最終話
手術は八時間にも及んだという。
その間、タケルは物語のように美しいダイヤモンド王国の夢を見ていた。
結婚の許しを得るために、フレイアと共にタンザナイト王国へ向かう意気揚々としたアヴェリュスの姿。
生まれたばかりのエヴァンスを抱く、フレイアの幸福な笑顔。
それを見つめるアヴェリュスの、慈しみに満ちた金の眼差し。
庭を駆け回る幼いエヴァンスとリリアーヌの姿。
エヴァンスとジュリアスの結婚式。
青薔薇の咲き乱れる庭園で遊ぶ、4人の子供達を見つめるエヴァンスとジュリアス。
走馬灯のように巡った情景はタケルが描いた夢なのか、垣間見た現実なのかは分からない。
ゆっくりと目蓋を開く。
「大丈夫か、タケル」
心配と安堵が入り混じったような表情で見つめる父親の姿があった。
今にも涙が零れ落ちそうな、薄茶の瞳を震わせる母親の姿もある。
「手術は成功したぞ」
本当にと尋ねようとしたが腹部に力が入らず、声にならなかった。
タケルの思いを抱きしめるように、父親の大きな手が、タケルの頭を撫でた。
「よく頑張ったな」
言葉の代わりに小さく頷いた。
途端、無意識の涙がタケルの頬を伝い落ちた。
細く長い母親の指が、流れ落ちた涙にそっと触れる。
言葉も出ない様子の母親の目からも、涙が零れ落ちた。
手術室に入る前、もう両親とは会えないかもしれないと思った。
やはりやめると言いたくなる心を留めたのは、フレイアの成功する確率が半分もあるという声だった。
フレイアは、絶対に大丈夫だと言った。
その言葉を信じようと思った。
結果、タケルは丈夫な身体を手に入れた。
両親が見つめている。
誰よりも、幸せを願ってくれた人達。
誰よりも、幸せにしたいと思った。
嬉しそうに見つめる両親の眼差しに、手術を受けて良かったと思った。
同時に手術を受ける気持ちを起こさせてくれた、夢の国の人々に深く感謝した。
「もう少し眠れ、タケル」
子守歌のように紡がれた父の言葉に、タケルはゆっくりと目を閉じた。
もう目覚めないかもしれないと、眠りにつくことに恐怖を抱くこともない。
ずっとずっと先の未来まで、道は続いているのだ。
その道の途中にはきっと、扉の向こうの世界へと続く道もあるはずだ。
いつか必ず、彼等に会いに行く。




