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第96話 怪象現れる

【フリーダ視点】


「休みだって言うのに付き合わせちゃってごめんな」

 

 街を歩きながらわたしは医者へ行く途中に出会い、そのまま付き添ってくれたクリスに礼を言う。

 まあ、ほぼセシルが強制的に同行させた感じだけどな。


「あ、いえ。そんなの……だって……」


 結構あたふたしているクリスにセシルが苦笑する。


「だって、いずれあたし達は『家族』になるんですから。こうやって外堀を少しずつ埋めていきましょう」


「そ、それは……えーと……今の所、そのつもり……ですけど…………」


 クリスは気まずそうにわたしやナギを見ている。

 まあ、そりゃわたし達と話をするのは初めてだからなぁ。

 特にナギの事はかなり怖がっている。

 途中からナギはほとんど喋らずじーっとクリスを睨んでいるからな。

 何となく理由はわかってるから放っておいたが流石にかわいそうになってきた。


「ナギ。あんたが難しい顔をし過ぎてクリスが怖がってる」


「え!?あっ……」

 

 わたしの指摘でナギも自分がどんな表情をしていたか気づいた様だ。


「それで、どこまで絞れたんだい?クリスの『あだ名』」


 わたしの問いにナギは『さすがだね』と笑みをこぼした。

 何のことかわからず戸惑うクリスにセシルが説明する。


「ナギは気に入った人に『あだ名』をつけて呼ぶ癖があるんですよ。あたしも最初はただの『セシル』でしたからね」


 ナギのあだ名はどれくらい好感を抱いているかがわかりやす指標だ。

 そこでいつも通り『あだ名』をつけようとしたがここで問題が起きた。

 控えめに言って『クリス』自体が完成された愛称なんだよな。

 

「うーん、クリスティーナが本名でしょ?『リズ』だとママさんと同じだし『ティーナ』っていうのも何かイマイチ納得いかないし……『クリティ』?うーん……アル、おかーさんちょっと困っちゃってるよ」


 母親の言葉にアルは『だぁだぁ、うー』といつも通りの返答。

 するとナギはポンッと手を打ちクリスの方を指さす。


「そうだ、『リスティ』!うんうん、これだよ。流石はナギの坊やだねー。凄い凄い」


 ナギは笑顔でアルの頭を撫でていた。

 どうやらあのふたりの間でしかわからない何らかのやり取りがあったぽいな。


「……というわけだ。良かったじゃないか」


「はぁ……」


 わたしはクリスの目を見て口元を緩めた。


「わたしもさ、ちょっと話をしてみて、あんたとならイケるって確信したよ」


「そうだね。ナギもその意見にはさんせーだよ」


「まあ、年齢的にはまだ少し早いからあいつに勝負をかけるのはまだ先になるけどな。その時はわたし達も協力するからさ」


 クリスが顔を赤くして俯く。

 そしてスケッチブックを取り出すと何やら書き初めこちらに提示。


『ありがとうございます』


「あらあら、やっぱりその癖は抜けてないんですね」


 多分恥ずかしさとかが頂点に来るとこうなるんだろうな。


「とりあえずはジェス君にクリスが女の子だって認識させないといけませんね」


「あーそっか。ホマ、男の子だって勘違いしたままなんだっけ?」


 あいつは変な所で鈍いからなぁ。

 クリスもいろいろ苦労するな。


「あう……」


「大丈夫ですよ。髪だって伸ばしたし、1年前より格段に女の子らしくなりましたよ?フリーダの真似なんかしなくても十分イケるって言った通りだたでしょ?」


 そういやこの娘、一時期ホマレに振り向いてもらいたくてわたしの真似をしてたってセシルが言っていたな。

 いじらしいと思ったものだよ。だけど、セシルの言う通りわたしの真似なんかしなくても十分かわいいよな。


「あんたは凄く魅力的だよ。だから、自分に自信を持ちな」


 わたしの言葉にクリスが笑顔で頷く。


「ねぇ、何か妙に騒がしくないですか?」


「え?確かに何か騒がしい気が……」


「あっ、ホントだ。これちょっとマズイかも……」

 

 ナギが苦い顔をする。

 まさかこれって久々にわたしが『引き寄せちゃった』か!?


【ホマレ視点】


 通りを走り追跡。武器を手に持つブロームに追いつく。


「はいはい。こんな往来で武器出しちゃダメでしょ?ちょっと同行してもらうぞ」


 ブロームはこちらを見ると露骨な舌打ちをして刃を向ける。

 あれあれ、ダメだって。警備兵にそれは悪手すぎだろ。


「イザヨイ。ここは俺が何とかするから転がって行った首を何とかしてくれ」


「放っておきたいがあのままでは混乱を引き起こしかねないからな。承知した!!」


 駆け抜けていくイザヨイを目で追いつつブロームはこちらを睨んでいた。


「困るんですけどねー。こっちとしても金が居るんですよ」


「そっちにも事情があるだろけどさ、そんなもん振り回されたら一般市民が困るわけだ。今なら武器を俺に向けたのはただの偶然ってことにしてあげるから、とりあえず武器を納めよう。な?」 


 ブロームは冷たい目で魔力を練り始める。

 あっ、これもしかして俺が下手に出てるからぶっ飛ばして先へ進めるとか思った?

 舐められちゃってるパターン?

 練り込まれた魔力はやがて雷属性の性質を帯び始める。


「おいおい、マジかよ」


 何てことだ。こいつまさか…………あれだけ長く魔力を溜めて『この程度』の術しか発動できないのか!?

 ウチの嫁の方が……フリーダなら武器の補助があるとはいえあれくらいノーチャージだぞ!?


「くらえ、我が必殺の『雷帝撃』ッッ!!」


 雷の魔法が迸る。えー、マジかぁ。

 何というか名前の割に威力はショボい。初級魔法に毛が生えたような威力だ。

 これだとナギの『ビリビリボイス』の方がよっぽど効くぞ?


「ハハハハ、威力は抑えておいた。そこで大人しく寝ている事だなぁっ!」


「はい。とりあえず警備兵への暴行で成敗な」


「へっ!?」


 俺は涼しい顔で近づいて行くと剣の柄でブロームを打ち据えて昏倒させた。

 何だったんだこいつ……職務の執行妨害やらかして自滅したぞ?


「さて、首の捜索でもすると……」


 瞬間、何かが倒れる音と悲鳴が轟いた。

 嫌な予感にかられ音のした方へ行くと荷馬車が倒れており中身が無い壊れた巨大な檻が転がっていた。


「イザヨイ!どうした!?」


 けが人を介抱しているイザヨイに声をかける。


「転がってきたあのバカ首に驚いて荷馬車が横転したんだ。それで、積んでいたモンスターがあっちへ逃げ出したんだ!!」


 あのバカ野郎。どこまでも厄介な事をしやがって。

 というかモンスターを街中で輸送するなよ。『逃げて騒動を起こしてください』って言ってるようなものじゃん。


「気をつけろ、逃げたのは『ガネシアン』だ!」


 うわ、またこりゃ面倒くさいのが逃げたな。

 報告書が膨大なものになるぞ?


「イザヨイ、お前はこことあっちで伸びてる転売ヤーの仲間を頼む。俺はモンスターを追う!!」


 街中でモンスターが逃げるとか最悪じゃねぇか!!

 首の事はとりあえず放っておこう。後で指名手配かけてやる!!


 瞬間、俺の耳に『声』が飛んで来た。


「これは……アル!?」


 息子の泣き声が俺の耳に飛び込んできた。


□□

【フリーダ視点】

 

 騒ぎが起きて間もなく、大きな足音と共にわたし達がいる通りに一体のモンスターが姿を現した。

 三つ目の水色に近い青緑色をした象の顔から二本の巨大な脚が生えているモンスター。あれは……


「オルドール遺跡平原に生息する肉食性の象型モンスター、『ガネシアン』です!!」


 クリスが驚きの声をあげた。

 流石は受付嬢。よく勉強しているな。


「良かった。特殊個体は引いていなかったみたいだ」


「ええっ?そういう問題ですか!?」


 クリスがわたしの顔を見る。


「フィリー、特殊個体引きすぎて感覚バグってるよね?」


 ナギが乳母車からアルを抱き上げていた。逃げる準備だ。

 まあ、異論はない。確かに感覚はおかしいかもしれないな。

 参ったなぁ、大分制御できるようになってたのに久々に引いちゃったかぁ。

 ここの所色々と体調悪くて弱ってたからなぁ……


「フリーダは今アレですし、ナギはアルとクリスを守ってください。ここはあたしが『3番目』の強さをお見せします。美しくそして鮮やかに!月禍美刃(げっかびじん)ッッ!!」


 全身を凶器に変えての回転タックルはガネシアンの蹴りであっさり弾かれセシルの身体が宙を舞う。

 

「わわっ!?」


 3番目の強さは?とりあえず、あれはマズイな。


保護網糸(セーフティネット)!」


 糸を束ねて作った網でセシルを無事空中で受け止めた。

 参ったな。今日は流石に武器は持ってきていない。

 白糸(ホワイト)反射(リフレクト)であの蹴りを弾けるかと聞かれれば微妙だな。

 とりあえず時間稼ぎで雷糸回路(エレク・サーキット)で足元に罠を仕掛けたけど……

 

「ブシャァァァァァァッ!!」


 やっぱりな。秒で抜けられた。

 そうなるとこの状況で頼れるのはナギの『声』だけど防御と攻撃を両立できるほどの余裕は無いだろう。


「大丈夫、『来た』よ!!」

 

 ナギが上を見て叫んだ。


「獅子の凶爪ッッ!!」


 頭上からホマレが爪状武器で強襲しガネシアンの耳を斬り裂く。


「ホマレッッ!!」


「俺の家族に手を出すな!!」


「ナイスです、ジェス君。出してるのは脚ですけどね」

 

 セシルが無粋なツッコミを入れていたので網を解除して地面に落としてやった。


「フリーダ、酷いです!!」


 いや、今のは無粋な事を言うあんたが悪い。


「目隠しダストボイス!」


 ナギが『声』で砂埃を起こし周囲から一時的に見えなくする。

 意図を察したホマレは彫像型魔道具を取り出して叫ぶ。


「変身ッ!!」


 刀を装備したデュランダル【ブレードスタイル】に変身して振り回された鼻を刀で弾き突撃していく。


「ホマレさん……」


 クリスが名を呟く。

 そんな彼女の肩をセシルが背後から抱く。


「ほら、この娘も彼だって認識出来てるでしょ?しかも目の前での変身もOKです。これはもうアレなパターンでしょ?」


「ああ。聞いてはいたけど十分すぎるくらい『資格あり』だな」


「問題なのはホマの認識だね。アル、パパが頑張ってるよー。応援しようねー」


 こうして怪象とわたし達の旦那の戦いが始まった。


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