表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

いいひと

 数をこなしていくと、不治の病は完治こそしないが次第に病状が良くなっていった。代わりに同じだけアカリの心は壊れていった。

 トオルと会うたびに、アカリは縋りつき声をあげて泣いた。シャボン玉のように生まれては消えていく言葉を、繋ぐように何度も何度も繰り返した。

「愛してるよ」

 ただそれだけしか信じられる言葉がなかった。

 ただそれだけしか伝えられる言葉がなかった。

 アカリの綺麗だった瞳は、日が経つにつれて濁っていった。会う頻度も少なくなっていった。

 トオルが会いたいと言っても、アカリが断っていた。

 気付けば二人が体を交わすこともなくなってしまった。


 その間も、ただただアカリはたくさんの男と性行為を繰り返した。だんだん自分の本当の目的も忘れてしまった。

 中にはアカリを道具のように扱う男もいた。酷いこともされた。複数でしたこともあった。毎日がその繰り返しだった。


 愛ってなんだっけ?

 昔はもっと簡単に答えられたような気がする。温かくて優しくて、クスクスと小さく微笑むような、そんなものだったような気がした。

 しかし、頭で分からないままでも体は愛を受け入れていく。たくさんの愛を受けて、アカリの病気はなくなっていく。心を道づれにして。

 消えてしまいそうだった。出来れば消えてしまいたかった。病気がなくなるときに一緒に、自分も消えればどれだけ楽だっただろうか。


 ……もう合わせる顔がないよ。

 たくさんの嘘をついた。たくさんの人を騙した。たくさん悪いことをしてしまった。

 いい人でいたかった。いい人のままトオル君の隣を歩きたかった。いい人のまま、触れたかった。愛したかった。

 トオル君には幸せになって欲しい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ