story 31 ダンジョン攻略 その3
パーティは警戒しながら先に足を進める。コボルトがやってきた左の通路を睥睨し、敵の姿が無いことを確認すると正面のルートを進む。
その後、二度ほどコボルトとの戦闘をこなすと、下に続く階段が現れた。そこで軽く小休止を取ることをポーターのジョアンが宣言した。
「どうだ?」
「まったく、ここまで上手く行ってるな」
ジョアンの質問にクライヴは問題ないことを伝える。
ケイトも同様に頷きを返す。
「ええ、こちらも問題ないわ。スリザ」
「う、うん。問題ないわ」
この層にやってきて初めてのコボルトとの立ち会いで遅れを取った彼女もその後は問題なく敵を下している。
ポーターのジョアンが背負うリュックサックからよく冷えたボトルと濡れたおしぼりを各自に手渡す。水分補給と気分転換を済ませ、ほどよい緊張感の中、クライヴが次の階層の説明をし出す。
「次の層で現れるのはスライムだ。スライムの場合、物理攻撃は通りにくい。かといって今のパーティではウィザードがいないため、戦闘はややゴリ押しになる。ただありがたいことに今回はイクサがいるから彼の弱体魔法が有効だ。頼むぞ」
「わかった」
「ジャスパーもホーリーで積極的に参加してくれ」
「うん」
狩人のイアンにポーターのジョアンが今まで使っていたのと違う鏃が赤い色をした矢を渡す。
それは属性矢といい、鏃に火の魔法が込められている。攻撃魔法を使うウィザードが付加魔法により、矢に幾種類かのそれぞれ違った魔法効果を与えて作られている。単価は高いが今回のようにスライムのような物理攻撃に耐性を持っている魔物に対しては有効だ。
残念なことにスリザの使う腕に嵌めるボウガン用の短い矢にはそうしたオプションは用意されていないため、彼女は小剣でダメージディーラーとして戦闘に参加する。
ヒーラーのジャスパーは回復魔法の他に浄化魔法も持っていてホーリーは魔物に対しては一通り、効果がある。ただ、ホーリーの場合、ヒールよりも詠唱時間が長めで消費するマナも多いため、連発は出来ない。
イクサの場合、基本的な魔法の性能はそれぞれ無詠唱と言ってもいいほど速度も速いし、元々、スキルとして自動MP回復があることに加えてダンジョンの魔力回復もあって負担はほとんど発生してない。
この層に出てくるスライムは、さらに次のボス層への前哨戦として捉えられる。今回のボスはこの層と同じくスライム属の上位モンスター、スライムキングだからだ。
スライムはよくあるRPGでは雑魚モンスターとして馴染みがあるが、この世界では物理攻撃に耐性のある初見殺しとして有名な厄介なモンスターだ。その攻撃手段は体当たりと触手打ち出しによる物理攻撃、毒も打ち出す。
一番厄介なのは溶解液だ。強酸の溶解液を武器に受ければ溶けてしまうし、防具に当たるとすぐに脱がないと肌にもダメージを受けてしまう。
弱点としては魔法に耐性が著しく低いこと。そのため、ウィザードは天敵だ。
今回のパーティにはウィザードはいないため、その役割はイクサに与えられる。しかし、彼も弱体はあっても攻撃魔法は無いため、詰まるところ、イクサが麻痺などでスライムの攻撃手段を奪い、その間にメンバーのタコ殴りというのが基本戦略になる。
「支援魔法ですが、ここで改めてその効果を説明します。ゾーン魔法というのがその魔法ですが、この魔法は魔法効果の圏内にいる皆さんの能力を25パーセント上昇させます。さらに地形効果や高さ、包囲などの状況も攻撃力に加味されます」
イクサはゾーン魔法の特殊な支援の形態について詳細に説明した。
それぞれはその効果の広範な適用について聞かされてゴクッ、と唾を飲み込んで緊張した面持ちをして神妙に説明を聞いていた。
「さらに、今回は新たに得た魔法も使います。」
それは以前に彼の査問のために同行した高レベルソードマスター、ベロニカとの討伐行で顕現した新しい形態の魔法、設置魔法だ。
地面に対してしか設置できないが、一度発動してしまえばイクサの集中が解けない限り、継続してダメージを与えられる。
しかもその攻撃は物理攻撃では無く、魔法によるモノなのでスライムには効果的と来ている。
イクサの言葉を聞いていたメンバーのそれぞれの目には自信が溢れていた。イクサの力があればボス層を突破できると。このバーティでは今までも何回かスライムキングを相手にしているが何度も煮え湯を飲まされていて突破できないでいたのだ。
皆それぞれにお互いの顔を見返して頷いていた。
「よ、よし、イクサ、お前は好きなタイミングで自由にやってくれ。無理はしないようにな」
「分かりました」
一方でイクサも自分の魔法がダンジョンでも有効なことに自信を深めていた。
廃城で得た彼だけの力、ゾーン魔法。これは確かに彼らに説明したとおり、支配するゾーンに対して攻撃力や回避などのステータス向上をもたらす。が、それではゾーン魔法の本領発揮には半分にも満たないのだ。本来は彼本来のサモナーとしての能力を補完するためのモノであるからだ。以前召喚した精霊種などの属性を支配するゾーンそのものに付加することにより、魔法の効果を何倍にも引き上げることが出来る。
さらにまだこの魔法には先がある。だがそれは先の話だ。今のイクサにはこれだけでも十分だ。
ポーターのジョアンがぞれぞれのメンバーからおしぼりやボトルを回収し、皆はクライヴを先頭に階段を降りていった。
スライム層ではほとんどの場合、現れるスライムは一匹で出てくる。回廊はどこかつるつるした黒曜石のような作りで、そこをナメクジのように広がったスライムが進んでくる。
「集合! 防御魔法かけるよ」
メンバーはヒーラーのジャスパーに近寄って彼が詠唱を終えて、【プロテクト】の効果がそれぞれの身体を硬くする。そこからが戦闘の始まりだ。
さっきまで地面に広がった透明な目玉焼きと言った形状をしていたスライムは周囲から中央に引き上げると身体を起こしてプリンを逆さまにしたような形でクライヴたちを得物と認識すると唸り声のような分かりやすい敵意を見せることも無くビュッ、と身体を変形させて幾本もの触手を飛ばしてくる。
「支援魔法、いきます」
イクサは宣言し、ゾーン魔法を構築する。スライムと対峙するメンバーの足下に赤い格子が進んでいってそのままスライムの足下もゾーンの支配下に収める。
「パライザー」
すかさず、イクサは弱体魔法を発射する。広げた両手の間から魔法の力が湧き上がり、スライムに投網をするように包み込んだ。
たちどころに麻痺の効果に掛かったスライムの触手が力なくポロリと地面に落ち、不満を表すようにスライムの体表が波打つがそれだけだ。何か行動を起こそうとするとブルッ、と震えて硬直してしまう。
「いくぞ」
クライヴが宣言し、前衛たちがそれぞれの得物を振り上げて今や攻撃手段を失ったスライムに飛びかかる。イクサが予め説明したとおり、メンバーたちはスライムを四方から囲んで襲いかかる。
ゾーン魔法の支援効果の一つ、包囲効果が発動する。
それぞれのメンバーの攻撃力が上がった分、相対的にスライムの防御は半分に落ちる。
それは各自に劇的な変化と受け取られた。
物理耐性があるとは思えないほど、各自の攻撃はスライムをなます切りにしていき、たちまちスライムはブルッと断末魔の痙攣と共にドロッとその形状を維持できなくなり、真ん中に残った核も地面に転がると魔石を残して地面に吸い込まれていった。
「こ、こんな簡単だったか? 凄いな」
「う、うん」
クライヴの手応えを感じず、あっさり下した今までの強敵を前にした言葉にケイトもやや狼狽したように頷く。
そしてそれは魔法に対する憧憬や恐れにも似て捉えられた。皆考えることは一緒のようで、ただ頷きで返し合い、次々とスライムを平らげていき、あっという間にこの層のスライムを駆逐し、ボス層へと続く階段の前に立つ。
その自信はイクサの魔法に裏打ちされたもの。それを意識しながらも、自分たちが壁を越えるチャンスをモノにしていることを強く意識していた。
「いいな?」
「ああ」
「いきましょう」
それぞれが確かな自信と共に今のテンションをそのままに、休憩を挟まずにボス部屋に挑むことが決定された。




