第二十二話
幼子のように泣き続けるアヴェリュスを、フレイアは宥めるようなことはしなかった。
不用意に言葉をかけることもしない。
ただ我が子を見つめる母親のような柔らかな眼差しで、震えるアヴェリュスの身体を抱きしめるだけだった。
タケルには信仰心などない。
けれどもアヴェリュスの孤独を受け止めるフレイアの姿に、聖母というものを感じた。
泣いて泣いて、どれくらい時間が経っただろう。
涙の量を物語るように、アヴェリュスの銀色の眼差しは兎のように真っ赤に染まっていた。
顔を洗って戻ってきたところで、目の赤さは変わらない。
心なしか鼻の頭も赤い。
そんなアヴェリュスを、勿論フレイアは笑ったりなどしない。
「薔薇の苗をお譲りします」
鼻にかかった声でアヴェリュスが言う。
品種改良の末に出来た、珍しい青薔薇の苗だ。
フレイアは喜ぶに違いない。
「お気持ちだけで」
だが意外なことに、フレイアは否定の言葉を口にした。
思いがけない返答に、タケルは瞠目した。
思いは同じなのだろう。
アヴェリュスも赤く染まった眼差しを、目一杯開いていた。
驚くタケル達の姿に、困ったような笑みをフレイアは浮かべた。
「国に戻るまでには、半年近くかかります。一緒に旅をさせるのは酷です」
フレイアは結婚相手を探し、全ての国を訪問するという話だ。
ダイヤモンド王国は、三番目。
あと二つの国を訪問しなければならない。
国に帰るのは、ずっと先。
その間に、薔薇の苗は枯れてしまうかもしれない。
それを思いやって、フレイアは薔薇の苗を断ったのだ。
草花にも心をかけられる優しい人。
同時に、いかにフレイアの旅が過酷なものかタケルは悟った。
「気遣いが足りず、申し訳ありません」
「いいえ。お気持ち、嬉しゅうございました」
謝罪するアヴェリュスに、フレイアが優しく笑う。
どんな思いで、フレイアは結婚相手を探す旅に出たのだろう。
寂しかったかもしれない。
怖かったかもしれない。
情けなく感じたかもしれない。
けれども目の前で笑うフレイアからは、後ろ向きな感情は一切読み取れない。
強い人なのだと思う。
そして、優しい。
穏やかなフレイアの姿に、良い結婚相手が見つかり一日も早く国に戻れるよう祈らずにはいられなかった。




