第39話 見えない黒幕
「体が重い……」
俺は騎士団本部に訪れ、騎士団に泊まることになった。そして、長いこと開けていた俺の部屋は、定期的に掃除されていたのか、埃は溜まっていないものの机の上の本の位置や物の位置は当時のままだった。
そして今、俺が目を覚ますと案の定、クウが俺のベッドに潜り込んでいた。しかもクウは寝るとき、服を着ないので、俺の隣ですやすや寝ているクウは、今も当然何も服を着ていない。それに、力が強いのでしがみつかれると、振りほどくのが大変だ。
「放してくれ」
俺はしがみつくクウの腕を振りほどこうとしながら、クウに聞こえる声で静かに話しかける。当然、目を覚さず、心なしか満足そうな顔で寝言を言っている。
「あるじ〜〜〜」
「ごめんよ」
俺は軽く力を入れて振りほどこうとした。だが、振りほどけない。仕方なく、体をできる限り縮め、クウの腕と俺との間にわずかな隙間を作り、するりと抜けた。
ベッドから降りた俺は、窓に近づき、ゆっくりとカーテンを開ける。窓から差し込む朝の光は、薄暗い部屋を明るくし、窓の前に置かれた机を照らす。
「机の上、片付けないとな……」
俺は机の上に無造作に置かれた本の山や大量の紙に目を向け、ふと机の中央に置かれた一冊の本が目に留まった。
「死者と魂、その神について。 こんな本、持ってたっけ?」
俺は机に置かれた見慣れない本を持ち上げ、本の背表紙を見る。
「げ……これ、世界図書館の本だ。しかも、禁書の本……」
その瞬間、俺の背筋が冷たくなり、ぞわっとした感覚に襲われた。
その本の背表紙には、本の名前と下の方に世界図書館禁書二と書かれていた。
「返しに行かないとな……」
俺はアイテムボックスに本を放り込み、朝食のため部屋を後にする。食堂に着くと、昨日の夜の賑わいのある宴会とは一変してとても静かで誰もいなかった。
それもそのはず。騎士団団員達の食事は皆食べる時間がバラバラで、まだ日の出ないうちから任務に付く者、任務地に泊まり込みの者、非番の者など、基本的に食事を一緒に取ることはない。
しかし、騎士団の食事にはルールが有る。七日に一回、有事のとき以外、夕食は騎士団全員で食べる。それが騎士団で定めたルール、こうでもしないと皆、真面目なので死なないからと、食事を抜きがちになっり、食事の栄養が偏るからだ。
「おはようございます団長。団長も朝食ですか?」
俺が食堂の入口に立ち止まっていると後ろから声をかけられ、俺は振り向いた。するとそこにはナナカがいて、心無しか目の下に隈ができているようだった。
おおかた、夜遅くまで書類仕事をやっていたのだろう。そう考えると、ナナカには俺の仕事を押し付けてしまって大変申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「おはよう、ナナカも朝食?」
「はい、良かったら一緒に食べませんか?」
「ああ」
俺はナナカと食堂のカウンターへ向かう。カウンターの奥は調理場で、調理場の端の方には椅子に座っている少女がいた。
彼女は地面につかない足をぱたぱたと動かし本を読んでいた。彼女は俺とナナカに気づくと、本を閉じて椅子から降り、椅子の上に本を置いてカウンターへ駆け寄る。
「団長、副団長、おはようございます。朝食今から二人の分を作るので座って待っていてください」
小柄な彼女はにこやかな顔で、明るい声でそう告げた。団員ナンバーXIIのルカ。騎士団の食事を一手に担う彼女は、緊急時の騎士団と市民への炊き出しなど、後方支援が本職で、その手際の良さはいつ見ても惚れ惚れする。
ルカはカウンターの奥へ戻り、食事の準備を始め、俺とナナカは近くの席に座る。
ナナカは座るなり、真剣な面持ちで口を開く。
「団長、今回の人攫いの件ですが、いくつかお話しがあります」
「何か進展があったのか?」
俺はナナカの表情を見て、自然と神妙な顔つきになる。
「はい、学園都市の町中のとある家屋の地下に攫った人を収容していた中継地点を発見しました」
「ああ……あれか、どうだった?」
「ご存知なのですか!」
ナナカは目を見開き、少し驚きながら、身を乗りだす。
「まあ、あの現場を見つけたの俺だし……」
俺は気恥ずかしそうに頬を掻いて目を逸らした。
「さすが団長です」
ナナカは胸に手を当ててまるで自分ごとのように、にこやかに笑い、俺へ尊敬の眼差しを向ける。
そして、少し照れながら咳払いをして、ナナカはすぐに冷静になる。
「話を戻しますね。それで地下には当然、黒幕につながる手掛かりはありませんでした」
「あの魔法陣は?」
ナナカは俺の疑問に、食い入るように鋭い視線を向ける。
「まさに、そのことです!! 魔法陣を調査したところ、あれは座標指定式ではなく、対になる魔法陣同士を行き来する物のようで、片方が魔力の維持をしていると言う事まではわかりました」
「後はだれが黒幕かだが……どこかの犯罪組織という線は考えにくいな」
俺は腕を組み目線を上にやる。そう、俺がこう結論付けたのには理由がある。そもそも、魔法陣とは魔法を図式化した物で、魔道具と違い、図式を紙に書いて魔力を流すだけで使える古代の魔法技術だ。
そして、空間魔法の魔力消費は膨大で、転移に至っては距離が遠くなればなるほど魔力消費も多くなる。当然、そんな膨大な魔力を持つ者は、おそらくドラゴンなど強力な魔物くらいで、人類が使うには魔石が必要だ。
「そうですね。転移の空間魔法を動かすだけの魔石を確保できるのは、考えられる者だと、貴族か商人というところでしょうか」
「だが、やはり割に合わない気がする。」
「割に合わないですか?」
ナナカは眉を寄せて俺を見つめる。
「それだけの資金を投入してまで人攫いをする目的がわからない」
俺が話を聞いていて、引っ掛かる点はそこだった。そう、あまりにも高すぎるリスクと、そこまでの資金を投じる目的がわからないからだ。
「これは秘密ですが、攫われた者の中には帝国と王国の貴族令嬢が複数います。そう考えると人身売買して儲けるとかでしょうか……」
ナナカは目線を下にやり、目元には影が落ちる。そう、そんな胸糞悪い事を考えたくないのだろう。それに、ナナカは真面目だ、責任を感じていないわけがない。
俺も、出来れば考えたくない。
「人身売買となると、ラタトス王国の闇市の可能性もあるが……」
そう、俺はラタトス王国の裏で人身売買が行われているとの噂を耳にしたことがあった。しかし、その話が本当だった場合、いくら裏でとはいえ、貴族令嬢の取引など表の方にも少なからず影響はあるはずだ。ヘタをすれば両国同士の戦争になる。あまりにもバレる危険性が高く、リスクがあるように思える。
いや、もしかしたら、それが目的の可能性もある。
「それか、マルギヌス共和国での売買ですね。一般に出回らないような……」
どうやらナナカの考えも俺に近かったようだった。マルギヌス共和国では奴隷売買が普通に行われている。物理的な距離が離れているから、マルギヌス共和国で裏取引なら王国や帝国にも届きにくい。
「やはり、魔石の市場の流れを調べるしかなさそうだな」
俺は大きなため息を付いて見上げる。そう、下手に考えるよりも行動するべきだ。
「そうですね、転移の空間魔法を動かすだけの大量魔石、もしくは大きな魔石を購入すれば必ず足が付きます。これ以上、学園都市内を調査しても何も出ないでしょう」
「だな、にしても騎士団で動かせる人員の数が足りないな」
それもそのはず。騎士団の団員の数は欠番を抜いて51名しかいないのだから。動かせる人員なんて頑張っても40名くらいがいいところだろう。
遅れてすみません。
次回の投稿は6月で、多分下旬です。
よろしければ、ブックマークに追加の上、「☆☆☆☆☆」で評価して続きをお読みいただけますと幸いです。
他の作品も投稿しているのでXを見ていただけるとわかります。
X(旧Twitter)
https://x.com/vEc7bIxrdGTxvrd




