バイト
「ありがとうございました。」
会計を済ませてビニール袋を客に渡す。
ビニール袋を受け取った客は店の出口へ向かい、俺は次の客の相手をする。
夏が終わり、秋になったことで行楽シーズンとなり、田舎であるこの町にも多くの客が来る。
すでに夜の8時を過ぎているが、帰り道は渋滞しており、トイレや飲食物目当てでコンビニに来る客の量が減らない。
先程から何人対応したか覚えていない。
対応にも疲れていたため、すでに客の顔は見ていない。
「お待たせしました。」
決められた台詞を口にして、置かれた飲み物にバーコードリーダーを当て、表示された値段を言う。
しかし、客は固まったまま金を払う素振りを見せない。
怪訝に思い、相手を見ると、何故相手が固まったのかを理解した。
「おにい、ちゃん?」
そこにいたのは、妹の結衣花だった。
小学校からの付き合いだった幼馴染みに高校の時に告白し、同じ大学に入ったのが去年の4月。
その年の10月に別れることとなり、その後、追われるように家を出た。
大学は自主退学し、携帯も解約した。
それ以来、家族とは会うどころか声すら聞いていない。
その家族が眼の前にいるのだ。
「お客様、他のお客様の迷惑になりますので、会計をお願いします。」
だがそれでも、すでに俺の中では赤の他人だ。
「そん、な。」
結衣花は俺の発言と他の客からの苦情に、金を払って逃げるように店から出ていく。
「お待たせしました。」
俺は出口を見ることなく、並んでいた客の対応を始めた。
客を捌ききると、すでに次のシフトの子が来ていた。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
挨拶をすると、いつも丁寧に挨拶を返してくれる真面目な子だ。
「そう言えば、店の前で女の子に先輩の事聞かれましたけど、知り合いですか?」
女の子。結衣花のことだろう。
「いや、もしかするとストーカーかもしれないから、警察に連絡しておこう。」
「そうですね。」
次の子と交代して、俺は警察に連絡をする。
「もしもし、○○町の○ァミリー○ートの前に長い時間女の子がいるので、迷子かも知れないので確認をお願いします。」
電話をしてからすぐに警察が来て、結衣花に話しかけていた。
俺は見つからないように、愛車のトライクに乗って、アパートまで向かって走り出した。




