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第56話 強制連行された先に

3人の魔族に脇を固められ、ズルズルと山道を歩かされている。

両脇抱えられ引きずられる姿を客観的に見ると、ただのギャグの様な気がしているが、笑えない。


どこに向かっているのかと聞いても、誰も返事をしない。

さっきマギーをつかんでいた魔族は、私が噛み付いた腕をずっと撫でながら私の背後にいた。

仕返しに後ろからガブリと噛みつかれそうで、ちょっと怖い。


草をかき分け、歩き続ける事2時間。

ヘロヘロになりながら洞窟の入り口につく。

どうやってここまできたのかも、もう分からないぐらいに疲れ果てていた。


「さぁ、もうすぐだよ」


マスクが私の腕を掴みながら洞窟を指差した。

渋々、引きずられる様に洞窟に入っていく。


「どこまで行けばいいの?もうそろそろ『お願い』を教えてもらってもいいんじゃない?」


「もうすぐだから。」


さっきからそればかりじゃないか。

私のもうすぐは歩いて10分圏内の場所をいう。

せっかちな人なら5分圏もないだろう。

もうその何十倍も歩き続けさせて『もうすぐ』なんて、いい加減 足の感覚が死んできたのだが。

呼吸も荒く、肩の上下を繰り返す。


「……もう歩けない。」


洞窟途中でピタリと足を止め、うずくまる。


「おい、歩け。」


私の噛み跡付きの魔族が私を無理やり立たそうと髪を掴んだ。


「……イッ!」


突然引っ張られた髪の毛が数本抜けた痛みに悲鳴をあげる。

後ろに強く引っ張られ、バランスを崩して倒れた。


「……やめろ。」


マスクが噛み跡付きを手で制すと、渋々私から手を離した。


「……さぁ、あと少しだから。」


強く腕を掴まれ、引きずられる様にまた歩かされた。

…もう反抗する体力も残ってない。

私はなすがままに、ズルズルと引っ張られていくのであった。


洞窟に入ってしばらくまた歩いた。

もうどれだけ時間が立ったのかも分からないくらい。

洞窟の中はとても冷え冷えと、体を芯から冷やしていった。



「さぁ、ここだよ。」


マスクが片手をゆっくりと広げる。

私が手の方向を見上げると、青く薄暗い鍾乳洞の様な物が半透明の光に包まれ、目の前に広がっていた。

疲れ切った体から、顔をゆっくり持ち上げる様に見渡す。

幻想的な光に包まれ、上から落ちてくる見ずに触れると、青緑に発色する石たちをジッと眺めていた。


「……ここは?」


気がつくとマスクと他2名のフードはずっと後ろに控えている。

私の質問に何も答えず、ただまっすぐ前を指差していた。


指がさす方を見上げる。

疲れて目が霞んでるのか、何も変化が分からない。


もう一度振り返りマスクを見るが、マスクは同じ方向を指をさし続けている。


目を凝らし、ジッと見つめる。

青緑の発色は、キノコの胞子の様な黄色い光を漂わせていた。

……その時。


ひと筋の雫が床に落ちた。

発色が一瞬弾けて明るくなる。


目の前の大きな鍾乳洞の塊がハッキリと目の前に形を表す。

光はその塊の輪郭をゆっくりと照らしながら走り、私に全てを見せた。


思わず息を飲む。


塊の中に、人がいた。


黒髪で長めのショートヘアで、右側の髪の毛だけ耳にかかっている。

白い肌に閉じたまぶたに彩る様に生えている、長いまつ毛。


一見美しい少年の様だったが、明らかに少年ではない感じが1つわかる。

前世に見慣れた女子高生の制服を着ていたから。


「……何なんだ、この人は……!」


あまりの驚きに、後ろに後ずさる。

マスクが私の後ずさりを止める様に背中を押した。


「さぁ、お願いを聞いてくれるかい?」


私はゴクリと喉を鳴らすが、何も答えずマスクを見た。


「エステル、彼女を解き放て。」


ギュッと震える手で服の裾を掴んだ。


「この人は一体……?」


「質問は受け付けないよ。さぁ、早くするんだ。」


早くっていったって、どうやってだよ!

壮大に突っ込みたかったが、黙って考える。


……解き放てとは?

その場に座り込み、考え込んだ。


噛み跡付きが突然座り込んだ私に近づこうとしたが、マスクに止められる。


そもそもこの人は何なんだろう。

魔族が解き放てというということは、もしや魔族にとって大事な人なんだろうか?

という事は、この人を解き放って大丈夫なんだろうか?


とある夏の日にリオンと読んだ『聖獣の歴史』とかいう本の内容を思い出す。

その内容を思い出したと同時に、とても嫌な予感が私の中で留まった。


「……もしやこの人は、魔族の王?」


私の聞こえる様にいった独り言にフードの3人は反応しなかった。

……これはどう捉える?

『正解なので図星さされちゃって、動揺していて動けない』のか『は?何いってんだばかなんじゃねこいつと見当違いなことを言い出した私に、どう接していいか分からなかったから動かなかった』のか。


わざわざ振り返って確認も出来ないので、私は続ける。


「……という事は、封印を解くには聖獣の力でって事…?」


考えるふりしながらマスクの出方を待つ。

だがどれだけ独り言を言おうが、フードたちは何も反応しなかった。

ぐぬぬ……。


とりあえずわざわざ私を指名して呼び出して『解き放て』というって事は、十中八九あってると思う。

心の中でクラウドを呼ぶ。


やはり返事がない。


どうしたもんか。

そっとポーチを覗く。

姿は見えない。


最後に彼はどうしたかを思い出す。

走れと言われ、 クラウドは。


あそこで置いてきたとしても、呼べばクラウドは必ず現れるのだが……。


私はバタバタと自分の背中を確かめる様に触る。

そして、当たる指先のふわふわした毛並み。


「……クラウド!!」


ヤツは私の背中に張り付いて、爆睡していた様だった。

……あんだけマギーのことで騒いだのに、起きないって……。

ていうか、こいつを背負ったままずっと歩いてたんだ、そりゃ2倍疲れるわけだ……。


ベリベリと背中から毛玉の生き物を剥がし取る。


情けなくベロを口からはみ出し、スピスピと気持ち良い寝息を立てている。

私はもう一度名を呼んだ。


「クラウド!」


びくりと体を強張らせ、半目でこっちを見上げた。


「……何だぁ?」


「何だじゃない……」


半分しか開いてない目をパチリと開眼する。


「エステル、ここ何処だ?」


「……知らない。クラウド説明する前に、前方をご覧ください。」


両脇を抱え、クルリと前をむかせる。


「……ナンジャコリャー!!!」


閉じ込められた人型を見ての、正しい反応。

それを淡々と続ける私。


「はい、いきなり本題ですが。あれの封印を解いてください。」


「……は?」


確かに『は?』であろう。

私も『は?』だわ。

だけども、後ろに控えた魔族がジリジリと殺気を醸し出しているので、時間がないのだ。


「アレを解き放たないと、多分我々ここで死ぬことになりそうです。」


眼鏡の奥の目が死んだ魚の様な目をしていることに気がついたクラウドさん。

また小さく『は?』といった後。

アライグマの苦笑い、初めて見ました。


笑い事じゃねーわ!!

やんないと死ぬっていってんだろう!


「すいません、とりあえず会議させてください!」


片手を上げて時間をくれとマスクに合図する。

マスクは暫く考えた後、『3分やろう』とバルスいわれる前の大佐の様に、後ろの暗がりに下がっていった。


「ああは言ったけど、実際は50秒ぐらいしか待ってくんないんだよ?相談する時間だけだから、早く話し合おう。」


「……なにいってんだよ、わからねえよ……」


「……すいません、こっちの話です。」


私は肩をすくめる。

ふざけているわけじゃないが、こういうピンチな時こそ思い出されるオタク心。

おかげで頭が少しクリアーになる。


「この封印を解ける?」


「……オレがやったわけじゃないからやってみないと分からない。あとはエステルのエネルギーが何処まで持つか。」


「……私のエネルギーが持つか持たないかなんてあの人たちにとっては多分どうでもいいと思う……」


この黒髪の少女の封印が解ければ、私の生命エネルギーが尽きて死のうが生きようが、彼らはどうでもいいことだろう。

実際彼女が復活したら、我々は消されるかもしれない。

また封印できる力がクラウドにはあるわけだから。


ここからは小声で封印をどうやって解くかを話し合っているふりしながら脳内で話す。


『……とりあえず封印が解けた時がチャンスなんだけどさ。多分殺される前に逃げたほうがいいと思うんだよね…?』


『……どのみち消されるというわけか。』


『私多分、走れないんだもう……』


ソッと自分の足を指差す。

どれだけ長いこと歩いたか分からないが、靴は両方引きずられた時になくなり、その上険しい道を歩かされたため、足先から血が滲んでいる。

時間が経つにつれて、ズキズキと痛みが増してきたところだった。


クラウドが顔をしかめて私をみた。

私は力なく笑ってみせた。


『エステルにまた傷が増えたなぁ……木から落ちたところのハゲと、こないだ殴られた時の傷と、今日の足と……』


『勲章だと思うことにするよ……。そんな事より、そろそろ封印を解くふりしよう。後ろからジリジリとなんか気配が……』


マスクは大佐と違ってキッカリ3分待ってくれた様だ。

『時間だ』と懐中時計を見ながら現れた。


「……できるかわかりませんが、とりあえずやってみます……クラウドやるよ。」


私はクラウドを抱きかかえた。

マスクは満足そうにまた一歩下がった。


私は制服の少女が詰まっているものに触れてみる。

鍾乳洞は固く半透明の水晶の様な物でできているようだ。

軽くノックするが、コンコンと篭った様な音が響くだけだった。


「チョコエッグみたいだったらいいのにな。」


「チョコ?」


「前世でそういう名前のお菓子があったの。チョコで出来たたまごの中に、おもちゃや小さな人形みたいなものが入ってるのよ」


「……なにそれ、美味そう!」


「……おもちゃは食べられません!」


あ、こいつ小さく舌打ちしやがった。

ジロリとクラウドを見つめたが、クラウドはツンとそっぽを向いている。


「……これどうしたらいい?」


「エステルはオレの代わりに触れて祈ればいい。それをオレが拾って力を込める」


「なんて祈ればいい?」


「お好きに。」


「……ならば。」


私は石に触れて、目を閉じた。


「クラウドがお腹壊します様に!クラウドがお腹こわします様に!」


「だぁぁあ!それは祈るじゃなくて呪いだ!バカぁ!」


今度は私が小さく舌打ちをする。


「お好きになんていうからだろう。……わかったよ。」


もう一度石に触れ、目を閉じる。

今度はただ頭を空っぽにして、触れた手の先に集中する。


手の先が温かくなる様に気がする。

こそばゆい感じな、モソモソと何かが出てくる様な。


抱っこしているクラウドが、チリチリと光に包まれていく。

その光はだんだんと私を巻き込む。

さっきまで冷え切っていた体が、暖かさに包まれ始める。


『この子がここから出てきたら、頑張って入り口目指して走ろう……』


私の足先がじわじわと何かに包まれていく。


『なにこれ?』


『簡単な保護だから、一時しのぎにしかならないけど。とりあえず外までは走れる』


『わかった、ありがとう。コレが破壊したらクラウド抱えて走るね……!』


そろそろ私がいなくなった事で、誰か近くまで探しにきてくれてればいいなあと、淡い期待を込めて私は祈り続けた。

暫く祈り続けた。

手応えはありそうなんだけど、ビクともしてない感じに焦ってくる。

後ろでマスクたちも『おいまだか』とそわそわしている気配も感じていた。


『そろそろ色々枯渇しそう……』


『オレも、ヤバそう……』


ここまで歩いてきた疲労感も癒えておらず、そのまま力を使い尽くしそうで、頭がふわふわしてきた。


『これどのみちゲームオーバーなのでは……』


『まだ諦めんの早すぎるだろ……』


添えている手さえ、力が入らなくなる。

フラリと体が傾き、私はその場に倒れた。


「……やはり、無駄だったか」


「若様、こいつらを処分して別の聖獣を探しましょう。」


噛み跡付きが私を睨み付け、ジリジリと迫ってきた。


「散々歩かせて、体力ない状態でやらせてる方に問題があるとは思わないのか!」


思わずブチギレて口出しして後悔する。

無事に死亡フラグ回収中。

ひええと小さく呻きながら、自分の短気を後悔したが、もう遅い。


「……ほう?ならば体力があればいけるということか?」


マスクはおもむろに私を引っ張り、無理やり立たせた。

フラリと体が思うように立てないので、また倒れそうになる。

スッとマスクが私を支え、私の額に手をかざした。


「私の力を貸してやろう。……さぁ、早く続きを。」


背中をポンと押される。

……あれ?

さっきまでの枯渇状態とは変わって、水を頂いたばかりの植物並みに生き生きしているのがわかる。

クラウドもキョトンと私を見上げている。


「……やるよ、クラウド。」


私の決意にクラウドも頷いた。

再び石に手をやる。


『割れろ、割れろ割れろ……』


今度は思いも言葉にしていくスタイル。

クラウドの輝きもさっきと違い、モワモワ具合がハンパない。

暫くクラウドと私は手をかざしながら祈りつづける。


硬かった石がグニャリという感触が手に当たった気がした。


『コレはいけるんじゃないか……』


そう思った時。


目の前の石が激しい光に包まれた。

私は思わず光を遮るように目を覆った。


『エステル、今だ!』


クラウドの声が頭に響く。


もろに光を見てしまったので、まえがチカチカして見えずらい。

私はマスクが溶けた石から倒れこむ様に出てきた少女に向かって走る隙に、入り口へ向かい全速力で走った。


とっさに長い手が伸びて私の腕を掴んだ。

一瞬で掴まれた腕を力一杯振りほどく。

掴んだ長い手が私から離れた。


だが。


「逃がすわけないでしょう……?」


さっきまで与えられていた力が、一瞬で体から消えるのがわかった。

足に力が入らず、ガクンとその場に倒れこんだ。


「……うぅ……」


力一杯地面に倒れこんだので、全身がヒリヒリと痛みが走る。


目だけはマスクを追う。

マスクは石から出てきた少女を抱き上げながら、私にゆっくり近づいてきた。


「まだあなたには用があるんです。王は私が運ぶので、彼女を連れて行け。」


噛まれてない方に私を指差す。


私に噛まれた方は疑問をぶつける様にマスクを見た。


「お前だと手荒に扱うだろう?まだ壊されるわけにはいかないのだよ」


と、口元を歪ませて笑った。


噛まれてない方の魔族に触れられ、あまりの皮膚の冷たさに体がびくりと固まる。

私は荷物の様に肩に担がれ、どこかへと連れていかれるのだった。

そのまま私の意識は、再び途絶えた。


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