視線を上げてしまった。そうせざるを得なかったのは、彼の身長が190センチ以上あったからで、体格の良さ気な肉体は、ラグビー選手のそれに近い。二十代後半ぐらい彼は、白い歯を輝かせ、僕に笑いかけてくる。本当に彼に食べられてしまうかもしれない。
「君、大学生? こっちの人じゃないね?」
「あ、そうです。あの、ここで絵を描きたいんですが、いいですか?」
「大丈夫だよ。あとごめん、勘違いしてた。てっきり体験希望者かと思って」
「体験希望?」
「そう。今はまだやってないんだけど、来月からここでりんご狩り体験が始まるのさ。たまに開催月を間違えて来る観光客の人がいてね。君もその1人かと」
「そういうことでしたか」
「いきなり声をかけてしまって悪いね。お詫びに絵を描くには打って付けの場所を案内するよ。こっちに来て」
彼の影を踏みながら、僕は芝生の道を歩く。彼が案内したのは、小さな丘を登った先にある展望台だった。
「どうだい? いい眺めだろ?」
ドヤ顔のクマが腰に手を当てる。眼下にはりんごの木がずらりと並び、遠くにはそびえ立つ大きな山がこちらを睨んでいる。備え付けのベンチに2人で腰掛け、僕は質問した。
「あれは、何ていう山ですか?」
「岩木山っていうんだよ。大きいでしょ。でも、初心者でも比較的登りやすい山でね。リフトもあるし。山の南東に岩木山神社があるんだけど、そこが最近、パワースポットなんて呼ばれだしてね。県外から参拝に訪れる人が増えたみたいだよ」
「神社か…」
「僕としては、君にも是非一度、登ってほしいものだね。頂上からの景色は、ほんと、最高なんだ」
「そうなんですね。ですが、僕、一度も山登りしたことがないんです」
「そうなのかい?」
「体育系は、ちょっと。でも本当に登らなければいけないかもしれません。もちろん、強制ではないんですが」
「すごく複雑だね。まぁでも、君がもし、本当に山に登りたいと思っているなら、僕がアドバイスしてあげよう。山登りの先輩としてね」




