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魔物のお医者さん  作者: 浅見カフカ


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11/11

11.ギュニウス


「なにをしているんだ!」

塚本ドクターの怒号が手術室を揺らした。

そしてその勢いのまま歩み寄ると、魔人の腹に触れて「縫合跡が開いたらどうするんだ」と一喝した。

「殺す」

魔人の人差し指の爪が塚本ドクターの額に当てられた。

「あのワイバーンはお前の盟友か?」

「ヴェクターが来ているのか!」

「瀕死のお前を連れてここまで来た。死なせたくなかったのだろう」

魔人は大きく目を見開くと「ヴェクター!」と大声を出した。

その拍子に、縫合跡に僅かに血が滲んだ。

「大声を出すな」

そう言った次の瞬間——

入口のテントを鼻先でめくったワイバーンが、首だけを突っ込んできた。

その縦長の瞳孔を大きく開いて魔神を視界に捉えると、歓喜の咆哮をあげた。

音圧に押された塚本ドクターの額が、魔神の爪先で僅かに横に滑った。

「痛っ」

小さく裂けた皮膚から血が流れた。

「お前の大切な者は無事だ」

塚本ドクターは流血を拭うことなく振り向くと「連れて来てくれてありがとう」と目を細めて言った。

魔神はそこでようやく俺の上から立ち上がると、ワイバーンの元へと歩いた。

血の滲んだ縫合跡が気になるのだろう。

ワイバーンは魔人の腹に鼻を押し当てて、ヒクヒクと動かしていた。

魔人は暫くワイバーンの顔に触れて、撫でるとこちらを振り返った。

もうその瞳からは、殺意は消えていた。


「礼を言うべきなのだな。ありがとう、そして済まなかった」

魔人は頭を下げると「教えてくれ。ここは何だ?」と続けて言った。

「ここは救護所だ。人間も魔物も救う救護所だ」

塚本ドクターは魔人の目を見た。

「回復魔法とどう違うのだ」

「魔法は治癒速度を爆発的に早める。三ヶ月の重傷が一瞬だ。だがそれだけだ。切れた四肢は切れたまま、内蔵も千切れたまま傷を塞ぐ。だからその後に死ぬ者もいる」

「お前たちだと死なないのか?手足は生えるのか」

塚本ドクターは首を振った。

そして魔人の身体に起きていた重篤な症状を話し、そのひとつひとつの傷や症状に何をしていったのか話した。

魔人はそれを黙って聞いていたが、輸血のくだりでは怒りをあらわにした。

「我の身体にゴブリンや人間の血だと!?」

先程のような殺意のこもった目に戻った。

塚本ドクターは血液が何であるかを魔人に話して、身体能力等が落ちるものでは無いことも、子供に教えるようにゆっくりと伝えた。


——長い沈黙は彼が自身の身に起きたことを受け入れるのに必要な時間だったのだろうと思った。

「ギュニウスだ。お前たちの名を教えてくれ」

そう言って手を差し出した。

それは人間がするものと何も変わらなかった。


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