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魔物のお医者さん  作者: 浅見カフカ


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八重歯

狼の口元にスープ置いた。

具は入れていない。

ここまでの飢餓状態、固形物は避けた方が良いと思ったからだ。

狼は鼻をヒクヒクとはさせているが、碗に口をつける力も無いようだった。

俺は狼の口元に、スープ染み込ませたガーゼを近付けた。

狼は力を振り絞るように鼻先に深い皺を寄せて、唸り声をあげた。

「もよもとドクター、狂犬病のリスクがある。それ以上は——」

塚本ドクターの当然の心配を「平気です」と遮った。

「転生前にワクチンを接種してます。任意でしたが打ってて良かった」

そう言って剥き出しの牙の隙間に、ガーゼの雫を垂らした。

——唸り声が消えた。

「美味いか、よく頑張ったな」

俺はそう言いながら少しずつ少しずつ、狼の口にスープを垂らした。

半分ほど飲ませたところで「よぉし、ニャル。まだ飲めそうか?」と声を掛けた。

「ニャル?」

塚本ドクターが怪訝な声で言った。

「えっ、さっき這い寄る混沌って言ってたじゃないですか」

俺がそう言って笑うと「ニャルラトホテプか」と塚本ドクターは膝を叩いて大笑いした。

「そうか、もよもとドクターもクトゥルフ神話を知っているのだね」

「ええ、だからコイツの名前はニャルです」

俺がそう言った直後だった。

狼の銀色の毛並みが、月光に輝き光に包まれると大きな遠吠えが鳴り響いた。

光はやがて小さく輝きを終えると、その中から少女が姿を現した。

一糸まとわぬ姿に驚いた俺は、慌てて後ろを向いた。

主様あるじさま、月下での名付けをありがとうございますなのです」

背中から声を掛けられた、流暢な人語だ。

「名付けって」

「はい。妾は人狼の種族、ネームドになることで人の姿を得られるのだ」

「とりあえず、分かったから服を着てくれないか?」

俺がそう言うと「これで良いか、主様」と返答したニャルが俺の前に立った。

頭の耳をピンと立てて、大きな瞳で俺を見ていた。

「布の面積が少ない」

「主様、これ以上は魔力が維持出来ないのだ」

ニャルは困った顔でお腹を押さえた。

腹の虫が盛大に声を上げていた。

確かにあの程度で満腹になるわけがない。

俺はエドに鍋ごと持ってくるように言うと「全部食え」とニャルに渡した。

「そうか!」

塚本ドクターが大きな声を上げた

スープに口を付けたニャルが、ビクッとしてせてしまった。

「ああ、すまないニャル」

塚本ドクターはそう言うと「エドたちが急速に知識を付けたりしたのはネームドになったからなんだ」と俺とエドを見た。

納得した。

医療キャンプでの彼らの働きは、新人離れしたものだった。

毎日の修羅場が彼らを成長させたものだと思っていたが、名付けのブースト、バフがかかっていたのだ。

「主様は何をしていたのだ?ここは人間がいる場所ではないのだ」

「ああ、俺たちは魔王に会いにいくところだ」

「本気か!?死んじゃうのだ」

「そうならないよう頑張るつもりだ」

「ニャルも行くのだ。主様の眷属なのだ」

「いや、それは」

ピクニックにでも行くように、無邪気に笑うニャルに俺は戸惑うばかりだった。

「ニャル、そのゴブリンより強いのだ。戦えるのだ」

ニャルはエドを指さして言った。

「エド......弱い。でも頑張る」

エドは俯いてしまった。

塚本ドクターは、そんなエドの肩に手を置いて「それだとエドにはエドの仕事をしてもらえるね」と優しく言った。

「ニャル、そのゴブリンじゃない。エドだ。彼が気付いたからキミは助かったんだよ」

塚本ドクターそう言って「塚本だ、よろしく、ニャル」と右手を差し出した。

エドも同様に握手を求めて差し出した。

「さぁニャル、俺は豊本。歓迎するよ」

俺たち三人の差し出す手を、ニャルは両手で掴んで言った。

「ニャルも一緒なのだ、一緒に行くのだです」

スープに濡れた口元をから、八重歯が覗き見えた。


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