518.実家の固定電話の番号は誰が誰に伝えた?留守電に吹き込まれていくメッセージは、プラス三件。同じ状況下で同じ問題について考え、別の見立てをする俺達。
ピピピ、ピピピと固定電話の電子音が鳴る。
「またかかってきた。」
と弟。
次の電話も速やかに留守電に切り替わる。
「ユキミ、今、ヨッシーがこっちにいるんだ。久しぶりに会いたいってさ。家を出たら連絡しろよー。」
二件目は、要件だけを留守電に残してすぐ切れた。
「一件目の電話をかけてきたのが、ヨッシーか?」
「うん。一件目はヨッシー。二件目は、卒業後もヨッシーと一番会っているナマハラ。ナマハラの親は、うちの固定電話にかけてきて、お母さんについて聞いてきた人だよ。」
と弟。
「我が家の固定電話の番号は、ナマハラくんからヨッシーくんへ伝わったか。」
「弟さんからは教えていませんね?」
とカガネ。
「友達に固定電話の番号は教えていません。固定電話を使う習慣が俺にはないので、自宅にいても、スマホを使っています。」
と弟。
「ご両親が、弟さんのお友達の親御さんに、固定電話の電話番号を教えていた記憶はありますか?」
とカガネ。
「ありません。親同士も、連絡を取り合うときは、自宅の固定電話ではなく、スマホを使っていました。」
と弟。
「ユキミの友達の親が、我が家の固定電話の番号を知るきっかけがあるとすれば。
スマホで連絡がつかないときの保険、か?」
「親同士で連絡し合っていたのはお母さんだけだから、電波が悪いときのために、とかかな。」
と弟。
弟は、お母さんが固定電話の番号を伝えたという仮定に消極的な反応を示した。
俺が実家にいたときも。
お母さんが、俺や弟の友達の親と固定電話を使って通話している姿は見ていない。
「親同士で連絡がとれない場合。
子ども同士で連絡がつくなら、子どもを介して連絡を取り合わない?」
とカガネ。
「親同士で連絡がつかなかったときに、俺と友達が間に入って連絡をつけたことはあります。」
と弟。
俺と弟の人生経験が同じでないことが、役に立っている。
「親同士で連絡を取り合うために連絡先を交換するなら、固定電話の番号を知らせる方が不便ではない?」
とカガネ。
お母さんが固定電話の番号をナマハラくんのお母さんに伝えたという仮定には、カガネの方が消極的だ。
「ユキミの友達の親に、自宅の固定電話の番号を教えたのは、お母さんじゃない可能性が高い、か。」
登録者情報の漏洩はたびたびニュースになるが、漏洩した情報がどこに漏洩して誰がその情報を得たかについての証拠は出回らない。
漏洩した個人情報を市井で暮らしている一個人が買えるものか?
「お母さん以外でなら、誰がいる?」
と弟。
「固定電話を使っていたのはお母さんかもしれないが、固定電話を残したがっているのはお父さんではなかったか?」
個人ではなく、組織なら入手ルートがあるか?
組織として情報を入手する目的が明白なら、必要な情報を抜き取るために個人に登録させているのではないか?
お父さんが固定電話を解約しないと弟に告げた理由の一つに、お母さんが固定電話の番号で契約した先が不明だから、というものがあった。
我が家の固定電話の番号が家族から漏れたのだとしたら、お父さんから漏れた可能性は十分考えられる。
「お父さんとナマハラのお母さんが知り合いだったとは聞いていないよ。」
と弟。
「ユキミの友達のナマハラくんのお母さんは、ユキミにすれば部活仲間のお母さんという属性しかないが、保護者以外の属性が重なれば、繋がれないか?」
「お父さんとナマハラのお母さんが、仕事で連絡先を交換していたかもってこと?」
と弟。
「仕事関係だけ、とも限らない。お父さんやお母さんが家族以外とどんな風に繋がっていたか、ユキミは知っているか?」
「俺、お父さんのこともお母さんのことも、お父さんとお母さんとしてしか知らない。」
と弟。
「お父さんはお父さんでお母さんはお母さんという情報だけあれば、俺もユキミも十分だった。」
「兄ちゃん、俺は今、お父さんお母さんに家族以外との繋がりがあったんだということを思い知らされているよ。」
と弟。
「お父さんとお母さんは、二人とも美容整形手術の契約書を書いている。
そこに固定電話の番号を書いて契約した可能性もあると思う。」
「美容整形手術を申し込んだ状況的に、土壇場でお父様お母様と連絡がとれなくなる心配はないわ。」
とカガネ。
「美容整形手術から逃げ出せないように二つ以上の連絡先を押さえる必要はないが、情報として固定電話の番号も書かせたか。」
「スマホと一緒に固定電話の番号を記入するように勧められたお父様お母様が断れずに記入し、そこから電話番号が漏らされたのではない?」
とカガネ。
お父さんお母さんに美容整形手術を強要したお父さんの取引先が支援団体の関係団体もしくは協力者の立場で、ナマハラくんのお母さんに、我が家の固定電話の番号を漏らしたのではないか、カガネはふんでいる。
担当者だから、と、美容整形をお父さんお母さんに強要したお父さんの取引先とお父さんの関係性について考えると。
お父さんは家族に不利になることなど絶対にしないと信じることが、俺には難しい。
俺の知るお父さんお母さんは。
息子が何歳でも、一人の人間として拒否するとその判断を受け入れたが、自分達が最初の防波堤になろうとはしない大人だった。
俺のお父さんお母さんに対する認識は、俺の経験からきている。
これまでの人生や感情を切り離して、お父さんお母さんを語るのは不可能だという自覚はある。
完全な第三者であるカガネの見解が俺と違うのは、把握している情報の差だけではないと思う。
「ナマハラのお母さんに固定電話の番号を教えたのはお父さんだ、と兄ちゃんは考えている?」
と弟。
カガネと俺の話を聞いて、俺がお父さんを疑っていると理解した弟が確認してきた。
「お父さんがナマハラくんのお母さんに直接教えたとは限らないが、お父さんから漏れた可能性は考えている。」
「家族の誰かが漏らしたのなら、消去法でお父さんになるよね。」
と弟。
同じ状況にいて同じ問題について考えても、俺達三人の考えていることは同じにならない、か。
楽しい気持ちが湧いてくる。
仕事以外で、対等に意見を交わすのは。
佐竹ハヤトと大学で話をしていたとき以来。
弟宛の電話は、留守電にメッセージを残して切れた。
「弟さんが電話口にいることを疑っていないような留守電だったわ。」
とカガネ。
「固定電話への留守電だから、聞くのが俺だけとは限らないのに。」
と弟。
「留守電にメッセージを吹き込むような話し方ではなかった。」
ピピピ、ピピピと電話がかかってきたのちに、留守電に切り替わって伝言を残していく流れは、二件で終わらなかった。
「家にいるんだろう?出てこいよ。」
「待たせるなよ。」
短いメッセージが二件入ってくる。
「まるで、こちらの状況を知っているかと錯覚を覚えるメッセージ。」
とカガネ。
続いた二件の留守電を聞いた弟は、二件とも聞き覚えがある声だと言う。
「短い二件のメッセージも部活仲間か?」
「うん。ヨッシーが来たときに予定くらい合わせられないのか、と普段から言っている二人。」
と弟。
「わざわざユキミに言ってくるのか。」
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆、リアクションマークで応援してくださると嬉しいです。




