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Luck & Ruck  作者: kooo
10/30

小さくて大きい

 ミネルヴァは混乱に満ちていた。

 S+Mの世界でも初夏の夜が訪れていたはずが、辺りは真冬のように空気が乾燥し、人とふれあえば静電気でもはしりそうなほど緊張感に包まれていた。

 街灯に照らされた街並みは人で溢れかえり、先ほどまでの穏やかな雰囲気はどこにもない。<王城>付近にサポート領事館というGMゲームマスターが常駐する屋敷があり、みんなそこへ向かっているのではないかとユンは予測していた。


 僕らはそれと逆流するように町はずれのとある場所へ走っていた。そこにはユン達のギルド本部へ転移してくれるテレポーターがいるのだそうだ。

 人混みをかきわけながら比較的空いている路地へ飛び込み、入り組んだ道を数十回も通り抜けると、その場所が見えてきた。

 ミネルヴァの建物は大通りに面しているものは高層建築が多く、裏通りに集合住宅がひしめいている。僕らが今見ている建物は集合住宅タイプだが、それは周りから完全に浮いていた。ヨーロッパの古い街並みに挟まれて建っているこれは……。周りの美しい白壁と対比すること自体がおこがましい日本的な木造アパートだ。しかもかなり古くてボロい。


「こ、ここ?」

「ついてくるニャ」


 木造アパートを囲むブロック塀の門を通り抜け、一階中央に位置する大きめの玄関から中に入ると、土間から上がり框へ土足であがりこむ。今まで気にもしなかったけど、このような日本家屋に土足であがるのはちょっとためらわれるものがあるな。

 僕の気持ちなどお構いなしに、ユンは玄関から入ってすぐの階段を昇っており、慌てて追いかけた。

 その古さに似つかわしく軋む音を立てながら階段を上がりきると、正面には窓がずらりと並び、階段を挟んで左右に廊下が続いている。ロウソクの火よりも頼りない電球に照らされた廊下には、各三つずつの扉が見えた。

 ユンは右折すると二部屋目の扉をノックする。


「月」

「日」


 中からの問にユンがと答えると、左開きタイプの扉にも関わらず、扉は引き戸のようにスライドして横に開いた。なんじゃそら!

 扉の先に見えるのは六畳一間、部屋中央には裸電球がぶらさがり、その真下には勉強机変わりのみかん箱と、僕のS+Mの世界観をぶちこわしまくってくれる。

 ユンが扉から中に入り込み、僕も続こうとすると突然左右から槍が交差し、行く手を阻まれる。左右から延びる槍を持った人達は僕の視界外にいたようで、いまの今まで気がつきもしなかった。


「その人はゲストだニャ。団長にも許可をもらっているから通すニャ」


 ユンの言葉により槍の扉は開かれ六畳間へと入り込み、部屋の中には僕とユン、扉両脇に控える二人だけとなった。


「ここが本部ってオチないよね?」

「ここはテレポートのための場所ニャ。すぐ着くから待つニャ……、あ、だいじなことを忘れてた! ラック君、団長の前じゃ小さいと大きいは禁句ニャ」

「小さいと大きいって……なぞなぞ?」

「まぁ見るとわかるニャ。でも口には出さない方が身のためニャ。じゃぁいくにゃ〜」


 ユンがみかん箱の上にのり、裸電球のスイッチをひねる。周りは暗闇に包まれたが、すぐに再度スイッチがひねられ部屋が照らされた。


「なにしてるの?」

「転移だニャ」

「さっきのテレポーターとだいぶ違うけど」

「どのギルド本部も位置は秘密主義なんだにゃ。だから通常のとは違うんだニャ。さ、これで完了! 扉から外にでるニャ」


 何をしているかさっぱりわからないが、言われるままに引き戸を開くと、そこには別世界が広がっていた。


「な、なんじゃこりゃーー」


 僕らが入ってきた薄汚れた廊下はそこにはなく、変わりに石造りの廊下とそれを照らす高い天井に取り付けられたシャンデリア、さらにアーチ型の窓から見える中庭には青い光に照らされた大きな噴水があった。

 広い廊下の窓から身を乗り出すように外を眺めると、ここがコの字型をした建物で、ライトアップされた赤煉瓦の建物は二階建てながら大きく、お城というよりもどことなく倉庫を思わせる。


「ラック君、おいてっちゃうぞー」


 いつまでも窓に張り付き、美しく吹き上がる噴水を眺めていた僕の背後からユンが声をかけてきた。


「すごいね! ここがユンのギルド本部なんだ」

「へへー。去年に移転したばかりなんだ。まだまだ改造中なんだけどね。大広間にいってみよ。そこにみんないるはずニャ」


 大広間へ行く途中、数百人の集団が常駐する部屋、ビリヤードやダーツなどが置かれている娯楽部屋なども案内され、建物中央に位置する場所へとやってくると、自分の背丈の三倍はありそうな大扉が僕らを出迎える。

 大扉を開けた先には、奥行きが50メートルはありそうな大きな部屋が広がっており、扉から最奧まで延びる赤絨毯の通路先には、一段高い箇所に大きな円卓といくつかの椅子が置かれている。部屋を見回すと、赤絨毯の左右に数十の長テーブルと椅子が置かれ、木製の床から天井を支える巨大な木の梁、漆喰に塗り固められた壁は、この部屋を別な暖かさでつつんでいた。

 椅子に座って談笑しているギルドメンバー達を抜けて、中央通路を突き進むと円卓に座るパトリチェルとハカセ、その側に立つアキラやミンメイの姿がみえた。

 ここにいる人達はミネルヴァの緊張した雰囲気と違い、弛緩しているみたいだ。ラフィン・スカルの件を知らないのだろうか。


「おい、アキラ。さっきのラフィン・スカルはみたか?」

「ラック! 無事でよかった。いまラフィン・スカルが言ってた内容のことを話し合っていたんだ」

「ミネルヴァに行こうとするアキラを押しとどめるのは大変でしたわ」

「ちょ、ミンメイ、それは言わないでと」


 照れるアキラの姿が妙に可愛く見えてしまう、僕の目は腐ってしまったのだろうか。


「これからどうなるんだろ!? 僕たちはあいつの言うようにデスゲームってのをしないといけないのかな?」

「それなんだけど。どうにも腑に落ちない点が多々あるんだよ。それをパトリチェルさんとハカセを交えて話し合っていたんだ」


 アキラが熊型のハカセに視線を向けると、出番を待っていたかのように語り出してくれた。


「ここで議論していたのはラフィン・スカルがいった〈この世界の死=現実の死〉の件です」

「どういうこと?」

「デスゲームとは、どういう形にしろ現実世界の我々を殺すことです」


 殺す。その単語を聞いただけでゾクリと背中に冷たいものが差し込まれた気がした。僕は声が震えないようにハカセに続きをうながす。


「そ、それってやっぱり僕らがつけてるVRマシーンが、電気か何かで脳を焼くとか。魂だけがこの世界に取り残されるとか!? あとあと……」

「ラック、落ち着いて。VRマシーンにはヘッドマウントタイプ、ネックレスタイプからタンクベッドタイプと様々なバリエーションがあるけど、そのどれもが脳を焼くような仕組みはないんだよ。あと魂とかオカルトだから。現実にはありえないよ」

「でもさ、あいつがあそこまで言うからには何かしらの秘密にされていた技術とかがあって、それを使ってくるんじゃないの? 現に僕らはこの世界から出ることもできないし。その秘匿されていた技術で魂とかを取りだして……」

「うぉほん」


 興奮しはじめた僕を諫めるようにパトが咳をする。


「そう、興奮しなさんな。そこら辺の説明もハカセから聞こうじゃないか。質問はそのあとでもよかろうて」

「私のもあくまでも予想でしかないですよ。では、話を戻します。まず現状を見てみますとラフィン・スカルが言ったデスゲームの件ですが、これを実現する方法が思いつきません。ラック君、VRマシーンについては詳しいですか?」

「え? いえS+MもVR体験も今日がはじめてなんです」

「なるほど。では、VRマシーンでゲームにダイブ中、もしくは何かしらの事故や他者により機械を外された場合はどうなるかは知ってますか?」

「え!? えーと、意識がそのまま電子世界に取り残されるとか!!?」


 ぶふ、とアキラやミンメイが軽く吹き出す。


「ラック、SFとか漫画のみすぎ。そんなことにはならないって」

「じゃぁどうなるのさぁ」

「普通に起きるだけ。だいたい、電源が落ちて魂が向こう側に取り残されるなら、一年前の大停電のときに大惨事になってたよ」

「ラック君。アキラさんの言うとおりなんですよ。実際、全身をほぼ乗っ取る形のVRマシーンは国際安全基準がもの凄く厳しいのです。ですので、電源が落ちたり、機械を外されるなどの何かしら外的要因があるとプレイヤーは眠りから覚めるように起きるだけなんです。また大量にバッテリーを詰んでるわけでもないので脳を焼くこともありません」

「じゃぁ死なないってこと?」

「そこが問題なんです。VRマシーンには人を殺すような機能がない……と断言はできないのですが、盲点があるのかもしれません。それが何か、また666日のタイムリミットをもうけたこともわからないんですよ」

「それはあれだよ! 期日をもうけることによってせっぱ詰まったユーザーに殺し合いをさせるためなんじゃないかな!」


 少しでも脱初心者を目指して適当なことを言ってみたけど、我ながら言ったことを後悔した。そんな可能性が少しでもあるかと思うと、押さえつけている恐怖心があふれ出てきそうだ。


「真意はわかりませんが、問題はこの世界での666日。S+Mの一日が現実世界では約6時間。正確には5時間57分23秒ですが、だいたい160日ちょっとです」

「夏休みが終わっちゃうよ!」

「ほんとラックはどこかずれてますわ。問題はそこではなくってよ。160日間も拘束すること自体が不可能と言っているのですわ」

「そうなんです。ミンメイさんの言うように我々は160日どころか一日もこの世界にいることが出来ないのです」


 よくわからないけど、なるほどと腕を組んでうなずいた。が、すかさずアキラからツッコミが入る。


「ラック、わかってないだろ! 素直になりなよ。いいかい、VRマシーンってのは人体への負担を考えていて12時間以上の連続使用が出来ないようになっているんだよ。それだけじゃなくて、睡魔や食欲、排泄欲などがおこった場合もVRからすぐに離脱させられるんだ」

「それは強制的に?」

「強制的に。だから今出られなくても、いずれはVRによってここから放り出されるんだよ。それと先ほど言われていたように、ずっと君が起きなかったらお母さんがたたき起こすでしょ」

「じゃぁ、ちっとも怖いことにはならないじゃないか。ビビって損した!」


 僕の一言に周りにいた人が肩を落とす。あれ? 何かいけないことでも言ったかな。


「ラックは本当にお気楽ですわ。わたくし達が問題にしてるのは、それを踏まえてでもラフィン・スカルがあのようなことを宣言したことが問題なのですわ」

「きっとあいつは何も知らなかったに違いないよ! うん!」


 お前が言うな! と全員の視線を浴びても僕は怯まないぞ!


「まぁここで議論してもしょうがないわい。わしがVRマシーンをつけてから、あと一時間ほどで12時間が経過するんじゃ。アセントされたら運営にクレームの電話をするなりして、ここにいるみんなを開放できるように動くわい」

「12時間ってパト、廃人すぎるでしょ。学校どうしたんだよ!」

「廃人じゃもん! 学校のことは秘密じゃ」


 パトが腕時計をみるようなアクションをとる。僕らには見えないがパトにはS+Mの時間とリアルタイムの時間が表示されているはずだ。僕はこのアクションの設定をしていないので、自分のステータスウィンドウから時間を見ることにした。


 【Earth Time 21:31:58,Sword & Magic 23:25:01】


 ゲームをはじめたのが夕飯後の18時半だから、もう3時間近くたつのか。僕が自動的に排出されるまでは遠そうだ。


 このまま待っていても暇なので、娯楽施設でカードゲームをでもしようかと提案し、大部屋から娯楽施設へ。

 僕、アキラ、ミンメイ、ユン、パトリチェル、ハカセと先ほどのメンツが丸テーブルを囲み、トランプと言葉を発するとカードがテーブルの上に出現した。ゲームの中でゲームというのも変な気持ちだけどね。

 ババ抜きでもしようというアキラの意見をスルーし(僕は非常にババ抜きが弱い)、セブンブリッジにしようと強引に押しとおした。ただやるだけじゃつまらないから、今話題のユピテルでも賭けるかことでゲームはスタートする。


「ねぇアキラ」

「なに? あ、スペードの6と7メルト」

「アルティメットミッションって何するの?」

「S+Mの究極ミッションで、これをクリアすることがここでの最大目的なんだ。内容は簡単にいうとラスボスを倒すこと」

「オフラインゲームみたいだね。それって難しいの? ラスボスが未知の敵でどこにいるかもわからないとか。それポン」

「チー。もうラスボスも攻略手順もわかってはいるんだ。ただ、それがとても無理なゲーム設計なんだよね。今日始めたばかりのラックにラスボスのことをいきなり言ってもいいのかな」

「こんな事件が起きた後じゃ、しばらくS+Mにはダイブできないと思うニャ。それに半年もプレイしてたらわかるようになってるし、別にいいんじゃニャい。あと二人で回しすぎ! 順番回ってこないニャ」

「ユンの言うとおりですわ。残念ですけど、これでS+Mはしばらく運営停止になると思いますわ。ハートの7メルト。で、ラスボスですが、この際はっきりいいますとミネルヴァの<王城>にいるユピテル王がラスボスですわ」

「えぇぇ。そんな結末が!? いきなり犯人はヤス的なことを打ち明けられたくらいの衝撃だよ。ストーリー全然知らないけど。ポン、んでハートの7に6をつけてあがり〜」

「おまえらの会話がごちゃごちゃしすぎじゃわい! しかも、わしとハカセ一回も山からカード引いてないし!」

「ウチもニャ」

「こんなに何もできないゲーム久々ですよ」


 僕がセブンブリッジを選択した理由はここにある。全部で52枚のカード+ジョーカーを6人に7枚ずつくばれば残りの山は11枚だ。二巡もしないうちに速攻で終わるこのゲームに運が絡むところが非常に少ない。不運がいつもつきまとう僕にとって、13回連続ではじめからジョーカーが配られた経験をもつババ抜きなどもっての他だ。

 負けた点数xユビテルを卓上にオブジェクト化して、あがった人間が総取りする。

 パトが念入りにシャッフルしてカードを配り始め、ゲーム再開。


「無理なゲーム設計ってどんな?」

「わしが簡潔に説明してやるからこっちのゲームに集中せい! 攻略するには王都の四方にある四大公国のどれかを攻略せねばならんのじゃ。いきなり四大公国に攻め込んでもいいんじゃが、これには軽く見積もって20万のプレイヤーが必要といわれておる」

「20万!? その時点でありえないね」

「そうじゃ。S+Mがいくらリアリティを追求したといっても、しょせんはゲームじゃ。リアルの用事が優先されるプレイヤーは軍隊ではない。20万の人間が同時間に集まり、一緒に攻略戦をすることなんぞありえんわ。100人をまとめるだけでも相当の苦労があるんじゃて」


 攻略手順は面倒らしく、簡潔にまとめるとこんな感じになる。

 四大公国の下にはそれぞれ四つの侯爵領が存在し、侯爵領にもそれぞれ四つの伯爵領、その下に子爵、男爵と続き、一番下の男爵領になれば3000人ほどで攻略が可能になるんだそうだ。攻略した所領地でギルドマスターが爵位を強奪すると、傭兵NPCノンプレイヤーキャラクターを所領地戦に参加させることができ、公国攻略への有効な足がかりになる。ちなみに雇えるNPCの最大数は(プレイヤーx2x占領した所領地)という計算で、1NPCにつきけっこうな金額が必要になるとパトは説明してくれた。


「ああ、さっきの集団の何割かはNPCだったんだ」

「違うわ! あいつら全員生身のプレイヤーじゃ。傭兵NPCを招集できるのは所領地戦だけじゃ。普通のモンスター狩りはプレイヤーだけなんじゃよ」

「ウチのギルドはS+Mの中では有名な攻略ギルドニャ。攻城戦や対人戦場でも名が知られてるんだニャ」

「なるほどねぇ。でもそれなら他のギルドと組んで一緒に攻略するっていうのも有効な手段じゃないの?」


 僕の発言に熊の顔をしたハカセの表情が微妙に苦虫を噛みつぶしたようになった。本当にS+Mのキャラクターデザインした人は動物を擬人化させることに成功しているな。


「実は我々は何度も他のギルドとの合同攻略を試みているんですよ。ですが、そのたびに裏切り行為や仲間割れがおきるんです。まったく人は金が絡むと……」

「ハカセ、人をまとめるのもお金じゃ。わしらのギルドもユピテル(=RMT)が稼げるから参加しているのが多数じゃて。ゲームを純粋に楽しんでいるのは少数じゃろ」

「それでもこの前のブラックドラグーンの裏切りは許せませんわ! わたくし達が攻略した後の不意打ちなんて前代未聞ですわよ!」

「あいつら本当にむかつく! 今度あったらウチの弓矢で眉間ぶち抜いてやるニャ」


 彼らの話を統合すると領地を所有すると【税金】が徴収できるらしく、それがギルドの資金源にもなるそうだ。領地内で発生するクエストや領地周りの強敵を倒していくと税収も増えるらしく、その中からギルドメンバーに給金を配布しているとか。だからこそ他ギルドとの共闘も難しく、複数の男爵領を有名ギルドが奪い合うのが今のS+Mの現状なんだとか。


 そんな会話をしつつもセブンブリッジの手は止まらず20ゲームほどこなすと、僕の前に大量のチップがつまれ、先ほどの他ギルドへの恨みつらみも相まってか、みんなの視線が地味にいたかったので話題を適当にふることに。


「それにしてもさぁ、ラフィン・スカルの条件ていやらしいよね」

「いやらしいのはラックの頭のなかではなくって。それポンですわ」

「ひどい! 僕は清純派なのに!」

「ラック、その言葉は何かが間違っていると思うよ。それで?」

「デスゲームの条件さ。1番目の条件はさ、たしかに普通の時なら実現は難しいよね。でも、だからこそ今みたいな状況なら可能になりそうじゃない。S+Mのユーザー数は2億でしょ? 常に2億はいないとしても、ピークの時間帯なら1億ちょっとは接続しているはずだし。彼らをまとめあげたら公国領も簡単に落ちるはずだよ」

「まぁ、理想論だと思うよ。みんながみんなのために死ぬかもしれない戦闘を率先するとは思えないし、いくら数が多くても一致団結しなかったらよけいタチが悪いよ」

「そう! そこで2番目の条件! グランドミッションがどんなものかわからないけど、アルティメットミッションほどの難易度じゃないんでしょ? そうすると有力ギルドの人達やプレイヤーとして経験の高い人達は脱出できるよね。そうなると一般の人をまとめられるはずの実力者が先に離脱していくことになっちゃうよ」

「本当に離脱できたらね。でも、たしかにそう言うことかな。4番目のお金で脱出できることも2番目と同じようなものか」

「そうじゃな。強い武器や防具、攻略のための薬品などで大量の資金が必要になる。ギルドならまだしも、個人で1億の資金を持っていることは、それなりの商才があるってことじゃ」

「僕が怖いなと思うのは、有力ギルドに所属することもできず、資金面にも困る残ったプレイヤー達に期限がせまったらどういう行動をとるか……」


 僕は自分自身が臆病なことをよく知っている。ポジティブな考えよりもネガティブな発想が僕の頭の中を駆け巡ろうとしたとき、


「そこで3番目の大量殺戮擁護が効果を発揮してくる。なかなか良いところをつくの、おぬし」


 僕の背後から凛とした女性の声が聞こえると、頭を鷲掴みにされ髪の毛をぐちゃぐちゃにかき回された。


「な、何するんだ。……ちっさ!」

「「「あ」」」


 今までの人生で聞いたことのない音が頭上ですると、僕の意識は数秒間飛び、気がついたときには頭を抱えてうずくまっていた。もはや痛みとかそういう問題じゃない。現実だったら確実に頭が割られていたと思う。


「ぐほぉお。い、いたひ……。なんなんだ!」


 抱えていた頭を思い切り振り上げると、今度はふわっとしつつも、まったりとやわかい感触が顔を埋め尽くした。このままこの感触を味わっていたいという思いを振り切り顔を離すと、そこにはみたこともない二つの大きな饅頭? 風船? いや、これは、ひょっとしてアレか! 


「で、でかい」

「「「あ」」」


 僕の左ほほが音を立てて爆ぜたのかと勘違いする強烈なビンタが襲いかかり、なす術もなく床へっと吹っ飛んだ。


「ぐへほ。顔が! 顔がなくなったよ!」

「ラックしっかりしろ! 不細工ながらもちゃんとついてるぞ!」

「不細工はよけいだよ!」


 顔を殴られたうえにけなされるとは。踏んだり蹴ったりとはこのことか! 僕を殴った張本人へ視線を向けると、そこにはホビット族のパトよりやや小さい身長のヒューマンタイプの女性が立っていた。幼いながらも美しい顔立ち、長い黒髪は腰あたりで一つに束ねられ、上半身の白衣に緋袴の巫女装束はインパクトがでかい。だが、注目すべき点は彼女の身長でも巫女装束でもなかった。胸元で縛られた腰帯を隠してしまいそうなほどの胸は、僕がみてきた中でも確実に一番だ。童顔の顔にその胸は反則だろう!


「アキラ、このちいモガ」

「団長! やっぱりダイブしてたんですね」

「ああ、タイミング悪くな。まさかダイブして、すぐにこの騒ぎに巻き込まれるとは思っておらなんだ」

「団長!? このでかフガガ」

「ラック君。ウチの忠告忘れてるニャ」


 小さくて大きいが禁句。なるほど、それがこれか。これなら先にもっと詳しく話してくれてもいいのに。


「この小僧がいうておるように、ラフィン・スカルの条件は日が経つほど最悪への道を進むことになるじゃろう」

「団長はあいつが言っていることは実現すると?」

「アキラはいつみても可愛いのぉ。と、いつものように抱きつく場合でもないか。少なくともラフィン・スカルが言った我々をデスゲーム引きずり込んでいる件は実現しつつある」

「それはいったい……」

「もうすでにVRマシーンの限界時間を超えた者がおる。ハンゾウ!」

「は! ここに!」


 若干トーンが高めの声が僕らの頭上から降り注いだ。顔を上げると天井にへばりつく黒装束の人が。あれは忍者だろうか。


「ハンゾウ! いつからそこに?」


 驚いた周りの人たちが声をかけるが、ハンゾウは沈黙を保ったままだ。


「ハンゾウ。降りてきて皆に説明せい」

「は! それがし、新たなクエストのためにずっと山にこもっていたでござる」

「S+Mにダイブして何時間になる?」

「そろそろ強制終了させられると思っておりましたところに、例の件にあたりまして。体感でも3時間は経過していると思うでござる」


 パトがそれを聞いて腕時計をみるアクションをしたので、僕もステータスウィンドウを開いて見てみた。


 【Earth Time 21:31:59,Sword & Magic 02:59:14】


「なんじゃ、地球時間は止められておるんかの。進んでおらん気がするわい。だとしても、わしにもラック達が来てから3時間はたっている気がするんじゃが、S+Mタイムから察するにあまり時間がたっていないのかのぉ」

「外界からの接続が断たれているんじゃニャいの?」

「じゃとしても、S+Mの時間は経過しとるんじゃよ。外部接続はやはり切られておるとしか考えられん」

「でも先ほどの騒ぎのときに、団員が金相場を調べてましたわよ」

「ねぇ、外界とつながるか調べてみることはできないの?」


 みんなが一斉にハカセを見つめたため、熊のでかい爪で顔をかきながら調べ始めてくれた。このようなテロ行為を行うのだから、情報流出をシャットダウンしているだろうと思っており、みんな外部への連絡などをしていなかった。


「eメールでも試してみますか。送信はできないみたいですね、受信も当然……、え?」


 ハカセが意外な声を発するとしばらく固まりじっと虚空を見つめる。彼にしか見えない電子メールを読んでいる。


「な、んでだ。このメールはたった今送られてきた。受信時間が現在時間のまま? 秒数まで同じ……情報は遮断されていない? 受信だけできるのか? 一方通行でこちら側の情報発信が……」


 ハカセは誰かに聞かせるわけでもなくブツブツと独り言をつぶやきながら、思考のループへと入ってしまった様子だ。

 秒数が同じという言葉が気になり、僕もステータスウィンの右下に表示されている時刻を改めてみてみる。21:31:59? たしか僕がみたときは21:31:58じゃなかったっけ? 性格上数字の4と9を忌避している僕は、この手の数字が非常に頭に残る。でも、勘違いかもしれないし、このことを伝えるか迷うな。


「私が時間を確かめた時、Earth Timeは21:31:58じゃったぞ。今確かめてみたら21:31:59になっとる。1秒ほど時間が進んでおるようじゃな」

「それは本当ですか団長!」


 巨体が勢いよく立ち上がると椅子を跳ね飛ばし、ロリ巨乳もとい団長に詰め寄る。彼女の両肩を熊の手でつかみ揺さぶる姿は、今にも幼女が熊に食われそうな図だ。


「お、落ち着かんか。間違いない。私も何度も時間を確かめておったし、その都度Earth Timeは動いておらんかったから覚えておるんじゃ」

「そ、そんな。情報の遮断がなく、我々の時間感覚が狂う。それはつまり、あれが可能なのか? いや、まさか、ありえない」

「ハカセ! 落ち着けというておる。何を思いついたんじゃ。我々にも話してみよ」

「ああ、すいません。興奮してしまいました。みなさんもご存知の通り、このEarth Timeはアメリカにある国際データセンターからの情報をもとに、各国の時間へと変換されています。私の時間は13:31:59と表示されているわけです。つまり、このEarth Timeは完全にS+Mとは切り離された箇所からのデータを取得しているわけです。このことから我々のVRマシーンは稼働中であり、現在もデータのやりとりを続けていると思われます」

「前置きはいいから、はっきり申してみよ」

「わかりました。これはあくまでも仮説と思ってください。これが実現できるとは思ってませんが、私はこの考えが頭をよぎるのです。数十年前にオックスフォード大学が研究をはじめたことをきっかけに、複数の機関がある実験を研究しはじめました。しかし、どこも成果は乏しく、そのうちこの研究は忘れ去られていきました」


 ハカセの言葉を遮るのがためらわれるほど周りは静まり、聞き入っている。


「ここ最近、その忘れ去られた研究を掘り起こし、人体実験に成功したと宣伝した集団が現れたんです。情報を流した集団はサイバーテロ組織<アンカラゴン>、研究内容は脳のオーバクロックです」

ほんと前置き長いっす。舞台設定が揃うまでもう少しです。

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