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スカイ・レコード  作者: 平田公義
第十章
74/118

~敵視~ 逢魔時の荒野〈前篇〉

 飛び立ったジッドの小型戦闘機、〔ジンガルザー〕一号機は雲間を縫うようにして飛行し、索敵を行っていた。機動力と索敵能力にたけた一号機は後続の二機よりも一つ頭抜き出て先行し、水先案内人となっていた。


 高高度の空から見る景色は淡く、沈もうとする夕日の赤に大地が染まっている。鋭い岩肌や深い亀裂が深い影を落として、大地に濃い陰影を作り出している。


 ジッドはシートの周りを埋め尽くす計器類とコンソールを逐一調整しつつ、サブ・モニタのレーダーや同じく操縦席全体を覆うマルチ・モニタに視線を走らせる。


「第三ポイント、チェック」


 ジッドは足元の小さな窓枠上のモニタに、巡回の中継地点である赤く輝きを放つ尖頭を確認する。それから、光通信で後続に伝達。短距離無線は素早くギィの二号機を経由して、地上を行くデムドの三号機にも伝達される。


「ジッド、早いぞ。高度も高い」


 編隊の中心であるギィの二号機は上空の一号機を視認しながら、自機の高度を少し下げた。一号機の底が夕日を照り返して、目立って見える。


「整備班はつや消しをさぼったな……」


 ギィの直感的な意見である。


「一号機、ケツが見えてるぞ」


 地上にいるデムドですら、モニタの斜め上に一号機の照り返しを見つけて冗談半分に言った。


「了解。高度を下げ――、いや、待て」


 ジッドがスロットルに右手をかけたとき、サブ・モニタのレーダーに反応があった。地磁気の波が激しい『ファルファーラ』では電子兵装はあまり当てにならないものであるが、夕暮れの太陽が落ちる時間帯は妨害が小さい時である。


 縦長の瞳が大きく見開かれる。


「どうした?」

「七時方向、そちらで視認できるか? 強い反応がある」


 ギィは慎重になって、コンソールを操作してサブ・モニタに支持された方向の拡大映像を呼び出した。索敵機能が高いわけではないが、低空を飛ぶ二号機の視点は大地の丸みがなだらかで陰影の見分けがしやすかった。


 だが、それらしい反応をキャッチできなかった。


「こちらでは確認できない」

「地上からも見当たらないぜ」


 デムドも地平線を見回して、そう付け加える。


 ジッドは機体を反応のあった方向へ操縦桿を傾けて、雲に隠れつつ接近を試みる。その動きに二号機、三号機が追随する。


「見つけた。敵だ!」


 ジッドはマルチ・モニタにポインターが作動したのを確認して報告する。


 サブ・モニタに拡大画像が表示されて、侵略軍のらしい編隊をとらえる。中隊規模ほどだろうか。距離があるために画質が悪く、ただ〔マリーネン〕らしい影が赤い地面に浮き上がっているのがわかるだけである。


「どうする?」


 ギィはそう言いつつも戦闘準備に入っていた。街から敵の相対距離は直線で結べば、かなり近い位置にいる。彼らがどんな侵入経路を経たのかは不明だが、自分たちの巡回で確実に見落としがあった。


 その悔しさが彼を苛んだのは一瞬のことで、すぐに戦闘に意識を集中させる。


「仕掛ける。先発は俺が行く。ギィ、デムドは散開して包囲」

「合体はしないのか?」


 デムドはジッドから送られてきた画像を見て、戦力比を考える。〔ジンガルザー〕の構成機体三機では五分五分といった感じである。


 もっとも、機体のステイタス上だけのはなしであるが。


 ジッドはシートベルトの締まりを確認すると、操縦桿とスロットルを軽く握り直した。


「問題ない。一号機の進行方向にミサイルを撃ってくれ。誘導する」

「わかった。無理はするなよ」


 彼らは心配をしながらも、進軍してきた敵をこれ以上近づけてはいけないと覚悟を決めていた。


 三号機がミサイルサイロを開くころ、一号機が降下して雲の下に出ると暗がりの空へ飛んでいく。空気を震わせる轟音が後に続いた。


 二号機も大きく機体を傾けて、侵略軍の背後に回る軌道を取った。


 そして、発射されたミサイルが一号機を追って飛翔する。


             *      *      *


「メインエンジン、出力八〇パーセント。チャンバー内圧、上昇」

ECUエンジンコントロールユニット作動。操縦権を艦橋へ」

「了解。スタビライザー、展開。反重力流体、循環開始します」


〔アーク・フォース〕の艦橋ではオペレーターたちが、朗々と互いに掛け合って艦を始動させていく。


 艦長席に鎮座するダイジロウは肘掛けにあるモニタとコンソールを操作しつつ、艦内の操縦系統の接続を確認する。


「まったく、送迎の任務も面倒なものだ」


〔アーク・フォース〕が出航するのは、ほかに送らなければならない外交官から督促が出たからである。


 ダイジロウはまたコンソールのスイッチを切り替えると、音声内線で来客用の部屋に繋げる。


「これより本艦は出航いたします。席を立たないように願います」

「よろしい。このような埃っぽいところはさっさと離れたいのでな」


 来客室からそんな不満の声が艦橋にこだまして、ぷっつりと切れた。


 トリスを含めるブリッジクルーたちは、傲慢な言いっぷりに士気が下がる。


「何よ。偉そうに」


 トリスは艦のバランサーを調整しつつ、デッキの発艦システムを受理する。


「まぁ、ここは住めそうな場所じゃないな。飯もビミョーだったしよ」

「もっときれいなところに行きたいな。あの寒すぎる場所も勘弁だが」


 トリスのリアクションにそばにいた火器管制官や操舵士が冗談交じりに言った。


 宇宙の中に漂う恒星間航行スペースコロニーに住んでいた彼らにとって『ファルファーラ』の勝手気ままな気候の流れに辟易していた。


 激戦の時代を経ていながら、世界をシリンダー錠のような簡素で淡泊なものだと誤認している証拠だ。


「無駄口をたたくな。離陸するんだろう?」


 ダイジロウは彼らの談話を注意して、シートに深く座りなおした。


 全体が小刻みに震えだす。電子音が一定のリズムで刻まれて、徐々に早なっていく。


「反重力流体、循環率五〇パーセント」

「トリムチェック!」

「トリムチェック、了解」


 操舵士と航海士が意気揚々と掛け合う。上司の叱責を杞憂に終わらせるためだ。


「離陸します」


 操舵士が宣言すると、艦体に一層強い縦揺れが起きた。


〔アーク・フォース〕の降着装置(ランディングギア)がゆっくりと地面から離れていく。周囲で作業をするロフクスたちはまるで気球のように緩やかに上昇していく鋼の戦艦に目を見張った。反重力流体が艦内を回って、全体を押し上げているのだ。


「針路設定。南西方向に障害物なし」


 幅の狭い渓谷で〔アーク・フォース〕の巨体を浮かせるのは、神経を使った。


「反重力流体、循環率七十四パーセント」


 機関長が艦隊にかかる左右の揺れの中で報告する。


〔アーク・フォース〕が渓谷から脱け出すと、艦尾のメイン・スラスターに火がともり始める。ゆっくりと巨大なノズルから推進剤の光を噴射させて、さらに上昇しつつ前進を開始。


 光の航跡が地上にいるロフクスたちの目に焼き付いて、『ノア』の技術力に感嘆の声を漏らす。


「〔アーク・フォース〕、巡航速度に到達。針路、良好。視界、良好」


 航海士の報告が伝えられると、ダイジロウは少し緩んだ表情見せる。


「あとは自動航行、か。また長旅だ」


〔アーク・フォース〕の操縦系統は簡略化されているために、艦長の操艦などたいしてないのだ。それこそ戦闘状態にならない限りは彼の出番はほとんどない。


 クルーも持ち回りで動いている艦の監視をするだけで、いまいち緊張感がないのだ。


 と、天井のサブ・モニタに反応がともった。


「進行方向に識別不明の反応あり」

「報告は正確にしてくれ」


 ダイジロウはそう言いながらも、しゃんとしてシートに座りなおした。


「例の侵略軍ってやつじゃないのか?」


 操舵士が半信半疑につぶやいた。


「索敵、どうなってる?」

「現在、データ照合中……。来ました、侵略軍のアーム・ウェアです」


 艦長の呼び声に、観測班から報告を受けて通信士が答える。


 艦橋に緊張が走る。


「天井のモニタに拡大画像、回します」


 トリスも観測班から送られてきた映像を天井のスクリーンに映し出して注目する。


 暗がりの空のもと、夕日を浴びて陸地を闊歩する侵略軍の機影が二機種ある。進行方向は南の方角であったが、何かに呼び寄せられるようにして針路を変更する。


「こちらに気づかれたな。ロフクスの方にモールス。警戒させろ」

「了解」

「総員、第一戦闘配備。巡航速度から戦闘速度へ。アーム・ウェア部隊の発進を急がせろ」


 ダイジロウの指示が飛ぶと、艦橋が一気に忙しくなった。


「実戦……」


 トリスは口の中でつぶやいて、艦内に警報を走らせた。


 彼女にとって初めての戦闘行動である。警報の電子音が頭に響いて、心臓がいやになるほど高鳴る。


「急げよ。遅いと死人がでるぞ!」


 ダイジロウは気持ちを高めるために艦橋のクルーたちに怒鳴って向かってくる敵を見据える。


                 *     *     *


「こんな時に、敵が来るのか?」


 シャントッドら操縦者は緊張しながらも、自機を起動させていく。命令が下って五分。〔AW〕部隊の発進がせかされる。


「オーバー・ウェアは使えないが――、やってやる」


 シャントッドの機体は飛行ユニットを換装されて、艦の上部左舷にあるデッキへと機体が誘導された。艦全体が傾いているようで、サブ・モニタには手すりにつかまっている人の影が見えた。


 それから、武装チェック。電子兵装の調整をして、射出システムとのリンクを繋いだ。


 シャントッドの〔カムシャリカ〕が甲板に出ると、鋭い風が後ろに吹き抜けていき、左手には紫色の空と赤い大地の境がはっきりと見えた。


「ブリッジ。こちら、シャントッド・コーディル。〔カムシャリカ〕六番機、先発、行かせてもらうぞ」


 シャントッドはブリッジとの回線をつないで、ヘルメットのバイザーをおろした。


「了解。少し待ってください」


 ヘルメットのスピーカーにトリスのはきはきした声を聴いて、シャントッドはムッと口をゆがめる。


 ここにきて足止めを食らうのは、不愉快であった。仕事が遅い。


「今回の任務は正面に展開する敵の掃討です。お気をつけて」

「おお。カタパルト、臨界だな?」


 シャントッドはせかすように言って、操縦桿を強く握りしめる。フットペダルの調子もいい。


〔カムシャリカ〕六番機はシークエンスに則ってしゃがみこみ、手にする大型のビーム・ライフルを抱える。ロケットスタートをするかのような、前のめりな姿勢を脚部とカタパルトで支える。


「はい。射出カウント、入ります」

「省略しろ!」


 シャントッドの声に、トリスは青筋を立てて絶句する。心臓が爆発しそうなほど高鳴った。何を怒鳴っているのだ。実戦経験の乏しい人への対応ではない、と怒り心頭する。


「ご勝手に!」


 トリスは即座にカウントを中止、発艦シークエンスシステムを省いた。


 瞬間、〔カムシャリカ〕六番機が猛烈な速度で甲板を駆け抜けていった。


「ぐっ」


 シャントッドはシートに押さえつけられる感覚を覚えて、眼球が窪む感覚を味わう。


〔カムシャリカ〕六番機は自動でカタパルトから飛び出して、空中に放り出される。それから、背部にある円形状の飛行ユニットから微かな燐光がふりまかれ、反重力流体が機体に回る。ふっと機体が風にあおられた。


「よし。上々だ」


 シャントッドは機体が軽くなったのを実感しながら、スラスターの圧力で前進させていく。飛行ユニットは機体を浮遊させる装置でしかなく、推進方法は宇宙と大差ない。


 だが、彼らにとって上下感覚がある重力下での飛行は気持ちが悪いものであった。


「不便だ!」


 シャントッドは自分の体が下を常に意識していることが気に食わなくて愚痴る。それを紛らわせるようにして機体の速度を速めて、その体を緊張させる負荷に身を任せた。


                 *     *     *


 ジッドたちの戦闘域は町から南に離れた地域であった。凸凹の岩肌や地面の大きな亀裂は敵にとって身を守る盾となり、隠れ蓑となった。


 第一波のミサイル攻撃は〔アルファ・タイプ〕部隊に撃ち落されて、広く拡散する戦法を取らせた。


「地上は任せる。こっちは渓谷の敵を討つ」

「了解。無理はするなよ」


 ジッドは後続のギィの通信の受けて、軽く笑みを浮かべると一号機を暗がりの渓谷に滑り込ませる。〔アルファ・タイプ〕の三機編隊が正面を飛行している。


 小型機の一号機は軽やかに飛び、主武装であるレーザーを撃ち放つ。


 暗がりの渓谷が照らされて、岩肌があらわになる。


〔アルファ・タイプ〕部隊はそれを回避すると、人型に変形。頭上から降り注ぐ岩塊を潜り抜けて、ビーム・ライフルを一号機へと発砲する。


「この程度!」


 ジッドは機体を一気に加速、降下させる。地面すれすれで機首を上げると〔アルファ・タイプ〕の猛攻と崩れ落ちる岩塊を通り越した。加速力ならば〔アルファ・タイプ〕以上である。


 ビームの閃光が頭上から降りかかっても、赤い機体は爆風と共に駆け抜ける。


 ジッドは揺らめく計器に一瞥をくれて、一号機を上昇させる。小刻みに揺れるシート、操縦桿の粘りが気持ちを高ぶらせる。


 一号機が〔アルファ・タイプ〕部隊の前に躍り出る。ドッグファイトならば最悪の位置取りである。


〔アルファ・タイプ〕は早くも一号機の存在を察知して、振り返ろうとする。


 だが、それよりも早くレーザー光の横薙ぎの一閃が〔アルファ・タイプ〕二機を切り裂く。真っ二つになった機体が爆発。それによって免れた一機も強烈な光芒の中に蒸発していく。


 一号機は急速上昇をかけて、崩れていく渓谷から脱出。機体には合体時に出る頭部が三六〇度回転し、周囲の索敵を行い引っ込んだ。先のレーザーもこの頭部のツイン・アイの収束装置から放射されたものだ。


「他は? まったく、当てになんねぇな!」


 ジッドは索敵の結果からジャミングがひどいことに毒づいて、一号機を旋回させる。


 横へと流れる景色の中で、パッと光芒が破裂するのが一瞬見えた。味方が落ちた風ではない。


 ギィの二号機がほかの部隊と交戦しているのだ。


「フン――っ」


 ギィは照準線が一機の〔アルファ・タイプ〕を捉える。


 二号機は左右についている重機関銃の十門から実弾を撃ちだす。殺到する弾丸の雨は容赦なく〔アルファ・タイプ〕の装甲を穿ち、戦闘能力を奪う。


 敵機の背部からユニットが排出されると、本体はそのまま力を失って降下していき地面に激突すると自爆した。


「敵の動き。予想以上に遅い……」


 ギィは機体を加速させて、後方から迫る〔アルファ・タイプ〕の追撃を回避する。身体にかかる負荷に歯を食いしばりながら、そのスリリングさに笑みが浮かぶ。


 何度か〔アルファ・タイプ〕と交戦をしてきたが、彼らの動きがいつも以上に鈍い。もっと素早く、包囲陣を敷いてきてもいいものだ。


 二号機を追う〔アルファ・タイプ〕三機は、積極的な攻撃は避けて西へと追いやるだけであった。


「あの動き、妙だ」


 デムドは操縦席に来る鋭い振動に顔をしかめながら、上空を見上げる。展開する戦闘空域がひどく狭いものに感じられるのだ。


〔アルファ・タイプ〕だけで構成された部隊ゆえか密集して飛行し、一号機と二号機を追い立てることに戦術を変えてきた。分散して戦うのが不利だと感じたのだろうか。


 三号機は赤と黒の大地をキャタピラで押し進んでいく。空を飛ぶ二機に比べれば遅いものであったが、それでも荒れた大地での走破性はピカイチである。


「分散させるべきか」


 デムドは右手に控えるコンソールパネルのスイッチを弾き上げて、ミサイルの発射準備を急ぐ。


 無煙式のマイクロミサイルとはいえ、ジャミングが酷い地域で上げても狙いをつけられない。照準のカーソルが光学観測で飛び回る〔アルファ・タイプ〕を補足するも、それだって機械の誤差でしかない。


 経験から言って、デムドはそう確信する。着弾信管から時限信管に変更して、重たいスティックタイプの操縦桿にあるトリガースイッチを押した。


 三号機のミサイル・サイロからシャワーのようにマイクロミサイルが噴出して、上空へと舞い上がった。


 二号機を追う〔アルファ・タイプ〕の部隊に殺到して、一波が彼らよりも下で爆発をした。


「うっ――」


 ギィは爆風に押し上げられる機体を制御しながら、リア・カメラが〔アルファ・タイプ〕が両腕部を広げて舞い上がるのを見た。


 爆発のタイミングが早かったためか、敵動揺は見られない。


「こいつぁ!」


 ギィは機体をロールさせて、上空から降ってきたビームを回避して見せた。


 二号機が逆に降下すると、すれ違いざまにもう半数のマイクロミサイルが駆け上る。暗い空、高高度に達したそれらがさらに連鎖爆発を起こして、機体を煽った。


 しかし、今度は〔アルファ・タイプ〕部隊も目の前で炸裂する鋭い光に動揺して、よろよろと四方八方に散らばっていく。ミサイルの直撃はなくとも、爆炎に飛び込んでしまった機体はコントロールを失って回転しならが地面へと落ちていく。


「予想通りだ。へへっ」


 地上にいるデムドは二層に分かれて広がる黒い煙を眺めながら、機体をさらに北上させる。数機が狙いをつけて降下をしてくるのがわかったからだ。


 そこにすかさず、ジッドの一号機が高速で割り込んで一射。一機の装甲を剥がした。そのままバランスを崩しながら、散らばっていく。


「敵は南下し出している。気をつけろ」

「あいよっ」


 ジッドは一号機を地面すれすれに飛行させて、三号機に伝達。それから、機首を挙げて二号機の下部を弧を描いて飛行。交差と同時に二号機の左舷から迫る敵を蹴散らした。


「遅いぞ。南西に誘導されている。気をつけろ」

「フッ。よけいなことを」


 ギィは左舷で膨らむ光芒の光に目を細めながら、正面の一機が重機関銃にうがたれて火を噴くのを見た。すかさず機体を傾けて旋回。


 彼らのチームワークは見事に〔アルファ・タイプ〕を手玉にとって、着実に戦闘不能に追い込む。合体をしなくとも〔ジンガルザー〕の各機は十分な戦果を挙げられるステイタスを有している。


 ジッドたちの士気も充実しており、混戦の中で機体はうまく動いてくれた。


 とくに一号機は敵の編隊を崩して、かき乱し、二号機、三号機の位置を把握するために大きく動いている。彼の目が常に仲間を意識している証拠である。


 そういう彼だからこそ、若くしてリーダーとしての立場をギィとデムドは認めるのだ。


 が、〔ジンガルザー〕の三機編隊が優勢と見るや否や、〔アルファ・タイプ〕は交戦を放棄して北の紫と橙色のコントラストの空へと全速力で飛び去っていく。


「撤退か?」


 空を見上げるデムドがつぶやく。


「いや、何だ……。光が、走った?」


 一号機を二号機と三号機の合間に滑り込ませて、ジッドはかすかに暗がりの空に走った一筋の光を捉えていた。


「ああ、何か糸のような光だった」


 ギィも操縦席で計器類をチェックしつつ、そうつぶやいた。


 ジッドは一号機の望遠カメラを最大にして、かすかに残る残光の位置を探った。何倍かズームアップして、クリーンをかけるとサブ・モニタにゴマ粒ほどの影を見つける。


 距離があることを鑑みれば、その影はかなり大きい。


「誰かが交戦しているのか? 導師様か」

「まさかぁ」


 デムドは冗談めいた口調で答えた。


 (サクラ)たちの戦いっぷりを一度は見たことのある彼らだからこそ、走った光や捉えた影は彼女たちの〔アル・スカイ〕らしくないと思う。


 と、今度は一番星に似た光が瞬いた。


「やはり誰かが戦っている」

「あの『ノア』とかいう連中じゃないのか?」


 ああ、とジッドとデムドが納得の声を上げる。


 しかし、状況は楽観できない。


「俺たちから逃げた敵は、そっちに合流するつもりだぜ。どうする?」

「やつらの義理は果たしたからな」

「馬鹿っ。放っておいて町に近づかれたことだろうが」


 ジッドが神経質な声を上げる。


 端的な意見であったが、そういう危険性が完全にないとは言い切れないのだ。


「合体する。『ノア』を援護するぞ」

「了解」


 各機が合体のフォーメーションを取って、合体シークエンスを起動する。マニュアルによる操縦などは接合時の微調整くらいで、誘導は機体が自動で行ってくれる。


 それぞれが変形すると手際のよさを見せて、早くも赤く焼ける光の中で〔ジンガルザー〕が具現する。


 そして、脚部にあるキャタピラが高速でうなり、砂埃を巻き上げて疾駆する。赤い装甲が夕日の中でさらに色濃くなり、装甲の曲線の先にきらりと輝きが宿る。


〔ジンガルザー〕は三機のメイン・エンジンを直結したことによって、爆発的な速度で地上を駆け抜けていった。目指す空は徐々に暗くなりつつあった。


               *     *     *


「バルチャー! クソッ。ビーム・シールドを貫通しやがった!」


 シャントッドは撃墜されたパイロットの名前を叫んで、自機の高度を上げてビーム・ライフルを撃ちまくった。


 その撃墜された残光が暗がりの空にぽっかりと残っているがつらい。


 シャントッドの〔カムシャリカ〕六番機は地上で動く巨大な機体〔ベータ・タイプ〕の注意を引きながら、敵機の頭部の鼻先に光が収束しているを見て、機体を一気に地上へと落としこんだ。


 途端、凝縮された光が右横をかすめて、くぐもった音がヘルメットのスピーカーから聞こえた。


 心臓を握りつぶすような不穏な音にシャントッドは口元をゆがめる。死ぬんじゃないか、と一瞬意識したが、考える暇を与えず〔ベータ・タイプ〕の攻撃が殺到する。


〔カムシャリカ〕六番機は地面すれすれを飛んで、ジグザグに機体を振ってビーム・ライフルを撃つ。しかし鏡面装甲を前にしては真っ向からの射撃は無意味であった。


 岩を盾にして敵を翻弄するのが手一杯であった。


〔ベータ・タイプ〕の主砲の光は後方に展開する〔アーク・フォース〕でも確認できた。


「あんなのこっちだってひとたまりもないぞ」


 操舵士が慄いた。


 その瞬間、艦橋に振動が走った。


「後部被弾!」


 通信士が報告する。


 ダイジロウは萎縮するクルーたちとは違って、しゃんとした雰囲気を持ったまま指示を出していく。


「閉鎖弁を下げろ。機銃座、敵を放せ。艦の主砲は敵大型機に集中させろ」


〔ベータ・タイプ〕は一機だけではない。


 今シャントッドが相手をしているのと、さらに〔アーク・フォース〕の左右から来る二機である。どうにか〔カムシャリカ〕のバディ編成で一機ずつ抑えることができているが、艦の周りを飛び回る〔アルファ・タイプ〕に気は回らなかった。


 ダイジロウは直掩部隊をも出払わせて、艦の自衛をこの場のクルーに任せたのだ。一度はこうした死線を経験する必要が今の〔アーク・フォース〕のクルーたちには必要だと感じた。


 パイロット候補はいるが、今予備機を出したところでいい的になるだけだ。


〔アーク・フォース〕の巨体が揺れるたびに、来賓質にいる外交官たちは悲鳴を上げて近くのものにしがみついていた。


 だが、格納庫ではいつ自分を焼く光が到達するかもわからない状況で〔オーバー・ウェア〕の調整をしているもの達がいた。


「こいつをだせりゃぁ、いくらだって戦況はひっくり返る! 気張れや!」


 便底めがねの整備員がつばを吐き散らして、恐怖にすくむ整備員たちをたたいて整備を急がせる。


 根性だ、気合だという言葉が飛び交う。精神論に根拠などなかった。だが、今何もしないまま死ぬくらいならそういった感情を高ぶらせてやって見せてやる、と意気込むものも少なくなかった。


「オーバー・ウェア、一〇分――、え?」


 格納庫の通信機から来るダイレクト回線を受けるトリスは騒々しい金属のはじける音に思わず声を大にして聞き返す。それからすぐに返答を聞いて、ダイジロウの方に振り返った。


「あと七分で出せます」

「前線のコーディル少尉にはがんばってもらわないとな」


 ダイジロウは孤軍奮闘するシャントッドの機体がうまく攻撃を艦からそらしていることをよくみていた。だからといって彼をひいきするわけではない。


 このままでは〔アーク・フォース〕は〔ベータ・タイプ〕の射程距離に入ってしまう。回避するためにも正面に展開するシャントッドの戦闘域を切り開く必要があるのだ。


「はいっ」


 トリスはそうした戦術眼などではなく、純粋にそうした返事が出ていた。


 シャントッドのことを個人的に気にしすぎている。戦場の中でそんなことを自覚する余裕などない。しかし、彼の存在が自分を支えてこの怖い状況に立ち向かわせてくれるとも思うのだ。


               *     *     *


「町の人には避難勧告、出てますよね!」

「ああ、そのはずだ!」


 (サクラ)は〔アル・スカイ〕の腕によじ登りながら、ドッグの役割をしている渓谷でも不穏な空気が流れていることを察した。


「みなさんも避難してください。あとは――」


 その時、暗がりの空に重々しい爆音が響いた。


 ロフクスの整備員たちが思わず屈んでキョロキョロと残響におびえる。


 (サクラ)も渓谷の狭い空を正面から後方まで見上げて、険しい顔つきになる。


「落ち着いてください。まだ、距離はあります。機材はおいて町に戻ってください」

「しかし、機材を置いていくのは……」

「ここの防衛はわたしたちにお任せください。機材は傷つけませんし、みなさまの安全を保障します。戻ってご家族を安心させてあげてください」


 その一声でロフクスたちもゆっくりと避難を再開する。


 (サクラ)はロフクスたちの流れを一通りの見送って、腕部を伝って胸部装甲へと移動する。


〔アル・スカイ〕の復旧作業もいよいよ大詰めである。


 メイン・コンピュータとのサーキットを絶たれて苦戦を強いられたが、青天の霹靂ともいえる(サクラ)のアイデアがその問題を解決した。


「遅いぞ」


 ミュウが鋭い声で一喝。


 (サクラ)は頭の帽子を押さえながら、彼女の横についた。


「申し訳ありません。避難誘導のほう、終わりました」

「そのようだな……」


 胸部装甲でたたずんでいたミュウはロフクスの整備員たちを目で追って、それから足もとに視線を落とす。そこには打開策となっている装置がある。


「しかし、この作業機械とやら便利だな」


 ミュウの率直な感想に(サクラ)も返す言葉が見つからなかった。


 胸部装甲の上で数機の作業機械が作業アームを組んで円陣を組み、二つのコードを伸ばしている。一方は電子戦を行う勇子(ユウコ)の席。もう一方は〔アル・スカイ〕の首元にある取り替えたばかりのロムボックスにつながっている。


「仮想サーキットを作って、メイン・コンピュータに経由できるなんて本当に便利にできてるわ。あとは、ロムにバックアッププログラムをぶっこんで、演算処理を作業機械たちにさせれば……」


 開けっ放しのハッチから勇子(ユウコ)の念仏のような声が上がってくる。


 ミュウはそのふちに差が見込んで口をへの字に曲げて、おろしている髪を手持ち無沙汰になでる。それから勇子(ユウコ)の下へと移動する。


「つまり、どういう意味だ?」


 井戸のそこに声を投げかけている気分だ。


 すると、作業機械の様子を見ていた(サクラ)もそのあとを追った。


「作業機械は並列でつなげた演算装置として動いてもらってるんです。重ね合わせ、というのでしたっけ?」

「だからっ!?」


 ミュウが怒鳴りつけると、(サクラ)は肩をすくめて帽子をとって顔を隠す。


 ミュウには演算装置だの並列だの、まして重ね合わせといわれても、まったく頭に入らない。理解できない。


「小売を経由しないで卸売りから直接買い付ける感じ――、だったからしら?」


 勇子(ユウコ)が例える。


 それでもミュウには難解な話しで、小首をかしげる。


 その様子をチラッとみた勇子(ユウコ)は作業を進めながら嘆息する。


「それでよく外交官になろうと思ったわね?」

「何を言う! あなたの言い方に問題がある」


 ミュウは何が何でも彼女たちが正しいとは認めなかった。〔アル・スカイ〕ことなら少しは理解してきたつもりであったから、システムだのハードウェアだのの話が理解できない悔しさがこみ上げてくる。


 グ、グゥウウウウン!


 と、〔アル・スカイ〕がかすかに震えて勇子(ユウコ)の操縦席から起動音が次々と鳴り響く。


「やった、成功!」


 勇子(ユウコ)はガッツポーズをして、起動画面を操作していく。まだ最適化が不十分なところがあるはず。それを調整しなければならない。


 (サクラ)はその声を聞いて、帽子で隠していた顔をあらわにする。


「それでは、早く準備いたしましょう。遠くの音が気になりますから」

「わかっておる。さっさとすればよかろう!」

「は、はい!」


 不機嫌顔のミュウが怒鳴りつけると、(サクラ)は軽やかな身のこなしで作業機械たちのほうに駆け寄る。


「みんな、ご苦労様……」


 (サクラ)はケーブルに手をかけながら、表面が暑くなっている作業機械の一機をなでた。仮想サーキットとはいえ、〔アル・スカイ〕の膨大な情報量を処理していたのだ。作業機械たちもいっぱいいっぱいにがんばってくれたと感謝する。


勇子(ユウコ)様、作業機械のほうは?」

「ケーブルをはずしたわ。ロムのほうのケーブルもはずしていいわ!」

「わかりました。作業機械たちは解散です。コンテナへ戻って」


 (サクラ)はケーブルをはずして片付けていく。作業機械たちはよろよろと処理が追い付いていない様子で自分たちの住処へと移動を開始する。


 その合間にもミュウは自分の操縦席に滑り込んで起動画面を立ち上げる。ハッチが閉じると戦闘前の緊張感が沸き立つ。


「さ、がんばろうではないか」


 ミュウは軽くウェーブのかかった髪を束ねて、気合を入れる。


「起動確認。いける」


 ハッチを閉じて、勇子(ユウコ)CGコンピュータ・グラフィックが作り出す映像を確認して、仰向けになってみる渓谷の狭い空に一番星が輝いているのを見た。


 太陽が地平線に沈みかけている黄昏時。


 冷たい風が砂埃を運んでくる。


 しかし、〔アル・スカイ〕は熱量を上げて起き上がる準備に入っていた。


「みなさん、よろしいですか?」


 ロムの装甲版を閉じて作業機械たちを解散させた(サクラ)は操縦席に体を滑り込ませて、起動しているモニタを見ながら言った。勇子(ユウコ)が遠隔で起動してくれたのだ。


「問題ない。射撃管制も出力も戦闘状態にできる」

「遠くから聞こえる音だけど、現状では詳細の位置はつかめないわ。渓谷を抜ければ、わかると思う」


 ヘルメットを装着しながら、ミュウと勇子(ユウコ)が報告する。


 (サクラ)もヘルメットを装着して、首周りの気密ファスナーを閉める。それから、バイザーをおろし、ハッチを閉じてシートに深く座る。


「わかりました」


 (サクラ)は返答し、深呼吸を一回した。


 不穏な音がこの場所にまで聞こえるということは危険である。ジッドたちが町のことを任せる、といった言葉を思い出してのどがひりついた。


 だが、立ち止まる理由にはならない。むしろ、彼女を奮い立たせた。


「〔アル・スカイ〕、発進いたします」


 凛とした(サクラ)の声にミュウと勇子(ユウコ)が了解の声で返す。


〔アル・スカイ〕は四つのセンサーアイを輝かせて、四肢に力をこめて起き上がる。その巨躯が立ち上がるのを町へ避難するロフクスたちは見た。


 渓谷の隙間に差し込む僅かな太陽を背に受けて立ち上がるその姿は神秘的な美しさを持っていた。


 渓谷を吹き抜ける風にマントをなびかせて、薄明かりの中で白い装甲が怪しく映る。


 そして、姿勢を正すと一歩、一歩と力強く歩き出す。


 機体を慣らして、(サクラ)たちは〔アル・スカイ〕の調子を確認する。浮かび上がるバブル・スクリーン、立体スクリーンに情報が更新される。


 大丈夫だ。跳べる。走れる。


 それらの情報はそう語りかけてくるようなものであった。


「跳ぶよ!」


 (サクラ)はフットペダルと操縦桿を押し込む。


 そして、〔アル・スカイ〕は薄紫の不穏な空へ跳躍。


「センサーに反応。南東の方角から西に向かって移動する熱源多数!」


 勇子(ユウコ)は跳躍の衝撃が和らいだところで言った。


「まずはその方向だな」

「はい。いきます」


〔アル・スカイ〕は脚部に圧縮空気を集めて、それを踏み台にしてさらに跳躍した。


 黄昏時の怪しい空が少しばかり少女たちをいつもより緊張させた。移動する熱源がもっと別の苛烈する反応に向かっているから、妙だと思うからである。

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