第25話 オレと契約しちゃう?
「状況を説明しますと。」
生意気にも短い足を組んで私の膝にいる白いタヌ……アライグマのクラウド。
まだ何も話していないのに『フンフン』と頷いている。
「朝学校に行きたくなくて、ノロノロしてたら喋るクラウドに、『悩みを聞く代わりに餌を要求』されたのでそのまま寮に帰ったって言うわけでした。」
「……いや全然わかんないんだけど!?」
リオンが目を見開いてこっちを見る。
「だから、アライグマが喋ったの!!」
「道を歩いてたら、喋るアライグマがいたと……」
コーディはやや引きつりながら頬に手を当てる。
「そう、本当にそれだけなの。私も何が何だか状態。とりあえず連れ帰って風呂に入れて、餌付けは成功した様子……」
チラリとクラウドを見ると、『あぁ?なんだぁ?』と喧嘩腰にこっちを見ていたので、腹をカイカイしてやった。
腹カイカイに足をヒクヒクさせて喜ぶクラウド。
……ツンデレの犬みたい。
そんなこと考えて思い出し笑いをすると、コーディとマギーが私を見て微笑んだ。
「……昨日あまりに死にそうな顔してたから、本当に心配だったの。微笑むぐらいに回復して良かった……」
「今日学校にもきてなかったから、本当に心配だったんですよ!」
「クラウドのお陰かな、なんかすごい見てたら元気が出た……と言うか、気が抜けた!」
恥ずかしそうに私が笑うと、コーディもマギーも泣きながら私に抱きついた。
「おい、苦しいって!オレごと抱きつくんじゃねー!」
クラウドが膝でバタバタ暴れてエルの方へ走っていく。
「本当に元気になって良かった。」
リオンもビクターも私を見て微笑んでいた。
「心配かけてごめんね……」
私も微笑み返す。
「でもまた、謎は増えたね……」
リオンの笑顔が苦笑いに変わる。
「……ごめん」
私も急展開なんだけどね……。
まさか落ち込んで歩いてて、喋るタヌ……アライグマに出会うとは思わないよね。
「普段のエステルなら前向いて颯爽と歩いてるから、気がつかなかったのかも?」
マギーが笑う。
「え?そう?」
マギーは頷いた。
「エステルはいつもかっこいいよ。真っ直ぐ前を向いて風のように歩くからいつも歩く姿見ると微笑んじゃう」
マギーは頬をおさえて赤い顔をした。
う、なんか褒められた。
褒められ慣れてないので、照れくさくなって下を向く。
「あー、いつも出会える位置にいたけど、学校に行きたくなくて下向いてたから見つけたって事?」
リオンがまた苦い笑いをする。
「いいなー!明日から俺も下向いて走る!ペット欲しい!!」
ビクターがまたクラウドにちょっかい出しに行こうとすると、マギーが止める。
「ビクター様、下向いて走るとコケてしまいますから……」
静かに首を振る。
ビクターはマギーに満面の笑みを返し『マギーは心配性だなぁ』と言った。
いや下向いて走ると、誰しもコケるから……。
くぅー!尊い。
このふたり、尊い!
目頭おさえてこの光景を反芻する気持ち悪い私を、リオンとコーディが白い目で見ていた。
「んで……喋るクラウドの事は、サマンサ先生かアーロン先生に報告する?」
「……んー、出来れば大事にはしたくないかな。見えないものの声を聞く聖女に対抗して捏造とか言われかねない……」
私はクラウドが良くやる『両肩を自分で抱きしめて震えるポーズ』をする。
あーやだやだ、真似しちゃった。
「コッソリ調べる感じかな……」
リオンが顎に手を当てて考え込む。
「でもアーロン先生には協力してもらったほうがいいんじゃない?」
コーディが言った。
「でもクラウド学校に連れていくわけにはいかないよね?」
クラウドをチラリと見る。
クラウドはエルに何か餌付けされていたが、チラリとこっちを見て。
「俺はカバンには入らねーぞ!」
と言った。
「カバンがダメなら襟巻きのフリに…」
「ぜってーやだ!オレ小さいけど結構重いぜ?」
カッコつけてニヤリと笑うタヌ…アライグマ。
しかも首には赤いリボン。
なんとも間抜けな格好つけ方だ。
「でもとにかくアーロン先生には報告しないと、だね……。」
私は考え込んだ。
「クラウドを連れて行けないなら、先生を呼んできては?」
コーディが言った。
「……動物を部屋に入れたって怒られないかな?」
私が不安そうに聞く。
「今そこ!?って思ったけど、……怒られはしないかもね……」
リオンが本日何度目かの苦笑いである。
……とりあえず、私は今日学校を休んでいるので出歩けない為、ビクターとマギーがアーロン先生を呼びに行ってくれた。
アーロン先生が来るまで、昨日の復習が始まる。
「ともかく、精霊騒ぎに、動物が喋る世界って……なんか頭がついてけない。」
リオンが頭を抱えた。
「今までこんなこと聞いたこともなかったよね……絵本の世界でも中々ないとおもうわよね……」
コーディも頭を抱える。
「漫画や小説の世界ならよくあるんだけど……いや、何でもない。」
2人がキョトンとする前に言葉を訂正する。
漫画とかないもんなぁ……小説もファンタジーみたいな空想の産物系はないし……。
「て言うか、エリナが精霊が見えて『聖女』なら、私は動物と話が出来る『猛獣使い』かなんかかな?」
私が神妙な顔で言っていると言うのに、この2人は派手に吹いたのだった。
おい……。
「やめてくださる?突然笑わせるのは……」
含んだお茶を派手に吹き出したコーディが、口元を拭う。
そのお茶を少しかぶったリオンが、微妙な顔で頬を拭っていた。
……笑わせようとしたつもりは一切ないのだが……。
取り敢えず『ごめん』と呟いといた。
「オレは猛獣扱いかよ!」
クラウドが何だか得意げに照れながら、嬉しそうにしている。
……ごめん、猛獣は取り消すね。
どっちかと言うと、珍獣……。
心の中で取り消したのを感じ取ったらしい、白いアライグマがこっちをじっと見ている。
取り敢えず、目をそっと逸らした。
「取り敢えず、昨日の件は疑問が残ったままだし、何の確証もないけどさ。
この世界は本当にエリナの世界なのかは、疑問が残るばかりだし。
あと、彼女の周りにいる『精霊』はエリナにとっていいやつなのか。
この辺りだね。
……あとさ、今日殿下と話してて思ったけど、エリオット殿下にもこのノートのこと伝えたほうがいいのかな?と思って……。」
「それもう確実にエリナの敵に回るってことにならない?」
コーディが不安そうにリオンに言った。
リオンは首を振ってコーディを見つめる。
「もう既に敵認定だよ。……今日の態度見たでしょ?」
おおぅ、私がいない教室で何かあったのか……。
コーディはリオンの言葉に俯いた。
これは、聞いてもいいものなんだろうか……。
私は複雑な顔をしながらリオンの方を見た。
リオンはまた苦笑いをして、私に頷いた。
「今日さ、エリナがコーディとマギーのとこに来て『昨日は大人数で私の事をご指導頂き、すみませんでした。今後注意された事は出来るように頑張りますから、お許しくださいね』ってみんなの前でしおらしく言ったんだ。
わざわざ『エステル様にもお伝え願います』と付け加えてね。
そのせいで教室は騒めいて……まぁ、確実にエリナを擁護する人が増えたと言う感じだった。
……まぁ、なんてたって『エリオット殿下の婚約者』で『この国に必要な聖女』な訳だからねぇ……」
「……その件に関してエリオット殿下がエステルを庇う発言をなさったのよ……。『エステルはそんな事言うようなやつではない』と。それでエリナがみんなの前で泣いてしまって……。あまりに大きな声で泣くもんだから、隣もクラスから人が見にくるわで、殿下もとても困ってらっしゃってね……。でもその場を納める為、殿下がエリナを救護室へとお連れになったわ。」
「……もうエリオット殿下を見てられないよ。出来たらネタバラシしてあげたくて……。僕らがノートを見せれるなら、僕らと話が出来るじゃない?だったら少しは1人で悩まずに済むのかなって。」
リオンは頭を支えるように、首元を抱える。
長い前髪がサラリと揺れた。
てか、ネタバラシって言い方……!
「……でも余計に悩まないかな?何もわかってないし、疑問は残ったままでしょう?ましてや喋る白いアライグマ捕獲したなんてさ……」
クラウドを見て引きつったような笑いをする私。
当のクラウドは仰向けで気持ち良さそうに白目むいて昼寝中。
お腹いっぱいになったらしい……。
「私は構わないけども……。そのうちノート返せとか言われそうだから、ノートを全て映しとらないとなとは思ってたし……」
「何故?」
コーディは不思議そうな顔をした。
「エリナは多分『対象者』にこのノートを見られるのは嫌なんじゃないかなと思って……。昨日の様子でひどくそのことに反応してた。でもこのノートは私たちには切り札と言うか、今から起こる事を対処できるならこれは必要だし、証拠にもなる。取られる前にコピーしとかないと、ね。」
コーディは私の言葉に納得したように頷いた。
「手分けしましょう。4冊あるのから1冊づつ手分けしたら早いわ。」
「それだと1つにつき2冊は複写があったほうがいいんじゃないかな?」
リオンも閃いたように、ニコリと笑う。
「確かに1つだと不安があるね……。手分けして1冊を2冊分に移して保管しようか」
私もそれに同意して頷いた。
部屋のノックでクラウドがピクリと足を痙攣させた。
……それでも起きないし。
結構図太いな……。
エルが『先生がお見えですよ』とリビングに案内してくれた。
「少しは落ち着いたか?」
先生は私の顔を見ると一番に心配してくれた。
私はハニカミながら頷いた。
「ご心配をお掛けしました……」
頭をぺこりと下げる。
そんな私の頭を先生もハニカミながらポンポンっと撫でた。
「んで、今日は何があった?」
先生は『昨日の今日で新たに問題が発生したので、エステルの寮の部屋へ来て下さい』と言われてきたらしい。
新たに……問題?
問題かな、これ?
取り敢えず何も言わず私たちは『スッ』と淫らな姿で寝ている白い生き物を指差した。
全員が指差すその白い生き物に目を向けると、先生はひどく驚いた顔をした。
「お、おいこの動物は何だ!?」
「白いアライグマらしいです。タヌキって言うと怒ります」
先生は目を白黒させて驚いてる。
いまだ『冷静沈着な先生がここまで動揺するとは』と、私たちも動揺し始める。
そんなに寮に生き物を入れたのがまずかったのだろうか……?
私は怒られるのかと思い、白目のクラウドを抱き上げた。
『んがっ』と、開いてた口がガクンと閉じて、クラウドがキョロキョロし始めた。
「なんだよぉ、いい気持ちで寝てたのに!」
「ごめん、なんか先生に怒られる前に抱っこしとこうかと思って……」
「お?なんで怒られるんだよ?オレまだイタズラやってねーぞ?」
ボリボリお尻をかきながらキョロキョロするクラウド。
……おい、イタズラするつもりだったのかよ!!
「……先生?えっと事情がありましてその、寮に黙って連れてきた事は反省しています……」
目を白黒させて口を開けたまま動かない先生の袖をツンツンと引っ張ると。
ハッとして意識が帰ってきた。
「……これは聖獣じゃないか……?」
「「「は!?」」」
そこにいたエルまでもが『は!?』と声をそろえた。
せ、せいじゅう?
まさかの!?
……いや、ないわ。
こんな間抜けな聖獣は無いわ。
ね、クラウドったらそんな訳……。
そう思ってクラウドを見ると、何故か得意げにこっちを見ている。
まるで手は腰。踏ん反り返ってるようにも見える。
「クラウドは怯えるポーズのが似合ってるよ……。」
「は!?なんだと!?」
クラウドは怒ったように私にポカポカと叩いてきた。
「痛いって!ゴメン!うそうそ!!」
私は笑いながらペチペチ叩く獣の手を軽く避けていた。
「オレを怒らせるとこうだからな!わかったか!」
「うんうん、クラウド怒っても可愛いよ」
私は頭を撫でるフリをして、お腹カイカイを執行した。
『あふううん』と悶え、悦に入るクラウドの姿を見て、私とクラウドを交互に見る先生がまた固まったのがわかった。
「……どうやらエステルは聖獣と会話しているようです……。」
苦笑うリオンの顔を何度も瞬きをして見つめる先生。
そしてデコをポンといい音させて叩くと、上を向いたまましばらく黙っていた。
あー、これ先生、将来ハゲないかな?
私的にはハゲ仲間ができて嬉しいけど……。
……てか『対象者』がハゲってヤバくない?
イケメンだとハゲでもいいのかな?
ゲームってよくわかんないけど……。
先生の思考回路が正常に活動するまで、私たちはのんびりとクラウドに聖獣について聞くことにした。
「ねー、本当に聖獣なの?」
マギーが興味津々にクラウドに聞いた。
クラウドは得意げにまた腰に手をやりふんぞり返る。
あんまりふんぞったので、勢いよく後ろに一回転する。
コーディとマギーはもうメロメロだ。
『かわいいいい!!』とクラウドを撫でまくる。
クラウドは後ろに何故転んだのかよくわかってなかったが、撫でられてまた得意げにしている。
『オレ、この国の聖獣だぜ!!』
これは私が通訳。
「ねえ、聖獣って一匹だけなの?」
私が聞くと、フルフルと横の首を振った。
『オレのカーチャンとトーチャンとネーちゃん達とニイちゃん達がいるぜ!』
「クラウドは末っ子なんだね」
マギーはまたニッコリと笑った。
『おう!オレは末っ子だ!』
「ねぇ、末っ子の意味わかってる?」
私の問いに、頭に手を当て明後日の方向を見きながら口笛を吹いた。
人間みたいな仕草しすぎてるから!!
「……てか聖獣って貴重じゃないの?
クラウドの話だとめっちゃいっぱいいそうなんだけど……。
……と言うか、この国大丈夫なんだろうか?
なんかタイトルも適当につけられたようなこの国は、聖獣がタヌ…アライグマとか設定めちゃくちゃすぎない!?」
「はー!?お前オレをバカにしてんのかー!?」
激しくボクシングの様に、シュッシュ言いながら私に拳を向けるアライグマ。
ていうか、いい加減二足歩行やめろ!!
「……頭が痛くなってきた。」
私が頭を抱えると、クラウドが『フフン』と鼻を鳴らした。
「お前なー、オレの力を知らないな?」
「……知らないわよ、さっきで会ったばっかじゃないの……」
その言葉にワザとらしく口に手を当てて『ハッ』と驚いた小芝居をするアライグマ。
「そーだったそーだった!お前オレと契約したんだし、オレの力を特別に見せてやってもいいぞ!」
「……え?」
私はクラウドをまじまじと見つめる。
「今なんて言った?」
「だーかーら!!オレの力を……」
「そこじゃなくて!」
「特別にオレの力を……」
「その前!!!」
私の荒げた声に、先生の意識が戻る。
びっくりした様に私を見つめる先生。
「……オレと契約したんだから……ってとこか?」
「それーーー!!!なにそれ聞いてない。」
私はクラウドに掴みかかり激しく揺さぶ……いや、抱っこしてユラユラしてる状態。
流石に揺さぶれない。
そのおかげで、高い高いを喜ぶ子供の様に『キャッキャ』と喜ぶアライグマ。
てか本当の力とか想像出来ない!
ヘンシーンとかした姿なんて、酒屋の前とかによく居るタヌキの置物しか想像つかないんだけど……。
「おい、エステル!?」
リオンも心配そうに私を見た。
あ、ゴメン通訳忘れてた。
「なんかこのアライグマ、私と契約したとか言ってるんだけどー!?」
今度は私のが目を白黒させる。
「とりあえず、落ち着け!」
先生がクラウドをそっと私から引き取った。
「これは間違いなく聖獣だ。精霊は分からなかったが、聖獣ならわかるぞ……。しかもこの大きさだと、まだ子供の聖獣だと思う。エステル嬢どこで出会ったんだ?」
「今朝学校行きたくなくて、ノロノロ歩いてたら居ました。」
「そんな身近なとこに!?」
「しかも最初は薄汚れて灰色だったし……。ゴミ漁ってよく棒で突かれてると言ってましたよ」
アーロン先生がそっと大事そうにクラウドを降ろし、また頭を抱える。
クラウドは体が自由になってチョロチョロと歩くと、ソファーの上に駆け上がり、あくびをする。
「なんということだ……そんな身近にいた上、しかも会話ができるなんて。とりあえず、これは精霊と同じぐらいの大発見だ……」
ヨロヨロと先生は私たちが座ってる椅子に腰掛けた。
「あ、それについては、まだ内密でお願いしたいです……。」
「いや、しかし……!聖獣の発見は国を挙げて喜ばれる事だ。精霊は国に繁栄をもたらすが、聖獣は国を守る存在だ。それを黙っているなんて……」
「いえ、内密でお願いします。」
「だが……」
「……内密で!!!」
先生はまた目を見開き固まる。
ごめんなさい、先生。今はまだ黙っていたい。
おいそれと『聖女』に対抗したくない。
ましてやそんな『道具』にクラウドは使いたくない。
私の真剣な目に先生は黙った。
そして。
「……わかった。だが、バレた時はちゃんと報告をする。わかったな?」
私は激しく頷いた。
それを見ていたクラウドも真似をして頷く。
……なんかセットで動くおもちゃみたいだから、やめて……。
先生とリオンは真剣に何か話し始めた。
それについてコーディが時々疑問をぶつける。
マギーとビクターは真剣に聞き、頷いていた。
私は。
なんだか一人でぼんやり違うことを考えていた。
ゆっくり歩いて窓の外を覗く。
「……しかし私はこの世界に要らない筈なのに、なんでこう、……色々あるんだろうか。」
私は窓から入り込む風にあたって黄昏ていた。
夏が始まる前なので、心地いい風が入ってくる。
トテトテと歩いて私の方に来たクラウドを抱き上げて、顎の下を撫でる。
クラウドは『くあー』と大きくあくびをした。
「生臭!!ねぇ!顔の近くであくびしないでよ!」
「わりぃわりぃ。だがコッチは獣なんだからさ、多少は我慢しろよ」
「えー、でもなんかそれ我慢するとか、色々葛藤がある……。」
「そんなにかよ!!」
なぜかクラウドは『キャッキャ』と笑った。
クラウドの笑いのポイントがよくわからなくて面白い。
私はつられて笑って、また顎の下を撫でる。
クラウドは気持ち良さそうだ。
「てか、契約っていつしたの?」
「オレに名前つけたときかな?」
「クラウドがつけろって言ったよね??」
「ああ、オレが言った。カッコいいのなら良いかなーって思って!」
「そんな簡単でいいのかよ……」
私は脱力した様に息を吐いた。
「世の中は思った以上に簡単だ。難しくしているのは人間だからさ」
「なにそれ、人間が難しくしてるってこと?」
「そうだ。人間はなんでも難しく考える。もっと簡単に考えたら、もっと世界は広がる」
「……そっか。もっと簡単にか……」
私はクラウドに笑いかけた。
「しかし聖獣と契約するなんて思わなかった!
しかもエルなんて聖獣なんて気がつかないで『白いタヌキは縁起がいい』とか言ってたよね!」
思い出し笑いに火が付いて、ゲラゲラと笑う私。
その時ふと、大きくカーテンが揺れる。
背後に人の気配がして、振り向くと。
「え、エステル、それは……その抱いてるモノは……まさが聖獣なのか……!?」
突然背後に現れた来客に言葉を失う私。
なんでエリオットが居るの!?
内密が一瞬で内密じゃなくなると言う、失態☆
……逃げ場は、無し。




