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最強執事と第三皇女~異世界だと思っていた世界は、実はゲームの世界だった~  作者: シン
第1章

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第38話 入浴とクウ

「ああ〜〜気持ちいい」


 湯面がゆらりと揺れ、白い湯気が静かに立ちのぼる。

 俺は騎士団本部にある寮内のお風呂に来ていた。


 騎士団は女性しかいないので寮内にある浴場は当然女性用。

 だが、団長である俺が男性なので、俺専用の浴場もある。

 普段は俺以外に使う者もおらず、宝の持ち腐れになっていた場所だ。


 手入れだけは定期的にされていたようだが、今日は格別に念入りに磨き上げられ、なみなみと湯が張られていた。

 湯気の香りが心地よく、久しぶりに肩の力が抜けていく。


 浴場の中は意外にも整っていて、浴場全体がタイルで覆われて大きな浴槽があり、まるで銭湯のような雰囲気だった。

 静けさと温もりが、帰ってきた実感をじんわりと胸に染み込ませる。


 そうして、俺は騎士団本部で久しぶりのお風呂を堪能していた。

 しかし、突如浴場の扉が開き、誰かが入って来た。


「あるじ〜〜〜」


 そう、この声はクウだ。


 クウは浴場に入って来るなり浴槽に飛び込んで入り、水しぶきが俺にかかる。

 湯面が大きく波立ち、俺は思わず目を細めた。


「何で入って来たの? 隣があるでしょ」


 俺は相変わらず300年前と変わらないクウに呆れた声で尋ねる。

 しかし、クウは恥ずかしがる様子もなく、嬉しそうに尻尾を振りながら抱きつく。


「あるじ、久しぶりに帰ってきたから一緒に入りたい!!」


 クウは元気な声で言いながら抱きついて俺の腕に胸を押し付ける。

 湯気の中で触れた肌の温度が、やけに鮮明に伝わってきて、俺の左腕は一瞬固まった。


 俺の左腕には人肌と何やら柔らかい感触が伝わり、クウではなく俺の方が逆に恥ずかしくなった。

 湯の温度よりも高い熱が頬に広がる。


「変わらないなクウは……出来ればこの300年で恥じらいと言うものを学んで欲しかった」


 俺はため息と恥ずかしさが入り混じる一方で、クウはきょとんとする。


「恥じらい?」


 クウは恥じらいのハの字もわかっていない様子に、俺は呆れながら天井を見上げる。

 湯気がゆらゆらと揺れ、俺のため息が湯気にまじり、湯気とともに消えた。


「あるじ〜〜〜洗って〜〜〜」


 自分でやれとクウに言いたい所だが、言っても聞かなくもはや諦めの域に達しているので、俺は諦めて洗ってやる事にした。


「わかったよ」


「やった〜〜」


 クウは嬉しそうにしながら浴槽から上がり、鏡の前にあるイスに座る。

 濡れた尻尾をぱたぱた揺らしながら、期待に満ちた目でこちらを見てくる。


 俺も浴槽から上がり、クウの隣に置いてあるイスを持って来て、クウの後ろに座った。

 鏡の横に付いているシャワーヘッドのような魔道具を手に取ると、お湯を出してクウの耳にお湯が入らないようにしながらゆっくりと髪を濡らす。


 俺は石鹸を手に取り泡立ててから、クウのケモミミや髪を洗い始めた。


「ワフゥ〜〜」


 狼というより犬みたいな、気持ち良さそうな声に俺は自然と心が和んだ。

 耳の付け根を洗うたび、クウの肩が小さく揺れる。


「気持ちいいか?」


「うん!!」


 俺がクウに洗い心地を尋ねるとクウは元気な声で嬉しそうに答える。

 その素直さが、どこか懐かしくて、胸の奥が少し温かくなる。


 クウの髪を洗い終えて俺も自身を洗おうと、その場を離れようとするとクウが俺の腕を掴んで止める。


「あるじ何処行くの?」


「いや、俺も自分を洗おうとしているだけだよ」


「嫌だ! あるじ体を洗って〜〜」


 クウは俺の腕を掴んで、体を洗うように駄々をこねる。

 その姿は、小さな子供が駄々をこねているようで、相変わらず全然成長していないようすにため息が出た。


「届きにくい背中と尻尾は洗ってあげるから他は自分でやってくれ」


 俺は恥ずかしくなりながらそうクウに告げると、クウはきょとんとしたようで聞き返す。


「なんで?」


「流石にお前が小さな頃と違い、今クウの前身を洗うと物理的に捕まるから。 あと俺の心が持たないから」


 相変わらず何も理解していないようで、この子は大丈夫かと不安になりながら、クウの背中と尻尾を洗う。

 クウの尻尾は毛量が多く、洗うのがかなり大変で、クウ本人は洗っている最中くすぐったそうにしていた。


 その後は、俺自身もようやく洗い始め、一方のクウは気持ち良さそうに湯船に使っていた。

 この後は拭いてくれとか言うんだろうな、とか思いつつ、俺は自身の頭を洗っていた。


 その予想はこの後、見事に的中したのだった。


 俺は仕方なく髪だけは拭いて、他は自分で拭くよう言うとクウはむくれた様子で拭き始める。

 拭き終えると、今度は乾かしてくれと言い始め、俺は仕方なくドライヤーのような魔道具でクウの髪と尻尾を乾かしてふわふわにする。


 クウが満足そうにしている様子に、俺は仕方ないなと思いつつ頭を撫でる。


 俺専用の浴場から出ると、そこへ偶然ルナが通りかかり、クウと浴場から出て来る所を見られた。

 ルナの何か察した様子に、変な勘違いされると思い俺は慌てて弁明しようとした。


 「これは、その……」


 俺がいいかけたところで、ルナは呆れた様子で話し始める。


「さては、クウが浴場に入って来たんですね。」


 ルナは全てを察していたようで、俺は変な勘違いをされなかったことに安心しつつ、一応、浴場での事を説明した。



 三人で食堂に向かっている道中、クウの恥じらいもなく変わらない様子に、ふと気になって俺はルナに尋ねた。

「……普段も誰かに洗ってもらっているのか?」


 ルナは笑いながら答えた。

「そんなことないわよ。普段は他の人と入るけど、自分で全部洗っているよ。」


 洗ってもらうのは俺だけとのことで、始めから自分で洗えと思いクウの方を振り向く。

 クウは目を逸らすが、一人でできることに少し安心した。


 だが、続くルナの言葉で、俺はすぐに現実へ引き戻された。


「恥じらいについては……一応教えてはいるけど、まったく理解していないみたい……」


 ルナは苦笑しながら肩をすくめる。


 俺はクウの方を振り向くと、クウはきょとんとした様子で俺を見る。

 

 確かに、あの反応を見る限り恥じらいという概念が彼女の辞書には存在しないのだろう。

 彼女は昔、俺がこの辺りの森で拾った為、出自的には仕方のないのかなとか思いつつ諦めた。

 物心がついた頃から野生で狼と一緒に生きて居た為、むしろよくここまで人に馴染んでいると感心するくらいだ。


 そんな話をしながら歩いていると、寮の食堂から賑やかな声が聞こえてきた。


 今夜はどうやら俺が戻ってくれた事により宴会となり、騎士団のメンバーは暖かく俺を迎えてくれた。

 テーブルには料理が並び、団員たちの笑顔が灯りに照らされて揺れている。


 俺のことを誰一人として怒っている様子もなく、とても安心できる場所だった。

 胸の奥にじんわりと広がるこの感覚。

 ああ、帰ってきたんだな、とようやく実感が湧いた。

次回の投稿は5月で、多分下旬です。


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