メイドと領主と二人組
諸君、アハトゥンク!
後日とか言いつつも、一か月も期間が空いてしまい、大変申し訳ありませんでした。言い訳をさせて頂きますと、まさかこんなに忙しくなるとは思って無かった!?です。前話との併合は、少し考えます。
これで敵の拠点が陥落するのは時間の問題と……
むしろ最後まで降伏しなければ、榴弾で建物ごと吹き飛ばすのもありだな。
あと残る問題は……目の前で壊乱している連中、か。
さて、どうしてくれようか?
……そうだ、別にわざわざ降伏するまで待ってやらんでも良いではないか。
勢いで制圧してしまおうかな?
「おいミヤビ」
「なんでありましょうか!」
「一旦屋敷に向かおう。屋敷を制圧して、総司令官の家族を人質にすれば、恐らく投降するはずだしな」
「さすがであります少佐殿!!」
ふむ、ミヤビは私に対してはイエスマンだからな…
案を出さないのが問題だと思う。
国民性か?今の第三帝国の上の連中もそうだが。
「では行くぞ。先ずは先程射殺した、指揮官連中の馬を貰おう……馬には乗れるか?」
「はっ!実家では乗馬をたしなんでおりましたので、問題はありませんであります!!」
「了解した。多分馬には弾は当たって無い筈だ…あっちに三頭いるぞ」
「捕まえて来ます」
パッとミヤビが走り出し、少し離れた所で草を食んでいた馬を二頭捕らえ、手綱を握って持ってきた。
「お待たせ致しました」
「ご苦労。なるべく敵の居ない所から移動しよう。MGの残弾も少ない」
「そうでありますね!私も少佐殿に頂いた弾倉二本でカンバンでありますし」
「どちらにせよ、一旦屋敷に向かわないといけないと言うことか……」
まだ前方には、一両の四号戦車に翻弄されている本隊が見える。
今ならもしかしたら気付かれずに屋敷に到達出来るかも知れない。
私は対抗手段無しでの集団戦は意に反するからな。
好きでは無いし、面倒くさい。
「よし、右から迂回して屋敷に接近しよう」
「はっ!了解であります!」
馬に乗って私が屋敷から逃げてきた道を再びたどり、私が倒した狼の死体を避けつつ、草むらの影に隠れながら移動し、なんとか見付からずに屋敷の背後にたどり着いた。
そこで馬を解放する。
屋敷の前に陣を張っていた連中が、いまだに大混乱していて助かった。
「案外簡単だったな。服が汚れたが」
「軍服は汚してなんぼでありますよ!と、言うことで少佐殿の軍服は自分が洗いたいであります!!」
「いや、シューリーが洗ってくれているから大丈夫だ」
「そ、そんな…」
ミヤビがガックリと肩を落とすが、逆にミヤビに私の服を渡したら、何をされるか分かったものではない。
「おい、まだ戦闘中だ。気を抜くな」
「も、申し訳ありません…」
大きさからして、四号戦車が開けたと思われる大穴から、屋敷の中に侵入する。
廊下は薄暗く、屋敷の外からの声と音しかしない。
中は静まり返っている。
「MP40をしっかり構えておけよ。室内が開けた所よりも恐ろしいからな」
「了解であります!」
ちなみに、一番恐ろしいのはジャングルだ。
何故なら、牙を剥くのが人間だけじゃないからな。
ひとまず、一階の端の部屋から順番にドアを蹴破って調べて行く。
ほとんどもぬけの殻だが、どうやら一階は厨房や食堂等の比較的大きい部屋が集まっているようで、見た所一階では戦車に轢走されたヤツはいないようだ。
ティーゲルが体当たりをした中央玄関にある、二階へと続く階段まで移動すると、四人の騎士が転がり込んで来た。
ミヤビの口を塞いで階段の後ろに飛び込む。
ミヤビがムグムグ言っているが、人差し指を口の前に立てて黙らせた。
『クソ!あの灰色の化け物はなんだ!!』
『わ、わかりません!』
『槍が貫けませんでした…』
『そんな事は見れば分かる!!あの機動力と言い、天辺付近の火を吹く筒と言い…どうなっているんだ!!』
『落ち着いて下さい!それよりも、こんな戦場とも言えない所から逃げましょう!』
『そ、そうだな。あのクソッタレな領主の豚野郎に呼び出されて来てみたら、とんだヤツを相手にされてよ、絶対にぶっ殺してやる!』
どうやら、連中は領主から召集を掛けられて集まった、地元の名主か従士の人間らしい。
ヘルムを被っているので、顔は確認出来ないが、声からして平均年齢は30代だろう。
どうする……コイツらが去るのを待つか、この場で殺すか……それとも引き込んで共に領主を捕縛するか。
チラリとミヤビを見やると、私に口を押さえられながら鋭い眼をして、腰の軍刀を引き抜いていた。
月明かりを反射した床の光で、カタナが鈍く光っている。
刀身の波打つ紋様が、怪しげな光を放っているようにも見えてしまう。
そうこうしている内に、声と足音が遠ざかっていった。
最後まで見付からずに済んだが、一階のすべて蹴破られたドアを見て、引き返して来ないかが心配だ。
「今の内に二階へ上がるぞ」
「了解しました!」
階段の裏から頭だけを出して周囲を確認し、人が居ないのを確認出来たら階段を昇る。
度々砲撃音が轟いて、屋敷が揺れるが、気にしないでどんどんドアを蹴破って行く。
二階は使用人か何かの部屋らしく、狭い部屋の中に二段ベッドが二つづつ並んでいて、比較的整頓されていて、荒らされた形跡は無かった。
四つ目の使用人部屋のドアを蹴破った時に、隣の部屋からカタンと物音が聞こえたので、ミヤビと顔を見合わせた。
足音を殺して隣の部屋のドアの両脇に立ち、向かい側にいるミヤビが手だけ伸ばして、ドアを開け放った。
白刃が煌めき、開いたドアからバスターソードを装備したメイドが飛び出した。
入り口に対して垂直に振り抜かれたバスターソードは、勢い余って床に先端が突き刺さった。
「あ、あれ……?」
メイドの口からそんな言葉が聞こえたが、ひとまず無視して地面に蹴飛ばして、そこにミヤビが踊り掛かっては、組み伏せて無力化した。
何てメイドだ…扉を蹴破るか、バカ正直に扉を開けていたら、真っ二つにされていたぞ……
ミヤビが物騒なメイドを取り押さえたのを確認すると、急いでMGを構えて入り口の前に立った。
「全員動くな!」
狭い部屋の中には、十名ほどのメイドが身を寄せ合いながら、こちらに恐怖の視線を投げ掛けていた。
年齢層はまちまちで、一番幼そうなメイドは見た目15歳ほどから、メイド長だと思われる女性は、60歳くらいに見える。
一番高齢のメイド長(仮)が、一番手前で全員を庇うように両手を広げていた。
「これはこれは、夜分に失礼します。フロイライン」
MGの銃口を上に向けて、取り敢えず丁寧にお辞儀をした。
まだメイド達の緊張は解けていない。
「は、離して下さい!」
「黙りなさい!」
「ひっ!?」
組み伏せたメイドが、暴れながら助けを求める声をあげるが、目の前に軍刀を突き立てると、小さく悲鳴をあげて大人しくなった。
「ひとまず落ち着いて頂きたい。我々はお嬢さん方に危害を加えるつもりはありません」
「到底信じられません!」
メイド長(仮)が厳しい顔をして、毅然と言い放った。
ふむ、まぁなんだかんだ言いつつも、この家に榴弾を撃ち込んで、戦車を屋敷に突っ込ませたのは私なのだがな。
このままでは埒があかないので、帽子を脱いで素顔を晒し、ミヤビにメイドを放すように命令した。
「これで信じてもらえないだろうか?」
「え、えぇ……良いでしょう」
メイド長は両手を下ろしたが、まだ少し警戒しているのが窺える。
まぁ、正しい反応だろうな。
人は疑いを持って接しろとも言うしな。
「さて、私は君らのご主人に用があるのだが、案内して頂けるかな、フロイライン?」
「…………良いでしょう」
「メイド長様!?」
厳しい表情をしたメイド長が、ゆっくりだが頭を縦に振った。
驚いたメイドの一人が、びっくりしたようにすっとんきょうな声をあげた。
「御領主様を売るおつもりですか!?」
「黙りなさい!……とうの昔に私の限界は越えていたのです。私はかれこれ30年この御屋敷で働いていますが、何人仕置きと言って地下室に連れて行かれたメイドを見てきたかっ!ほとんどの者は帰って来ませんでした。帰ってきても、傷が悪化して助からなかった者も看取っています。もう充分ですよ……えぇ、もう充分ですとも」
一喝のあとに語り始めたメイド長の過去に、皆が黙り込んでしまった。
ミヤビを見やると、なんとも言えない表情でカタナを鞘に収めた。
確かに、息子が息子なら親も似たようなクソ野郎って事もあるな。
「で、ですが、メイド長様は大丈夫だったんですか?」
重い空気に耐え兼ねたのか、メイドの一人がおずおずとメイド長に問い掛けた。
その問いにメイド長は頭を横に振り、おもむろに長袖を捲りあげた。
そこには、生々しい古傷が幾つも刻まれており、捲りあげた袖の下に続いており、いかにその仕置きが悪辣なものかを物語っていた。
「この通り、背中まで続いてます。他にも何度若い時に犯された事か。妊娠した事も一度や二度ではありません。昔から家族を人質にしては、なんでもかんでもやりたい放題でした」
そう言って、袖を直して立ち上がり、机の上にあった燭台を手に取り、火の消えた蝋燭に指を持っていく。
「一筋の灯火よ、我の元で輝かん」
すると、驚いた事にメイド長の人差し指にマッチの火程の灯火が“出て”蝋燭に火を着けていった。
成る程、やはりこの世界には魔法があるのか…
ドラゴンと戦っていた連中が放っていた火の玉は、手品でも火炎放射器でも無かったと言うわけだな。
魔法か…私も使えるのだろうか?
「では参りましょうショウサ様。貴女達はここに居なさい」
火の灯った燭台を持ち、振り返ったメイド長がメイド達に諭す様に言うが、メイド達は一斉に立ち上がった。
不穏な空気を感じたか、ミヤビの右手がカタナの柄に置かれる。
「メイド長様だけなんて行かせられません!」
「私達も行きます!」
「メイド長様と私達は家族も同然です!!」
「貴女達……後悔しても知りませんからね」
一瞬呆気にとられたような顔をしたメイド長だが、すぐに慈愛に満ちた笑みを浮かべては、口を尖らせて皮肉めいた。
「では参りましょう。ショウサ様、そして私の貴女達」
『はい!』
私の貴女達…か、良い台詞だな。私も今度使わせてもらおうかな?
★
「クソッ!どうしてこうなった!!」
窓から見下ろした草原には、訳の分からない灰色の馬の要らない馬車が縦横無尽に駆け回り、領主権限で集めた兵士達が、蹂躙の限りを尽されていた。
今日、なんだか息子が一人の娘を拐って来ては、私設軍を召集しろだの防衛結界を張れだの言ってきて、どうせ商人の娘でも拐って来たのかと思っていたが、なんだこの様は!?
最初こそ連中は何も出来なかったが、一回り大きい馬車が来た途端に防衛結界を破られた。
私はどうすれば良いんだ!
このままでは連中に捕まって、私は破滅してしまう!!
あの馬鹿息子は娘に返り討ちにあって、また大怪我を負っているし、メイド共は何処にいるか分からない。
「そ、そうだ!逃げるんだ!私が捕まらなければ再興は可能……!急いで金を集めなければ!!」
「ほう、何処に逃げるんだ?」
「そんな事は決まっている!あの執政官を脅せば、私を匿うに決まっている……って、誰だ貴様は!!」
扉には、あの忌々しいメイド長とメイド共、そして、銀髪の美しい娘と黒髪の娘が立っていた。
★
メイド長を先頭にして、薄暗い廊下を燭台の火で照しながら進んで行く。
私はMGを構えながら、メイド長の少し後ろを着いていき、ミヤビは殿でMP40を油断なく構えて、警戒しながら着いてきていた。
階段を上がり、三階の廊下の途中にあるドアの前で止まった。
「こちらになります」
そう言って、メイド長が私に向かって頭を下げた。
「最後に聞きたいのだが、領主を捕えたら、君らはどうする?私は息子が私にやった事を精算してもらうが」
「私は……辞職願いでも叩きつけて、地元名主連合に引き渡します。きっと、今回の責任を取らされて、愉快な事になるでしょう」
一瞬、メイド長の眼がギラリと光った気がした。
きっと、博士と同じように敵に回しては行けない種類の人間に違いない…
「わ、私達も辞職して、メイド長様に着いて行きます!」
「貴女達…でも、私に着いてきても、どうしようも無いですよ?もうお婆ちゃんですから、誰も雇ってはくれないでしょう」
ふむ、領主を捕えると、メイド達の職が無くなるのか…これは考えものだな。
私も彼女らの失業は本意ではない。
「ミヤビ、少しこっち来い」
「はい!」
近寄って来たミヤビの肩に手を回し、引き寄せて後ろを向く。
ミヤビの髪から、柑橘系の香水の香りが漂ってきて、鼻を擽る。
ふむ、ミヤビも案外悪く無いな……
「(しょ、少佐殿!?)」
「(静かにしろ!良いか?今はお前しか居ないから相談するが、我々が領主を捕えると、メイド達が職を失うそうだ)」
「(は、はい…そうみたいでありますね)」
「(そこでだ。お前は私がメイド達を雇うと言い出したらどうする?)」
「(私は少佐殿の決定に従いますが、あまりお薦めはしません。我々の基地がバレますし、要らぬ事を教えてしまいます)」
ミヤビは真剣な表情をして言ってきた。
どうやらYESマンなのは変わらないが、ちゃんと自分なりに考えているようだ。
安心した。
だが、確かに基地に招いたらバレる……しかし、二度と人里に戻らないと言う覚悟がある者だけ連れていき、それ以外はいずれ作るであろう、駐屯地で働いて貰えばいい。
私は甘いだろうか…
「(すまないが、今回はメイド達を救う)」
「(…分かりました。全ては少佐殿の意向のままに)」
クシャっとミヤビ頭を少し乱暴に撫で、怪訝そうにこちらを見ているメイド達に向き直る。
「どうなさいました?」
「いや、君らに職を斡旋出来るかも知れないと思ってな」
「そ、それは?」
どうやら食い付いてきたようだ。
「私と一緒に来ないか?毎日三食昼寝付き。一部、事態によってはその限りではないが」
「ショウサ様、よろしいのですか?」
「あぁ、問題無いが、二度と街には行けない覚悟が必要だな。無くても大丈夫だが、行くところが変わるな」
「……少しお時間を下さい」
「了解した。さて、中のご領主様は何をしているかな?」
音がしないようにそっと扉を開くと、小太りの(ハゲではない)中年が頭を抱えて焦っていた。
その姿はかなり滑稽だ。
「そ、そうだ!逃げるんだ!私が捕まらなければ再興は可能……!急いで金を集めなければ!!」
「ほう、何処に逃げるんだ?」
「そんな事は決まっている!あの執政官を脅せば、私を匿うに決まっている……って、誰だ貴様は!!」
あまりに焦り過ぎて、周りが見えていない。
まさか、私の問い掛けに答えるとは思わなかった!
「アッハッハッハッハッハッ!まぁそういきり立つな。生え際が後退するぞ」
「き、貴様は誰かと聞いているんだ!!それに私の生え際は後退していない!!」
後ろの方で笑いを噛み殺している音と、堪えきれずに小さく吹き出した音が聞こえた。
さぞ、領主が慌てふためく姿は彼女らにとっては愉快なのだろう。
「私はしがない軍人だ。あんたの息子に誘拐された事もあるな」
「た、他国の軍人を拐ったのか、あの馬鹿息子は…ど、どうして貴様はここにいる」
「どうして……か。私はツケの精算に来た」
「つ、ツケ……なんの話だ?」
一歩前に踏み出すと、それにつられる様にして領主が一歩後ろに下がった。
その藍色の瞳には、明らかな怯えが見て取れる。
こちらにしてみれば、嗜虐心が煽られて仕方がないのだが。
たまにシューリーを苛めていると(何処でとは言わんが)、よく「た、楽しい…ですか?隊長…」と言われるが、何時も楽しいと返している。
ふむ、私は病気だろうか。
「ち、近寄るな!?」
「おや、失礼な。親も親なら子も子だな。人間がなってない」
「黙れっ!!」
威勢だけは剣闘士のように立派だが、行動と姿が一致していない。
再び一歩踏み出すと、必ず一歩下がる。
やがて、ドンと領主の背中が壁に当たり、それ以上は下がれなくなった。
一層怯えが強くなった領主は、後退りがこれ以上出来ないのに、必死に下がろうとする。
まったくもって、無駄な努力としか言い様がない。
「そう怯えるな。別に取って喰おう等思ってはいない。ただな、消耗した物品の賠償をしてもらえれば、それで構わん。あとは私は関与しないと誓おう」
そう、あくまで私は関与しない。
そのあとで、このご領主のカルテンス殿がどうなっても、私は何もしないし、助けもしない。
ニヤリと口の端が持ち上がるのが分かった。
「わ、分かった!幾らだ!言い値を払うからそれ以上私に近寄るな!!」
「よろしい。ミヤビ!」
「はっ!」
「徹甲弾一発当たり、幾らだか分かるか?」
「徹甲弾…でありますか?……製造元での価格が異なりますが、博士殿がご自分で製造をされる以前は、オスカー・シンドラーの工場で生産された物を使っていたと聞いています。大体450ライヒスマルク位だと」
「ふむ、案外高い物だったのだな。そう考えると、補充が困難な事を考慮して、一発につき金貨百枚だな。それが計二十発で二千枚だ。今は榴弾の筈だが、そこは面倒だから燃料と一緒にまけてやる」
値段を聞いた領主は、真っ赤な顔で、酸欠の魚のように、口をパクパクと開閉を繰り返している。
「金貨、二千枚だと…?」
「どうせ領民からふんだくっているのだろう?そのくらいなら、払える筈だ……それでも払えんと言うのならば……」
腰の尖剣を抜き放って、首を切る真似をする。
完全に色を失って真っ青になった領主が、カクカクと首を縦に振った。
「わ、分かった!二千枚だな、払う!だがこの屋敷に二千枚も金貨がない!だから時間をくれ!」
「…駄目だ。猶予はやらん」
何故ならば、貰うものを貰ったら、領主はメイド達に捕えられるからだ。
回収出来ないと砲弾の材料が買えんし、その分大赤字だ。
武器弾薬の補給が受けられない今となっては、赤字と言うものはかなり不味い。
部下達の安全にも関わるからだ。
「そ、そんな…」
「私だって鬼ではない。そこで、この屋敷にある金貨と穴を補うだけの価値がある物品で手を打とうではないか」
そう言うと、希望を見出だしたのか領主の顔が少しだけ明るくなった。
執務机から鍵を取り出し、壁に架かっていた領主の肖像画を外した。
肖像画があった壁には埋め込み型の金庫があり、領主が鍵穴に鍵を捩じ込んで中に有った物を幾つか取り出す。
そして、机の上に置かれた物は四つ。
多分金貨が詰まっていると思われる頭大の袋、6カラット程の大きさのサファイアが埋め込まれた白金の指輪、そして横幅が20cm高さ15cm程の黒い箱、最後に趣味の悪い金細工の腕輪だ。
後ろから肩越しにメイド達が覗いてくる。
「この袋には金貨が五百枚入っている。そして、この中のどれか一つを差し上げる。どれも金貨二千枚以上の品だ」
「ほう、殊勝な心意気だな。その箱の中身はなんだ?」
黒色の塗料が塗られている木製の箱を指差す。
領主は、留め金を外して蓋を開けると、中には小さい宝石が無数に埋め込まれたティアラが入っていた。
「サファイアとエメラルドを使った銀製の宝冠だ」
背後から覗いていたメイド達から、感嘆の溜め息が漏れた。
確かに、かなりの一品だと思われる。
「では、そのティアラを頂こう」
「分かった」
金貨の袋とティアラを頂戴し、最初に斬りかかって来たメイドに持たせる。
袋を持った途端に呻いた。
「お、重い…」
「ん?どうした」
「い、いえ…なんでもありません……(どうやったら、こんな重い物を片手で持てるのかしら…)」
なんとか踏ん張って持っているので、無理しないように言ってから領主に向き直る。
「さて、貰うものを貰ったから、もう私からは用はない。親切心から言っておくが、報復しようなんて考えるのは止めた方が良いぞ。一族郎党皆殺しでは済まさんからな」
「わ、分かった……」
あとは、メイド達の出番だ。
顎で指図して、用が済んだ事をメイド長に伝える。
それに頷いたメイド長は、領主に一礼してメイド達に領主を捕えるよう命令した。
「な、何をする!?貴様!謀ったな!?」
「何を仰る。私は領主殿に何もしていないぞ?そのメイド達自身が貴殿に用があるのでは?」
「エスメダ!何のつもりだ!」
エスメダと呼ばれたメイド長は、冷やかな視線を領主に送った。
まるで関心の無い虫ケラでも見やるかのような目でだ。
領主が言葉を詰まらせて首を竦める。
「スルド伯エンデグルト・カルテンス様。この度メイド一同は、お暇を頂きに参上した次第に御座います」
「暇も何も、貴様らは全員クビだ!」
「そこで!この無益な戦いで亡くなった方達の責任を取って頂くため、伯爵様を名主達に引き渡します」
「な、なんだとっ!?恩を仇で返すつもりか!!」
「黙りなさい!!伯爵が今まで行ってきた事の数々、忘れたとは言わせません。連れて行きなさい」
メイド四人に両脇を固められたカルテンス伯爵は、何かを喚き散らしながらメイド達に引き摺られて廊下に消えて行った。
「終わったな」
「えぇ、茶番は終わりましたショウサ様」
「さてと、責任者が拘束された所で、この戦も終いだな」
ガラス張りの窓に近付き下を見ると、逃げ惑う兵士を後ろから追い立てて、付かず離れずの速度を維持しながら煽っている。
所々で遅れているヤツの尻を突っついていたりもしている。
疲れ果てて転けたヤツはその場で轢走された。
取り敢えずガラス窓を銃床で殴って破り、信号弾を打ち上げる。
白色の煙が夜の空に上がっていく。
一斉に戦車が追い立てるのを止め、玄関口を固める様に半円状に陣を組み、砲塔を外側に向けた。
隣から下を覗いたメイド長の顔が強張る。
「行こうかメイド長」
「は、はい」
階下に降りると、各車両の車長だけが整列して、私の顔を見るなり踵を鳴らしてローマ式敬礼をした。
『ハイル!』
「出迎えご苦労」
こちらもローマ式敬礼で答礼して、唖然としている伯爵とメイド達を向き直る。
「改めて自己紹介をしよう。ドイツ第三帝国陸軍特務特隊、通称『鋼鉄のフロイライン』隊長の少佐だ。宜しく頼むぞ、フロイライン」
呆然としているメイド達を尻目に、部下達に命令を飛ばす。
「諸君、この度そこのメイド達は、我々の部隊に加わった。くれぐれも仲良くするように。彼女等を回収後、全速で基地に帰投する忘れ物はするなよ」
『はっ!』
車長達はいまだに呆然としているメイド達に走り寄り、各車両に分けて搭乗させた。
「ショウサ殿」
いつの間にか玄関の間に侵入した、拘束されている領主を従えた騎士達の一人が話し掛けて来た。
「あぁ、ヒルデガルド殿か。彼が責任者だ。息子の方も屋敷の何処かに居るだろう」
「分かりました。捜索してみましょう。ショウサ殿はこの後如何するのですか?」
「そうだな、一旦基地へ帰投する。明日執政官殿の所に伺おう」
「ではこちらが執政官殿に伝えておきます」
「宜しく頼む。そちらに犠牲者は出ていないだろうか」
「負傷者が三名出ましたが、いづれも軽傷ですので、ご心配無く」
「了解した。では後程」
「はい。では後程」
お互いに頷きあって、私はティーゲルに乗り込んだ。
ミヤビが凄く乗りたそうな顔をしていたが、煙草をくわえたイェーガーに首根っこを掴まれて、連行されて行った。
「お、お帰りなさい…」
「あぁ、ただいま。シューリー」
「イヒヒヒ…楽しかったかねぇ。少佐」
「そこそこだったな、博士」
「たいちょー、おかえり!」
「ナハトか…帰り道、居眠りしたら容赦しないぞ」
「ひ、酷い!?」
「まぁ、ナハトだもんねぇ。少佐、儲かりまっか?」
「どこでそんな言葉を覚えたんだネルケ……」
「えへへっ」
くしゃくしゃとネルケの頭を少し乱暴に撫で、それを物欲しそうな顔をして見ていたシューリーに気付き、お下げの頭に乗っている略帽をひょいと外して優しく撫でた。
「あ~っ!!たいちょーズルい!!私も私も!」
「お前は居眠りするから駄目だな」
「なんで!?オーボーだぁ!」
「居眠りしなかったら、な……さて、今回は一人ばかり人数が多いが、安全運転で頼むぞ」
そう、ティーゲルのお世辞にも広いとは言い難い車内には、メイド長が縮こまりながら即応弾の上に腰掛けているのだ。
どうやら緊張しているらしく、年甲斐も無くおどおどしているので、肩を叩いて笑い掛ける。
「さて、『帰るぞ、私のお前達』」
『了解!』
これから、基地が騒がしくなるぞ。
ライヒスマルクとは、1924年から1948年6月20日まで使用されたドイツの公式通貨で、4.2ライヒスマルク=1ドルです。
当時のドイツの軍用品のお値段は、調べてみましたが、詳しい事が分からなかったので、当時のアメリカの物価からこの位かな?と憶測から逆算して弾き出した数字なので、絶対に信用しないで下さい。
もし情報もお持ちの方は、是非ともお教え頂けると幸いです。
ちなみに、今回の話で第二章が終わりで、次回から第三章が起動します。
『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ
このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!
正解しても何も無いけどね。
それでは行きます!
『赫焉』
これはなんと読むのでしょうか!
出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。
そして、前回の答えの発表です!
『葈耳』と書きまして、『おなもみ』と読みます。
オナモミは、キク科オナモミ属の一年草で、果実に該当する部分がとげとげしている事で有名です。
その棘に動物などの毛が絡まり、種子を遠くまで運んでもらおうと言う魂胆です。せこいですね。他力本願の極みです。ええ、そうに違いありません。
ちなみに、別名が引っ付き虫やらくっ付き虫とか、地域ごとに異なった名称があります。』




