夏疾風
季節は過ぎていき、ついにこの季節が来てしまった。
「暑い~」
下敷きを団扇代わりにパタパタと扇ぐ香島さん。
それとは対照的に涼しい顔をしている吉野さん。
快活な香島さんと、冷静な吉野さん。
見事なまでに対照的な二人だと思う。
「でも今日から体育水泳だからいいかな」
香島さんの言葉に背筋がピンと伸びる。
そう、それだ。
水着となれば、嫌でも身体の線が浮き上がる。
これは大問題といえる。
「泳ぐのが苦手な人からしたら最悪の時間なんだけど」
吉野さんがうんざりした顔で呟いた。
泳げない、この理由ならば隠し通せる可能性はある。
「あ~、そうか。ヨッシー泳げないもんね」
「うるさい。いつか泳げるようになるから」
「私が教えて上げようか?」
途端に吉野さんが顔をしかめた。
「教えるとか言っといて、全部擬音で説明したの忘れた?」
全部擬音……。
あり得そうではある。
吉野さんが理論派なら、香島さんは感覚派といったところになる。
異なる色を持つ二人の姿は輝かしく見えた。
夏の陽射しが、ジリジリとプールサイドを照りつける。
例え半袖であったとしても、この暑さは防ぎようがない。
なんとか理由をつけて体育を休むことが出来たが、これを毎回続けなければならないのは面倒でもある。
隣を見やれば、同じく見学している北見 杏奈さんがいる。
眼鏡が陽射しをキラリと反射して、私の眼を射貫く。
その眼鏡の奥には、丸く円らな瞳が泳いでいる。
夏疾風が彼女の綺麗な髪をなびかせる。
「あ、あの……?私の顔になにかついてますか?」
どうやらじっと見すぎていたらしい。
「ううん、綺麗な顔してるな、って思って」
「えっ!?い、いやそんなことは……」
顔を真っ赤にして、口をもごもごさせて呟く北見さん。
その仕草も可愛らしいが、本人には知る由もない。
それから、水泳を見学する度に北見さんと話続け、いつの間にか休み時間でも会話を交わすほどの仲になった。
そんなある日のこと。
「そういえば北見さんは部活入ってる?」
「美術部に入部してますよ。沖島さんは?」
「私?入ってないよ。どの部活に入部しようか迷ってたら今日まで来ちゃった」
「あぁ、タイミングを逃しちゃったってことですね」
「うん」
「では、今日美術部に来てみませんか?」
「え?いいの?」
「美術部はいつでも新入部員歓迎ですよ」
こうして、微笑む彼女に連れられて美術部への見学が決まったのだった。




