第五十一話 決戦の終わり
時刻は午後五時。空は夕日で焼けており、それまであった薄暗い雲はどこかへと消え去っていた。
轟いていた雷鳴もなければ、打ちつけるように降っていた雨もない。銃声も消えていた。あるのは水滴が水たまりに落ちる音と生存者たちの声だ。
「燃えてしまったな」
装備が燃え、上半身を裸にしている雛は呟く。
燃えた装備は戦闘服上下とボディアーマー、タクティカルグローブ。戦闘服の上は完全に燃えてしまい、下は燃えてボロボロになっていた。ボディアーマーは板だけを残して燃えてしまっていた。タクティカルグローブは若干形だけを残して燃えカスと化している。
そして頭を守るためのヘルメットは燃えていなかったが、弾丸が突き刺さった影響で穴が空いていた。その穴のせいで頭を守るために被れば頭を怪我するという状態だ。本末転倒である。
唯一無事なのはリュックサックと武器弾薬、靴、レッグホルスターぐらいである。
「仕方ない、全部決着を付けるために必要だった」
雛はそう言い、燃えて使えなくなった装備を捨てる。そうして雛はリュックサックを背負う。9mm拳銃をレッグホルスターに戻し、SAIGA20を右手に持った。そのまま雛は二階へ上がる階段に向かった。
丁度彼女たちも階段の方に向かっており、生存者たちはすぐに合流出来た。そしてすぐ雛の目に入ったのは美保に支えられてゆっくり移動しているレイテットだった。
「レイテット!」
「えへへ、怪我しちゃった……」
心配する雛に対してレイテットは怪我を誤魔化すように笑った。しかし誤魔化し切れず、階段を一段降りる度にレイテットは痛みで声を漏らした。
雛はすぐに美保と一緒にレイテットを支える。
「どこを怪我した?」
「ちょっと背中をね……」
「敵弾か?」
「いやいや……アイーラを守ってガラスが背中に刺さっただけ」
「傷は浅いのか?」
「うーん……美保さん?」
いまいち傷がどれだけ酷いのか分からないレイテットは美保に訊ねる。
「大丈夫、傷は浅いから致命傷までじゃない。でもレイテットちゃんには無理をさせられないわ」
美保が答えると、レイテットの傷が致命傷でないことに雛は「良かった」と心から安心した。
「美保さん、レイテットは俺に任せてください。俺ならレイテットを守りながら戦えるので。美保さんはアイーラの援護をお願いします」
「ふふ、彼氏としてレイテットを守りたいのかしら?」
「当たり前です。絶対に俺の手で守ります」
「あらあらー」
からかうような言い方の美保に対して雛は照れるような様子もなく、真っ直ぐに答える。その二人の会話を余所に一番顔を赤くして恥ずかしそうにしているのはレイテットだった。アイーラは「ほへー」と見ているだけである。
「レイテット、帰ろうか」
「うん!」
笑顔を向け合い、身体を寄せ合う。雛はレイテットに肩を貸し、二人は帰路を一緒に歩き始めた。
美保とアイーラはというと母と子のように手を繋いで帰路を歩き始めていた。
「ねぇ、雛君……キスしよう」
「うん」
美保とアイーラが先に学校の廊下を進んでいる隙に、二人は足を止めた。身体を寄せ合ったまま唇と唇を重ねる。
柔らかく包まれるような優しさ、温もり、二人は感じ合う。求め合って止まることはない。
「好きだよ」
「俺も」
少し言葉を交わし、軽く唇を重ねる。十分にお互いを感じることが出来た二人は再び帰路を歩き出す。
美保とアイーラは玄関の方で雛とレイテットを待っていた。
「ふふ、二人してお楽しみだったわね」
キスの一部始終を見ていた美保はからかうように告げる。今度は雛とレイテット、二人揃って顔を赤くさせていた。
「まぁまぁとりあえず帰りましょう」
一気に話しづらくなった間を美保が崩させようとした。雛とレイテットはコクリと頷き、なんとか話しやすくなった。美保はホッと安心する。
こうして生存者は足並みを揃えて帰路を再び歩く。廊下を進み、玄関から外に出る。
外は夕日が美しく、空は晴天だ。
「明日も生きよう」
今日を生き、明日を生きる。
敵のいない帰路をひたすらに進み、生存者たちは家に帰還する。
生存者たちは生き残った。
エピソード1 強く生きる雛
これにて終了です。
ここまで読んでくれた読者の皆様方、ありがとうございます。
次はアイーラのエピソードになると思いますので、よろしくお願いします。




