第62話 剣舞祭本戦(7)
「Dブロック勝者は雷神トルキエル・ボルトンさんでした!! 続きまして、準決勝を行いたいと思います!! それではBブロック勝者のウィンバルド・スフィンドールさんは入場してください!! Dブロック勝者トルキエル・ボルトンさんと対戦です!!!」
アナウンスに従い、魔物狩りに忙しい俺の本体に変わり、俺の分身がリングにあがる。
「それでは準決勝を始めたいと思います!! 存分に殺し合ってください!! 双方構えて……始め!!」
『ワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
準決勝だけあって盛り上がりがすごい。
相手は雷神と呼ばれるSランク冒険者だ。
年齢は三十代前後といったところか。
ぱつきんのロン毛野郎だ。
イケメンナルシ感が半端じゃない。
やばいくそ腹立つ。
「僕が雷神と呼ばれる理由をしってるかい。それはねえ、僕の速度が速すぎるのと雷魔法の使い手だからなんだ。君には万に一つも勝ちはない。降参することをおすすめするよ」
そういって雷神、もといナルシは髪をかきあげる。
「いや、しないけど」
「そうかい。それは残念だ」
「おおおっとオオオオ!! 雷神が試合開始早々降伏勧告だアアアア!! そのナルシの感じが鼻につきます!!」
「雷神もねぇ、あんまりねぇ、自身がないんじゃないかねぇ。それにしても君ねぇ、ナルシとかあんまりねぇ、言わない方がいいねぇ」
うん、煽ってくるね。
やめたれや実況解説。
泣きそうになってるから。雷神キレかかってるから
「すぐ決着をつけてあげるよっ!」
そういって雷神が飛び出す。
いやおっそ! なんか調子乗ってたくせに遅!
くそ遅いな。
はあ、どうしよっかね。
デコピンでいっか。
そう思い、一瞬で雷神の目の前に移動。
そのおでこにデコピンをかます。
『ベチンッ』
「いでえええええええ!!」
デコピンをしたとは思えないほど音を出し、雷神は吹っ飛び、額をおさえて転げ回る。
おっとちょびっとビリっときた。わずかながら雷魔法で電気をまとっていたようだ。
でもなんというか静電気がビリっときた感じで俺に全くダメージはない。
まあいざとなれば“魔法達人”で魔法を乗っ取ればいいだけの話なんだけどね。
「雷神がすさまじい速度で突っ込んだと思ったらいきなり吹っ飛んでいったアアアア!! いったいなにが起こったのかアア!!!」
「よく見えなかったけどねぇ、音とねぇ、おでこを押さえている感じからしてねぇ、たぶんねぇ、デコピンだねぇ」
おお、さすが解説。よくわかってるな。
「いやいやご冗談を!! デコピンであの音とあの吹っ飛び方はおかしいでしょう!!」
「冗談じゃないねぇ。本当のことだねぇ。黒髪の彼は相当強いねぇ」
「まじっすか」
おいおいステラ・ステラ、口調くずれてるけど大丈夫か。
「いてええ。くそ! 殺す!!」
雷神は復活し、また俺に飛び出してくる。
おやおや、口の悪いこと。
もう少し綺麗な言葉を使うべきですよ。
それではもう退場していただきましょうか。
御免遊ばせ。
ピュン
「ごふっ!」
ドサッ
いやあ光魔法便利だ。
無詠唱だからいくら雷神といえど避けるのは不可能に近い。
「い、一瞬だアアアア!! 光魔法で瞬殺でした!! 圧倒です!! ウィンバルド・スフィンドールさん強いです!! これは光神の二つ名がつくのは時間の問題かアア!!」
「彼の光魔法は強力だねぇ。無詠唱だから予測すらできないしねぇ、光の速度だからねぇ、防ぐのは不可能だねぇ」
「なるほど、それはすごいですね!! これで準決勝の勝者は光神ウィンバルド・スフィンドールさんです!!」
『ワアアアアアアアアアアアアア!!』
いや勝手に二つ名決めんなよ。
広めようとしてんだろそれ。
なんか中二病みたいで、なんというかこう、背中がかゆくなってくる感じでなんかやだ。
うん、なんかが多いな。
「それでは次の試合にまいりましょう!! 光神さんは退場してください!! Aブロック勝者の剣神マリオット・シュベルザーさんと、Dブロック勝者のテグ・スリマンさんはリングに入場してください!!!」
アナウンスに従い、控え室へ戻る。
「それでは準決勝を始めましょう!! 存分に殺し合ってください。双方構えて……始め!!」
『ワアアアアアアアアアアアアア!!』
……結論から言うと、この試合は剣神の勝利だった。
試合が始まってすぐにテグ・スリマンの猛攻が始まったが、そこからはテスタと剣神の試合と同じ展開になり、同じくテグ・スリマンの自爆で終わった。
「準決勝の勝者は剣神マリオット・シュベルザーさんでしたアア!! いやあやっぱり強いですね!!」
「圧倒だねぇ。僕にも全く剣が見えないねぇ。さすが剣神だねぇ」
剣を振ってないという選択肢には至らないのかね。
まあいいんだけどさ別に。
「それでは皆様お待ちかね、決勝戦を始めたいと思います!! 光神ウィンバルド・スフィンドールさんはリングへ入場してください!!」
やっと決勝かい。
つーかやっぱり光神呼びは定着させるつもりなんだな。
俺は控え室を出て、リングにあがる。
観客の熱気は最高潮だ。
俺の目の前には剣神が立っている。
「では決勝を始めましょう!! 存分に殺し合ってください!!! 双方構えて……始め!!」




