二章 三撃目 大会の前に
「大会?」
「そうですよ、機兵の大会なんですよ! なんと優勝賞品は機兵を一体プレゼント。これに出て優勝すれば、ナナイさんの機兵はピッカピカの新品になります」
機兵は遺跡から見つけるものであって、土まみれ埃まみれなのに新品という言い方はどうかと思ったが、それよりも重要なことは、
「機兵が商品か。それは中々耳寄りな情報だけど」
「そうでしょう!」
「だけど、機兵が壊れてるから修復か新しい機兵が欲しんだぞ、どうやって大会に出るんだよ?」
するとラトレイは、ふふふとふくみ笑いをしだす。ふくみ笑いをしながらお皿を取り出し、皿にクッキーを山盛りにしてからアエネアの隣に座った。
そして、クッキーを大量に口に頬張りながら言う。
「もぐっ、どうするかと、もぐっ、もぐっ」
本人としては、クッキーを食べながらお洒落に説明したかったのだろうが、口に入れ過ぎてロクに喋れていない。
喋れないのに無理に喋ろうとしたのが祟ったのか、口を押さえて顔を青くしていった。
「お、おい大丈夫かよ」
「む、みじゅを、みじゅを」
水を汲みに行こうと席を立とうとしたナナイだが、アエネアがコーヒーをラトレイに既に渡していた。
「んぐ、んぐ、んぐ?」
コーヒーで口の中のクッキーを流し込んでいだラトレイの動きが止まる。
「苦ああああい、苦いですよ、何ですかこれは! さ、砂糖を! ぐはっ」
絶叫して悶えるラトレイは、一しきり叫ぶとぐったりして動かなくなる。コーヒーの苦味でいくら何でも大袈裟だ。それでも様子が尋常じゃなかったので、ナナイは自分のコーヒーを渡すのだった。
ラトレイは砂糖多めの甘いコーヒーを飲んで、途端に元気になった。
「お前はいったい、何がしたいんだよ」
「どうするかと言いますとですね」
(さっきのやり取りをなかったことにしてる……)
「ナナイさん、遺跡発掘をしませんか? それで大会に出られます」
「遺跡発掘?」
遺跡発掘というと、そのままの意味と、
「機兵を掘りにいくのですか?」
アエネアが言った、機兵を見つける意味がある。
「どうして遺跡発掘と大会が繋がるんだよ。何で、遺跡発掘すると大会に出られるんだ?」
「実は、とある事情で遺跡発掘をすることになったんですよ。ですから、その護衛をナナイさんにしてもらいたいんですよ! 機兵は貸してもらえるし、護衛が終わったらその機兵で大会に出てもいいみたいですよ」
つまりは、護衛をしてくれたら機兵を貸してくれるということ。借りた機兵で大会を優勝すれば、はれて新しい機兵が手に入る。
ナナイとしては大会で負ける気など毛頭ないので、機兵の問題が解決する。しかし、
「でもそれ、機兵はタダで貸してくれるのか? 機兵を貸す代わりに報酬無しとかだと厳しいぞ」
ナナイが厳しいのではない。
「確かにその条件だったら、お嬢様が許可してくれるかは分からないです」
アエネアも、そう思ったようだ。
「ちゃんとお金も出してくれると言っていましたよ。どうしてもナナイさんに来て欲しいみたいなんですよ」
「よし行こうか」
「善は急げと言いますしね」
ナナイとアエネアは立ち上がり、店の出口に向かう。金は払わない、金など持っていないから。
少し遅れて立ち上がったラトレイが独りごちる。
「ふふふふ。この前はおいてけぼりでしたが、今回は逃しませんよ。なにせ今回はとんでも無く楽しそうなんですから!」
ナナイ達は出て行った。ナナイにはなぜ気絶したのか分からなかった、パブアキンを置いて。
☆☆☆
ナナイ達は、第一島にある飛行船の発着場に向かっていた。
「ナナイ、ペースが遅れている」
先を進む、長すぎるとナナイは思う赤髪を持ったルトが言う。今回の旅はルトとミカが同行することになっている。
「はあ、へあ、無茶を言うな!」
ナナイは大量の荷物を抱えながら、息も絶え絶えに言う。屋敷から第一島まで、荷物を抱えて休憩無しで歩いてきている。
最初は難色を示していたローゼだったが、ラトレイが報酬の金額の書かれた紙を渡した途端に積極的になったのだ。
それから出発の時までずっと機嫌がよかった。機嫌がいいなら、路面汽車か車での移動にしてくれればいいのに、経費を出してはくれなかったので移動は歩きだ。
「ナナイは体力がない。もっと体を鍛えるべき」
「猫にまたがってる奴に言われたくないわ!」
メネコの歩く速さを落とし、横に並んだルトは、猫にまたがりだいぶ快適そうである。
荷物を持って、後ろを歩く妹とは反対に短髪の赤い髪のミカが、ルトを叱りつける。
「そうだよ! せめて自分の荷物は自分で持ちなさい!」
「嫌だ、重たいから持てない」
「ダメ、持ちなさい!」
「うおっ」
ミカが、ナナイが持っていたルトの荷物を奪い取り、ルトに押し付ける。
「やめて、ミカ」
「持つまでやめないから!」
「絶対に持たないから」
ルトが体を倒し、ガシッとメネコを掴んだ。意地でも荷物を持たないつもりらしい。
ルトが今回ついてきたのは、ローゼにたまには動けと屋敷を追い出された為だ。さすがに、立場的にも物理的にも上の相手の命令は従うみたいだった。
ルトにミカが荷物を持たせようと、グイグイと押し付けている。それでバランスを崩したのか、ルトがメネコに捕まったままぐるりとずり落ちる。
「ああぁ、落ちる。ミカ、助けて」
「もう知らないから。自分で何とかしなさい!」
ぷいっと、ルトからそっぽを向くミカ。助けが来ないと悟ったのか、ルトが助けを求める視線を向けてくるが、
「悪いなルト。ただいま俺は両手で大量の荷物を運んでいる、だから無理だ」
しょんぼりとしたルトは、腕をプルプルと震わせながらメネコに捕まっていたが、怠け者特有の貧弱な腕力のせいで、少し進むとぼとりと落ちた。そのまま動く気配がなかったので、はあ、とため息を吐きながらルトを戻してやる。
発着場に着くまでに、そんなやり取りを何回か繰り返したのだった。
発着場では、一つの飛行船に人が行ったり来たりをして積荷が運び込まれていた。制服に身を包む男達は船員であるのだろう、大掛かりな積荷は機械の力で運んでいたが、簡単な物は人力で運び込んでいる。その殆どが遺跡発掘に使用する道具か。
他には、ばらつきのある格好をした人の集団もいる。遺跡発掘の関係者だろうなと予想する。
発着場に停まった飛行船の前に立つラトレイが声を上げる。
「お待ちしてましたよナナイさん」
「おお、待たせたか?」
「全然待ってませんよ。これからの楽しい思いができるんですから、そんなことを気にする必要はないですよ!」
「お、おはようございますラトレイさん。この前はちゃんとした挨拶ができずにすみませんでした」
ぺこりと頭を下げたミカ。しかし、ラトレイはそんなこと気にしないようで、
「私も挨拶らしいことはしてなかったですからお互い様ですよ。ふむふむ、それにしても、ルトさんとミカさん」
はあはあしながら、交互にルト達とナナイに目を向けるラトレイに、ルトが不思議そうに聞く。ナナイは何となく考えていることが分かったので、黙っていたがルトが聞いてしまった。
「どうかしたラトレイ?」
「いえいえ、ただナナイさんが、連れてきたのが小さい子二人でいったい何をするつもりなのかと。ナナイさんもなかなかの変態ですよ!」
くるりとナナイの顔を見て、興奮しながら言った。
「お前は俺をどうしても、変態の犯罪者にしたいみたいだな!」
「つまりは変態であることは認めるんですか!」
「今のツッコミでどうして、犯罪者ってことしか否定できてないんだよ! 変態も否定してるから!」
ナナイとラトレイの茶番を見て、ミカは頭をひねる。
「もういい。とりあえずあの飛行船で、何処に向かうんだ?」
「目指すは遺跡島ですよ! 今回は楽しい旅になると思いますよ!」
(お前が楽しい旅というと、嫌な予感がするのは何でだろうなぁ)
目的地は遺跡島。過去の歴史が眠る島だ。ワクワクしているラトレイを見て、不安になるナナイだった。




