第63話 剣舞祭本戦(8)
私の名前はマリオット・シュベルザーだ。
どこにでもいる普通の25歳だ。
普通と聞くと、やれ本当はめっちゃ頭がいいとか、やれ本当は王族の隠し子なんだろとかいうが、本当にただの一般人だ。
ただすこし周りに勘違いされやすいと言うかなんというか。
昔から私は目つきが少し悪く、喧嘩を売られることが多かった。
私に抵抗する力などはなかったが、なぜか相手は勝手にこけたりして、なぜかそれが私がやったことになっていた。
当時は分からなかった。
それがスキルの力だったなんて。
ステータス魔法が使えるようになって自分のステータスが見れるようになって初めて分かったことだ。
“自運者”。それが私が持っていたスキルの名前だ。
詳しい効果は私には分からない。
ただ、これを使うと、私に直接おこることだけに関してだけ都合よく物事が進むのだ。
しかしそれは私に直接起こることだけ。自分の周りの人を助けることはできない。
そして都合よくとは言っても私の思い通りになるわけではないから、買いかぶられることもしばしばだった。
護身の為に付け焼き刃の剣術を練習していたら、いつの間にか剣神なんて呼ばれ始めた。
剣術大会なんてかってに友達が申し込んだだけで、別に勝つつもりもなかった。
でもなぜか優勝してしまう。
ただ私も悪いのだ。
小さいときに冒険者だった父が、低ランクにも関わらず無茶をして帰らぬ人になった。
それから女手一つで母に育てられた。
その母に迷惑を掛けたくなくて、息子がうそつきであると知れたら母がどんな目に遭うかを考えるとなかなか言い出せなかった。
そうしてここまで来た。
しかしそれもここまでだろう。
目の前の彼には敵わない。
本能が警笛を鳴らしている。
あれは人間が敵うものではない。
そしてそこまで言うのにはさらにもう一つ理由がある。
スキルが通じる気がしないのだ。
そんなこと今までなかった。
どんな相手でもスキルは通じる気しかしなかった。
さっきの茶髪の子供もかなり強かったようだが、それでもスキルが通じないなんて思わなかった。
だがこの黒髪の彼は違う。
次元が違う。敵うなんてレベルじゃない。
私もここまでだな。年貢の納め時であるということだけの話だ。
自業自得というやつだろう。
甘んじて受け入れよう。
「では決勝を始めましょう!! 存分に殺し合ってください!!! 双方構えて……始め!!」
ビュッ
「ふむ、やっぱり当たらないか」
――っ!?
は、速い!見えなかった。
今まであった人の中で一番速い。
『ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン』
「うんうん、当たらないよな」
し、死ぬ。速すぎる。残像すら見えない。
やばい、ちびりそう。
「おおーと!! 光神が見えない速さで飛び出したアアアア!! だが剣神は不可視の攻撃を避ける避ける!!」
「さすが剣神だねぇ。僕でもほとんど見えない攻撃を避けるなんてねぇ」
違うんです! これは私の実力ではないんです!
と声を大にして言えればいいが。
相手の気迫におされて私は剣の柄に手を掛ける。
だが抜かない。おそらく抜けば実力者が見ればすぐばれるかもしれないからだ。
『キンキンキンキンキンキンキンキン』
「おおっとオオオオ!! 剣神、剣を抜いて防ぐ防ぐ!! だがその剣を見ることは叶わない速さだアアアア!!!」
「相変わらず見えないねぇ。彼の居合い抜きは速すぎるねぇ。」
違うんです。なぜか俺が剣を抜くと剣と剣がぶつかったような高い音がするという不思議な現象が起こるのだ。
「なるほど。では次にいこう」
え、なんて?
相手の子はそう言って一旦離れる。
ん、なにする気だ?
「よっと!」
『ドガアアアアアアアアアンンン』
うおっ! は、はあ!?
なんてパンチ力だよ。リングに大穴開いたよ。
「おっとっと、すごい揺れでした! ってな、なにがあったんですかアアアア!? リングに穴があきました!!」
「すごい力だねぇ。パンチだけでリングに穴をあけたねぇ」
「え? マジですか?」
「キャラ崩れてるねぇ」
「あ、失礼しました!!」
いやすごいなんてもんじゃないでしょ。
彼ほんとに人間?
んん? さらになにするの?
「おおっとオオオオ!! これはなんだアアアア!! リングの破片が舞ってます!!」
「これは上級風魔法だねぇ。無詠唱で使うとはねぇ、ほんとにどうかしてるねぇ」
ちょちょちょそれどうするの!?
落とさないで!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬってえええええ!!
あ、死ん――、
――は!
「ちょっ、いきなり起きあがらないでください! もうなんでみなさんこうなんですかね!」
死んだのか?
ここにいるということは死んだんだな。
やっとか。やっとこの重圧から解放されるんだな。
でも母には迷惑をかけるだろうな。
仕方ないか。




