二章 一撃目 夢見る
ローゼの屋敷よりも大きく、中心街に建てられた30階建ての建物。
何回も増設と改築を繰り返され、見るものにちぐはぐな印象を与えるその建物は、都市長を始めとした首脳部が公務に励む、ヘルムビルの心臓であるビートタワーだ。
ビートタワーから出てくるのが二人。黒髪黒目のナナイとウェーブのかかった金髪のローゼである。小躍りでもしだしそうな二人に、大通りを行く人の注目が集まった。
大通りに面して建つビートタワーの前を歩いていく人達は多く、意識しないと流されてしまいそうだった。
中心街というヘルムビルの中心を歩く人々に、お散歩感覚でノロノロと歩いていく者はいない。各々が目的地まで、道を限界まで使ってキビキビと動いていく様は、激流のようでもある。
その激流をぶった切るようにして、二人は軽やかな足運びで進み横断歩道を渡って行った。
道の真ん中に作られた路面汽車の停留所。丁度やって来た路面汽車に流れるように二人は乗り込む。お釣りなしのきっかり二人分の乗車賃を払い、朝と昼の間の微妙な時間で空いていた席に座った。
路面汽車の乗客達は、ローゼの着ている上等で高価そうな服——商会で売れ残った生地を職人に安く提供する代わりに、リーズナブルな価格で作られた、に視線を集め、着ている美しい少女を見て心を奪われる。
ローゼに魅了され無言になる乗客。恐ろしいほど車内は静かになった。
しかし、二人は別のことに気を取られているようで、車内の静寂に気づく様子はなかった。大きくガンッと、何かが金槌で思い切り叩かれるような音の後、路面汽車が動き出す。
防衛街から帰ってきて翌日、二人はビートタワーに呼ばれていた。理由は、
「ナナイ、これを見なさい」
ほくほく顔のローゼが、わざわざ作ったポケットから一枚の紙を取り出し、ナナイの顔の前でひらひらと見せびらかす。
紙にはかなりの金額と都市長のサインが書かれている。小切手である。ローゼは都市長タテヅノに、先日のモーレンカンプを倒した報酬として貰ったのだ。
ちなみに、倒したのはナナイだが無報酬で働くという契約なので、一銭ももらっていない。
「すっごい嬉しそうだな。都市長が小切手に金額を書き込んでいく時、桁が上がっていくたびにテンションが上がってたし」
「あたり前でしょう。これだけあれば、あれば」
「あれば?」
「貯金の桁が一つ上がるわね!」
(使うつもりは、ないんだな)
ナナイにしてみれば、骨折り損のくたびれもうけの様な気がするが、ナナイとしては大満足だ。
なぜなら、この前のカミキリムシも遭わせた功績が明日の新聞に載るのだ。そうすればナナイは、ヘルムビルでも一流の機士として名が広まるだろう。
ナナイは目を閉じ、その時の光景を思い出す。
都市長と握手した時に、一斉に切られたフラッシュの数々。
記者に聞かれた心境の一つ一つが、明日の新聞に記事として載るのだ。そのことを思うだけで顔がにやけてくる。
ただ、気になることもあった。
『同年代の機士として、コガネ氏についてはどう思われますか?』
『コガネ?』
記者の一人が言った、とある人物の名前。ナナイはコガネという名前に聞き覚えはなかった。
せっかくのいい気分なのに、モヤモヤしたものを残しておく理由は無いだろう。とりあえずナナイは、小切手を見つめてニタニタとしているローゼ——ローゼを見るときのアエネアに似ていなくもない、に聞いてみた。
「なあ、コガネって知ってるか?」
「コガネ? コガネというと、スカラビルの機士コガネよね。私が知ってるのは、同年代で凄腕の機士とかそのくらいね」
答えてくれたローゼは言い終わると直ぐに顔を下に向け、また小切手を見てニタニタとし始めた。
ニタニタとしていても美少女なのは、ひとえに容姿端麗であるからか。
(アエネアも美少女だけど、変態してる時は変態だしな)
それにしてもとナナイは思う。
せっかく期待の新星として名が広まる予定なのに、似た様な存在が既にいるのなら凄さが薄れてしまう。
(機会があったら、腕試しでもしてみたいな)
ガタゴトと揺れる車内でナナイは願うのだった、突然の事故か何かで機士コガネがお亡くなりになり若くて凄腕の機士と言えばナナイと呼ばれる未来に、なりますようにと。
都市連合からスカラビルに変更しました。




