第55話 持久走をしていたはずなのに
誤字報告&感想いつもありがとうございます。
少し復活したので、途切れず投稿頑張ります…!m(_ _)m
次の日。
教室でのエリナの態度が少し変わっていた。
具体的には、昨日の初対面な感じとは真逆で『この人怖い』的な。
知らない私に突然名前で呼ばれて怖がらせたのだろうか。
エリナの動きを見つめる。
というか、前にいるので嫌でも目に入る。
私の視線を気にしてか、フルフルと震えながら振り向くエリナ。
思わずササっと目をそらし、みていない素振りをするが……遅かった様だ。
彼女はホラー映画の一番初めに襲われそうな人の様に怯えきった顔で、自分の肩越しに私をみていた。
2時間目終わったところで、エリナはサマンサ先生に呼ばれ、教室を後にする時。
通りすがりに机に置かれたエリオットの袖をソッと触れる。
静かにゆっくりと視線をエリオットに向けて、頬を染め微笑み、エリオットと視線が合うと、俯きがちに教室から出た。
いわゆる少女漫画の1ページの様な、このシーン。
恋する主人公が想いを寄せる『彼』に自分はここにいるよというアピールというか。
いつでもあなたを思っていますという意思表示というか。
こんな表現、私が歪んでいるのだろうかと思うぐらいにひねくれて見える。
漫画で読んだシーンなら、私でもキュンとしたのだろうか。
また無意識に自分の胸を押さえていた。
授業が滞りなく進み、エリナが戻ってこないまま、体育の授業となる。
体育は男女別の授業が組み込まれ、男子は剣術や武道など、女子は護身術の練習など普段は分かれているのだが。
今日はクラス合同になったばかりだということで、持久走となった。
……なぜだ。
なぜ、持久走。
逃げ足が早いことは自負しているが、わざわざ体を動かし走ることはあまり好きではないのだ。
顔から表情が消えていると、マギーがもっとひどい顔になっていた。
「エステル、私よりマシでしょう…私より軽いのに……」
「この際走るのに、重いとか軽いとか関係ないって。要は誰だって走りたくないという事実だよ……」
「マギーは体重というよりお胸があるから辛いのかしらね……」
「私が支えながら走ってあげようか?」
私とコーディの視線が釘付けになる。
マギーは顔を真っ赤にして、夢が詰まっている部分を手で隠しおった。
「男子はこっちの道で、女子はこっち。」
アーロン先生が男子と女子を分けるのに、指でこっちとかあっちとか指示していた。
女子は散歩コースと書いた看板の山道をちんたら走る様で、男子はハイキングコースと書かれた多少傾斜が激しい感じの道を誘導されている。
体力がないインドア仲間のリオンが、マギーよりひどい顔色をしているのを見かけた。
思わず『ご愁傷様……』と心の中で呟いた。
横にいたビクターは軽い足取りでスイスイと先を走っていくのを尻目に。
リオンの登る前の決意を見てから、私も散歩コースの方へと向かった。
明らかに私とマギーが足を引っ張ってダラダラと時間を食っているため、いまだ余裕なコーディに迷惑をかけてはならないと思った。
気にする私にコーディは笑顔を浮かべ、『大丈夫よ』と言ったが……。
マギーの顔色と汗の量を見て、少し休憩することにした。
なので、コーディには先に行ってもらう。
「上で会おう!」
なんてかっこいいこと言っては見たが。
授業時間内に着くのかさえ怪しい私たち。
持っていた水筒をマギーに渡す。
マギーは青い顔をしながら、私に無理に微笑んだ。
「ここ日陰で涼しいから、気分良くなったらまたむかえばいいよ」
「エステル、巻き込んでしまって……」
「マギーがそういうと思ったから、先に言ったんだけどね」
私とマギーは目を合わせて笑い合った。
笑ったので、少しマギーの顔色も良くなった様に見えた。
2ー3分休憩して、重い腰を上げた。
まだ少し呼吸が荒いマギーの手を引いて歩き出す。
……もう走るのを諦めた。
参加することに意義があると自分に言い聞かせ、足を少しだけ急かせてみたり。
散歩コースの看板を確認しながら歩いてきたつもりだった。
しばらく歩いたが、だんだん暗くなる風景に『あれ、これあってる?』と不安な気持ちが湧き上がってくる。
「そういえば誰一人と合わないね?」
「私たち休憩したけど、最後じゃなかったですよね?」
「……そういえば、誰ともあってないね……。」
『……』
二人とも言葉が詰まる。
……あれ?こんな学園の裏山で遭難とか笑えないんだけど……。
そう言いながら、苦笑う私たち。
「……とりあえず、急ごう!きっと道沿いに上がっていけば、誰かしら会えるよね?」
「人数揃わないのわかったら、探してくれますよね!」
「アーロン先生優秀だからね!」
お互いポジティブに励まし合いながら道を上がっていく。
だんだん舗装された道は、獣が通ったんじゃないかと疑う様な道に変わっていく。
しかも、だ。
「……あれ、これさっき通った……?」
なんて疑いたくなる様な同じ風景を何度も見ている気がしてくる。
「……クラウド!」
私はそっとポーチを開き、クラウドの名前を呼ぶ。
クラウドはポン!という音とともに、通常時の大きさになった。
「どうした、エステル。」
私の呼び出しとともに、クラウドが眉を寄せた。
「ねぇ、なんか変じゃない?」
「なんだここ、魔法が使われている。」
「……え?」
私の質問より先にクラウドが何かを感じ取った様子。
クラウドはヒクヒクと鼻で匂いを嗅ぐと、低い声で喉を鳴らす様に唸った。
「クラウド……?」
『エステル、喋らないで。今すぐマギーを連れて走って!』
『えええ?なんで!?』
『……早く。なんだか嫌な予感がする』
クラウドが私の背中に張り付いたのを合図に、マギーを引っ張ってまっすぐ走った。
何が何やらわからない顔のマギー。
……いや、私もわからないんだけどね……!
さっきのチンタラ速度と打って変わって、やや本気で走っている。
だが持久力はない方なので、すぐ足が私の意思に反してだんだん速度を落としてきた。
「あっ!」
足がもつれ躓いた時に、マギーと繋いだ手が汗で滑って離れてしまう。
「マギー!」
私は手を伸ばしマギーの手を取ろうとした。
「エステル……!?」
マギーも私に向かって手を伸ばしたのだが。
伸ばされた手と手が、何かによって距離が離れていく。
「!!」
フワリと体が浮いた様な気がする。
その時。
「……こんにちは、お嬢さんたち。」
黒いフードを被った背の高い人型が3つ揺れながら地面から現れた。
1人は私を抱え、もう1人はマギーを。
もう1人は私とマギーの前に立っていた。
「……誰?」
それと同時に心の中でクラウドを呼ぶ。
だがいくら読んでも応答がない。
私は不安げに落ちそうになった眼鏡を、手で押さえながら目の前に立っているフードに問いかける。
フードは顔をピエロが笑った様なマスクで覆っていた。
私の後ろのやつは泣き顔、マギーを抱えているのは苦悩の様な、マスクは顔上部半分だけを隠し、フードと同じ色でできていた。
「手荒な真似をした事を先に謝罪しよう。」
「……貴方達、誰ですか?」
「名乗るほどのものではない。ただ、お願いがあってね」
「……お願い?」
私の疑問にマスクは口元を歪ませて頷いた。
「エステルというのは、どっちだい?」
マギーの顔が強張った。
懸命に私の方に視線を送らない様に目を伏せる。
私をかばおうとしているのかもしれないと思い、即座に手を挙げた。
私は視線をマスクから外さず。
「私ですが。」
「……ダメ!!」
私の返事にマギーが怯えた様に私を見た。
「マギー、大丈夫よ。こっちの子は関係ないのだったら手を離してもらいたいのだけど?」
「君の返答次第だよ、エステル。」
マスクはまた歪んだ口元を指でなぞり、舌で舐めた。
その舌はまるで蛇の様に、先が枝の様に分かれていた。
ゾワリと背筋が凍る。
私を掴んでいる手から、薄暗い色の鱗が袖口から見えたから。
「……魔族……!?」
思わず口から出る言葉。
その言葉のせいでマギーが恐怖で顔を歪ませ悲鳴をあげた。
とっさにマギーを抱えてたフードがマギーの首を掴み上げる。
悲鳴をあげるマギーを黙らせようとしたのかもしれない。
マギーの悲鳴は潰れた様な声とともに消えた。
「マギー!!!」
私はマギーに向かって何度も呼びかけた。
マギーはフードに掴まれたまま、ダラリと動かない。
「マギー!!返事をして!!」
暴れ動き、緩まった腕からするりと降りて走り寄る。
「マギー!!」
荷物の様に掴まれるマギーをフードの隙をついて飛びかかり、噛み付いて奪い取る。
突然の私の行動にフードの1人が怯んだ隙に。
「……マギー……!!」
私の叫び声にマギーが苦しそうに眉を寄せるが、返事はなく呼吸も浅い。
よかった、まだ息がある。
「……マギーをここから出して。早くしないと死んでしまう!」
「予想外の展開になってしまったな。だがここから出すわけにはいかない。」
「なぜ!?」
「まだ君の返事をもらっていないからだ。」
「……返事とは?」
「我々のお願いを聞いて欲しいのだよ、エステル。」
「……マギーを助けて。早く。」
「それは交渉成立という事でいいのかな?」
「……今すぐここからマギーを出して、助けて。」
「……エステル?」
名前を呼ばれ、私はゆっくりと立ち上がる。
私のせいだ。
私があそこで口に出さなければ。
自分のせいでマギーがこんな事に。
早く、早く助けないと。
ひどく焦って冷静に対応できていないのが分かる。
……だけど。
「お願いを聞くか聞かないかの話は、マギーの無事が確認できてから。」
「君が我々のお願いを聞くといわなければ、その子はここから出さない。」
私はぎりっと唇を強くかんだ。
「……突然現れて人質をとってお願い聞けとか、魔族のやることは最低ね……それならばお願いではなく、命令じゃないの!」
「……『お願い』だよ、エステル。さあどうする?」
マギーの呼吸がだんだん弱くなっていく。
時間がない。
私はもう一度マスクを睨みつけた。
「わかったから、マギーを助けて。」
「ちゃんと返事をして。……お願いを聞いてくれる気になった?」
キッとマスクを睨みあげた。
「お願いを聞くから、早く。」
マスクは嬉しそうに口元を歪ませて両手をゆっくりと上にあげた。
マギーがフワリと浮き上がると、マスクが両手を握る仕草と同時に、弾ける様に消える。
私は思わず空を見つめマギーの行方をキョロキョロと探した。
「あの子は、ほら。もう大丈夫。」
マスクは長い指で私の襟元を掴むと、片方の指を丸め、レンズの様に私のメガネに当てた。
指の隙間から先生の後ろ姿が見えた。
先生が抱えているのは意識のないマギーの姿。
慌てている様子で、人が集まってくる。
その中にコーディやビクターの姿もチラリと見えた。
ふと、手が離され映像は見えなくなる。
ゆっくりマスクを振り返る。
マスクの口から長く不気味な舌が、私の目の前で揺れていた。




