第37話 二人の稽古
クウとネルの喧嘩をなんとか止めた俺は、修練場へ偶然稽古のために来ていたセリナとセリーゼの姿に気づいた。
「ところで二人は稽古か?」
「はい。セリーゼと稽古しようと思って来たんです」
その言葉に、俺は一瞬だけ考え込み、口元をわずかに緩める。
「……なら、ちょうどいい。二人が良ければ、稽古がてら俺と手合わせしないか?」
「手合わせ……ですか? よろしくお願いします団長!!」
セリーゼは目を輝かせ、勢いよく頭を下げた。
本館のエントランスホールで話していた新人の洗礼を知らない彼女は、純粋に嬉しそうだ。
「わ、私は……遠慮します」
一方、エントランスホールでその話を聞いていたセリナは即答だった。
その顔は絶対に嫌ですと全力で語っている。
だが、俺は逃がさない。
「セリナとセリーゼ、二人まとめて相手しようと思ってたんだけどな。セリナが参加しないとなると……後で一人で相手することになるかな」
わざとらしく聞こえるように言うと、セリナの肩がビクッと跳ねた。
「や、やります!! 私もやります!!」
彼女は一人で新人の洗礼を受けたくないのか、慌てて返事をする。
俺は満足げに頷く。
「よし、決まりだな」
俺がニヤリと笑う横で、セリナは心の中でそっと涙を流していた。
一方その頃、クウとネルを反省させるため修練場の端に正座させておいたのだが、二人とも頑なに目を合わせようとしない。
どうやら、これっぽっちも反省していないのは明らかだ。
俺はため息を付き、気にせず、セリナとセリーゼから少し距離を取り、アイテムボックスから零式刀の量産品を取り出して腰に下げた。
対するセリナとセリーゼは、それぞれの人造神器を構えている。
「月光剣と陽光剣か……」
俺は二人の人造神器見て不敵な笑みを浮かべる。
どちらも発電型の人造神器だが、武器の性質はある意味対照的だ。
そして、二つの武器には面白い特性がある。
太陽の光と熱で力を増す陽光剣、月の光と満ち欠けで力を増す月光剣。
今は夕方で太陽と月が両方出ている。
沈みかけと登りかけ、どちらの武器も悪くないが最高でもない時間帯、コンディションはほぼ互角だろう。
俺はポケットから銀貨を取り出し、親指に乗せて二人に聞こえるように大きな声で話す。
「今からコインを投げるからコインが地面に落ちたら勝負を始める。怪我は気にせずやってくれ」
「わかりましたーー」
セリナは元気よく大きな声で返事をする。
その声に、セリーゼも静かに頷いた。
俺はコインを構え、二人は武器を構えた。
二人が武器を構えるとわずかに金属鎧が擦れる音が聞こえ、周囲が静まり返る。
「いくぞ」
俺はそう言うと親指でコインを弾く、親指が弾いた銀貨が、高く、澄んだ音を宙に舞う。
俺はすぐさま腰に下げている刀に手をかけ構える。
宙を舞うコインは静まり返る修練場に響き渡り地面に落ちる。
次の瞬間、セリナとセリーゼは左右に別れ、走り出す。
「第一 ムーンライトスラッシュ」
セリナは月光剣の特殊技を発動したようで剣が月の様に光輝き、糸のような細くて柔らかい光が螺旋状に剣を包みこんだ。
「第一 サンシャインスラッシュ」
セリーゼの叫びに呼応し、空気を焼く音を立て、剣は太陽の様に白い炎を噴き上げ剣の刀身を包み込む。
二人の様子は月と太陽でまさに対照的な光景だった。
しかし、息はとても合っていて、セリナが先に攻撃を仕掛け、剣を振り下ろす。
俺はその攻撃を難なく交わすが、セリナの月光剣から放たれた月の光は前方の地面に螺旋状の傷跡を残し、左右に糸で切り刻まれた様な細い傷跡を付けた。
俺はセリナが攻撃を外したタイミングで彼女の足に俺の足を引っ掛ける。
セリナはキレイに前方に倒れた。
この手の足技は対人での戦闘経験が少ない奴が良く引っ掛かる手だ。
「足元がお留守だぞ」
俺は余裕に満ちた声で告げる。
一方でセリーゼは咄嗟の判断がいいのか即座に攻撃を切り替え、俺から少し距離を取り剣を横薙ぎに振るう。
俺は刀を抜き、横から迫る大きな白い炎の壁に向けて刀を振り下ろし、スキル空斬で横から迫る炎を切り裂き、炎を避ける。
さすが陽光剣というべきか物凄い熱風が離れていても伝わり、空斬で道を作った場所以外、地面のタイルが完全に溶けていた。
俺がセリーゼの方へ視線を戻すと、セリーゼとの僅かな戦闘の間にセリナは態勢を整えてセリーゼの後ろで剣を構え大技の準備をしていた。
(あの構えは……)
「させるか!!」
それを察知した俺は地面を蹴り物凄い速度で距離を詰める。
「邪魔はさせません」
俺を止めようとするセリーゼに俺は回し蹴りで腹部に蹴りを入れる。
鎧の金属部分を蹴ったので多少は痛みが軽減されているだろう。
セリーゼは横に吹っ飛び地面に転がりながら態勢を整える。
流石に大技が間に合わないと思ったのか、セリナは俺から距離を取ろうと後ろに下がり、技を切り替える。
「第……」
しかし、すでに遅かった。
セリナは技名を言いかけるが、俺との間合いの距離はすでに手が届く範囲だった。
「闇魔法 ダークネススリーピー」
俺は魔法を唱えてセリナの腕を掴む。
セリナは眠気に誘われてその場に崩れ落ちる。
「ね……ねむい」
「まずは一人」
俺がそう言うとすぐそこまで接近していたセリーゼは白い炎に身を包んだ剣を振りかぶり一撃を入れようとする。
「闇魔法 ダークネススリップ」
俺が魔法を唱えると、指先から紫色の光が出てセリーゼの陽光剣に命中する。
その瞬間、セリーゼの手に握られていた陽光剣の柄が、すっぽりと抜けて明後日の方向へ飛んでいった。
セリーゼは突然のことに面食らう。
そう、この魔法は物体の摩擦力を減らして滑りやすくする。
この初級魔法は射程距離が短く、本来はいたずら目的の魔法で戦闘で使う奴は俺自身、見たことがない。
セリーゼは手から陽光剣がすっぽりと抜けたことに焦りを見せるが、諦めてはいないようでそのまま魔法を唱えようとする。
「火よ、……」
「させるか!! 」
俺とセリーゼは手を伸ばせば届く距離にいる。
セリーゼが火魔法を唱えようとするが、俺はセリーゼにどうにか触れて闇魔法で眠らせようと手を伸ばす。
俺の伸ばした手は、冷たい金属鎧の隙間に滑り込んだ。
しかし、俺が触れた掌の感触は金属の硬質さとは別のものだった。
それは、掌全体を包み込むような、圧倒的なまでの柔らかさと弾力で、わずかに温かさが感じられた。
「キャーーーーーー」
修練場の天井を突き抜けるような悲鳴が上がる。
俺は若干パニックになりがら慌てて手を引っ込める。
「やば、ご……ごめん」
俺は慌てて謝るが、セリーゼは顔を真っ赤にしながら両腕で胸を隠し、その体がわずかに震えていた。
次の瞬間、俺の頬にセリーゼの重くて鋭い平手打ちが当たり、修練場全体に乾いた破裂音が響き渡った。
その後、稽古どころではなくなり、セリーゼには少し泣かれ、クウとネルによしよし頭を撫でられていた。
そのまま俺は罪悪感に包まれて稽古が終わった。
投稿が遅れてすみません。
ほぼ4月になってしまいました。
次回の投稿は4月で、多分下旬です。
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