窮地
季節は巡り、私は中学二年生となった。
クラス替えと共に、遥とは別のクラスとなった。
多少心細いが、いつかは訪れることだ。
しかし、同時に香島さんと吉野さんも別のクラスになったのは痛かった。
幸い、同じ美術部の北見さんが同じだったことだけ良かったと思うしかない。
新しいクラスに馴染む努力をした後、クタクタのフラフラで帰路に着いた。
その途中で、聞き覚えのある声を聞いた。
あのコンビニ帰りに会った得体の知れない人物の声だ。
あの全てを見透かしたかのような眼差し。
思い出すだけでゾッとする。
出来れば会いたくないものだ。
現実は非情にして無情なものだ。
今はつくづくそう思う。
得体の知れない人物が隣人だったとは。
ベランダで顔を会わせることになろうとは。
「おや、あの時の」
「ど、どうも」
「まさか隣人だったとは。世間は狭いね」
「そ、そうですね」
「ところで君、ホントに夏樹って人?」
「えっ……」
背筋が、凍りついた。
バレた?まさか。たった数回会った人にバレるなんて。
いや、そんなことがあるはずがない。
あっていいはずがない!
「突然何を言い出すんですか?私が夏樹ですよ」
「ふーん、そう。その割りにはいやに焦っているように見えるけど」
つくづく嫌な人だ。
「そんなことないですよ。それよりも、なんで私の名前を?」
「前に公園で聞いた」
公園で?まさか本当に……?
「おぉ、怖いなぁ。そんなに睨まないでよ。今回で顔会わせるの四度目なのにね。どうやら君には心当たりがないようだ。」
四度目?
公園、帰路、自宅のベランダ、これで計三度のはず。
もしや、それ以外の四度目があった?
私が覚えていない四度目、もしくは……夏樹が私ではない時代に、出会った可能性もある。
もし後者なら、誤魔化しづらいことになる。
「どうでしょう?忘れてしまいました。あまりに昔のことで」
これで完璧に誤魔化せたはず。
知らぬ存ぜぬで押し通す!
「昔……、そう昔ねぇ。僕は遠い昔、君に会ったとは一言も言ってないけどね」
「っ……」
しまった!してやられた。
最後の一言が完全に余計だった。
これだから、こういう人は嫌なのだ。
「君は、あの時公園で会ったとき、夏樹の隣に居た人だろう?」
「……」
黙秘、それに尽きる。
もし、露見するようなことがあれば、これまでの苦労が水泡に帰してしまう。
「遥、って言うのが君の本当の名前。違う?」
「……」
どうしよう、どうしよう……
誤魔化さなければ、隠し通さなければ。
そうしなければ、この好機は二度と失われる!
絶対に、バレる訳には……。
私の視界は宵闇よりも暗く沈んでいった。




