奇妙な二人と俺は知り合う。
ラクーンと呼ばれた人と変わらぬ形の女性は宙を舞いながら吠える。
「逝くぞ蜥蜴馬。某の牙は血に餓えておる!!」
先ず目に付いたのは縞模様のフサフサの毛に覆われた尻尾。
手と足先にも同様の毛並みを持ち頭からは丸い耳がぴょこんと生えていた。
人の姿に獣の特徴を持つ生物、それは東の大国に多く住む『人獣族』の特徴と一致することを漸く思い出したところでラクーンが堂々と吠えた。
「芝刈りザッパー!!」
開いた右手から伸びる爪を奮いシャンタク鳥の鱗を引き裂いた。
「ラクーン!!」
「応ともさ!!」
呼び掛けに威勢よく返事をすると硬い鱗を麻布を裂くように容易に引き裂いた勢いのままシャンタク鳥を蹴って離れるラクーン。
直後に三度ボルトが飛来しシャンタク鳥の頭を貫いた。
『Kiー……』
貫通したボルトは致命傷に至ったらしく、弱々しく一声鳴くとシャンタク鳥は地面に墜落した。
「フッ、流石は某。
この牙に貫けぬ物は大体無いのだ」
「いや、さっきから使ってるの全部爪じゃないか」
シャンタク鳥の死を確認して肩の力が抜けた所での台詞に、さっきから間違い続けているのを含めてつい突っ込んでしまった。
「あー、ラクーンは脊髄反射で言っているだけだから、一々言っても無駄だぞ?」
そう言われた俺はそちらを向きくと、立っていたのは仕立ての良い貴族服の上からプレートメイルを装着した自分よりやや背の低い少年らしき人物だった。
らしきと言う理由は件の人物がサレットを被っているため顔が分からなかったからだ。
声がややこもっているがだいぶ高く感じるのでもしかしたら女性かもしれない。
どちらにしろ、良いところの出なのは間違いなさそうだ。
「アッシュだ。助けてもらって感謝する」
「いいって事さ。
此方としても狙ってた獲物をおびき出してもらえて助かったからな」
そう言うとシャンタク鳥の鱗を剥いでいるラクーンの方を見てから名を名乗った。
「俺はライル。
見た感じ冒険者みたいだがソロなのか?」
「…まあ、そんなとこだな」
少し前に首になったとは言い辛くそう濁すとライルは特に気にした様子もなくそうかと流した。
「おかわりの時間であるぞ主よ。
追加オーダーは4匹ぞ」
と、ラクーンが言うと同時に硝子を引っ掻くような鳴き声が複数遠くから近付いてくるのが聞こえた。
「厄介だな…」
先程は単騎かつ不意打ちがしっかり決まったから簡単に沈んだが、群れを成しているシャンタク鳥はCランクの中でも上位に数えられる難敵と化す。
「聞いてたより数が多いな。
なあアッシュ、分前出すから手を貸してくれねえか?」
そう提案するライルに構わないがと答える。
「ただ、『スキル』のせいで俺のステータスは有って無いようなものだから囮になるぐらいしか役に立たないぞ?」
そう言うとライルがヘルムの奥で息を呑む気配を感じた。
まあそうだよな。
ステータスが低い奴は居るだけで足を引っ張る可能性が高い。
しかも相手は空というアドバンテージを持つシャンタク鳥。
「ボウガンは使えるか?」
「え? ああ。今は持ってないが一通りの物は使った事はある」
弓と違いステータスが低くともある程度のダメージを保証してくれるボウガンは俺の主武器の一つだった。
追い出される際にクランの財産だからと取り上げられてしまったから手元には無いが。
言うと同時にライルは手にしていたボウガンを俺に突き出した。
「ならコイツを使え」
「お前はどうする気だ?」
鎧を着ていると言っても時に牛等の大きな家畜を持ったまま空を飛ぶことさえあるシャンタク鳥に対してはそこまで信頼できるものでは無い。
「足にはそこそこ自信がある。
それに、どうにかなる前にお前とラクーンで全部倒せばいいだろう?」
そうサレットの奥で笑うような声でそう言うとライルは腰のボルトを投げ寄越しラクーンの側に駆ける。
「ラクーン、半分引きつけるから手早く仕留めろ!!」
「アイアイなりぃっ!」
答えると同時にラクーンは跳躍して先頭を切るシャンタク鳥の喉元に被りついて締め上げる。
「女は度胸! 裸締めもお手の物と知るがよい!」
『Kiー!? Kiー!?』
不意打ちを喰らい気道を締め付けられ慌てふためくシャンタク鳥。
考えるのは後だ。
俺はすぐにハンドルを回して弦を張り、ボルトを装填し慌ただしく羽をバタつかせる翼を狙いボウガンの引き金を絞った。
『Kiーー!!??』
翼を撃たれ意識外からのダメージに揚力を保てず墜落するシャンタク鳥。
アレの止めは彼女に任せて大丈夫そうと判断して今度はライルを援護するためハンドルを回した。
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