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アトランティス王国

紗良は混乱していた。


ちょっとしたミステリー好きの人間ならば誰でも知っているであろう「アトランティス」、その名前が付けられた国なのであるから。


こう見えても紗良はかなりのミステリーマニアで特に興味を惹かれていたのが、遥か昔に神々の怒りに触れ、たった一晩で海底に沈められたと言われる「アトランティス」の話である。


(この国が、あのアトランティスだって言うの・・・?まさか・・・!)


「紗良!」


そこで紗良は、ハッとなった。


気が付けばアドニスが両肩を掴んで心配そうに紗良の顔を覗き込んでいる。


「どうしたんだ?紗良。顔色が真っ青だ・・・気分でも悪いのかい?」


「ご・ごめんなさい。ちょっと疲れてボーッとしちゃっていたみたい。」


紗良は慌ててごまかした。


「無理もない。突然知らない世界に来られたのですから・・・貴女様のお部屋をすぐに用意させますので、まずはお休み下さい。」


宰相が紗良の前に出てきた。


「ありがとうございます・・・。あの・・この国の国王様ですか?」


アドニスに支えられたまま紗良は尋ねた。


「これは、国王様などと、滅相もございません。私はこの国の宰相を務めております。以後、お見知りおきを。誰か!すぐに巫女姫様のお部屋の用意を!」


宰相は自己紹介をすると、すぐに家臣に命じた。


「すまなかった、紗良。まずは応接間に行こう。歩けるかい?」


アドニスは紗良に尋ねた。


「もう大丈夫よ、アドニス。歩けるから。」


アドニスの案内で紗良は城の中へ案内された。


城の中は見事な光景だった。


白い壁は大理石で出来ており、至る部分に見事な彫刻が施され、彫刻部分は黄金色に光り輝き、部屋に点在している彫像も見事な造りで床は黒と白のダイヤ柄の大理石で出来ている。


高さ数十メートルはあろうかと思われる高い天井を見上げれば、そこにも見事な壁画が描かれ、巨大なガラスで出来たシャンデリアが幾つも吊り下げられている。


アーチ形の窓からは美しい庭園も見る事が出来、この城がいかに贅を尽くした建造物かは見て取れた。


(まるでヴェルサイユ宮殿のよう・・・。)


紗良は高校生の時に両親とフランスへ旅行した事があり、そこで見学したヴェルサイユ宮殿の事を思い出していた。


(アトランティス王国と聞いていたから、もっと変わった城の造りだと思っていたけど、何だかまるで中世のお城みたいね。)


紗良が歩きながら周りをキョロキョロ見ていると、側にユリウスがやってきて紗良に話しかけて来た。


「貴女は兄さんから紗良って呼ばれているんだね。僕もそう呼んでいい?」


「え?勿論いいわよ。」


「それじゃあ、僕の事もユリウスって呼んでくれる?」


「ん・・と、それじゃユリウス、これからよろしくね。あ・皇子様だからこんな口の利き方は失礼ですね。どうぞよろしくお願い致します。」


するとユリウスは不満そうに言った。


「敬語なんか使わないでよ、兄さんと同じように話してくれる?それよりも紗良は何歳なの?あ・女性に年齢なんか尋ねたら失礼かな?」


「私は、今20歳よ。」


「それじゃ、兄さんと同じ歳だ。・・・それで僕よりも4歳年上・・。」


「アドニスは私と同じ歳だったのね。でもやっぱり皇子様だけあって、私の知ってる男の人達よりもしっかりしてる・・流石、皇子様。」


紗良はアドニスに聞こえない様に小声でささやいた。


するとそれを聞いたユリウスがむきになって言った。


「ぼ・僕だって!確かに僕はまだ16歳で、身長も兄さんよりは低いし、頼り無いかもしれないけれど・・・いつかは兄さんを支えられるような男になるつもりだよ!」


「う・うん・・?頑張ってね?」


(おかしいな・・・どうしてまだ会って間もない紗良に、こんな話してるんだろう?子供に思われるのが嫌なのか?)


ユリウスは傍らを歩く紗良の姿を横目で見た。


長く美しい黒髪に合わせた同じ色の瞳、そして極めつけは紗良の衣装。


この国のすべての女性が足元まで続くスカートに長袖の衣類を着用しているのに、紗良の着ている衣類は全くの別物で、膝丈までの裾が広がったズボンからはスラリとした足を出し、つま先が見えている靴を履いている。


そして、肩部分にフリルの付いた袖の無い胸元が少し開いたシャツから覗いた首元には小さな星を模ったネックレスをしているのが見て取れ、ユリウスに限らず、城にいた人々からも目のやり場に困るような衣装であった。


ユリウスは、紗良と初めて会った時からその強烈な印象に惹かれてしまっていた事にまだ気付いていなかったのである。



 「この部屋だよ。紗良、どうぞ中へ。」


アドニスはある扉の前で立ち止まると、ドアを開けた。


室内はとても広く、床に敷かれた絨毯は美しい花柄で、それに合わせたかのように部屋の隅々には大きな花瓶に色鮮やかな花が生けられている。


「紗良、このソファに座って。」


ユリウスは美しい模様が編み込まれたソファに座らせ、向かい側にアドニスと並んで座った。


アドニスは応接間まで付いてきた宰相に目をやると言った。


「宰相、すまないが席を外してもらえないか?3人だけで話をしたい。」


「な、何をおっしゃるのですか、アドニス様。私は国の宰相としてこの場を離れるわけには・・・。」


慌てた宰相にアドニスは畳みかけるように言った。


「巫女姫の様子が心配だ。宰相には彼女を見守る義務がある、そうだろう?」


「う・・・くっ!」


宰相は二の句が継げなかった。


自分の権力をより強固なものにする為、自分の孫のワイズと10歳以上も年下のアスタリスの結婚を強引に推し進めた張本人なのであるから。


アドニスもそれを承知の上で、宰相をこの場から下がらせる為にアスタリスの話を持ち出したのである。


「わ・・・分かりました、アドニス様。巫女姫様の元へ参ります。」


宰相は言うと、部屋を後にした。


「・・・・。」


紗良は無言で宰相の出て行く姿を見つめていた。


(何だろう、あの人から嫌な物を感じる・・・)


実は紗良には人とは違う特殊な力があった。


それは人の心や、物に宿る思念を読み取れる力である。


けれどもこの秘密は誰にも教えてないし、知られてしまうと気味悪がられるのが分かっていたので、ずっと隠してきた力である。


最も全ての心の内や思念を読む事は出来ず、その「思い」が強ければ強いほど、読み取れるし、触れないと読み取る事も出来ない。


ただ、この並行世界パラレルワールドに来てからは自分の力が強くなってきている気がしている。


現にあの宰相からは、只ならぬ気配を感じた。


(嫌な予感がする・・・。)


紗良は無意識に自分の両肩を抱いていた。


「紗良、大丈夫かい?やはり気分が悪いのでは?」


アドニスが心配そうに尋ねた。


「少し部屋で休んだ方がいいんじゃない?」


ユリウスも心配そうに紗良を見つめて言った。


「ううん、大丈夫。それよりも大事な話があるのでしょう?私も二人に訊きたいことが山ほどあるし。」


紗良は首を振った。


「紗良はどこまで兄さんから話を聞いているの?」


紗良はアドニスをチラリと見ると質問に答えた。


「まだあまり詳しくは・・・この国は巫女姫の魔力を享受して火や水を使いこなして生活しているけれども、その巫女姫の命が今尽きかけていて、魔力も消えかかっていると言う事位しか・・。」


「あまり時間が無くて、それ以上の事は話せていないんだ。それに、ここから先はユリウスの方が説明するのに向いているかと思ってね。」


アドニスはユリウスに言った。


「それじゃ、ここから先は僕が説明するよ。この国は代々巫女姫によって支えられてきた。いわば、王族よりも尊い存在なんだ。巫女姫は必ず次の世代へずっと同じ血が受け継がれてきている。だから巫女姫はその存在を途切れさせない為に結婚をし、不思議と必ず女の子を出産している。母親の寿命が尽きると、新しい巫女姫が自動的に魔力を引き継ぐようになっているんだよ。」


「結婚すれば必ず女の子が産まれてくるなんて、そんな偶然が本当にあるの?」


紗良には到底信じられる話では無かったが、そこで紗良にはある疑問が生じた。


「ねえ、今まで巫女姫が女の子を産む前に亡くなってしまった事は一度も無かったの?」


「嫌・・。過去に一度だけあるよ。今から300年程前にね。そして、今まさに300年前と同じ事が起ころうとしている。」


アドニスはゆっくりと言った。


「それで、300年前はどうしたの・・・・?」


嫌な予感がしたが、紗良は敢えて尋ねた。


「召喚魔法を使って、巫女姫と同じ力を持つ女性を呼び寄せたんだ。紗良、貴女のように。どうか巫女姫になる事を承諾して頂けますか?もう時間が無いんだ。」


ユリウスは紗良の側に来ると、膝を付いて頭を下げた。


「そんな、私は・・・・・。」


紗良はアドニスの顔を見つめた。


(お願い、アドニス。何か言って!貴女は私を元の世界に戻してくれると約束してくれたでしょう?)


紗良は心の中で強く思った。


アドニスは紗良の自分を見つめる瞳が強く自分に訴えかけているのに気が付いていた。


(駄目だ・・・!やっぱり紗良を巻き込んではいけない・・・。)


「ユリウス、実は紗良の事について相談したい事が・・・。」


アドニスがそこまで言いかけた時、ドアの外から宰相の慌てた声が聞こえた。


「アドニス様!ユリウス様!巫女姫様が・・・意識を取り戻しました!どうかお部屋へお急ぎください!」


「何だって!」


それを聞いたアドニスとユリウスは同時に声を挙げたのである。










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