新たな対立
「今頃どうしてるかな、あいつ」
関本が後ろのロッカーの上に座りながら言う。
「どっかで泣いてるんじゃないの?」
上田がポケットに手をいれ、本を読んでいる。
「ははっ。それは面白れーや」
そう村上が笑っていると何人かの女子を連れた松下が声をかけてきた。
「おーい!こいつらもさ、関口の件に関わりたいって」
連れてきていた女子らは吹奏楽部の面々だった。彼女たちはまさに各クラスを支配しているような存在だった。
そして吹奏楽部の顧問である、山田晶子の影響か、彼女たちの性格は若干おかしい。
それもそのはず、顧問の山田先生は明らかなえこひいきをしていて自分の部活の生徒にやたら優しい。担当である数学の評価も1学期末テストに90点をとったが、村上なりにちゃんとやったはずのワークが全てC評価で、通信簿には2がついた。それにもかかわらずテストで50点を切った坂本というやつは
5がついた。坂本はある楽器のパートリーダーとかいうやつで、山田の特にお気に入りだ。
しかし、吹奏楽部とはいえ山田のお気に入りではない奴はだいぶ痛い目を受けているだろう。
この前、ある楽器のパートリーダーである生徒は合奏の時に 「お前はどんな練習を後輩にさせているんだ!お前のせいで合奏は台無しだ!お前が代表として罰を受けろ」 とかなんとか怒鳴り散らしたあげくその場で全員に土下座をさせ、その後1週間ひたすら廊下の雑巾がけをさせたそうだ。
それがきっかけに周りの部員たちはその生徒をいじめ始めた。山田に便乗するように。
その生徒とは前田真奈。
誰が告発したのか知らないが、さっきの事が他の先生の耳に入り職員会議で問題となった。その時山田はいじめに加担していた吹奏楽部の生徒を会議に呼び、自分の無実を証明させた。いじめは黙っておくという条件で…
同種嫌悪??
よく分からないがいつも人を支配してきた立場として?
こいつらの事はあまり気に入らなかった。いや、はっきりいって嫌いだった。
だからこいつらと組むなんてまっぴらだ。
「ねぇ、村上でしょ?あんた?」
吹奏楽部軍団のうちの一人の三山ゆかが村上の前に現れた。
彼女は吹奏楽部の中でもボス的存在だ。
「うちらさぁ、関口はちょっとあれなんだよね」
そう言って話を始めた。
その話を要約すると、山田の事を他の先生に伝えたのは前田の彼氏である関口だという噂が流れているそうだ。実際この事がきっかけで付き合うようになったといっても過言ではない。
だからその報復として関口に一発してやりたいそうだ。
「だからいいでしょ?」
そう言ってきた。
だが村上にはこいつらと組む気なんてさらさらない。
「はぁ?お前ら、俺たちの計画を利用する気かよ。なめてんのか。言い訳ねえだろ。うっとうしいからさっさと散れ」
三山を突き放すようにそう言った。
「はぁ?お前何様?調子のんな。この計画だって所詮、上田が考えたんだろ?」
「黙れ。なにも知らないお前にどうこう言われる筋はねえ」
「そーですか。はいはい。てか、うちらがお前みたいな奴と組むなんてありえないわ。お前と組んだところでなにも上手くいくわけないし」
口論になり賑やかだった教室が静まり返る。
「そうかよ。じゃあ俺らがお前らだけじゃなにも出来ないって事を証明してやるよ」
「そんな事出来ると思ってるの?あんた」
「あぁ。だから一つ提案がある。ポイント制にしよう」
「ポイント制?」
その場にいた三山をはじめ関本、松下らが村上の方をみた。
「ああ。ルールは簡単だ。まずポイント係をどっちのチームにも入れない松下にする」
松下は普段村上らといるが、吹奏楽部とも仲がいいのでという事だ。
「で、俺たちが関口にした事を松下に報告する。それを松下が採点してその度に俺がつくるサイトにその点を掲示する。わかるか?」
「へぇ。面白いじゃん。いいよ」
三山はその案に同意した。
「ちょっと待って」
突然声を出したのは三山と同クラスの峯さつきだった。
「あなたがそのサイトを作るのは時間がかかると思うわ。だから私の家のものに作らせた方がいいと思うの」
彼女は校区の西にある高級住宅街に住むお嬢様だ。
「わざわざしてくれるなら、ありがたく頼ませてもらうよ」
確かにわざわざ自分がする必要もない。
「分かったわ。じゃあ今日の19時までに作らせるわ」
そう言ってさっさと教室から出て行ってしまった。それに続いて三山、他の吹奏楽部員もその場を去る。
「じゃあ、明日からスタートね」
去る間際、三山が言った。
村上は軽く頷き席についた。
「おい、あんな事言って何か策でもあるのか」
関本と上田が村上の席に駆け寄って来た。
「策って… お前ら忘れたのか?
さっき関口は何してた?」
「あっ。そっか」
関本がはっとする。
「警察に質問でもうけてたんだったね」
上田が笑っていう。
「おい!松下どうした?」
村上が教室の後ろに残っていた松下に声を掛ける。
「え、いや。何もない」
そういって席に戻っていった。
いつもならノリノリなはずなのに静かなのでどうしたのか?と思った。
でも何も言わなかった。
その日の晩、松下から
「「うち、中立の立場だから、これから村上たちと関わるの控える」」
というメールが届いた。
最初はやたら細かい松下に驚いたが確かに贔屓されるとつまらないと思い納得した。
そして19時ぴったりに峯から、サイトのアドレスがのったメールが届いた。