第四十九話 雨降りしきる狙撃戦
時刻は午後四時三十分。
止んでいた雨は再び降り始め、雷鳴が鳴り響く。
決戦の舞台は整った。
生存者たちとゼラニウムを取り込んだ『PODE』たちの戦いが始まる。
※
雛が一階でゼラニウム1と対面している間、彼女らは二階の窓から軽機関銃を持った敵を探していた。
「いた、向かい側の建物。その屋上にいる」
一番目の良いアイーラが窓から少し顔を出して告げる。
早速彼女らは敵を見つけ、戦う気持ちを強くするようにそれぞれの武器を強く握った。
「アイーラ、私と美保さんでバックアップするから思いっきりやっちゃって!」
「そうそう、絶対にアイーラちゃんのことは守ってあげるからがんばって!」
レイテットと美保がアイーラを応援する。その応援でアイーラはニコリと笑って、窓の外へAK47の銃口を向ける。スコープを覗き、向かい側の建物の屋上にいる敵を捉える。
「やっちゃうよ……!」
アイーラは確かに敵の心臓部である『シールド細胞』を見つめ、引き金を引いた。
発砲炎と共に三発の弾丸が発射され、閉まったままの窓ガラスを貫通。そのまま向かい側の建物の屋上にまで飛んでいき、軽機関銃を持ったゼラニウム3にヒットする。
まさに必殺。
アイーラの放った三発の弾丸はゼラニウム3の『シールド細胞』を貫通、損傷させ、破壊した。ゼラニウム3は成す術もなく、蒸発する。
「やった、倒し――」
これで弾幕がなくなり、帰ることが出来ると思ってアイーラは喜んだ。しかしその喜びの声は突如訪れた銃声と弾丸、そして窓ガラスが一瞬にして割れたことで途切れた。
「アイーラ!!」
レイテットはたまらず声を漏らし、割れて凶器と化した窓ガラスからアイーラを守った。
「え?」
レイテットに守られたアイーラはなんの傷もなく、無傷だ。しかしレイテットは背中にガラスの破片が刺さり、無傷ではなかった。
一瞬のことでなにが起こったかまるで分からなかったアイーラは呆然とレイテットに守られていることしか出来ないでいた。
「結構、痛いね……! 雛君も……こんな痛みを我慢していたのかな……?」
背中から来る刺し傷の鋭い痛みがレイテットを襲う。意識は薄くならずハッキリあるものの、あまりの痛さにレイテットの声は弱くなっていた。
「レイテットちゃん、こっちに!」
美保はすかさず負傷したレイテットを窓から教室の隅に移動させ、背中の傷を確かめる。レイテットの背中には服を貫通して刺さるガラスの破片があり、刺さった破片は十以上あった。しかし幸いなことにどれも破片の大きさ自体は小さく、深く刺さっていない。大量出血になるような致命傷は避けられていた。
「今から破片を取って包帯で傷口を塞ぐわ。かなり痛くなるけど、踏ん張って!」
「はい……美保さん……」
手当てが始まった。
痛みで声が弱くなるレイテットは踏ん張るために拳を作る。そうして美保はレイテットの背に刺さったガラスの破片を取り始める。
「うぅ……ぐっ!」
一つ目の破片が引き抜かれる。
レイテットの痛みに耐える声。床に拳を叩きつけて痛みを誤魔化す。
一つ目の破片は引き抜かれ、刺し傷から血が漏れ出す。美保はその血の漏れを抑えるために偶然持って来ていたタオルを使った。
「レイテット……私のせいで」
自身のせいでレイテットを怪我させてしまった。その事実がアイーラの自信をなくさせ、なにも出来ないという感情を込み上げさせる。
アイーラはその場に座り込んでしまった。AK47の銃口は下を向き、戦う意志を失っている。
「ごめんね、レイテット……また迷惑掛けちゃった……」
涙が落ちた。
子供のように自分のせいだと罪悪感を湧き上がらせ、弱い自分を責める。そうしてなにも出来ないという劣等感が訪れ、感情は虚無に入っていく。
「アイーラ!」
手当ての途中、レイテットは二つ目の破片が引き抜かれる痛みに負けずにアイーラの名を呼んだ。呼ばれたアイーラは顔を上げて、レイテットの方へ向く。
「私は……全然迷惑してないから! だから戦って、アイーラ!」
アイーラの心にレイテットの声が入ってきた。
聞き慣れた安心出来る声。虚無は払われ、代わりにレイテットの分の闘志が入ってくる。
そうしてアイーラの感情は闘志で満たされる。
「分かった」
アイーラの目は戦う意志を取り戻し、AK47の銃口を再び外へと向けた。壊された窓から雨と風が教室に入ってくる。
風は雨を運び、アイーラの身体を濡らした。しかしその闘志が冷めることはない。
「さっき撃ってきた奴、どこだぁ?」
持ち前の目の良さを使い、敵が撃ってきたであろう場所を見つめる。その場所はまた別の建物の屋上だ。
「いた」
アイーラの目に緑色の敵が映った。その緑は明らかに『PODE』に取り込まれていることを示している。
アイーラは敵を見つけて早々にAK47の引き金を引こうとした。その瞬間である。敵から発砲音と共に弾丸が飛んできた。
「!」
『PODE』から放たれた弾丸はアイーラの頬のすぐ横を通って行った。ギリギリで弾丸はアイーラに当たらず、頬に傷を付ける程度で行き過ぎて行った。しかし後数少しでもずれていればアイーラの顔面が大変なことになっていたのは間違いないだろう。
「結構やる……!」
アイーラにそう言わせるほど、敵の射撃は上手い。
そう、その敵はスコープ付きの89式小銃を持つ狙撃手――ゼラニウム2なのだ。
「次はこっちから!」
アイーラはスコープを覗いたままAK47の引き金を引く。銃口から弾丸が放たれ、雨降る中を飛ぶ。直撃コース。アイーラの弾丸はゼラニウム2の『シールド細胞』に真っ直ぐ飛び、ゼラニウム2の蒸発は確実、だった。
「相殺した!?」
アイーラは目の前で起きたことに驚いた。その現象は神業と称すのが一番適している。
弾丸と弾丸をぶつけることによっての相殺。
ゼラニウム2はそれを成した。
「防御完璧じゃん、チートかよ」
悪態を吐くアイーラは再度発砲する。次弾もゼラニウム2の『シールド細胞』に真っ直ぐ飛ぶが、神業で再び相殺される。
アイーラは当たるまで発砲を続けるが、ゼラニウム2の『シールド細胞』に当たることはない。弾倉内の残弾は残り六発。
「だったら!」
一発ずつで当たることはない。ならばと、アイーラは三点バーストに切り替える。そしてアイーラは引き金を引く。AK47から三つの発砲音が重なり、銃口から三発の弾丸が発射される。
この三発も全て直撃コース。真っ直ぐ『シールド細胞』に向かってくる三発の弾丸に対してゼラニウム2は再び神業を見せる。
一発目、相殺。真正面からぶつかり合い、弾丸はどちらも潰れる。
二発目、相殺。真正面からではないものの、弾丸はぶつかり合ってあらぬ方向へと飛んでいく。
そして三発目は、相殺ではなかった。お互いの弾丸はぶつかり合うことなく、お互いの定めた標的へと向かっていく。
「ちっ!」
アイーラはたまらず舌打ちを打った。ゼラニウム2の放った弾丸はAK47のスコープのど真ん中を撃ち抜き、使い物にならなくしたのだ。
変わってアイーラの放った弾丸は『シールド細胞』にヒット。しかし致命傷に至らず、ゼラニウム2は蒸発していなかった。
敵を仕留めきれず、狙撃の要と言えるスコープをやられる。その上、耐久性を除いたアサルトライフルとしての性能はAK47よりも89式小銃の方が高い。
狙撃の要を失い、銃の性能で劣り、神業をしてくる敵がいる、アイーラは窮地に立たされていた。
「どうしよっか……」
敵に撃たれないようにその場に座り込んだアイーラは呟く。そうして使い物にならないスコープを覗いて「やっぱダメだよね」と諦め、アイーラはAK47からスコープを外した。
次撃つ時は遠距離狙撃に向かないアイアンサイトで撃つしかない。だが、アイアンサイトで狙撃戦に挑むのは命を敵に差し出すような行いだ。
それでもアイーラは覚悟を決めた。
「レイテット、私死ぬかもしれない。でも泣かないでね」
「なに言って――」
レイテットが全部を言おうとする前に、アイーラは立ち上がった。命を捨てる覚悟を決め、自分以外の全員を家に帰すつもりでアイーラはアイアンサイト越しに敵の『シールド細胞』を見つめる。
「届けよ!」
アイーラは引き金を引いた。これが最後の意地、AK47の銃口から弾丸が放たれる。
弾丸は神業によって相殺される。
それでもアイーラは引き金を引く。
再び相殺される。
弾倉内の残弾は後一発。
「はぁ……ふぅ……」
アイーラは集中し、引き金に指を掛けたまま撃つ瞬間を待つ。
程なくしてゼラニウム2から発砲音が響いた。
アイーラ目掛けて弾丸が飛んでくる。
「今だ!」
アイーラはこの瞬間を待っていた。
ゼラニウム2が撃つ瞬間を狙って撃てば、神業をしている暇はない。アイーラはそれを狙っており、引き金を引いた。
AK47から放たれた弾丸はゼラニウム2の『シールド細胞』を貫き、致命傷を与えた。そのままゼラニウム2は蒸発する。
敵は倒せた。しかし置き土産と言わんばかりに、ゼラニウム2の弾丸がAK47を襲う。銃口に弾丸が入りこみ、中で暴れる。結果AK47はパーツを傷付けられ、アイーラの手の中でAK47は壊れた。
「今までありがとう」
最後の意地を貫いたAK47。お別れの言葉をアイーラに告げられた今、壊れたAK47は教室の壁に立て掛けられ、みんなの背中を守る役目を終えた。
彼女たちの戦いは終わった。後はレイテットの手当てを終えるだけである。
次回、雛の決戦です。




