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いきなり800日の世界一周  作者: 晩白柚
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10/12

10日目



数日間節約していたので路銀もまだ十分だった左衛門が、いよいよ安芸の国に入ったこともあって、姫路で出会った老人の話を思い出し、道を外れてみることにした。


山陽道から吉田への道へと入っていくと、安芸高田に入った当たりに世鬼という村があった。小さい街道にしては珍しく宿屋があったので泊まることにすると、何やらこの村は座頭の住む村で、芸人やら按摩などを育てている村だとのことで、泊まり客には食事時に芸も見せ、風呂上がりには格安で按摩も受けられると言うので、是非ともご相伴に預かりたいという話になったのであった。


街道沿いの宿とは違い食事は干した大根の葉を戻したおひたしと漬物、大根の味噌汁に麦飯と質素なものだったが、意外なことにお酒が安かった。酒屋で買うのと同じ程度の値段だったので以外に思うと、領内の酒の研究開発をこの村で行っているからと、旅人には味見をしてもらうため卸値程度のお試し価格で出しているとのことだった。


按摩を受けながら話を聞かれているうちに、太ももの辺りを擦られているときに


「もしやお客さんは忍びの訓練とかされてませんか?」


「子供のお遊び程度ですよ、村では麻とか竹とかナラとかを子供のときから飛んでましたが、足運びとか陰形とかは流石に教える人もいなかったんで、飛んだり投げたりする程度っすよ」


「それはすごいではありませんか、もしよろしければ近々領内で大きい仕事があるんですが、一つ仕事を受けていきませんか?」


「外者でも受けられる仕事があるんっすか?ちなみに報酬はどれぐらいで?」


「手付と経費を合わせて銀10貫、これは金1両でもらってもいいそうですよ、成功報酬は銀5貫、村の連中で尼子の経略に出ていない連中は全員参加ですが、それでも人数が足りてなくてですね、つてで遠くの忍びの里には援軍のお願いは出しているんですが、あまり集まってないんですよ。ちなみにお客様は播磨ですか?摂津ですか?」


「あ、ウチは摂津の山奥っすよ、備後や出雲とは全然ツテは無いっす、安芸の国司元相様とは知り合いなんで、吉田のお城に寄っていこうと思ってたっすよ」


「国司の殿のお知り合いとは丁度よいです、今回の依頼人は毛利の殿様ですんで、払いは確かですよ」


「それでは一つ頑張ってみましょうか、明朝にでも早速元締め殿にご紹介お願いしますっす」


「ちなみに我らの里の忍びの特訓場で一夜漬けでもしていきますか?外様で仕事をお受けになるなら連携の特訓とかありますし、せっかくの機会ですよ、ちゃんと上忍から特訓を受けるのも悪くないんじゃありませんか?」


「それは願ってもないっす、もう今日からお願いしたいっす」


「では按摩のお代で銀子1文頂戴します。すぐにでも係のものをお迎えに出しますんで」


按摩が恭しくお題を受け取って部屋から下がっていくと、暫くしてひょろっと細い、印象の薄そうな中年男性が障子戸の外から声を掛けてきた。


「失礼いたします、お迎えに上がりました。」


戸を開けると、丁寧な仕草で部屋の前に来た男性が、左衛門を手招きをしていた。


宿屋の裏手の方に従いて行き、丘の林を少し登ると、結構大きな道場の建物があった。


林の中を歩いているときにも感じていたことだが、建物の入り口に立っていると周りに人の気配や視線をひっきりなしに感じる。


男性が中にどうぞと招き入れるのに従って入っていくと、畳敷の大広間に十数人が柔道の訓練をしている場所に出た。


どう見てもその場の責任者に見える師範代がこちらに気がつくと、いきなり左衛門の後ろに人の気配が現れ、先程の按摩が闇の中から気配と共に突如現れ、師範に近付き左衛門のことを紹介する。


師範が人の良さそうな笑顔で左衛門に話しかける。


「摂津から援軍にお越しとは、有り難いことです。」


「まあ、国司様が安芸には寄っていくべきとおっしゃっていたので」


「ああ、国司殿は確か朝廷に殿のご用事で行ってましたな、某は世鬼政時と申します、ここ世鬼の里の村長をやりながら、若い衆を鍛えておりまする。」


「某は摂津高山飛騨守の近習、星野左衛門と申します。」


「早速ですが、星野殿、高跳びは鍛えてらしたですかな?」


「ええ、その梁の上なら跳んで乗れます、平屋の屋根程度が限界ですね」


「それは結構でございますな、我らの里でもそれだけ鍛えている若い衆は半数程度ですので、十分ご立派でございます、一度ご披露願います。」


天井板を張っていない屋根裏の梁の上に飛び上がる左衛門、飛び上がって、飛び降りるだけの基本動作を行うと、早速指導を始める世鬼。


まず、着地のときの足運びになりますが、忍びの仕事のときは音を立てずに行う必要があるため、基本がこのかかとを立てての含み足になります。足首と膝と腰の動きで着地の音を吸収するやり方です。まずは畳で10本ほど跳んでください」


それからはもう世鬼の言うとおり、左衛門が立派な忍者になるために必要な様々な技術を3日間ほど、習うことになった。


食事時に知ることになったが、道場にいた数人は全員遠州から援軍に来ていた外様の忍衆で、林にも隠密の訓練に数人、建物前にも数人が隠密の訓練をしていたことを知るのだった。


左衛門も一方習ったあとは、街道に出て旅客に見つからないように隠れる練習をし、それが終わると道場に数人の訓練仲間と一緒に集合が掛けられ、世鬼の訓話が始まった。


「それでは、今回の仕事の手付金を受け取ってください。仕事の内容の説明に移ります。まず、三本松城を包囲している大内勢が出している伝令を仕留める仕事があります。次に、佐東銀山城・己斐城・草津城・桜尾城の4城と、厳島に三本松で陶軍が劣勢、敗走直前なので安芸の国人衆に援軍を求めていると噂を立てます。ここまではよろしいですか?」


「仕留めた伝令が書状とかを持っていた場合はどうしますか?」


「佐伯にいる平賀様に世鬼の者と伝えてお預けください」


「依頼の成功条件はどうなりますか?」


「陶の軍勢の退却で今回の件は達成になります。陶晴賢の首を取ってきたら金100両の報酬はありますが、あまりそればかり狙っていては今回の依頼を失敗扱いにしますので、気をつけてください。」


「失敗扱いの場合はどうなりますか?」


「現場で最低でも5日は仕事していただき、命を落としてなければ銀7貫はどこに使ったのかを詳しく説明し、説明できない分は返上、実行報酬は3貫になります。現場に出ていない場合は全額返上です。」


「経費は仕事着の調達とかも含みますか?」


「仕事着、調略に掛かる食費、酒代、宿代などは経費です。三本松からの往還に関係ない場所での宿代などは自腹です」


説明を聞いていた左衛門は、これはしめたと、上機嫌になった。 嬉しさが顔に出ないように我慢するので精一杯だった。 説明が終わると、早速全員の受け持ちの方角が決まり、左衛門は三本松から佐伯方面を監視することになった。


早速地御前の宿屋へと移動する左衛門、陶の軍勢が退却するまでこの近くで飲んで食って遊んでいてよいというのだ、その資金まで頂いたと合っては、この上ない楽な仕事ではないか、と思いながら、地御前の廿日市で早速衣装を仕立てに行く左衛門であった。


槍と侍の服装を宿に預け、武道着と商人風の服装を仕立てる左衛門、早速商人の服装で伴部や大町の宿の食堂を訪問し、怪しい客がいないか見回るが、流石に一人も見当たらなかった。


山陽道を厳島方面へと進んでいくと、大町方面から槍を持った足軽が一人で走っているのが見えたので、声を掛けてみた。


「大内勢の者か?」


「そうだ、急いでいるので、道を開けてくれ」


足軽が通り過ぎようとしたところを、真後ろから苦無を2つ投げる左衛門、足軽が槍を落として転んだところを近づきとどめを刺し、懐を探ってみる。


懐からは書状が出てきたので自分の懐に入れ、財布と腰の兵糧も奪い、道端の水路へと足軽を落とす左衛門、これはしめたと早速安芸郡へと向かい、街道を戻っていく。

佐伯の大町に行くと、平賀衆の館に行き、書状を手に入れたと伝えると、小さな紙の符札のようなものを渡された。


とりあえず1件は達成できたのでせっかくだから宮島に神社見物に行ってみると、宿屋の女中さんが戦になるかもしれないと言うので、世鬼から言われた噂話を伝えると、女中さんが早速噂話を宿場中に触れ回り始めた。


翌朝になると陶が石見の吉見を攻めあぐね、敗走確実だという噂が島中に流れていた。夕刻になると毛利の軍勢が対岸の桜尾城を落としたという話が聞こえ、島の衆は毛利勢に付くとすでに長老衆が決めており、対岸に使いの使者を出すという話が聞こえてきた。


折角だからと左衛門もその船に同乗して桜尾城に行くと、城門外の毛利軍の中から自分を呼ぶ声がしたのであった。


「星野どの!世鬼から聞きましたぞ」


国司元相であった。鎧兜で全身武装をしているので、以前あったときのような人の良さそうな老爺ではなく、頑強な武将として、配下を連れていた。聞くと、明朝の軍議に城に登るところで、折角ならば一緒に行こうという話になるのであった。









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