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一、死ぬにはいい日だ

皆様始めまして。この小説の閲覧ありがとうございます


一人称は慣れない視点ですが楽しんでいただければ幸いです。


疑問などは感想に、どうぞ

 あー……………………いい天気だ。こんな日に酒飲んで昼寝なんて出来れば最高だろうな。

 くそ不味い、度数だけが高いだけの支給品でも美味しく呑めそうだ。

 空見あげて、何してるのかって?

 見りゃ分かるだろ、現実逃避さ。何せこれから──────

 

「総員ッ!!!注目ッ!!!」

 

 っと、ルッセェなぁ相変わらず。

 あん?あれが誰かって?

 あの赤毛の眼帯は俺達の上官様さ。

 名前は…………何てったかな…………カシコ?

 

「貴様ら肉壁は、この私、キャリコの命を聞けばそれで良いのだ!」

 

 あ、そうだ、キャリコ大隊長だった。

 いやー、かれこれ俺がこの部隊に配属されてから四回は大隊長って変わってるから覚えきれねぇよ。

 というか、俺と同期の奴とか既にグチャミソミンチになってるし。

 お陰で識別票も俺の割り振られた、蛸部屋の一角に山が出来てら。

 因みに識別票ってのはこれな。この首からチェーン通して下げてる二枚の鉄製の札。

 俺たちは兵隊だからないつ何処で死ぬのかなんて分からねぇ。だから、全員にこの識別票が配られて肌身放さず持っとかなきゃいけねぇんだ。

 ま、唯一の存在証明的なもんだな。

 他にも支給品はくそぼろい剣とか、胸当て、籠手位だな。あと、服。

 俺のは擦れまくったり、雨に濡れたりで、色が薄くなってるが元々は上下黒の皮服だ。これも安物。新兵の黒が眩しいぜ。

 

「貴様ら肉壁の代わりなど幾らでもある!故にこの戦いで命ずるは一つのみ!ひたすらの突撃だ!最後の一兵になろうとも突撃し続けろ!それが貴様らの仕事だッ!!!」

 

 毎度思うが、この大声どうにかならんもんかね。それともあれか?大隊長は声がでかいことも条件なのか?

 ま、どうでも良いがな。生きるか、死ぬか何て今更だし。

 さっきから言ってる肉壁ってのは、俺達の事さ。

 文字通り、肉の壁。だいたいこの広場で5000人は居るかね。みんな揃いのヘボ装備一式。

 仕事は、死ぬこと。そして一秒でも長く時間を稼ぐこと。

 まあ、ぶっちゃけ、この人数で一人二人生き残れば幸運だよな。基本的に全滅が普通だし。

 

「では、戦地へと向かう!総員、進め!!」

 

 ま、続きは道中で、な。

 

 

 ×××××

 

 

 広々とした大海原。

 どこまでも続くような、そんな世界に、突如として異物が転がり込む。

 大きな、大きな大陸だな。

 

 【パンタゴニア】

 

 王族が治める巨大な王国である。

 大きさはユーラシア大陸とアフリカ大陸を引っ付けた程の広さ。多種多様な自然環境が見られるが、基本は草原と森林が点在する緑豊かな地だ。

 

 だが、今はその大陸に戦乱が訪れている。

 

 【魔界】

 

 突如として現れた異形の軍団。13人の魔族による襲撃だった。

 彼らは『魔鉄ノ兵』と呼ばれるモノを操り侵攻してくる。

 この魔鉄ノ兵は名前の通り『魔鉄』と呼ばれる魔界原産の特殊な金属で造られた、命を持たぬ人形兵器。

 それぞれに段位が設定されており、最も多いのは『ポーン』次いで『ルーク』『ナイト』『ビショップ』そして『クイーン』と『キング』

 まるっきりチェスの駒だが、その数はチェスにそった量ではない。

 更に質の悪い事に、この魔鉄ノ兵一体一体で村一つ滅ぼせる程度には強いのだ。

 そこで、王国はある手法をとってしまった。

 とらざるを得なかったからこそとってしまったのだ。

 

 

 ×××××

 

 

 ふぃー、オジさんにはこの坂道は辛いぜ全く。

 爺臭いって?こちとら三十路だバカヤロー。

 オマケに背中には大事な食料と、命の水が入ってるんでな。因みに命の水を飲むといい気分になれる。

 後は、白い粉が入った小袋。ま、痛み止めだな。後は、恐怖心を忘れさせる薬だ。

 俺達肉壁兵ってのは死ぬのが仕事だがよ。死ぬってのは生物的に恐怖するもんなのさ。

 当たり前だよな?誰だって死ぬのは怖い。

 その時に使うのがこの薬。水に溶かすか、火に炙って吸い込む、若しくは注射器でブッスリやればあら不思議、疲れと恐怖はお空の彼方、てな。

 ま、時々、理性もお空の彼方に吹っ飛んで、突っ込むバカも居るには居る。

 結局死ぬことには変わりないからあんまり関係無いがな。

 

「総員!警戒体勢をとれ!」

 

 ん?

 

「魔鉄ノ兵だ!ポーンが四体!ルークが一体居るぞーーーッ!!」

 

 前の方が騒がしいと思ったらお仕事だな。

 気づけばここは平野だ。随分と考え込みすぎたらしい。

 さて、お仕事お仕事っと。

 

「総員進めェエエエエエ!!!」

 

 大隊長の号令を皮切りに俺たちは遮二無二、魔鉄ノ兵へと突貫していく。

 奴等の大きさはだいたいポーンで三メートル、ルークは五メートルって所か。

 見た目は、普通の騎士みたいな奴等と、城壁みたいな奴だ。

 どっちもくそ強い。特にルークはこっちが剣を打ち付ければへし折られる程度には硬い。

 ポーンは見た目騎士甲冑だからな、鎧の隙間を狙えばワンチャン、辛うじて、あるかな。こっちもクソ強いけど。

 あーあー、言わんこっちゃない。もう2、300はミンチってるな。

 さて、俺も逝くとしようか。

 

 

 ×××××

 

 

 王都より北西に凡そ十キロ地点の平野。

 そこは地獄と化していた。

 

「怯むなァ!ここで止められなければ貴様らに生きる価値は無いと知れ!」

 

 赤毛のキャリコ大隊長が指揮棒代わりの剣を振るい、それに合わせて、5000の肉壁達が絶望へと向かっていく。

 

 魔鉄ノ兵、それが絶望の名だ。

 暗い紫色の金属光沢を持ち、総じて彼らの目元は赤く輝いている。

 ルークはそのゴツゴツとした巨大な拳に、ポーン達は標準装備の両刃の剣を振るって、向かってくる肉壁達を叩き潰し、切り裂いていく。

 

 既に残りは2000を切った。それでも彼らの突撃は止まらない

 無駄死にか?否だ。

 例え最後の一兵が大地を彩る赤い染みとなろうとも、彼らの死は無駄とはならない。

 残り500。キャリコは剣を構えて突撃の構えを見せる。

 大隊長であろうとも、突撃せねばならない。

 残り200、彼女の前にポーンの一体が現れる。

 

 高々と掲げられた両刃の剣。魔鉄ノ兵は人形だ。掛け声を上げること無く、凄まじい風切り音をたてて振り下ろした。

 瞬間、死を覚悟する。叩き潰されるまで、二秒と掛からない。

 

「いや、避けろよ」

 

 が、そんな言葉と共に押され彼女と周りに居た数人はその場を弾き出されていた。

 

「何をするんだ貴様はァ!私は上官だぞ!」

「上官なら速攻で死なんでくださいよ、まったく」

 

 立っていたのは灰色の髪をした男。

 この状況でヘラヘラとしており、不精ひげそのままの彼は見るからにやる気が無さそうに見える。というか不潔だ。

 

「まあ、なんだ、もう少し粘りましょうや」

 

 腰に佩いた剣に手をかけ引き抜く。

 そして、駆け出した。

 目指すはポーン。相手側も気付いたらしく、迎撃の構えだ。

 

「生憎さま、オジさんお前さん達と真っ正面から切り合う気はないのさ」

 

 横薙ぎに振るわれた剣を男はスライディングするようにかわす。そのままポーンの股下を潜り抜けて背後をとった。

 

「セイッ!」

 

 直ぐに立ち上り、バットでフルスイングするように剣を両手で持ち、その無防備な膝裏へと一撃叩き込む。

 甲冑は見た目こそ、防御に優れているようにも見えるが、その実弱点も多い。

 装甲の硬さにはムラがあり、特に関節部は脆い。

 次に、打撃に弱い。内側に衝撃が籠って反響しやすいためだ。

 

 まあ、それは人間が身に付けている場合の話。少なくとも魔鉄ノ兵に関しては打撃よりも関節狙いの方が無難だ。

 

「ほぉーれ、膝カックンだ!」

 

 一瞬だけ揺らいだ瞬間を男は逃がさない。直ぐ様その場で回転し、遠心力を乗せたフルスイングを逆の膝裏へと叩き込んでいた。

 ポーンは片手に剣を持ち、空いた手で何度か宙を掻くと、グラリと後ろへと倒れ始める。既に男はその場を退散していた。

 

 ドスン、と響く重たい鉄の音。同時に残りの魔鉄ノ兵達も気付いたらしく、男へと襲い掛かってくる。

 

「あの男だけにやらせるな!!突撃ィ!!!」

 

 そこに響くキャリコの号令。残りの兵達が一斉に、魔鉄ノ兵へと取りつくように飛び掛かる。

 そして、その度に振り払われ、何人もの肉壁がミンチへと変えられていく。

 そんな中で魔鉄ノ兵をひっくり返した男はポーンとルークに追い回されていた。

 

「ぐっ…………この…………!」

 

 振るわれる剣をどうにか受け流しながら、男は血を流す。

 重量はそのまま威力の差になる。如何に守勢に長けた彼でも圧倒的なウェイトの差に受け流す度に体はボロボロになっていった。

 

 既に隊は壊滅している。生き残りも、男とキャリコ含めて十人程だ。

 

「…………ここまでだな」

 

 キャリコは呟くと、懐からあるものを取り出した。

 それは水晶。禍禍しい紫色をしており、見るからに危険物だ。

 彼女はその手を振り上げ──────

 

「待った!」

 

 ソレを男が押し留めた。

 

「何をする!ここでコイツらを止めないと国が滅ぶんだぞ!?」

「女神様がもうすぐ来るだろうが!死ぬまで生き恥さらそうじゃねぇか!!」

 

 男が叫び、周りの生き残りもニヤリと笑って魔鉄ノ兵へと飛び掛かっていく。

 この中で一番の年下はキャリコだ。そして最年長は灰髪の男。

 周りの生き残りも、今までの戦場で死に損なった者達ばかりだ。

 

 全員が各自でズボンのポケットからある小袋を取り出した。その中身を用法用量守ること無く飲み干す。

 瞬間、全員の目が据わった。同時に飛び出す。

 

 身体能力はそこまで変わらない。

 変わったのは精神と、そして痛覚。

 肉体は無痛症に、精神からは恐怖心が排除され、ふわふわとしている様な感覚だけが体に残る。

 

 『死兵薬』

 

 一度飲めば、服用者の全てをぶっ飛ばしてしまい、完全に息絶えるまで腕が飛ぼうが足が飛ぼうが、頭が半分吹っ飛ぼうが前へと進み続ける。

 現に腕が飛ぼうが、衝撃で両目が飛び出そうが、彼らは向かっていく。

 

 彼らは知っているのだ。この一秒が、必ず意味のある一秒だ、と。

 

「ゴッファ…………!」

 

 ルークの文字通り鉄拳を正面から受け、全人の骨をメチャメチャにされた男は数メートル吹っ飛び倒れた。

 既に他の面子も死に絶えた。若しくは虫の息で這いつくばっている。

 

「ここまで、だな…………」

 

 キャリコは今度こそ、水晶を高々と掲げた。

 これは一種の爆弾だ。衝撃を受けると、半径数キロに渡って、魔力による大爆発を巻き起こす。

 思わず、振り上げた手が震えた。これを使えば確実に、死ぬ。

 

「王国、バンザーーーーーイ!!!」

 

 涙を浮かべ、その手を振り下ろし────────

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