未来予知vs間接的未来予知
【詩風愛汰side】
雲が薄く月を覆い隠す、くすんだ夜だった。
―――月は灯台だと思う。
38万キロ離れた彼岸から、青白い反射光で地球を優しく照らす。
例え昼であろうと、欠けていようと――――見えないだけで其処にいる。
嵐で見失っても、変わらずに在り続ける指針だ。
僕の灯火も、きっとそうなのだろう。
瞬間移動を繰り返す度に、時間を経る度に、徐々にブラックアウトの時間が減っていた。
これを能力の成長と受け取るべきか否か・・・。
町が寝静まった頃、夜道をコツコツ歩く一人の足音。点々と設置された光源が、辺りをボンヤリと照らしている。視界に霞がかかり、夢見心地の感覚である。
誘蛾灯に引き付けられるように、詩風愛汰はとある公園を目指していた。
坂道を降りた先、ベンチに腰掛ける人影を発見する。
電灯がジジジと耳障りな音を醸し出す。
唯一の光源が点滅、その間隔は次第に短くなって、何かを催促するような勢い。
「よお、ガキ」
「・・・何です、あなたが呼び出すなんて」
ここは以前、和月凪柊と集まった遊具の少ない公園。
その代わりに広さだけはあり、円状形に芝生を抱いている。
週末にもなれば、野球やサッカーで賑わいを見せる憩いの場だ。
そう昼ならば。
一変して影を落とした公園は、中心に大穴が空いたような漆黒が浮かんでいた。
古い公園なので電灯が少ない、離れた所では足元さえも覚束ないだろう。
詩風愛汰とアイドホール・プロクタの他に人気はない。
深夜零時を過ぎようという時間帯だ、警察が通りかかれば職質されるに違いない。
「用は分かってんだろ」
「・・・」
先日受け取ったメッセージには、天宮真鶸を精密検査した情報が詳細に記されていた。
それを僕に送る意味。
「アレを知っているな、吐いてもらう」
―――心当たりはあった。
やはり彼女の言う通りになったか。
「それは本当に瞬間移動か?」
「・・・・・・」
だんまりか、と舌打ち。
電灯が激しく明滅、映像が細切れになる。
「スカイタワー崩壊、並びに大量殺人の立役者。よくもまぁのうのうと生きられるもんだなァ」
「――っ!あなた方にもメリットはあったでしょう!」
何か・・・おかしい。こんな説明口調で話す男だっただろうか。
違和感は腫瘍となりて、ズキズキと違和感を主張する。
「ああ、だがもう要らない。後ろ盾は消え、拮抗も崩れた」
「それは・・代永さんの指示ですか」
「そうだ、誇っていい。両陣営へのコネクション、能力、詩風愛汰は脅威だと認識された」
バチ、電灯が落ちる呆気ない音。
暗転。
―――空気の流れが変わった。
闇に紛れたアイドホールが懐に手を伸ばし、愛銃が姿を現す。これは実力行使の合図だった。
合わせて、詩風愛汰は瞳を閉じる。
果たして自殺願望でもあるのか、或いは戦いを放棄したのだろうか。
否、これが彼の戦い方だ。
暗闇の中でも光があると、その先に進む力。
「てめぇが邪魔だ」
乾いた音が、質量を伴う程重厚な闇を裂く。
脳天を目掛けて対象を正確に定めた射撃。肉を絶ち、骨を砕き、脳という知識の海を焼き切る寸前―――飛んだ。
直前で対象を見失った銃弾はそのまま突進。寂しく佇む電話ボックスのガラスを貫通、そのダイヤルを破壊する。
詩風愛汰の能力、瞬間移動が万全に発動した。
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アイドホールは闇の中で一人想起する。
奴は以前、瞬間移動に10秒のタイムラグが伴うと語っていた。
「場所は・・後ろか」
背後から現れ、手で握りしめた物を振り下ろす姿が映る。
小さなそれは、スタンガンだろうか。
隙だらけ、まるで反撃を想定していない愚かしい姿。
その顔を歪ませてやるのは、どれ程心地良いことか・・・・!
嗤う、嗤う、嗤う。
未だ来ない事象を予め知る、是即ち未来予知なり。
場所さえ分かれば、後は時間に合わせて引鉄を下ろすだけでいい。
余りの呆気なさに嘆息を隠せない。
相性が良すぎる。まぁこの能力は『無敵』、相性が悪い相手なんていねぇが。
5、4、3、2、1―――0。
発砲。
未来予知した虚像は実像となり、その体は鮮血を噴き出して―――。
・・いない、現れない、虚無だけが広がる。
「あぁ!?」
何が起こった、まさか予知が外れた?
「んな訳ねぇだろ!!」
血流加速、能力発動。
新たに視界に映るのは、果たして、
―――変わらない。奴は必ずそこに現れる。
それは、いつ・・・?
未来は予知出来ても、時間までは把握出来ない。
「あのガキ、何がタイムラグ・・・!」
鬱憤に耐えかねたように、ギリギリと歯軋りの音が漏れ出す。
最悪の場合、もう逃げているのでは・・・。
嫌な想像ばかりが鎌首をもたげる。
刹那――――。
「タイムラグはありますよ。ただ向こうにいる時間は、幾らでも調整できる」
「ッ!」
突然の不意打ちに・・しかしアイドホールは驚異的な反応速度で対応。
身を屈ませ回避、その流れで、目前にある詩風愛汰の腹を蹴り飛ばす。
詩風愛汰は転がりながら、距離を取る。
「くっそ・・」
強すぎだろ、何で避けられるんだよ!
この為に、彼女に言われた通りスタンガンまで用意したのに・・。
もう同じ策は通じない、よな。
一旦離脱して指示を仰ぐか。
そして夜の静寂が再来する。
一挙手一投足に注目して、その挙動を見逃さないように、
「・・・・、はぁ」
アイドホールのため息、追撃は来ない。
そしてそのまま気怠い足取りで、公園の出口へ向かって行く。
勝手に仕掛けてきて、何のつもりだ・・・。
「アイドホール!!」
「お前も分かんだろうが、長引く。それに――――――」
彼は何故か、茂った草むらを見つめている。
「目的は達成した」
「なにを」
「はっ!もし同じなら・・・てめぇで視ろ」
一陣の風が吹いたせいだろうか、その草むらが揺れ動いた気がした。




