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第74話 突然始まる寸劇。

いつもありがとうございますm(_ _)m

「まず、何をしたらいいの……?」


全くやる気がついてきていない私と、やる気満々のマギーとコーディ。


「いい?この廊下の端っこで、はい、このノートの束を持って。早く。」


このノート。

わざわざ日直が集めてアーロン先生に持っていった化学のノートである。

それを先生にちょっと貸してくれと無理を言って持ってきたのだ。

アーロン先生のあの顔は私は当分忘れられない。

まさに『あんぐり』です。


「……おもっ!」


「我慢ですよ!エステル!」


「……ハイ。」


2人がニコニコとエリナノートを片手に。

私に細かな指示をする。

監督と助監督見みたいな。


第一ヒロイン・ミッション。

『ノートを先生に届けに行く途中で、エリオット王子にぶつかって、ノートを拾って貰う作戦』で、ある。


あーハイハイ!あれだ。

『遅刻遅刻ぅ☆』言いながら走っていると、曲がり角でぶつかって恋に落ちちゃう的な?

少女マンガ王道をやらせるってわけですね。

少年誌なら、こけちゃった時にスカートから太ももチラリとかのラッキースケベ的なものもあっちゃうやつ。


まぁ、少女マンガの方でお願いしたいわけですが。


……ていうか、おっもい!

エリオットいつ出てくんだよ!

待ち時間長すぎやしませんかね!?

次の授業始まっちゃうよ!?


監督に目で訴えましたが、静かに『耐えろ』と口の動きで伝えられる。

……た、耐えられる、かな……?


二の腕がプルプルと震え出しましたけど!!

私の腕が限界に近づき、今にも落としそうな時に。

隠れていた角から人が曲がって来た。


見事に『ドーン』とぶつかりまして、イベント終了のお知らせ。


散らばるノートとひっくり返り、お尻を強打。


お、お尻が四つに割れ……てないけど。

蒙古斑できてそうです……。


「……す、すみませんでした」


ぶつかった人に謝罪をしながら起き上がろうとすると、スッと手が伸びてくる。

お尻が痛くて起き上がれない私は、手をそっと添えて引っ張って貰う。


「重ね重ねすみません……。」


起き上がって顔を見ると。


「……怪我はないか?こんな所でなぜノートを?」


久々に間近で見るエリオットの顔に、思わず目をそらす。

フラれたことを思い出し、恥ずかしくて逃げ出したくなった。


何も答えず、俯いて。

スカートをギュッと握りしめた。


監督たちが心配して私に走り寄り、ノートをそっと拾い上げ出した。

ただ立ちす尽くす私を困ったように見つめながら、エリオットもノートを拾い出した。


「あの、いいですから。ノートは自分で拾えますので、どうぞ行ってください。」


違う。

そんなことが言いたかったんじゃなくて。


「……エステル?」


コーディが俯く私を覗き込んだ。

エリオットはまっすぐ私を見ている。

目の端っこに、こっちを見る彼の顔が見える。


「……そうか、すまない……」


拾ったノートをマギーに渡すと、エリオットがだんだんとこっちへ近づいてくる気配を感じる。

私は思わず後ろに下がった。

それでも、エリオットの足はゆっくりと私に近寄って来た。


背中が壁にぶつかる。

私の逃げ場が終わったことを感じ、またギュッとスカートを握りしめた。


エリオットの手が静かに伸びて、私の頬にそっと指先が触れるか触れないかのギリギリで止まった。


私はスローモーションのように。

俯いた顔が上がり、エリオットを見つめる。


エリオットはなんだか悲しそうな、困ったような顔で。

いつも寄せる眉が少し下がっていた。


「エステル。俺と話をしてくれないだろうか。

話したいことがあるんだ。

いや、聞いてもらいたいことがある。

今すぐじゃなくてもいい、その為の時間をもらえないか……?」


指先は私の頬に触れた。

そして、ゆっくり私の頬に伝わるものを拭った。


……あれ?

なんで私泣いてんだ?


思わず手で涙を強引に拭い取った。

あんまり乱暴だったので『カシャン』と音を立てて、かけていたメガネがすり落ちた。


「エステル、返事を聞かせてくれ。」


力一杯に拭う私の手を左の手で掴まれ、壁に押し付けた。

そして、右手が優しく頬に触れた。


「必ず、なんとかする。俺は君の元に、必ず……。だがその前に話をしたい。」


何も答えられない程涙が止まらない。

ただ、だんだんと近づいてくるエリオットの顔を、泣きながら見つめるしかできなかった。


「……エリオット様!?」


後ろから悲鳴に近い声が聞こえる。


「……何をしてらっしゃるの!?」


ピンクブロンドの髪の毛が、私を掴むエリオットの手を両手で引き取るように掴んだ。

その横で何故かノートを破り出すコーディ。

そして片手を上げる。


「はい、エリオット王子。婚約者の前で別の女性をたぶらかすような真似を辞めて頂きたいですわ!

ねぇ、マギー!?」


マギーは突然呼ばれて『ハッ!』という顔をして。


「え、ええ!そうですわ!エリナ様という方がおられながら!……えーっと、……ちょっと、あなた!殿下に対して馴れ馴れしいんじゃなくて!?」


……コーディ?

……マギーさん!?


流石のエリナもこの棒読み学芸会状態を見て、呆気にとられてらっしゃる。

エリオットにしては大きなクリクリの目が点になって見える。


「……ですわよね!?エリナ様!!」


『デスワヨネ』なんてよくわからない言葉を発しながら、コーディはそっとエリナの腕を組んで引いた。

呆気にとられているエリナは引かれたコーディの方へ素直に引かれた。


「ね!!エリナ様!!」


復唱するように同意を求めるコーディとマギー。

流石に何度も呼ばれたので、エリナも『え?え、ええ、そうね』なんて同意をする始末。


……これ何効果だよ。

ふと気がつくと、エリオットが私の腕を離していることに気がつく。

その代わりに何か手に握りしめているようで、その手を見つめていた。


その隙に私はとっくに引っ込んだ涙の跡を服の袖で拭い、エリオットから距離を取ろうとすると。

後ろに開いたノートをこっちに向けるように持ったビクターがいた。


……え?いつからいた?

なんでいる?


疑問をビクターに顔でぶつけようとすると。

すごい形相で、『コレヲ、ヨメ、ハヤク』とノートを指差しながら、口パクで言ってくる。

仕方がないので目を凝らして、ノートを読む。

あとで苦情を言う気満々だけどね!


「ごめんなさい、私が、いけないの、婚約者が、いらっしゃるなんて、知らなくて、……え?知ってたけ……ふぐぅ」


最期の『ど』が言えずに不発。

さっきの打ち所の悪いお尻をコーディにつねられた。

いつの間に背後に……!


エリナの捕獲はマギーとビクターに変わっていてちょっと笑ってしまったけど。


「んっまぁ!なんて事なの!こんなに素敵な殿下に婚約者がいないはずないでしょう!身の程を知りなさいな!」


コーディはそう言うと私の前に立ちふさがった。

……笑いを堪えながら。


その後ろでエリオットは何かをノートの切れ端の様なものを読んでいる。

そして、コーディを見つめ頷いた。


「……クラスメイトが困っていたら、助けるのは普通ではないのか、そうだろうエリナ。」


「……エリオット様!?ですが……これは……!」


「君とは親が決めた婚約者同士だ。これ以上私の行動に口出ししないでくれ!」


そう言うとエリオットはメモをもう一度見返して、コーディに再び頷いて。

クルリと体の向きを変え、首を傾げながら教室に帰ろうとした。


「……待って!エリオット様……!!」


エリナは泣きそうになりながらエリオットの後を追おうとした。


……したのだ。


廊下の途中で止まるエリオット。

それを不思議に思い、エリナも距離をとって止まる。


我々それを見つめると言う図。


「……なんの劇の練習だ、これ……。みんな次の授業の時間になったぞ、教室に入れ。」


教科書を片手に困り果てた様な顔で私たちを見ている先生が立っていた。


『……しかし、みんな演技下手くそすぎだろう』

と、小声で付け加えたのもバッチリ聞こえたけど。

完璧に劇だと思われていた。


果たしてこれは、フラグ的にうまく言ったんだろうか?

疑問が残るばかりで、ゾロゾロと重いノートを抱え、教室へ戻ったのだった。


教室に帰ったら。

日直だけはキョトンとした顔で私を見つめている。

そりゃそうでしょうとも。

回収して持っていったノートをすぐ私が持ち帰っているのだから。

不思議ですよね、わかります。


ノートはちゃんと次の休みにみんなで運んでおいた。

そして会議。


「あれってうまくいったの?」


思い出すと恥ずかしさがこみ上げてくる、とあるシーンを頭から払いのける様に手をパタパタをする。

その様子を悟り、ニヤリと笑い私を見つめるコーディ。


「あれでいいのよ。だって感情は違えど、エリナは悪役令嬢のセリフをそのまま言ってたわよ。

意識がなくとも体で覚えているのね、きっと。

……さすがだわ、エリナ。

しかしこの時点で王子のエステルに対しての好感度がMAX振り切って暴走しそうだったから、急遽王子にも台本通りに話を合わせてもらわないといけないから、本当苦労したわよ。こっそりノートにセリフを書いて『この通り言ってください』とそっと小声で伝えて。」


……それで何か握っていたのか。

それであんなコーディに頷いていたのか。


「あ、お礼はエステルと2人で会話できる権利だからね、頼むわよ。」


「……え?」


コーディはニッコリと笑って自分の頬に手を添える。


「……は?」


「……は?じゃないでしょ。」


コーディの目が笑ってないことに気がつく。


「……ちょうどいいじゃないの、ちゃんと話を聞いてあげなさい。」


「……嫌と言ったら?」


「縛って連れて行くのみしか選択肢はないのよ?」


「ひどい!親友だと思ったのに!!わざわざなんの話があるんだ!ちゃんとフラれて来いってこと?今の私には残酷すぎる!聞きたくない!!」


「……なんでそこまでマイナス思考なのよ!どのみち聞かないと何も進めないでしょう!!」


コーディの手が私の頬をバチンと挟む様に添えられた。


「もっと自信を持って。私の大好きなエステルはとってもカッコイイのよ。どんな難問にも挫けず立ち向かうカッコいい人なの。私達が困っていると、全力で助けようとしてくれる優しい人なの。

だけど自分のことになると途端に後ろ向きで後回しにしちゃうから……。

何言われるか怖いし逃げたいのもわかるけど、今度ばっかりは逃げちゃダメなのよ。

どんな事があっても、何があっても……私達が付いてるでしょ?

それとも私たちはあなたにとって頼りないのかしら?」


いつも冷静に話すコーディが声を荒げて私を叱っている。

胸の奥がジーンとする。


マギーが泣きながら私に抱きついてきた。

何も言わず、ただギュッと。


私は口をキュッと噤んだ。


鼻から息を大きく吸い込み、コーディを見る。


「……わかった。ちゃんと話して、ちゃんとフラれてくる……。」


私がそう言うと、コーディは今までにない長い溜息を吐き、残念そうな顔をした。

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