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23-15 せいぎのめがみさま ~信徒編15~ ロズワルドの選択

「あ~~~~~! 嫌なことに気付いちまった~~~~!!」

 腕を組んで悩んでいたロズワルドが、突然、頭を抱えました。

「なっ、なに? どうしたのロズくん!? 何に気付いたの?」

「いやね、セイバーとデストロイヤーのどっちになるにしても、オレがヘマをすれば、ミカに尻ぬぐいさせちまうんだな~って」

「……え? どういうこと?」

「わかんない? 三つの正義はスタートラインが違うから別物のように見えるけど、実は数珠みたいに繋がってるんだよ」

「え? え? そうなの?」

「じゃあ、順序立てて話すよ?」

「う、うん」

「仮にさ、ねーさん。3タイプの正義が全員揃ってるとするじゃん?」

「仮のおはなしなのね。分かった。揃っているとしましょう」

「そこにさ、"明日"銀行強盗をしようと企む奴が現れたとするじゃん?」

「だったら、デストロイヤーの出番だね」

「銀行強盗の計画を未然に阻止すれば、デストロイヤーは使命達成。正義が勝利するわけだ」

「そうだね。"世は全て事も無し"だね」

「でもさ、ねーさん。もしデストロイヤーがヘマをしたらどうなる?」

「考えたくもないけれど次の日、計画通りに銀行強盗が起きてしまうね」

「そう! "今日"銀行強盗がおきてしまう。銀行が襲われ、金を奪われ、人質も取られて大ピンチだ。これがどういうことか分かる?」

「使命不達成でデストロイヤーの敗北だね。でも、正義の敗北じゃない。だってセイバーもいるんでしょう?」

「そりゃ、デストロイヤーとセイバーが共闘すれば、銀行強盗なんて屁のカッパだろうさ。だけどセイバーにしてみればデストロイヤーの尻ぬぐいなわけで、本来やる必要の無かった戦いに付き合わされてメッチャ迷惑なわけよ」

「あ~~~~。うん。確かにそうだね。でも…そこは尻ぬぐいじゃなくて、フォローって言おうよ。もうちょっと前向きに考えてほしいな」

「フォロー? フォローなぁ……。そうは言うけどさ、セイバーの使命は人命第一だ。人質救出が最優先だぜ? デストロイヤーがいつまでも自分の使命を固執して強盗阻止を優先するなら、使命の違いから足を引っ張り合うんじゃないかな。場合によっては正義同士で敵対…なんて事も」

「ううっ。………確かに、無いとは言いきれないね」

「それでも……まあ、最悪ではないと思うよ。犠牲者さえ出なければね。被害甚大でも人質が無事なら、まだ取り返しは付くと思う。問題はこの次だよ。セイバーまでもがヘマをした時さ」

「それは……つまり……。救出に失敗して、人質を死なせてしまったって事だよね」

「ああ、取り返しの付かない最悪の状況だよ。そして失われた命に"今日"も"明日"も無い」

「その時は、アベンジャーの出番だね」

「そうだよ。アベンジャーの……ミカの出番さ。デストロイヤーのヘマで取り逃がした強盗に天誅を下したり、セイバーのヘマで救えなかった犠牲者の魂を冥府へ送ったり、残された遺族へ犠牲者の遺言を伝えたりするわけだけど……。なあねーさん。アベンジャーの能力って、もしかして……ヘマをしたデストロイヤーとセイバーの後始末に特化してないか?」

「そんな事は無いよ! そんなつもりは無いの……。でも、困っちゃったな。ロズくんの言う通りかもしれない。全然気付かなかったよ…」

「結局の所、デストロイヤーをフォローできるのはデストロイヤーだけで、セイバーをフォローできるのはセイバーだけ。そしてアベンジャーをフォローできるのもアベンジャーだけなんだよ。だけど………オレにアベンジャーは無理だ。兄貴分としては情けない限りだけど、ミカの尻ぬぐいは出来そうにないよ」


 ロズワルドがため息混じりにつぶやいた時でした。

 突然、前を歩いていたミカゲルが振り返り、顔を真っ赤にしながら叫びます。

「ボクもう、赤ちゃんじゃないよっ! 自分のお尻くらい拭けるってば!!」

 ミカゲルの自尊心をかけた抗議に、2人の間に漂っていた重い空気が吹き飛びました。

「あははははっ♪ 悪い悪い♪」

「ごめんね♪ ミカくん♪」

 ミカゲルはぷんぷんしながら、再び歩き始めました。

 その後を2人も付いていくのですが、ロズワルドは口を開きません。どうやら考えを整理しているようです。邪魔をしては悪いと思い、ディケーも口を紡ぎます。

 あれ? そう言えばヘルメスは?

 ディケーが振り返ると、5メートル程離れて付いてきていました。会話の邪魔をすまいという配慮でしょうか。ディケーの視線に気付くと、笑みを浮かべながら小さく手を振ってきます。

 再びロズワルドを見ると、彼はミカゲルを見つめていました。いや、違います。見つめていたのは虚空でした。ミカゲルの隣。そこにいるはずの見えないレディを見ているのでしょうか。

「よし、決めた!」

 それは決意に満ちた声でした。


「決めたよねーさん! オレはセイバーになる!」

「セイバーなの?」

「ああ、セイバーだ」

「参考までに、ロズくんが決めた理由を教えてくれる?」

「犯罪計画を未然に阻止して、事件そのものを起こさせないってのは面白い能力だと思うよ。だけど、ねーさんの話を行く限り、デストロイヤーには一つ盲点があると思うんだ」

「盲点……。それはなぁに?」

「デストロイヤーが打ち砕けるのは、悪意ある者の犯罪計画。つまり"事件"だけだ。悪意無き不測の事態、すなわち"事故"は未然に防げない。どう? 当たってる?」

「事故? ……事故。……確かに想定外だね」

「オレ、ゴーストレディを見てさ。体に負った酷い火傷を見て、考えたんだよ。レディが巻き込まれた火災が事故だとしたら、犯罪阻止のデストロイヤーでは救えない。でも、セイバーなら? 人命を最優先にするセイバーだったら?」

「事故でも事件でも、助けられるかもしれない……。確かにそうだね。ロズくんの言う通りだよ」

 ディケーは優しく微笑みながら、つぶやきます。

「そっか…。決め手はゴーストレディか…。やっぱりロズくんは優しいね」

「ん? なんか言った?」

「ううん。なんでもない」

「じゃあ早速オレをセイバーにしてくれよ」

「大丈夫♪ こうと決めた時から、ロズくんはセイバーだから。じきに能力が覚醒してくるはず……」

 唐突にロズワルドを止めます。

「あれ? なんだこれ? 何かが頭の中で…。これは悲鳴か? 誰かが助けを求めてる?」

「早速覚醒したね。それがセイバーの能力だよ。声の導きに従えば、救うべき人にたどり着ける。ところでロズくん、その声に色は付いてる?」

「色? そう言えば青っぽいような……」

「そう、よかった。声の色は大きく分けて青、黄、赤の三色があるの。青色なら時間に余裕あり。黄色は危険、注意。そして赤色は絶体絶命よ。優先順位は言わなくても分かるよね?」

「優先順位? それってまるで、助ける人が2人同時に現れるかもしれないって……あっ!」

「そう。今を救うセイバーの使命は、他よりもブッキングする可能性が高いの」

「ダブルブッキングもトリプルブッキングもあり得るって事か。ひえええ」

「これから大忙しになるでしょうね。眠る暇もないかもしれない。でも大丈夫。様々な加護が貴方をサポートするから」

「分かった。ねーさんを信じるよ。ところで悪いんだけど、ここから別行動しても良い?」

「一刻も早く助けに行きたいのね」

「ああ、そうだ。なんて言うか、こう……ジッとしてられないんだ」

「待ちたまえ」

 ソワソワしているロズワルドに、突然ヘルメスが声をかけてきます。

 振り返ると、ヘルメスは宿に置いてきたはずのロズワルドの鞄を持っていました。一瞬で取りに戻って来たのでしょうか。

「必要だろ? 持って行きなさい」

「お、おう。ありがと」

 ロズワルドは鞄を受け取ると、肩にかけます。流石は神様。何でもお見通しというわけです。

「ああ、だったら貴方の分も持っていって。腹ごしらえは大事よ」

 ディケーはバスケットからサンドイッチを取り出し、ロズワルドの鞄に詰め込みます。

「ミカ、どっちが先に正義を成すか、競争しないか?」

「え〜、そんなの兄ちゃんに勝てるわけ無いじゃん!」

「はははっ♪ どうだろうな。ま、お互い頑張ろうぜ。じゃあねーさん。行ってくる」

「行ってらっしゃい。頑張ってね♪」

 ロズワルドは町に向かって駆け出しました。

 一刻も早く、頭に響く悲しい声を消したくて。


「さあ、人助けを始めようっ!」

あ〜〜〜〜〜!! やっと終わらせられたよ〜〜〜〜〜!!

これまで読んでいてくれた皆様、長らくお待たせしてしまって本当に申し訳ありませんでした。

信徒編はこれにて完結です。

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