いいひと
数をこなしていくと、不治の病は完治こそしないが次第に病状が良くなっていった。代わりに同じだけアカリの心は壊れていった。
トオルと会うたびに、アカリは縋りつき声をあげて泣いた。シャボン玉のように生まれては消えていく言葉を、繋ぐように何度も何度も繰り返した。
「愛してるよ」
ただそれだけしか信じられる言葉がなかった。
ただそれだけしか伝えられる言葉がなかった。
アカリの綺麗だった瞳は、日が経つにつれて濁っていった。会う頻度も少なくなっていった。
トオルが会いたいと言っても、アカリが断っていた。
気付けば二人が体を交わすこともなくなってしまった。
その間も、ただただアカリはたくさんの男と性行為を繰り返した。だんだん自分の本当の目的も忘れてしまった。
中にはアカリを道具のように扱う男もいた。酷いこともされた。複数でしたこともあった。毎日がその繰り返しだった。
愛ってなんだっけ?
昔はもっと簡単に答えられたような気がする。温かくて優しくて、クスクスと小さく微笑むような、そんなものだったような気がした。
しかし、頭で分からないままでも体は愛を受け入れていく。たくさんの愛を受けて、アカリの病気はなくなっていく。心を道づれにして。
消えてしまいそうだった。出来れば消えてしまいたかった。病気がなくなるときに一緒に、自分も消えればどれだけ楽だっただろうか。
……もう合わせる顔がないよ。
たくさんの嘘をついた。たくさんの人を騙した。たくさん悪いことをしてしまった。
いい人でいたかった。いい人のままトオル君の隣を歩きたかった。いい人のまま、触れたかった。愛したかった。
トオル君には幸せになって欲しい。