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第44話 大切なものを守る力

【ナギ視点】

 

 誰か、危険な奴が近づいている。

 そんな『音』を感じてホマレ達から離れた私は人気のない広場へ足を踏み入れる。

 恐らくは人払いがされているのだろう。


「久しぶりですね。『静寂の聖女』ナギ」


 広場に置いてあるベンチの腰かけるのはイリス王国で出会った聖女のひとり。

 かつては気弱な少女だったが今はその面影も無く自信にあふれた表情だ。


「はぁ。なーんか聖女っぽい『音』が聞こえるから誰かと思ったら、キミだったかぁ。『木彫り』あたりなら撒くの楽だったんだけどなぁ」


 『木彫りの聖女』こと60過ぎの『おじさん』であるライトさんなら遭遇してからでも十分逃げる余裕はある人。

 だけど『斬滅』はヤバいかも。彼女、セシルは『刃』を操る聖女。

 しかも問題なのは『自身の身体を刃に変化』させてしまうという事。

 つまりは全身凶器。攻防一体の殺意マシマシな能力者。


「追っ手を撃退して王国から脱走して1年弱。国に帰ってもらいますよ」


「だからさぁ、聖女はもう辞めたって言ったのにー」


「何が『辞めた』ですか。聖女とは神に仕え国の為に尽くし、災厄から民を守る重要な役職。それを簡単に辞められては困ります」


「そーいう重いやつ好きじゃない。ナギは別に聖女になりたかったわけじゃないし」


 そう。聖女のスカウトを受けたのはホマへの当てつけ。

 彼の中の『特別』を更新してやろうと色々な所へ連れまわして、自分をアピールして仲良くなったつもりだった。


 それで思い切って告白して押し倒して……リードしながら色々と触れ合ってこれからって時に『やっぱりダメだ』って断られて凄く悔しかったし情けなかった。


 聖女になってイリス王国に行ったらもしかしたら追いかけて来てくれるかもとか思ったけど……追いかけて来なくて凹んだ。恥ずかしいけど結構泣いた。

 しばらく聖女やって忘れようとしたけどそれでも諦めきれずに脱走して帰って来たんだよね。

 30にもなって子どもみたいな恋しか出来なくてさ。バカみたい。


「我儘ばかり言って!それなら力づくでも連れ帰りましょう!!」


 言うと同時にセシルがこちら目掛け走って来る。

 私は素早く『声』で自身の周りに『鎧』を作り上げるが。


「無駄な事を……鎧無大刃(がいむだいじん)ッッ!!」

 

 両腕から放たれる一振り。

 それが私の『アーマー』を一気に削った。


「嘘ッ!?攻撃力高い!!?」


「以前の、あなたにぼろ負けしていたあたしとは違います。あなたが逃げてから修練を積み、今やかつてあなたが居た聖女ランキング3位に上り詰めたんです!!」


 矢継ぎ早に繰り出される素手の一撃でアーマーが破壊されていき遂に衝撃が身体に到達する。


「ぐあっ!もうっ、サイアク!!」


 距離を取りながら『ランチャーソング』を放つも振るった腕に叩き斬られる。

 あー、ダメだ。これ負けちゃうかも。


 そう言えばイリス王国を抜けて帰って来た時、フィリーがホマの傍に居たのはショック大きかったよね。しかも10歳以上も年下ときたらなんか負けちゃったって感じ。


 だけどフィリーはとてもいい子で、勝ち負けなんかを考えた自分が馬鹿みたいだった。

 しかもあの子、私の事をお姉さんみたいに慕ってくれて、一緒にずっといたいって。そんな事を言ってくれた。


 私は生まれてすぐ施設に預けられた。

 不思議とその事でお母さんを恨む気は無かった。

 何かしら事情があったのだろうし、その事に触れる必要は無いから。

 

 昔から歌うのが好きだった。

 施設を出た後は兼ねてから興味があった動画配信で『歌ってみた』とかやってさ。

 フォロワーも結構いてゲームの主題歌歌わしてもらったりと順風満帆だったんだよね。

 だけど、コラボした子と恋愛関係でもめちゃって。そこから一瞬で転落。

 

 雑なコラ画像をばら撒かれて昔やらしいビデオに出ていたとか援助交際の常習者だとか色々根も葉もない噂されて。

 そしてついに私が戦後最大の大量殺人事件を起こした女性の娘だって暴露されて大炎上。活動休止に追い込まれた。


 だからさ、誰かと男を取り合うのはもうこりごり。

 フィリーから見たらオバサンなんだし、身を引こうと思ったのにな。

 何だろう。元日本人の私からしたら男をシェアするなんて絶対無理って思ったけど……フィリーとなら上手くいくんじゃないかなって思っちゃって。


 だけどやっぱり人生上手くいかないよね。

 追っ手が近づいて来てるのがわかっちゃって。このままじゃホマやフィリーはイリス王国を敵に回してしまう。

 だから、私に出来る事ってこれしかないよね。大暴れの末捕縛されて、そのまま連行される。

 私を捕縛さえすればふたりは安全に逃げられるはず。

 フィリーには『声』を送っておいた。

 

 ごめん。ホマとフィリーと一緒に居たかったけど、因果が回って来たから。

 だから、今の内に逃げて。大好きって……


「これでトドメ!!」


 セシルの腕が私を捕らえようとしたその時、腕が空中で止まり彼女の身体は大きく後ろに吹っ飛んだ。


「これって……」


白糸(ホワイト)反射(リフレクト)!」


 広場に飛び込んで来たのはフィリーだった。

 私の襟を掴むと叫ぶ。


「ナギ!あんた、バカ!いい加減にしろよ!わたしはナギと一緒がいいって!それなのにこんな事して!!バカ!バカ!バカ!超絶大バカ!!!」


「ッ!バカって連呼しないでよ。言ってる方がバカじゃん!そんなのわかってるよ!だけど相手はイリス王国だよ!?大陸有数の軍事国家。しかもそこの最高戦力のひとりが来てるの!このままじゃ、フィリーたちが王国に狙われるんだよ!?」


「だからどうしたんだよ!そんなこと聞いたらますます諦められるかよ!自分達だけ助かって幸せになんてなれるか!!」


 ああもうっ!この娘は本当に!!


「我が国と事を構える気ですか?場合によっては国際問題にまで発展しかねませんよ?いい事を教えてあげましょう。『殿下』も近くまで来ています。ナギならこの意味が解りますよね?」


「ッ!!」


 それは最悪すぎる。

 彼女が言う『殿下』とはイリシア・ランパディス・グレーシズ。

 イリス王国の第1王女にて聖女ランキング1位、『炎刃(えんじん)の聖女』。

 歯向かう者に対して容赦が無い己の正義を突き通す冷徹な女性だ。


「誰だろうがナギを連れて行くなんか許さない!ナギはわたしにとって『家族』なんだ!」


「フィリー……」


「自分勝手な事ばかり。世界という大きな枠組みで見れば個人の願いなんてくだらない子どものわがままでしかないんです!聖女は人々を救う為の崇高な役職なんです!!」


「そんなもん知るかバカ!勝手に言ってろ」


「がはっ!?」


 フィリーの言葉にセシルは思わず後ずさりしてしまう。

 まあ、確かにフィリーって信仰心とか無いもんね。

 逆に信仰心の塊であるセシルからしたら……凄まじい侮辱だよね


「あったまきた!それならあなたを痛い目に遭わせて、ナギを連れ帰るとしましょう!聖兵達!!」


 台詞が完璧に悪役入ってるよね。

 セシルの呼びかけにイリス王国の兵士たちが広場になだれ込んで……来なかった。


「あら?」


 代わりに広場にゆっくり足を踏み入れる影がひとつ。


「兵士の皆さんには少し休んでいただいたぜ」


 私とフィリーの想い人、ホマレだった。

 ちょっと反則じゃん。何か色々こみあげてきたんですけど……

 

「何ですかあなたは?」


「そこにいるふたりは俺にとって大切な人でね。傷つける気だっていうなら俺も黙ってはいられないね」


「なるほど。あなたがナギの『脱走した理由』ですね?本当にどいつもこいつも。好き勝手な事ばかり言って責任を果たそうとすらしない」


「まあ、たまには『セカイ系』的なムーブもいいかもしれんな。こればかりは『譲るわけにいかない』からな!!」


 ホマはセシルと戦う気だ。

 だけどガッツリ見られている以上、デュランダルへは変身できない。

 1年経ってホマは生身でも大分強くなったけどそれでも『斬滅の聖女』と戦うのは無茶が過ぎる。

 

 セシルは身体をかがめると地を蹴り一気にホマレへと飛びかかる。

 マズイ!あの動きじゃ一瞬で……


「心配するなって、問題は無い」


 私が聞こえる事を想定して、安心させるようにホマは小さく呟く。


「食らえ、黒砕刃(こくさいじん)ッッ!!」 


 強烈な低空斬撃タックルが直撃……したかに見えた。

 だけどセシルのタックルはホマレの両腕に装備された巨大な爪型の武双に阻まれた。


「なっ、何よこれっ!!?いきなり武装が!?」


 セシルは目を見開いて距離を取る。

 ホマの両腕には巨大な爪。そして首にはオレンジ色のマフラーが巻かれていた。


「な、何だあれ!?」


「あっ……これってナギ知ってるかも。これって確か……リリィの力だよ」


 そうだ。まだ地球に居る時に見た事がある。

 家出したリリィにお母さんの端末として襲い掛かった時に見た。

 あの家の子どもが持つ特殊な力『獣纏(じゅうてん)』。

 

「ああ、お前は見た事があるんだよな?そう、元はリリィ姉さんの力だ。大切なものを守る為に、姉さんから俺に継承され進化した力だ!!」


  

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