第93話 エピローグ
結婚して10年。
お祖父様のスパルタ領地経営を学びながら、なんとか段々と板についてきた。
10年なんてあっという間だった。
「エリオット、お祖父様どこいったか知ってる?」
「お義父さんなら、アンジェと庭にいた気がするけど……ってエステル、頼むからじっとしてくれないか?」
「えー?なんで?」
「もうすぐ2人目が生まれる時期だろう……?」
「来月じゃん!大丈夫だって、もー心配性なんだから。
動いてたほうが、安産なるんだって。
どうせ痛いの私なんだし、少しでも楽に産みたいし。」
「……そうだけども……。」
最近エリオットとお父様が重なって見える時があって、つい笑っちゃう。
お父様のように、泣いたりはしないけど。
あれだけセドリックに私を叱って止めろと言われてた割には、激甘な結婚生活を送っている。
15でここに来て、お祖父様の助けもあって、私たちはちゃんと家族になっていた。
「アンジェー?」
私はもうすぐ6歳になる娘を探す。
「お祖父様?」
庭にいると聞いたのに、どこにも姿は見えない。
「アンジェー?何処にいるの?」
キョロキョロと探すと、木の陰からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
ははぁん?
私を驚かせようと、隠れてやがるな?
我が娘ながら私を欺こうとするなど、100年早いんじゃ!!
お父さん譲りの可愛いフワフワした金髪が風に揺れるのを確認すると、静かに反対側に回った。
そして。
「わぁ!!!」
「キャアア!!」
可愛い声を上げて、私の天使がひっくり返る。
「お、お母様、なぜわかったのですか?」
碧眼のつり目な瞳をクリクリさせて、私を涙目で見つめた。
「そんなの簡単よ。そもそもお祖父様が隠れてないからね。」
「ダリウス爺様!隠れててっていったのにぃー!」
「ははは、ごめんよアンジェ、爺様、木には大きすぎて隠れられなかったんだよー」
流石にひ孫には眉尻を下げて、手放しで溺愛中だ。
「お母様、なぜ私を探していたの?」
「ああ、そうだ!イリーたちがついたみたいよ。行かなくて良いの?」
「イリーが来たの!?行かなきゃ!爺様また後でね!」
「アンジェもういっちゃうのかい!?」
あっという間にその場から走っていく我が娘。
猪突猛進は私に似たのか……。
思わず汗が垂れるが、似てしまったものは仕方ない。
私とエリオットの娘、アンジェ6歳。
私とエリオットが出会った年と同じ歳になった。
私は目を細めて彼女の成長を感じていた。
金髪碧眼。
クリクリとしたくせ毛にフワフワと軽い髪の毛。
エリオットそっくりなのだ。
顔以外は。
正確には『目』以外は。
だが我が家には、現実を教える人間がいない。
だってエリオットもお祖父様もDNAでつり目が好きなのだから。
私はどれだけ自分に似てようが、自分の娘なので『可愛い』しかない。
なのでただ現実を知らず、『可愛い』だけで育って来た娘。
今日はうちにビクター夫妻と兄夫婦とリオンとエリナがくるのだ。
実に1年ぶりだ。
最初は3ヶ月おきに行き来していたのだが、お互い子ができ、領地の仕事が忙しくなったりで、なかなか会えなくなってしまった。
それでも1年に1回会えるだけで、毎年とても楽しみにしている。
さっき出た『イリー』はビクターのうちの長男だ。
私たちの中で最初に子供ができたのは、マギーだった。
イリーはマギーに似て大人しく世話好きな男の子で、うちのやんちゃガールをよく面倒見てくれている。
ビクターに似て、紫の髪色に、赤黒の目。
髪型がオカッパという、私のツボを抑えて来ている。
「まぁ!ポリーもトニーも来たのね!」
「やあ、アンジェ。今日も可愛いリボンを付けてるんだね」
「イリー会いたかったわ」
マギーのとこの3人兄弟。
イリー、ポリー、トニー。
ポリーはアンジェと同じ歳で、マギーに瓜二つの女の子。
私はとにかく彼女を見ると懐かしみ、涙が出そうになる。
昔のマギーを思い出すから。
おっとりした女の子で、イリーとポリーはアンジェと本当に仲良くしてくれている。
下のトニーはまだ4歳の男の子。
とにかくヤンチャで、ビクター瓜二つである。
ビクターが小さいビクターを追いかけ回し、叱ってる姿が私はもう面白くて仕方ない。
毎回笑ってしまうので、たくましくなったビクターに剣を抜かれそうになるのだ。
全くあいつは冗談も通じないのか。
アンジェは3人を庭へと誘う。
移動しようと席を立つと、お兄様がついたとエルが声をかけてくれた。
エルはうちの領地の青年に嫁いでくれて、うちで変わらず働いてくれている。
アンジェの乳母もやってくれた。
エルも1人息子がいるのだが、思わず名前を聞かれて『アール』なんて思ったなんて……誰にも内緒である。
「エステル、久しぶりねー!」
コーディが重い荷物をエントランスに置きながら笑顔で微笑んだ。
「元気だったー?ウィラーとペイトンは?」
「2人とも先に庭に行ってしまったわよ……アンジェがいると聞いたから」
「イリーたちが来たから庭に走っていったわね……」
「ああ、また取り合いになりそうね……。」
「あらあら……!」
そういうとまた3人で笑った。
「ビクターは?」
コーディが辺りを見渡しながら言った。
「あぁ、ビクターは庭で狩りで仕留めたばかりの鹿をダリウス卿に見せに……」
マギーはそっと目を逸らした。
「……子供達の目には触れさせないように、キツく言ってね……」
コーディが青ざめた。
「鹿ぐらい転がってても動揺しないんじゃない?うちらの子だもの……!」
そう言って私は笑った。
「それにしても大きいわね、お腹。」
「でしょー?重すぎるんだけど……!」
「どっちかしら?」
「こないだリューさんとアキラさんが来た時、男の子だってネタバレしていってたから、エリオットが複雑な顔して固まってたよ。」
コーディとマギーが吹き出した。
「あぁ、想像できてしまいました!こーやって、眉寄せて……!」
マギーが眉を寄せて真似をすると。
「……そんなには寄ってないはずだ……」
気がつくとエリオットが後ろに立っていた。
マギーがびくりとする。
「ねぇ、エリオット。ビクターが鹿を仕留めたやつ庭で解体しない様に注意して来てくれない?」
「……おい、アンジェの教育に悪いだろう!?」
「……そう思うなら、早く言ったほうがいいわよ。お祖父様も絡んでそうだから……」
エリオットが猫のように毛を逆立てて、瞳を細くして、庭に走っていった。
その姿を見ながら3人で顔を見合わせる。
「ウィラーは7歳だっけ?ペイトンはトニーと一緒だよね?」
「そうそう。中々同級生にならなかったわねぇ……」
「こればかりはしょうがないよ!」
そう言いながら、2人は私の大きなお腹を撫でた。
「エステル……!」
「リオーン!!久しぶりぃ!!」
思わず抱きついたら、お腹がボヨンと邪魔をする。
リオンが焦って私のお腹をさすりながら心配していたが、私はケロっとしてた。
「衝撃で生まれたらどうするんだよ……!」
「そんなヤワじゃないわ!」
「そんなヤワじゃない母から生まれた天使はどこだ?」
リオンは未だ独身である。
セドリックが3年前に王位を継いだ時、最年少宰相になった。
セドリックと毎日ギャアギャアと言い合いする姿を見ると、これまた昔を思い出し、懐かしく思うのだった。
セドリックも独身だし。
もう2人でくっつくしかないと、腐女子脳が囁いてしまう。
こんなこと本人に言うと、きっと私はほっぺを伸びるだけ伸ばされるんだろうな……。
思わず背筋に冷たいものが走り、身震いをした。
「王が今日は来れないが、よろしくといってたよ。」
「そっかぁ。あ、でも来週王都に行くんだよー。そん時に会いに行くかな。」
「何しにくるんだよ、そんな体で!」
リオンが青ざめる。
私は舌打ちをして彼を睨む。
「だいじょうぶだって!」
「来てる途中で生まれたらどうするんだよ!」
「そしたら馬車の中で出産したってことで馬車って名前付けるわ」
「流石に子供がかわいそうだろ!」
口を尖らせて、お腹を撫でる。
「生まれるの来月だって言うのに、みんな心配しすぎなんだよ!」
「そうは言っても、こっちはわからないから怖いよ。セドリック王も心配してたよ。
自分の後継なんだから大事に育てろよって。」
「はぁ!?自分で産んどけって言っといて!てか結婚しろよ、お前ら!」
ドスドスと庭に向かって歩き出す私を、マギーとコーディも、リオンも笑いながら付いて来た。
「そういえばエステル一時剣の練習してたよね?
あれ上達した?」
「フッ……あの素振りで役に立ったのは薪がすごい上手に割れる事ぐらいだわ。」
リオンは口元を手で押さえ、吹き出すのを堪えた。
……笑いたきゃ笑えよ。
「リオン!!」
リオンに向かって我が家の姫がダイビングアタックをかます。
流石にリオンも小さく『ウッ』と言った。
そう聞こえた。
「……アンジェ、元気そうだね……」
片手で胸を、片手でアンジェを抱き上げる。
「独身でも子供がいっぱいだから、父親気分は味わえるね」
リオンがそう言ってアンジェに頬を寄せた。
「あら?リオンは私を子供だと思ってるの!?」
アンジェが驚いた顔で言った。
「うん?……そうだね、君のお母さんとお父さんと、同じ歳だしね」
そう言ってメガネを上げる。
アンジェは眉を寄せ、頬を膨らます。
「リオンは違うでしょ?将来私が15歳になったらお嫁にもらわないといけないのよ?」
「「「は!?」」」
その場にいた小さい子から大きな大人まで。
そして言われた本人までが同時に声を上げて固まる。
「……まって、アンジェ。あなたリオンと結婚する気なの?」
「そうよ、お母様。去年来た時にリオンに約束してもらったもの」
「いや……待って、アンジェ……。僕に覚えがないんだけど……。あとこんなこと聞かれたら王にもエリオットにも僕は消されてしまうけど……」
ハッと背後を振り向くと。
やつはもうそこにいたのだ。
満面の笑みで。
あ、笑ってない笑顔で。
「え、エリオット、久しぶり……!」
リオンが笑顔でエリオットを見るが、エリオットは腕組みをして立ち尽くしている。
「はい、アンジェ。なんて約束したのか詳しく。じゃないとあなたの愛しいリオンはお父様に連れていかれて二度と会えなくなるわよ?」
リオンから引き剥がし、私がアンジェを抱っこする。
出っ張ってるお腹を避けながら。
「どうしてお父様が!?
もぅ!リオンも忘れちゃったんでしょ?
去年湖に行った時に、『リオンは結婚しないの?』ってお母様が聞いたでしょ?あの時リオンが『エステルに似た人がいたら考える』って言ったから、『じゃあ私は似てる?』って聞いたの。そしたら似てるって!
リオンは私が好きでしょ?だから『私がお嫁に行ってあげる』って言ったら『いいよ』って。」
「リオン、あっちで話をしないか?詳しく聞きたいんだけど、エステルに似た人あたりから……。」
「ちょ……!娘のいうこと全面的に信じすぎでしょ!?……まって、ちょっと、エリオット!」
「19歳差かぁ、まぁなんとかなるかなぁ?アンジェが15歳になったらリオン34歳だわ。
ありといえば、ありかな?」
「……エステル?アンジェはお嫁に行かないからね……?」
振り向くと、怖い顔をしたエリオットがリオンを引っ張りながら立っていた。
……こわっ!!
こんな娘ラブな父親になるとか考えもしなかったけど。
思わず吹きだした。
昔じゃ想像つかない旦那の姿に笑いが止まらなかった。
その笑いにつられて、コーディ達も笑った。
「まぁでも、うちの息子は心中穏やかじゃないと思いますけど……」
マギーがイリーを見る。
イリーは焦点があってない目でブツブツと何かを言っていた。
「アンジェちゃんがリオンに嫁に行く宣言は、イリーにはショックだったかもしれませんねぇ……」
「……え?イリーつり目好みなの?」
「つり目が好きなわけじゃないでしょうけど!」
マギーはそう言って笑った。
「……うちも、やばいそうだわ。」
今度はコーディが息子達を見る。
7歳のウィラーは兄そっくりな天使なお顔。
中身も兄なら、DNAでつり目を好む性質が。
ウィラーもアンジェを見つめ、涙目だった。
「これいつかのリューさんの加護のおかげじゃないよね?こんな娘がモテるとは……」
「……親が一番ひどいこと言ってるわよ……?」
「そうですよ!アンジェちゃんはすごい可愛いですもの!」
「うちのシルビアもかわいいんだけど!?」
背後にエリナが立っていた。
「ビックリした……!今来たの?」
「着いたのに誰もお出迎えもないのはひどすぎない!?」
「あはは、ごめんごめん!」
私たちはエリナに抱きついた。
「1年ぶり……!」
エリナの後ろに銀髪にグレーの瞳の可愛らしい少女が隠れていた。
「シルも久しぶりね。アンジェはあっちに連れていかれたから、追っかけてきて」
私はシルビアの頭を撫でた。
シルビアは嬉しそうに笑って頷くと、走ってアンジェを追いかけた。
「ますます先生に似てきた?」
「めっちゃそっくりでしょ?だからすごい可愛くて仕方なくて……!
だから早く2人目欲しくて、今妊娠中よ!」
『おおおお!』と私たちの声が揃う。
「うちと同級生かな?うち男の子ぽいから、女の子産んでよ!」
「そんなのわかるわけないでしょ!!……でもエリオット王子の子とうちの子が結婚するなら……!」
エリナはきゃーッと手で顔を覆った。
「もう王子ではないけどね……」
私は苦笑いをした。
「先生は学校で今トラブルがあって、今日は来れなかったんだ。だからまたこっちにきたとき会いに寄ってね!喜ぶから。」
「来週王都に行くからその時によるよ」
「そのお腹で大丈夫なの!?」
「……みんな同じこと言うよね……!」
私が苦笑いをすると、みんながまた笑うので思わず口を尖らせた。
「お母様ー!!お父様がよんでるー!!
あ、お母様、可愛いカラスがいるわよ、見てー?」
遠くでアンジェが私を呼んだ。
私は大きく返事をして、アンジェの方へ手を振り、歩いていく。
近くの木に小さなカラスが2匹。
寄り添いながらこちらを見ていた。
まさか、ね。
なんて思いながら、私は振り向いた。
「……もう、クラウドどこいってたの?アンジェが探してたよ!」
「アンジェが追っかけ回すから逃げてたんだよ……」
そう言うとアライグマは私の肩によじ登ると、生臭い息を私に吐きかけた。
「クッサ!!!」
のけぞる私に、『キャッキャ』と笑うアライグマ。
とても風の気持ちいい日。
空は青く晴れて、子供達と大人の入り混じった笑い声がずっと聞こえていた。
いつまでも、幸せそうに。
ご愛読ありがとうございました。
これにて終了です。
ここまでお付き合いくださった方々に、多大な感謝を込めて。
次回作は別でまた更新される予定なので、良かったら覗いてやってくださいm(_ _)m




