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魔物のお医者さん  作者: 浅見カフカ


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12/14

出発

ギュニウスが病床のテントに足を踏み入れると空気が変わった。

ゴブリンたちの目に明らかな怯えの色が見えた。

ギュニウスは口の端をゆがませて自嘲気味に笑うと「お前たちから命を分けて貰った。その礼を言いに来た」と頭を下げた。

病室内にどよめきが起きた。

「上の魔族、下に頭サゲない。これスゴいこと」

エドが俺の隣で、興奮しながら教えてくれた。

ギュニウスは、そのままベッドの間を歩くと一人の人間の前に立った。

「人間よ、我の傷は間もなく癒える。そうなればまたお前達の同胞の屍を山と築くだろう」

「......戦士である以上はそうだろうな」

男は病床で身体を起こすと、そう答えた。

「それが分かっていて何故助けた?」

男は無言でギュニウスを見上げると、おもむろに口を開いた。

「助けたいと思った瞬間、理由も理屈も考えたりしないだろ」

そう言って今度は俺たちを見た。

「それに、ここの先生たちにとっては敵とか味方とかじゃないんだ。全部同じ命なんだってよ」

呆れ気味に両手をあげて、男は歯を見せて笑った。

その表情につられるように、ギュニウスの眉間から皺が消えた。

「我は今まで何と戦って来たのだろうな」

そう言った彼の言葉は、深く穏やかなものに見えた。

「もよもと、ギュニウス連れてく」

エドが俺の袖を引いて言った。

塚本ドクターも「頼んでみる価値はあるな」と深く頷いた。



ワイバーンはギュニウスを背に乗せると誇らしげに頭を上げた。

「赤十字と言ったか。魔王様に話してみよう」

「お願いします」

俺は深く頭を下げた。

塚本ドクターもエドも、深く頭を下げた。

この診療所の未来の為に。

「では、先に行っているぞ」

ワイバーンの羽ばたきに土埃が舞い、頬を風が撫でた。

子ゴブリンたちは、手を振りながら追いかけ走り出した。

「それじゃぁ私達も追いかけましょう」

塚本ドクターに促され、俺とエドは荷馬車に乗り込んだ。

御者は申し訳ない話だが、塚本ドクターが務めてくれた。

道中、乗り方を教わるつもりだ。

診療所はエドが育てた看護師に、留守を預けることにした。

「それじゃぁ、留守を頼んだよ」

塚本ドクターはそう言うと、手網を打った。

馬のいななきが、青く澄んだ空の遠くに響いていった。




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