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第26話 スカート握り締め事件

「ノックの音とか聞こえませんでしたけどぉ……」


エルの方をちらりと見ると、エルがジェスチャーで『お客さんですよって言いましたよ!』と言っている。


いつだろうか……。


「聖獣と話に夢中になってたんじゃない……?」


リオンが苦笑いをする。

て言うかリオンずっとその顔なんだけど!!

可愛い顔台無しじゃない!?


思わずリオンの顔をむにゅっと両手で挟む。

リオンは驚いて顔を赤くして仰け反った。


そんな避けなくていいじゃない!

ぷんと口を尖らせる私。


クラウドはと言うと。

なんか私の驚き様に動揺したのか、私の背中に張り付いている。

私は支えてないけど、上手に両手両足で器用に背中に張り付いてる。


一見リュック……には見えないけど。


「ともかく説明してくれ、エステル。」


エリオットはすごく疲れた顔をしていた。

最近ちゃんと見てなかったけど、目の下に暗い影ができ、少し頬が痩けていた。

イケメンが台無しじゃないか……。


思わずそっと頬に手を添える。

エリオットがひどく驚いた顔で私を見る。


「エ、エステル……?」


「ちゃんと食べてますか?……ちゃんと寝れてますか?エリオット様が倒れたらみんな心配しますよ?」


「最近色々忙しいのだ……俺だけが休むわけには……」


私はエリオットを見上げる。


「ご無理なさっては、私も心配ですよ?」


エリオットは眉を寄せ固まってしまった。


「あ、そうか、ワカッタ。今日は早く休ムコトニスル」


表情が変わらないまま言葉が固くなった。


なんだよ、心配してんのに。

また嫌な顔された……。


フイッと口を尖らし、顔を背ける私。

エリオットはそんな私を見てまた眉を寄せた。


マギーにクラウドを背中から取ってもらい、抱き上げて椅子に座る。


眉を寄せて立ち竦むエリオットにひと通り説明をする。

そして、そっとノートを差し出すリオン。


説明はリオンとコーディがし始める。

先生も色々流れを説明してくれた。


私はクラウドを抱えたままソファーへ移動した。

また眠そうにするクラウドを撫でたりしながら、みんなの様子をじっと見ていた。


「ねぇ、契約したらどうすればいいの?」


「んあー、お前がやることは俺に餌をくれることぐらいだな。」


「じゃあ逆にクラウドは私に何してくれるの?……まさか悩みを聞くだけじゃないわよね?」


私は意地悪くクラウドに笑いかける。


クラウドはまた『キャッキャ』と笑って私に言った。


「話し相手にもなれるし、何か危険が来たらオレが守ってやるよ!」


私は怪訝そうな顔をしてクラウドを見つめる。


「えー…、あ、でも引っ掻く攻撃とか可愛いかも!」


「それ以外も出来るっつーの!」


「噛み付くとか?」


「……お前絶対オレをペットだとおもってるな?」


私はフフフと笑った。

クラウドは逆に怪訝そうな顔で私を見ていた。



案の定、ノートを読み終え、みんなの話を聞くエリオットの顔は苦悩していた。

さっきより顔色も悪くなり、テーブルに肘をつき頭を支えている。


あれは、大丈夫の顔だろうか……?

でもなんだか人間らしくて笑ってしまった。


エリオットはいつも眉を寄せていた。

多分色んな事を我慢しているからだと感じる。

第1王子の重圧や、チャランポランな弟がいるし、自由奔放の王妃に振り回されている姿もよく見ていた。

正直同情する。

同情した。


最初の頃より、エリオットの事がなんとなくわかる事が多くなった気もする。

そして最初の頃より、嫌いじゃなくなった。


でもやっぱり私は引きこもり老後のために婚約は破棄して自由になりたい。


だけど、エリナとエリオットの仲も応援出来なくなった。

今のエリナは私が応援できるエリナじゃない。

だからエリオットには、もっといい人を探してあげるからね……。

ていうか、うちのリリアとかいんじゃないかしら?

天使顔に金髪碧眼美少年かけたら、めっちゃ本物の天使が生まれるじゃないか!

本当に羽なんか生えてきたりするんじゃないのか!!


なんていう楽しみなんだ。

これでいこう。

リリアなら母上に似てるし、王妃も納得するんじゃないか?

……なんていい考え!!!


私は一人で納得するように、ウンウンと頷いた。


「……エステルちょっと良いか?」


気がつくとひどい顔をしたエリオットが立っていた。


「話終わりましたか?」


私が聞き返すと『あぁ……』と小さく答えてソファーに腰掛けた。


「……これが、聖獣か……。」


私と肘掛の隙間でだらしなく寝ている白いアライグマを見つめるエリオット。


「そこからだと見えにくくないですか?」


私はクラウドを起こさないように立ち上がると、エリオットと場所を代わってあげた。


エリオットは私が座っていた位置に座りなおす。

そして寝こけているクラウドをそっと触れた。


ソッと触れると、ビクッとして足が上がるが、起きた様子はなくホッとするエリオット。

その様子を見ながら私もソファーに座り直した。


「フワフワしてる……」


子供っぽく笑うエリオット。

つられて私も笑う。

こんな笑顔は私も初めて見た。


エリオットもこうやって笑う事ができるのか……。

私はなんだか嬉しくなった。


「初めは薄汚れてて、白くなかったんです。うちの侍女が丹精込めて洗ってくれて、それでフワフワに!」


なんだか本当に嬉しくて、微笑んだ。


私が笑う顔にエリオットは驚いて目を見開くが、また眉を寄せて、口を手で覆い目をそらした。


あ、そんな笑顔ひどかったですか……。

さっきの嬉しさは途端に落ち込んだ。

うぅ、笑うの下手くそですいませんね……。


口を尖らせ下を向く私。

エリオットも下を向いたが、私をまっすぐ見直した。


「エステルが笑ってくれて嬉しかった。心配してくれたことも、嬉しく思う。」


そう言ってエリオットは私に手を差し出す。

……仲直りの握手かな?

そう思って手を添えると、ギュッと手を引かれエリオットの胸に飛び込まされた。


ぎゃーーーー!!


どうなったコレ?!

なにがおきてるのこれ!?


私はエリオットに抱きしめられていた。

心臓がドンドコドンドコお祭り騒ぎである。

ドンドコドンドコ口からぽっかり出そうなぐらい、ドンドコドンドコ……

あれ、これ私の鼓動じゃないな?

ドンドコドンドコ、もう一つ耳から聞こえる……。


流石に抱きしめられるのは慣れていない。

と言うか良い加減離してほしい。


私はソッと手のひらに力を込めてエリオットを押した。

エリオットは私に押され、グラリと私の方へ倒れてくる。


ぎゃーーーー!!!


なんで押したのにこっちに倒れてくるの!!

静かにエリオットは私の膝めがけて倒れこんできたのだ。


「エリオット、様!?な、だ、……え!?」


慌てる私と動かないエリオット。

流石に心配そうに見ていた先生が、エリオットをソッと揺すった。

そして。


「……寝ているなこれは。」


「……」


寝ているだとう!?


動揺を隠せない私。

そして不本意ながら私に膝枕をさせて寝こけてる王子。


「……最近眠れなかったみたいですよ、悪夢を見るらしくて。」


「……悪夢?」


リオンの言葉に興味を持つビクター。

リオンは頷いて続けた。


「毎日夢にエリナが出てくるそうです。きっと精霊が何かやってるんじゃないかと……。」


「うっへぇ、そんなの逆効果じゃん……」


思わず口を押さえて青ざめるビクター。

『僕もゴメンです』とリオンも肩をすくめた。


先生も想像したのか青い顔でリオンたちを見つめてた。


……私でもやだわ……。


「ローズデール嬢は何というか、何しても裏目に出ている気がするな……」


先生が青ざめたまま頭をかいた。


「『残念な令嬢』ですからね……」


リオンが得意な苦笑いをした。


「一応もう残念じゃないはずだけどね……?」


コーディが口を挟んだ。

そしてマギーがフゥと小さくため息をついた。


「……ねえ。早く王子を起こしてあげて。そろそろ膝が死ぬ……」


みんなが『あっ』と振り返った。


10歳の体で自分より大きな無防備な人を長いこと膝枕なんかできない……!

あと、恥ずかしいコレ!!


足がプルプルしてくる。


「すまんなエステル嬢。俺が抱えて連れて行こう。」


先生がエリオットを抱えようとする。

やっと解放されるかとホッとしたのもつかの間。

エリオットが私のスカートを掴んでいたらしく、先生が抱き上げたら私のスカートも上がった。


ぎゃーーーーーーーー!!!


エリオットめ!!!!


とっさにマギーはビクターの目を隠し、コーディはリオンをクルリと逆に向かせてくれて、スカートの中身は死守されたが。


エリオットめーーーー!!


スヤスヤと可愛らしい顔で眠るエリオット。

とりあえずこれじゃ動かせないのでそのままソファーに寝かせ直す。

クラウドが一度起きたけど、まだ眠そうにエリオットの横で再びだらしない姿を見せた。


私は。


どうやっても手がスカートから離れなかったので、スカート、切りました。

ううう、この服お気に入りだったのに……!


モソモソと着替えが済んでみんなのとこへ戻ると、誰も目を合わせてくれなかった。

気まずいのは私が一番気まずいからね!?

みんな忘れて!!

今すぐ!!


私は赤い顔でエルが入れてくれたお茶を一気に飲み干した。



「それで!!エリオットは何と言ってましたか?」


私はやや怒り気味で喋る。


「エステル大丈夫だ。誰もスカートの中身は見られてない!」


先生さ、励ましてくれるつもりで言ってるんだろうけど。

古傷ほじくり返してるからね!?


私は涙目で先生をにらんだ。

空気を読んだ先生は咳払いをして話題を変える。


「聖獣のことは秘密にしてくれるそうだ。

あと、ノートの内容については、反応的には、半々かな?」


先生がちらりとリオンを見た。


「そうだね、多分僕が感じた時と同じ反応だと思う。まぁ、すぐには信じられるわけがないよね……。落ち着いて一人で考えたらきっとわかると思う……」


リオンは頷きながら、腕組みをした。


「でも王子はローズデール嬢のこと困ってんだろ?だったら信じるしかなくね?」

『他に手がない』とビクターは続けた。


「確かにそうだけど、信じるかはエリオット殿下次第でいんじゃないかな?後はみんなで考えていけばいいし。」


「……そうだな、後4年もあるのであれば、『先は長い』と取るか、もう4年しかないと『短い』と取るかの違いだな。」


「先生それって、要は気持ちの持ちようだって事?」


マギーが首を傾げながら聞いた。


先生は大きく頷く。


「長く感じるのであれば、心に余裕も出てくるからゆっくり準備を的確にこなしていけばいい。……このノートの通りに今は事が運んでないなら、彼女は軌道を修正したいはずだ。


ましてや誰一人彼女の思い通りに動いていないようだし。

だから逆にとことんまで思い通りに行かなければ、誰一人『対象外』となるんじゃないかと考えた。」


……確かに。

私がとことんまで抗おうと思ってた事を思い出す。


この世界はエリナの世界で、シナリオ通りの乙女ゲーム通りの世界なのに。

誰一人としてエリナに好意を寄せていないことに疑問はあった。


もしかしてだけど、ノートを見せなくともみんな自分の運命と抗って来たんじゃないか……?

自分の人生は自分のもの。

誰かに決められた通りに誰だって動きたくない。

みんな無意識に抗ってた……?


何だかストンと腑に落ちた。

まぁ、確証はないけど、きっと。


私が細く微笑んでいたら、エリオットが気がついたようで、ゆっくり起き上がった。

どうやらクラウドの寝相が悪かったようで、何度も横っ腹を蹴られたらしい。

脇腹を押さえてクエスチョンマークを飛ばしている。


そして反対の手に何かを持ってることに気がついた。

じっとそれを見つめている。


リオンもビクターもコーディもマギーも先生も。

何も言わずにエリオットを見つめていた。


エリオットは何かに気がついたように顔を上げて私を見た。

私は口を尖らせ、顔を赤くして下を向く。


そして空気の読めないことで定評のビクターがとどめを指す。


「あ、それ、エステルのスカートな?離さないから切り取ってくれたんだぞ」


そして私とエリオットを交互に見て、ニヤニヤした。


……マギー!!!

マギーよ、殴っていいか。

コイツを!殴ってやりたい!!


赤い顔でビクターを睨み倒すと、流石に目が泳ぎだす。


チラリとエリオットを見ると。


青い顔してスカートの切れ端を握りしめ、赤い顔で俯く私に。

前に一度聞いたことのあるセリフを言った。


「……エステル、責任を取らせてくれ……」


リオンも先生もコーディさえも、みんな吹き出して笑った。


『もうそれはいいってーの!!!』


クラウドならきっとこう言うだろうな。


そう思いながら無言で間抜けな格好のクラウドの腹をカイカイした。


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