第45話 剣舞祭(3)
トールマン・ケン視点
俺の名前はトールマン・ケン
東方の小国、ロミエ王国から王様の命令により妹と共にこの学院に来ている。
王様はスパイ行為をし、少しでもドートミール王国の情報を持ってくるように言われている。学院に入った理由は、俺らの年齢的に学校に入学するのが1番怪しまれないと思ったからだ。
だが正直気乗りする仕事ではない。
前王様は良かったが、今の王様は好かない。恐らく妹も同じ気持ちだろう。
スパイ行為なんてほったらかして、俺は実力の底上げをしようと思い、この剣舞祭へ参加することを決めた。暗殺も請け負う者として実力を上げることは必須だ。
剣舞祭予選を突破し、剣舞祭で優勝出来れば父上も俺に族長の座を譲ってくれるだろう。
そして今の王様から離れ、新たに一族が仕える人間を探す。それが俺の使命だ。
その覚悟を持って予選に挑み、危ないところもあったが、無事準決勝進出を果たした。これで本戦には一応出場はできるが、予選で1位になれないようでは本戦で優勝などできるわけが無い。
そんな気持ちで準決勝に向けて準備をしてきた。
準決勝の相手はウィンバルド・スフィンドールという男だ。この国ではそこそこ有名だ。なぜなら前代未聞の国王公認のSランク冒険者だからだ。
Sランク冒険者は化け物のような強さを持っているらしい。
曰く、ステータスは軒並み1000を超えるだの、
曰く、ネバースキルを複数所有してるだの、
曰く、地形を変えるほどの大魔法を放てるだの、
と言った噂を聞く。
諜報と隠密を生業とする一族の次期族長である俺が集めた噂だ。信用度はかなり高い。
正直ウィンバルド・スフィンドールがどの程度の強さかは分からない。
だが俺にはあるスキルがある。
このスキルがあればどんな相手でも勝てる。
「それでは両者向かい合って! 始め!」
すぐさま俺は突撃し、未だ武器を構えていない相手に攻撃をする。
先手必勝だ。あのスキルは既に発動してるから、攻撃されても大丈夫だろう。
そう思い、短剣を相手に突き刺そうとすると、相手は僅かに半身になることで簡単に避ける。
動作はそこまで速くない。
だが避けた直後、1歩を踏み出そうとしているのが見え、俺は一旦離脱しようと思い、オーフンスキル"俊敏"をつかい、ほぼ予備動作なしに相手から離れ――ッ!?
消えた!?
そう思った直後、うなじに衝撃を受けたことが分かった。
スキルによって、ダメージはない。
恐らくスキルがなければ一瞬で意識を刈り取られていただろう。
相手は決まったと思っていたようで、少し戻り始めていた足を止め、驚愕の顔で俺を見ている。
その隙をつけば――っ!?
一瞬で視界が切り替わり、俺は壁に激突したのだと気づくのに数秒を要した。
スキルがあって良かった。
なにされたかも分からなかった。
場外負けがないのも良かった。
リングから吹っ飛ばされたからな。
俺はそんなことを思いながら、体についたホコリをはらいながらリングへ戻る。
相手はまたも驚愕の表情を顔に張りつけていた。
「どういうカラクリだ。あんたのタフさは」
相手が俺のこの不自然さに質問をしてきた。
だが、それを訊かれることは分かっていた。
「教えるわけがない。無駄口を挟むな」
「そうかい。そりゃ残念」
ウィンバルド・スフィンドールは困った顔をし、やれやれといった風に首を振る。
そしてまたその姿が掻き消えた。
そう思うまもなく、俺の背中に手が当てられていることに気づく。
何をするつもり? だッ!?
これは衝撃波か?
だが俺はお構い無しに、反撃する。
だが相手は目にも止まらぬ速さで、遠くへ避けてしまった。
ん? 何をするつもりっ!?
「ぐあああっくっ!」
鋭い痛みに、思わず口から声が漏れてしまう。
クッソ! 痛てぇ!
まだ溜まりきっていない気もするが、2発目が来る前に反撃に移ろう。
そう思い、"俊敏"と"隠密"と例のスキルを同時に発動し、一瞬で相手の背後に回る。
これは短剣を使うと折れるかもしれないし、もしかしたら相手を殺してしまうかもしれないので、拳を使う。
だが、無防備かと思いきや、こちらに気づいていたかのように回し蹴りを放ってきた。
だが、スキルで加速していた俺の方がコンマ1秒だけ速かったようで、拳は見事に相手の頬に突き刺さり、リングの外まで吹っ飛ばした。
やったか?
そう思った俺だが、その直後に無傷のウィンバルド・スフィンドールを目撃することになった。




