心に火を灯す者達へ。
煌々と輝く光。それは燃える木、炎樹の光。炎樹ははるか古の時代より燃え続け、その光、その力は我々炎の民を育んだ。炎樹により生まれ、炎樹と共に栄え、炎樹の元で灰となる。
明日は“晴れの日”だ。
晴れの日とは祭りのことで、炎の民として生まれた子どもが10歳になる年に炎樹の実をもぎ取る儀式を行う。
そして炎の民全員でご馳走を食べるのだ。
今年の晴れは全部で5人。全員が最後の清めを受け、明日の朝、日の出と共に炎樹の実をもぎ取る。
清めは夜行われる。
そして、その場で夜を過ごし、日の出までに炎樹へと向かうのだ。
「さあ、清めを受けに行く時間だぞ! さっさと行かないと炎樹に嫌われるぞ」
父さんのラーゴン・フレイム。
強力な炎樹の実を有し、鍛え上げられた筋肉は年を感じさせない。
そして、現在の炎の守人統括者だ。
「分かってるよ。これを受けられないと炎の守人にはなれないんだから! それじゃ、行ってきまーす」
父さんに合わせて作られた大きな扉はとても重い。
昔は見上げるほどだったその大きな扉を今では1人で開け閉めできる。
背丈はまだまだ半分だ。
「あ、フォルテ。ちょうど迎えに来たとこなんだ! 一緒に清めを受けに行こう」
晴れの1人で、友達のティム・フレイムは気さくなやつだ。
いつもニコニコしていて、誰にでも優しい。
「緊張するよな。清めで炎樹に嫌われたら、炎の守人になれるほど強力な力をもらえないかもしれないんだぜ」
「そうらしいね。だから一生懸命清めを行って、炎樹に気に入られないと」
ティムと2人で森の中を歩く。
炎樹が温めるこの場所はムシムシして暑苦しく、沢山の木と草が生えていて遠くが見えない。
道があるから迷わないけど、夜の清めまでの道のりはおっかない。
木と木の間を抜けるように山道を進むと見えてくるのが“清め”だ。
清めは熱い水の流れ落ちる滝で、この熱い水を全身に受けることで負の気運を洗い流し、大地を通して炎樹に吸い取ってもらうのだと父さんが言っていた。
清めで嫌われるということは、熱い水が流れてこない時のことをいうらしく、冷たい水を浴びせられたやつは炎樹に近づくことを許してもらえない。
まぁ、これまでそんな奴は一人としていなかったらしいし、どうせ父さんの脅かしにちがいない。
「あ、フォルテ! 夜の人が付けてくれている焚き火が見えたよ」
ティムはそういうと走り出した。
つられて僕も走った。
なんだか暗くなった森がガザゴゾと揺れ、追いかけてくるようだった。
「お疲れ様でした。ティム君、フォルテ君。貴方たちが到着したことで清めが始まりました。到着してすぐで申し訳ありませんが、早速説明を始めます」
東の森砦の守人である“日の出”のキノ、清めに参加するアルシャナ、クーリド、サナが待っていた。
「日の出のキノ! 砦の守護はいいんですか?!」
砦を任される守人は別格なんだ。
「皆さんの晴れの日をお祝いするため、そして清めが行われるのが東の森砦管轄内ということから、毎年東の森砦の守人がこの夜の人をするのです。それが慣わしであり、誉なのですよ」
「「おおっ!」」
すごい! すごいってみんなで盛り上がった。たぶん炎の森中にみんなの声が聞こえたんじゃないかな。
「さあ、さあ。説明を始めるので静かにしてくださいね」
日の出のキノがゆっくりとした動きで左手を清めに向けた。
一瞬だった。
とんでもなく大きな炎が吹き出た。
顔が焼ける。
「これが炎樹の実がもたらす力の一端です。
私たち炎の民は長きに渡りこの力を守り、育み、恩恵を受けて過ごしてきた部族です。この力を手に入れるということは、子どもから炎の民へ、責任をその身に宿すということです。
炎樹を守り、森とともに炎の民はこれからも生きていきます。
しかし、それと同時にもたらされるのが“蝕み”です。炎樹と共に生きる炎の民は一切が皆、炎樹の灰によってその身を蝕まれ、力をコントロールできなくなる者が一定数います。
蝕みになった炎の民は炎樹へと戻るため灰となるのです」
良く見ると日の出のキノが振りかざした左手には小さな火が残っている。
「蝕みになった者を灰にするのは炎の民の務めです。この意味は皆さんでもわかりますね」
父さんがよく言っていた、炎の民は責任を持つ者だけがなれると。責任を持つ者だけが、炎の民として炎樹の実をその身に宿すことができると。
難しい言葉だと思った。
意味が分からなかった。
でも毎日、毎年、父さんが言う言葉を聞くうちに覚えた。
「栄誉のため、灰とならん!!」
僕は叫んだ。ティムも叫んでいた。アルシャナも、クーリドも、サナも!
「皆さんの心意気はよく分かりました。この言葉を学ぶのも、これからの皆さんの責任の一つでもあります。まぁ、難しいことはおいおいで大丈夫です。まずは、清めを終え明日に備えてしっかりと寝ましょう」
日の出のキノに連れられて、清めまで進む。
ボコボコと水が弾けていて、湯気も沢山あがっている。
滝から流れている水しぶきは熱い。
「それでは皆さん、1人ずつ行います。まずは一番最初にこの清めにきたサナからです」
「はい!」
サナは気弱な女子だ。
僕はそう思っていた。
「それでは手を貸してください。私の炎をサナへ預けます。この炎を灯したまま、清めに入り、奥に見える岩へ触ってきてください」
炎が移った。
サナの小さな手の平に灯った炎が青白く光る。
「いきます!」
一声、煮えた清めへ足を踏み込むサナを僕たちは見守った。
グラグラと動く水がサナの足を捕まえてる。
小さい背中がさらに力が入って縮こまる。
清めはかなり浅かった。
後から来た僕たちはそれを知ることができたけど、サナが岩を触って戻ってくるまでは分からなかった。
「サナ、貴方が灯したのは青い火。青い火は勇気の火です。最も熱く、最も静か。この火を大切に育み、明日への糧としてください」
次はクーリドの番だ。
「おっし、いってくるぜー」
日の出のキノから炎を移されたクーリドは叫ぶと共に走り出した。
赤とオレンジ色が混ざったような、大きく派手な火が全身を包み込んだ。
火の粉がチリチリと飛んでくるのと、クーリドが岩へタッチしたのが一緒だった。
「クーリド。貴方が灯したのは守りの火。炎の守人が最も望む守りの火。この火を大切に育み、明日への糧としてください」
へっへと笑って鼻をこすった。
クーリドの癖で、うれしい時によくやってる。
次はアルシャナの番だ。
アルシャナは不思議な奴だ。
いい奴なんだけど、あんまり周りと仲良くしない。
火が灯った。
アルシャナが灯した火は白かった。
というよりも、明るすぎた。
見ていたら目がおかしくなり、夜なのに朝になった。
「アルシャナッ。抑えなさい!」
日の出のキノが叫び、砂利を蹴る音だけが聞こえたがなんにも見えない。
手で目を覆ったけどだめだった。
耳が痛くなってきた。
キンキン、キンキンと何かが近くで跳ねている。
どれくらい時間がかかったのか、いつのまにか押さえ込んでいた耳から手を離し、閉じた目を開いた。
「ティム、大丈夫か? なにがあったんだろ」
「え、なに?」
驚いたティムの表情を見て驚いた。
え、この状況でなにってどういうことだ。
「ほら、アルシャナが灯した火が光って、耳が痛くなって、それで……」
「フォルテ君、どうしましたか?次は貴方の番ですから、心の準備はできましたでしょうか」
「日の出のキノ! どういうことですか?これってなんなんですか?」
日の出のキノが左手に灯した火を僕の目の前へ出した。
「この火を見てください。心が落ち着きます。貴方は炎にあてられたのでしょう。たまにあることですから、あまり深く考える必要はありませんよ」
「ふぅ」
「おいおい、フォルテ。炎の守人統括者の一人息子が炎にあてられたらダメだろ!」
くっそう、クーリドのやつめ、覚えとけよ。
でも、本当にその通りだ。
こんなんじゃ炎の守人統括者どころか、炎の守人にすらなれないかもしれない。
落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ。
「フォルテ君、ほら見て」
ぐっと顔を持ち上げられるとそこには日の出のキノの炎があった。
熱くて、目が焼けるかと思ったけど、なんでか目が離せない。
「君は大丈夫。心を強く、火を灯して」
火が灯った。
「さあ、清めが始まった。あの岩を触ってきなさい」
本当に不思議だけど、さっきまであんなにザワザワしてた心臓がトクントクンと脈打つのが分かる。
耳たぶが熱い。
火照ってるような、でも体は軽くて、隅々まで何もかもが分かるみたいな。
「フォルテ。貴方が灯した火は始まりの火。生き物を育み、その体にぬくもりを与えた火。この火を大切に育み、明日への糧としてください」
あんなにも熱せられた清めの水に入っているのに、熱さなんて感じなかった。
すごい、コレが清め。
「さて、皆さんの清めは終わりました。これで後は寝て、明日の日の出前に炎樹へと向かうだけです。それぞれのテントを張ってありますので、そこでゆっくりと眠ってください」
日の出のキノが指差すとそこには革のテントが確かに張られていた。
「「栄誉のため、灰とならん」」
みんなの言葉が揃った。
全身鳥肌が立つのを感じた。
凄い、コレが清めか!コレが炎の民の一員となることなのか!良く見るとみんな目配せしあっている。
きっとみんな同じ気持ちなんだ。
「それでは、おやすみなさい」
「おやすみなさい!」「おやすみなさい」「おやすみー」「お休みなさい」




