最初の間違い
なろう初投稿です。よろしくおねがいします。
今振り返れば私の青春というのは大きく間違っていたように思う。
正確には青春時代にすでに間違っていることには薄々気づいてはいたのだが、知らないフリをしてそのまま駆け抜けてしまった。
青春というのは自分のしたいことがまだぼんやりとしかつかめなくて、それでも「それ」しかなくて、必死に「それ」を突き詰めていくものだって聞いたことがある。
「それ」っていうのは部活だったり、勉強だったり、習い事だったり、人によってそれぞれだと思う。
むしろこういうものを選んだ人はすごく健全で正しい青春を送っているのだろう。
でも私の「それ」は彼だった。
彼しか私の中にはないような青春だった。そんな、間違った青春だった。
でもどれだけ振り返ってみても早すぎた始まりのせいでどこからが間違いだったのかわからない。
お母さんとお父さんの間に生まれたこと?
私が女だったこと?
新しく建てたあの家に住んだこと?
上げてみればキリがない。
まぁ、ゆっくりと振り返ってみようではないか。
人によっては非常に退屈極まりない話であるが、これから話すのは私の青春の話である。
ふわふわした雲みたいな男のせいで大きく間違った方向にいってしまった、私の人生一度きりの青春の話。
────始まりの日をいつかとするなら、きっと出会った日なのだろう。
あの日はよく晴れた日だった。
昔から朝に弱かった私はその日引っ越しのために叩き起こされて挙句の果てに長時間車で移動させられたため非常に機嫌が悪く、幼稚園のお別れ会でもらった折り紙のメダルを首に下げながらずっとムスッとしていたのを覚えてる。
私はなんというか…はっきりいってしまえば可愛くない子供だったと思う。
それは容姿の話ではなく(容姿はまだ人並であると自負している)、態度の問題であった。
子供らしい素直さが足りず、親に怒られてもまったく反省しないうえに口答えを繰り返していた四六時中反抗期のクソガキだったと大人になった今なら分析できる。
そんなクソガキだった私だが、慣れた人間にはズケズケとモノを言うくせに初対面の人間とは話すことはおろか目を合わすこともロクに出来ないというヘタレな一面を持っていた。
そのため引っ越しの際に不機嫌度が最高潮に達したのは片付けでも手続きをするまで見れないテレビでもなく、ご近所さんへの挨拶であった。
私がそれまで住んでいたのはとんでもない田舎で、隣の家まで1km近くあるような過疎化の進む村だった。
父はそこで生まれ育ち、病気を抱えた祖母の面倒を見ながら3時間かけて出勤する毎日を送っていたのだが、結婚して私が生まれて2年ほどしてから祖母が亡くなって遺言書に「もっと仕事のしやすい場所に引っ越してください」という言葉を残したために涙ながらに引っ越しを決意し、会社近くの住宅街に移住することになったのだ。
田舎っていうのは右にも左にも老人しかいないものだから、私は幼稚園にいって同じくらいの歳の子がたくさんいることにひどく動揺してしまい、それまでにはなかったひどい人見知りが発動してしまった。
これには両親も困り果て、「はやく引っ越してそこに慣れさせたほうがいい」という考えに至り、小学校入学に合わせて行うはずだった引っ越しを前倒ししてくれたのだ。
そんな涙モノの両親の気遣いを欠片も理解していなかったクソガキの私はご近所さんへの挨拶回りの際はひどい仏頂面だった。
「人見知りなんですー、ごめんなさいー、おほほ」なんていう母のフォローもまったくお構いなしにブッサイクな顔を晒していた。
母がピンポーン、とインターホンを鳴らすのを見るたびすごくどきどきしたのを覚えてる。
ホラー映画を見ているときみたいな、あのいつ得体の知れないものが出てくるかわからないどきどきだった。
出てくるのは人間だっていうことくらいわかっているのに、出てきたら出てきたで品定めしてくるみたいにこっちを見てくる視線が怖くてずっとお母さんの後ろに隠れていた。
そんな怯える娘の姿にも一切同情せず、「こういうのは慣れよ!慣れ!」なんていってお母さんは怖がる私の手をぎゅっと引いて連れ回り、本当に気持ち悪さに吐くかと思っていた。
やっと最後に辿り着いたその家は、一番怖かった。
今見ればお城みたいに大きくて綺麗な家で本当に羨ましいのだけれど、当時4歳の私にはちょっと大きすぎて恐怖の対象にしかならず、母のスカートを必死に握りしめてインターホンが押されるのを見ていた。
『はい?』
「あ、向かいに引っ越した立花ですー」
『はーい!少しお待ちくださいー!』
他の家でも聞いたようなありきたりなセリフ。
でも私は今まで以上にドキドキしながらどデカい魔界の扉(私にはそう見えた)が開かれるのを凝視していた。
ガチャっとその大きさに見合わない軽い音を建てた魔界の扉から出てきたのは角の生えた牛でも黒い翼を生やした悪魔でもなく、綺麗な若い女の人だった。
今でこそ私は『おばさん』なんて呼んでしまっているけれども『お姉さん』と呼ばれても全然おかしくない。
まるで女神様みたいだった。
「向かいに越してきました、立花です。よろしくお願いします」
「あら、こちらこそよろしくお願いします」
「これ、つまらないものですが…」
「まぁ!ありがとうございますー」
私は今まで連れ回された不機嫌さとか魔界への扉への恐怖心とか、そういうものがすべて抜けたみたいに口をぽっかり開けて女神様を見ていた。
すると女神様が私の視線に気づき、にっこりと微笑む。
その姿を見て、花みたいだなって思ったのは今でも覚えてる。
花って。ロマンチストだな4歳の私。
「お嬢さんはおいくつなんですか?」
「今4歳なんですー。人見知りがひどくて…」
「可愛いお嬢さんですね!うちにも4歳の子が一人いるんです。ちょっと待っててくださいね!」
そういうと、女神様はパタパタと中に入って、「コウー」と思いっきり名前を呼んでいた…と、記憶の中では刻まれている。
まぁほんと昔の話だからね。私の記憶も曖昧になるよね。
それから女神様がもう一度魔界への扉…いや、もうすでにこのときは天界への扉に見えていたけど、まぁとりあえず玄関からひょこっと顔を出した。
花みたいに笑うおばさんの後ろには、天使がいた。
そのときは真剣に私は某最後に犬と飼い主が天国へ行くアニメの再放送で見たラストシーンに登場する天使を思い出した。
チェックのパンツに淡い色をしたTシャツというラフな格好の天使だったけど。
「あら、可愛いー!」
お母さんが思わず歓声をあげる。
普通ならまぁ、「悪かったな、可愛くなくて」くらいに思うクソガキの私ではあったが、こればっかりは母に全力で同意した。
女神様の後ろに隠れていてあまりよくは見えないが、それでも田舎の幼稚園にいた児童の中にここまで天使のような奴はいなかった。
「一人っ子だからあたしも主人も甘やかしてしまって…。男の子なのに、女の子みたいなの」
「ほんと、可愛い。奥さんそっくりですね!」
「あら、立花さん口が上手ね」
「いえいえ!ほんとそっくりです!ほら!ミヨ、あいさつして」
本物の天使に会って完全に硬直していた私を、母は無理やり前に出した。
それを見て、天使が少しずつ顔をだす。
影に隠れていて見えなかったものが見えてきて、余計に『天使』のイメージが強くなった。
ふわふわの色素が薄い髪の毛。
白くて触ったらすべすべしてそうな肌。
くりくりの長い睫毛にぱっちり二重の瞳。
そんな神々しい天使が私を見てにっこり微笑んだ。
まるで映画のワンシーンを見ているみたいに私はその笑顔から目が話せなくなった。
「クラモトコウタです、よろしくお願いします」
天使の差し出す白魚みたいな手を、私は吸い寄せられるみたいに握り返した。
「…タチバナミヨコです」
初めて繋いだ手はしっとりと柔らかくてすべすべしていた…気がする。
まぁそんなものは遠い記憶の彼方だ。
とりあえずこれが私の青春を狂わす男、倉本浩太との出会いなわけなのだけども。
今思い返せば、このときに手を取ってしまったことが最初の間違い…だったのかもしれない。




