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 ――森恭介の日記より、抜粋。



 結婚式のまねごとをして、俺とひまりの闘病生活が始まった。

 部活は止めて、俺はバイトをしてお金をため始めた。……はやく、ひまりに花じゃなくて本物の指輪を贈りたいから。


 こんなこと、恥ずかしくて口に出せないな。

 だから日記に綴っているんだけど。


 俺はひまりだけじゃなく、主治医の山下先生と二人で話す機会も多くなった。ひまりのことをしっかりと考えて、最善の治療法を提案してくれる。

 そのかいあってか、それとも神様の起こした奇跡か――ひまりの脳腫瘍が、奇跡的に小さくなっていったという経過を見ることができた。



「はぁ、よかった……最高の誕生日プレゼントになりました」

「そうだね、こっちも驚いたけど……よかったよ」


 山下先生の診察室で、ひまりの経過を確認する。

 今は検査や経過を見るために、短期で入院をしている最中だ。それ以外の日に関しては、落ち着いて自宅療養をしている。

 体が痺れる回数も減ってきて、このままいけば本当に回復してしまうかもしれないと山下先生が言う。それか、もっと医学が進めば手術をすることができるようになるかもしれない。


「そういえば森くんは昨日が誕生日だったんですね。たしか、ひまりさんより年下でしたよね?」

「十八歳になりました」

「おめでとうございます。しかし十八、私からしたら若くて羨ましい限りです」


 先生の言葉に、あははと笑う。

 俺からしてみれば、大人である先生の方がずっと羨ましい。もっとひまりを守ってやれるし、学校に縛られることもない。

 ……とはいえ、俺も十八歳。

 昨日はひまりが病室で祝ってくれた。練習したのだと言って、あみぐるみの人形と手編みのセーターをプレゼントしてくれた。「時間はいっぱいあるからね~」と軽く言っていたけれど、俺の読みではかなり練習していると思う。

 ひまりは陸上部だったこともあり、どこか体力バカだった一面もあったからな……。あんまり器用じゃないことを、知ってる。


「俺、十八を越えたらしようと思ってたことがあるんですよね」

「うん? ああ、お酒はまだですよ?」

「……わかってますよ」


 そんなことじゃない。


「ちょっと、ひまりのところに行ってきます」

「……なるほど。頑張ってください」

「!」


 まるでお見通しと言わんばかりに、先生がにこりと笑う。

 早く俺も余裕がある大人になりたいと、思ってしまう。……ひまりがいつまた暴走して別れようと言い出すか考えてしまうと、落ち着いている暇なんてないけれど。


「失礼しました」


 山下先生の診察室を出て、俺は今までで一番ドキドキした自分の心臓の音を聞きながら――ひまりの病室へと向かった。




「あ、恭介おかえり~」

「……ただいま」

「? どうかしたの、顔赤いよ?」

「…………」


 ひまりの病室へ入ると、ベッドの上でぱくチョコを食べながらのんびり漫画を読んでいた。

 そして俺を見るなり、顔が赤いと笑う。そんなの、自分が一番わかってると叫びたいくらいだ。今だって心臓がドキドキしてて、それをひまりにばれないようにするので精一杯だ。


 俺はゆっくりひまりの寝ているベッドへと近づいていく。持っていた鞄を途中の椅子に置いて、その中から病院へ来る途中で買ってきた小さな花束と――小箱を取り出した。


「恭介?」


 なにその花束と、ひまりが首を傾げる。


「誰かからの、お見舞い? 白の花だけで作った花束、綺麗だね」

「……いや、お見舞いじゃない」

「?」


 俺は、ばっと花束をひまりの眼前に差し出した。

 そして小箱の蓋を開き、その中はきらりと宝石の光る指輪。


「結婚しよう、ひまり」

「――っ!」


 そう、俺が早く十八歳になりたかった理由は至極単純だった。


 〝ひまりと結婚したい。〟


 その思いから。

 もう一人で泣いてほしくない。

 ひまりに何かあったとき、一番に連絡がもらえる立場でありたい。独占欲が強すぎると言われても、これだけは絶対にゆずりたくないものなんだ。


「ひまりの残りの人生を、俺にちょうだい」

「恭介……私、死んじゃうかもしれないんだよ。結婚なんてしたら、恭介がもっともっと大変になっちゃうかもしれないんだよ?」

「大変じゃない! それを決めるのは、ひまりじゃなくて俺だ」

「…………優しいなぁ」


 ひまりの目に涙がじんわり浮かび、少し考える素振りを見せられドキっとしたけれど――無事に「はい」という言葉を引き出すことができた。


「恭介の奥さんに……なるっ!」

「うん、うん……っ!」


 嬉しくてぎゅっと抱きしめて、俺をひまりは少しの間二人で泣いた。

 なんだかここ最近は涙腺がゆるいけれど、幸せなのだから仕方がない。


「なら、ちゃんとおばさんたちに挨拶しないといけないな」

「え」

「ん?」


 なんでそこでえって言うのかな?

 なんだか嫌な予感がしてひまりを見ると、へにょりと眉が下がっている。


 そして言いにくそうにしながらも、ひまりは口を開く。


「その、えっと……結婚記念日に、実は理想があって」

「うん?」

「恭介の誕生日に、入籍したい」

「ちょっ……」


 それ、昨日なんですけど……!!

 俺が必死に十八歳になるのを待ってプロポーズしたのが、ここに出て裏目に出るとは思わなかった。数か月前に、十八になったら結婚してとプロポーズしておくべきだったなんて。


 最短で結婚するとして、364日後だ。長すぎる。


「えっと、その……ごめんね? でも、小さい頃からの憧れだったんだよ」


 そう言って、ひまりは好きな女優が旦那の誕生日に入籍したエピソードが凄くよくて……という話しを始めたけれど、あいにく俺の頭の中にその内容が留まることはなかった。






 それからしばらくの月日を経て、俺たちは無事に結婚することができた。

 奇跡を起こしてくれたあの神社に、ひまりとお参りに行こうと思う。

これにて、完結です!

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

初めての現代ものにチャレンジ……ということで、あたふたしながらも頑張って更新をすることが出来ました。

読んでくださってありがとうございます……!


最後に、もしよければ評価などいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすく内容が頭に入りやすかった 結末も悪いほうではなく読んだ後もすっきり! [気になる点] 終わりがなんとなく惜しい気がしました >――森恭介の日記より、抜粋。 の部分が少し弱くなっち…
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