~再戦~ 雲の海上戦〈後篇〉
急上昇をかける〔アル・スカイ〕と急降下をかける人型形態の〔ガム・ガラン〕がすれ違う。
そして、互いが発振するビーム・サーベルが触れて、雷鳴のような干渉音が響き、スパークが青い空に弾けた。
〔アル・スカイ〕は強風に押し上げられつつ、スラスターを噴射した。機体の上下を反転させて、左腕部が握るバリアス・ショットガンを構えた。
「もうっ。しつっこい!」
ミュウは叫んで雲海の上を滑る〔ガム・ガラン〕に照準を合わせて、トリガーを引く。
〔アル・スカイ〕はバリアス・ショットガンを連射する。電荷重粒子を圧縮したスラグ弾が断続的に降り注ぎ、雲を貫く。
雲は生き物のようにうねり、ぷっくりとした丸い雲を打ち上げる。あたかも水滴が弾むかのように。
薄い雲の林を滑るよう抜けて、上空で体勢をなおしていく〔アル・スカイ〕に向き直る。
「あの程度の機体に、俺は何を手こずってる?」
ゲムは左右に揺られながら、〔アル・スカイ〕を見据える。
「以前よりも強くなったというのか?」
彼にはそう思えて仕方なかった。たった数日の間で急激に強くなるものではない。
両者に差が生まれたとするなら、それは意志の強さにほかならない。
〔ガム・ガラン〕は次に飛び込んできた一射を回避すると、捲られる雲に紛れて上昇をかけた。
「墜ちろよっ」
ゲムの激昂が飛ぶ。
〔ガム・ガラン〕は右腕部でビーム・ダイトウを展開したまま、機体の旋回に合わせて分離させた。ワイヤーが一気に伸びあがり、ビーム・ダイトウが〔アル・スカイ〕に迫る。
「桜!?」
「こんなものっ」
勇子が狼狽するのに対して、桜の研ぎ澄まされた感覚はその攻撃に動じない。
〔アル・スカイ〕はマントの出力を上げて、迫りくるビームの刃をマントをひるがえすとともに弾き飛ばす。
ビームが胞子のように飛散し、マントは花弁のごとく艶やかに広がる。
「次っ」
桜はフットペダルを切り替えす。
転進、〔アル・スカイ〕は機体を捻りながら落下速度を上げていく。繭に包まれたようにマントで機体を覆い、鋭く敵機へ迫りゆく。
その下で右腕部はビーム・サーベルを握っていた。
「ちょこざいなっ」
ゲムは〔アル・スカイ〕の直線的な動きを唾棄する。
これほどまでに愚直な攻め方はほめられたものではない。撃ってくれといわんばかり、あるいは能力を過信した者の行動であった。
〔ガム・ガラン〕は左腕部のマニピュレーターを広げて、ビームの爪を展開する。
その五条の光を少女たちの目は逃さない。
〔アル・スカイ〕は瞬間、繭を破って蝶のように巨体を翻す。マントが羽のように広がって、〔ガム・ガラン〕に影を落とした。
「ん――っ」
ゲムは太陽の光を一瞬失って、目を細めた。いくら機体が防眩処理をしているからといって、突発的な暗順応をしてくれるものではない。
だが、チリチリと鯉口でちらつく刃のような燐光を目の端でとらえることができた。
〔アル・スカイ〕と〔ガム・ガラン〕は互いの間合いに入った瞬間、得物を振るった。
二機のビームが正面から激突。
〔アル・スカイ〕のビーム・サーベルと〔ガム・ガラン〕のビームの爪、ビーム・ネイルが激しく反発しあう。
鋭く脳髄に響きわたる干渉音に操縦者たちは顔をしかめた。
だが、その音が大きくなるにつれてビームの膜が膨らんでいく。どちらも気を緩めることはできない。怖じけて、出力を下げたとたんに膨れ上がったエネルギーが襲いかかってくるのがわかっているからだ。
ビームの競り合いは一〇秒とたたなかった。
電磁フィールドで固定されていたビームはその壁を打ち破り、〔アル・スカイ〕と〔ガム・ガラン〕を弾き飛ばす。
「クソッ! 粘るな」
ゲムは歯がゆさを覚えながら、操縦桿を引いて機体を立て直す。
〔ガム・ガラン〕は飛行形態に変形しながら、機体をひねり素速く旋回する。ロケットのように上空へと舞い上がり、宙返り。
その先では深い青の空に跳ね上げられた〔アル・スカイ〕の機影があった。
「姿勢制御が――っ」
勇子は警報の赤ウィンドーと音、さらに内蔵が押し上げられる気持ち悪さにうめいた。指先は操縦桿に接しているが、指先はぴくりとも動かせない。
それもそのはず。〔アル・スカイ〕は気流に流されて、空中でおぼれているかのように転がっているのだから。急上昇から一気に激流を下るかのように、機体は高速で落下する軌道に入った。
その先には〔ミカミカミ〕の尾翼が待ちかまえている。
「嘘っ。〔ミカミカミ〕まで押し返されちゃったの?」
勇子は体を縮め、首をすぼめながらもモニタに映り込む巨大な山の形を見逃さなかった。
「ほかの方々は――?」
桜も体中の血が上半身に集中する重たさと苦しさにめまいを覚える。そうあっても、視界に入る〔ミカミカミ〕の峰を見てしまっては苦痛を押さえて腕を動かさなければならない。
彼女は操縦桿を引き、フットペダルを起こした。
〔アル・スカイ〕がスラスターを断続的に噴射して、機体の回転を減速させる。そして、機会を見計らって両脚部で思い切り宙を蹴り飛ばした。
圧縮した空気を踏み台に、機体は軽々と空へと昇る。
正常な感覚に戻り、桜たちも思わずほっと胸をなで下ろす。
だが、その瞬間を待っていたとばかりに〔ガム・ガラン〕の五連装ビーム砲が瞬いた。
「――っ」
ミュウの目がそれをとらえて、迎撃にでようと操縦桿を動かす。
だが、〔アル・スカイ〕が機体をひねってその方角にバリアス・ショットガンを向けようとしたときにはマントにビームが直撃し、再び空の流れにたたき込まれた。
桜たちも思わず悲鳴を上げてしまう。
「トドメをいただくっ!」
ゲムは〔ミカミカミ〕に流れていく〔アル・スカイ〕に照準を合わせていると、接近警報が鳴り響いた。
それは真下から来る反応であった。
「下!」
〔ガム・ガラン〕は五連装砲を下方に向けると、間髪入れずに発射した。
奇襲をかけようとした〔マッドラ〕数機が雲にでた瞬間、すぐに散り散りになって回避運動をとった。
その中で、雲の上をすれすれを旋回する一機はミーガルのものである。
「こんなところにまで敵が来ている? うわっ」
ミーガルは次にくるビームの雨に驚きながら、〔ミカミカミ〕の腹の底へと避難していく。
「一度戻って、何か……。何か考えないと」
ミーガルにしてみれば、手練れの敵が多い戦場にいつまでも居たくはない。〔ミカミカミ〕を視界にとらえてからはその気持ちを抑えることが出来ず、機体をその方に飛ばしていた。
要塞ともいえる〔ミカミカミ〕の中でなら多少の被弾があってもすぐには落ちないだろうと考えたからだ。
しかし、それは経験の薄い若者のいうこと。
戦場が浮遊する山の周囲に集中し始めれば、そうもいってられない。
「敵は上と下、両方から攻めてきてるんだぞ」
「上の奴らをせめて下に引きつけろ! まだ上の町は避難中だ」
〔ミカミカミ〕へと駆けつける〔マッドラ〕部隊の操縦者たちは焦りと興奮の中で怒鳴り散らした。
侵略軍の〔アルファ・タイプ〕と『ノア』の〔カムシャリカ〕が蚊のように飛び回り、ビーム・ライフルを乱射する。
その火線は初速があっても、〔ミカミカミ〕に致命傷を与えられるようなものではなかった。
「なぜ、当たらない。あれだけデカイ的なんだぞ」
「奴の大きさを考えろ。相対距離、速度、設定しなおせ」
とくに〔アルファ・タイプ〕の動きは鈍かった。
モニタでは〔ミカミカミ〕の全体像をとらえているというの着弾した手応えはない。当然だ。〔ミカミカミ〕の標高数百メートルは、人の目が見ている以上に強大なのだ。
だが、その強大さをコロニーという揺りかごで慣らした『ノア』の操縦者たちは機体を思い切り前へと突っ込ませた。
「推進装置の破壊は、宇宙人どもにやらせればいい。俺たちは侵入経路の探索だ」
先頭を切る〔カムシャリカ〕がビーム・シールドを広域展開して、後続を先導する。
対して〔マッドラ〕部隊も切り込んでくる〔カムシャリカ〕部隊を強く警戒し仕掛けていった。
ビームが錯綜する。その中に糸くずのような〔マッドラ〕の武装が反射してきらめく。
「戦況は優勢。だが――」
ゲムは足下のモニタを見てはその戦況を確認し、自機を〔ミカミカミ〕の上へと運んだ。彼の意識は依然〔アル・スカイ〕に向けられたままで、討ち取ったという確証もなかった。
彼の獰猛な瞳は〔ミカミカミ〕の上にある町や山へと注がれていた。
「ヤツめ。どこにいった?」
ゲムは忌々しげにつぶやく。下方から上がってきた〔マッドラ〕の邪魔さえなければセンサの範囲から逃すようなヘマもしなかった。
〔アル・スカイ〕を見失ってからまだ三分と経っていない。その時間の長さにいらだちが募る。
「そう遠くにはいってないはずだ」
ゲム・ブラッヘの推測は間違ってはいない。
体勢を崩された〔アル・スカイ〕は〔ミカミカミ〕に隠れるほか助かる道はなかった。
そして、〔ガム・ガラン〕の光学センサはようやく山陰から現れたひらひらと流れ出てきた物体をとらえた。
「そこっ」
ゲムは迷わずその方向に斉射して、〔ガム・ガラン〕を加速させた。
しかし、ビームは回避されてはためくマントがさっと山肌へと寄った。
意志あるモノの動きだ。
ゲム・ブラッヘの口の端が喜びでつり上がる。
「次は――」
当てる、と思ったそのときセンサが新たな影をとらえた。
「しまった!」
そこでゲムは自身の愚かさに絶句した。とっさに操縦桿を右へ倒す。
彼の視線の先、〔ミカミカミ〕の中腹。まだ雪の残る山肌から〔アル・スカイ〕が起き上がりバリアス・ショットガンを向けていた。
「軌道を変える……?」
ミュウは思わず息をのんだ。〔ガム・ガラン〕の挙動が一転して、旋回しようと機首を傾けたのだ。
「こちらの囮に気づかれましたか?」
桜は左側面のモニタを一瞥していう。
〔アル・スカイ〕はマルチ・ハープーンを展開しており、その先は凧のように揺れる銛に結わえ付けられたマントが空に上がっている。
安直な仕掛けであるが、目のいい操縦者ほど動くモノに対して過敏である。〔ガム・ガラン〕もそうであった。
だが、彼はそれを克服して〔アル・スカイ〕を見抜いたのだ。経験の差で片づけられるものではない。敵には戦いのセンスがある。
桜は操縦桿を思わず強く握りしめた。
「間に合えっ」
ミュウは祈り、トリガースイッチを押した。コンマ数秒とおかずバリアス・ショットガンからビームが瞬いた。
それでも、ミュウ・ミュレーヌ・レルカントは気が抜けなかった。当たるか当たらないか、彼女でも見当がつかないほどギリギリのタイミングだったからだ。
〔アル・スカイ〕から発射されたビームがあっという間に〔ガム・ガラン〕に迫った。
「――当たるわっ」
勇子が敵機の動きとビームの速度とを見比べて直感的に、そして願望を込めて叫んだ。
真実、命中は確実である。
それを一番理解していたのは、ゲムをおいてほかにいない。
「まだ、間に合うっ」
ゲムは体中から汗が噴き出すのを感じながら、この死線から目を背けることはしなかった。
一世一代の大博打。
〔ガム・ガラン〕は迫りくるビームに対して人型へと変形していた。機体はすでに回避に入っていたが、スラスターの推力では間に合わない。
人型によって生まれるわずかな空気の流れの変化に、彼は賭けたのだ。
それはほんの些細な変化であった。そして、決定的な仕掛けとなった。
ビームは〔ガム・ガラン〕の胴体をはずれて、左腕部に命中。致命傷を回避できた。
「ぐぅううっ」
ゲムの目には左側面のモニタが真っ赤に燃え上がるのが見えた。右へと吹き飛ばそうとする衝撃が走り、体が引きちぎれそうな痛みが走った。
それが生きている証でもある。歓喜する余裕もなどない。尻の穴が締まり、股間が縮こまる居心地の悪さを味わいながら首の皮一枚でつなぎ止めた命を感じ取った。
「当たった!」
ミュウは青空に膨れ上がった真っ赤な色に声を上げる。
「いいえ。敵機はまだ動いてるっ」
対して勇子が鬼気迫る声で返した。
黒煙を突き破り、隻腕の〔ガム・ガラン〕が五つの指先を〔アル・スカイ〕に向ける。しかも、体勢は崩れて無理矢理に照準を合わせているようにしか見えない。
だが、その一撃こそ命取りになると少女たちは直感した。
「くるっ」
桜はぞっとする気分を吐き出し、フットペダルを踏み込んだ。
同時に〔ガム・ガラン〕の指先が瞬いた。
〔アル・スカイ〕は肩部のマルチ・ハープーンのワイヤーを高速で巻き上げさせながら、雪の斜面に立ち上がるところであった。
マントは手元から離れたままだ。このまま直撃を受ければ、〔アル・スカイ〕でも貫通されてしまう。
殺される。心臓に突き刺さる恐怖に桜たちは身の毛がよだつ。
その恐怖のあまりか、桜たちの視界が一転して青と白が入り交じった世界が映った。ガツンッと脳味噌が揺さぶられ、身体がこわばった。
光は一呼吸するまもなく〔アル・スカイ〕のいる山肌に着弾。一瞬にして雪を溶かし尽くし、岩塊を焼き尽くす。
水蒸気が盛大に膨れ上がり、一瞬にして気流にさらわれる。
「チッ。運のいい!」
ゲムは着弾地点よりも数十メートル下に雪まみれ横たわる〔アル・スカイ〕を見逃さなかった。
あの一瞬、〔アル・スカイ〕はあろうことか脚部を滑らせて転倒したのだ。人型兵器の弊害ともいうべきところで命を救われた、とでもいうべきか。
「だが、これまでーー」
〔ガム・ガラン〕は人型形態のまま〔ミカミカミ〕へと突っ込んでいく。
「敵が来るよ!」
勇子が叫んだ。まだ頭が左右に揺れている感覚が残っているも、立体スクリーンの報告はすっと頭の中に入ってくれた。
「はいっ」
桜は気合いを入れて、コンソールパネルを操作して〔アル・スカイ〕を起きあがらせる。
仰向けの状態になった〔アル・スカイ〕はマントを手にすると、マニピュレーターを通してエネルギーを供給する。
途端、はためくマントは凶暴な力を宿した。その陰で短銃身になったバリアス・ショットガンからビームの連弾が放たれる。
〔ガム・ガラン〕はその攻撃を軽やかによけて、再びビーム・ダイトウを分離させて縦に振りおろされる。
「――っ」
桜は奥歯をかみしめて、操縦桿を力任せに操る。
〔アル・スカイ〕はマントを大きく振ってビーム・ダイトウをはじく。そして、メイン・スラスターの出力でむりやり機体を起こすと、すぐさま斜面を蹴らせた。
〔アル・スカイ〕が大きく、〔ガム・ガラン〕へと跳躍。
それに併せて、ビームの刃が空中で浮かんだが、すぐにワイヤーに引っ張られて主の元へ帰っていく。
「桜、距離をつめられては撃てぬ」
ミュウは桜の操縦に文句を垂れながら、射撃の手を止める。
互いの距離が近くなりすぎた。バリアス・ショットガンでしとめられても、〔ガム・ガラン〕が引き起こすだろう爆発に巻き込まれることは必須であった。
「でも、この距離は白兵戦が有効よっ」
勇子はフォローを入れて、迫りくる敵機の単眼を睨んだ。
〔アル・スカイ〕はスラスターを噴射して、機体を傾けると回し蹴りの体勢に入った。
だが、それは〔ガム・ガラン〕も同じであった。鋭利な刃物のような長い脚部がきらめく。
空中で二機の蹴りがぶつかる。一方には電荷重粒子をまとった蹴り、片や大気圏突破をも可能とする蹴りだ。
必然、〔ガム・ガラン〕の脚部が溶解して、崩れ落ちた。チェーンソーで削られるがごとく、分厚く長い脚部が切り離された。
「しかし――っ」
ゲムにはワイヤーが戻ってくるまでの時間稼ぎが出来れば、それでよかった。
横間を過ぎる〔アル・スカイ〕へ〔ガム・ガラン〕はさらに機体を傾け、マニピュレーターを回収すると最大出力でビーム・ネイルを発振させる。
〔アル・スカイ〕は背を向けた状態だ。次の空中跳躍は間に合わない。広範囲のビーム・ネイルから逃れられない。
その凶暴な光の束に、桜たちは呼吸をすることを忘れた。
頭が真っ白になりかけた。
だが、桜たちは反射的に機体を操る。考えるよりも早く体が動き、肌にヒリヒリとした感覚が頭に焼き付く。
〔アル・スカイ〕はマントで機体を覆い、危機一髪のところで防御に回ることが出来た。が、ビーム・ネイルのすさまじいまでの衝撃と閃光、何より錯乱するビームの余波が操縦席を激しく揺さぶる。
「うぅ――」
桜たちの前に蛇のように電流が走った。モニタがノイズにまみれ、次の瞬間には機体に備わっているエア・バックが一挙に作動する。
〔アル・スカイ〕が衝撃に耐えきれずに、スーパーボールのように弾き跳んだ。気流を突き破り、〔ミカミカミ〕の右翼へと猛スピードで落下していく。
「きゃうぅっ」
桜はエア・バックに埋もれながら呻いた。全身の血がドッと左半身に寄った。眼球が飛び出しそうになって、思わず両目を堅く閉じる。
「手ごたえあり!」
ゲムは直感的にそう思った。
〔アル・スカイ〕は〔ミカミカミ〕との衝突を寸前のところで避けたが、長くは空中姿勢をとれずに尾根に倒れ込むようにして落ちた。
これは好機である。
〔ガム・ガラン〕は膝関節から下を失った左脚部を切り離すと、メイン・スラスターを噴射して〔アル・スカイ〕を追随する。
その中でも、彼は周囲に目を走らせてほくそ笑んだ。
「周りもよくやってくれている」
〔アルファ・タイプ〕にしても、〔カムシャリカ〕にしても大気圏の闘い方を心得ているようで〔マッドラ〕の部隊を引き寄せるようにして〔ミカミカミ〕へと接近していた。
ビームの幾つかが〔ミカミカミ〕の装甲を焼く。
だが、自分たちの縄張りを荒らされて、黙っている〔マッドラ〕ではない。先ほどよりも苛烈に、果敢に攻めて侵略軍、精鋭軍隊を押し返していく。
パッと光芒が輝く。敵か味方かなどわからない。どちらにしても命が散っていく光が目に付きだしていた。
「早く、動きなさいよ。これ以上長引かせたら、多くの人が――」
「わかってます」
桜はしぼんでいくエア・バックを押し退けつつ、勇子の警告に苛立たしげな声で言った。それから、空中に引かれる黒煙の筋に目を細める。
吐き気も頭痛も気にしてられない。頭を振って、少しでも思考を働かせる。
後方で爆音が轟き、少女たちの身体は鞭打ちにあったような痛みが走る。
〔アル・スカイ〕はふらふらした足取りで〔ガム・ガラン〕の攻撃を回避する。三人の操縦はまだ全快していない。最小限の動き、最小限の移動で避けてはマントで防ぐほかなかった。
「このまま積みか?」
ゲムはこのまま追いつめれば勝てる確証を得ていた。しかし、相手は〔アル・スカイ〕だ。一抹の不安が頭にもやを残して、気分は晴れない。
だからこそ、徹底的に撃ち込む。
空中機動がまだできる〔ガム・ガラン〕は〔アル・スカイ〕の頭上を通り過ぎると、機体をとんぼ返りさせて集中砲火を浴びせる。
「早く体勢を直さないと――っ」
桜は呻いて、胸の内から沸き上がる赤黒い感情に突き動かされていく。
* * *
〔ミカミカミ〕の各所に降り注ぐビームの爆撃は住民たちを絶望へと追い込んでいた。
「また振動……」
格納庫に戻ったミーガルも、空気の震えを感知してつぶやく。
ゴーグルモニタをあげて、マスクを下げると息苦しさに襟元をゆるめる。汗は冷え冷えとしているのに、つんと鼻を突く臭いがミーガルには不快でならなかった。
「まだ戦っている連中もいる。補給物資、運ぶ奴が必要だろうよ!」
「上は避難している人がいるんだぞ。主翼の上にはまだ、何千人もいるんだ」
整備員、スタッフは中枢から送られてくる命令に滅茶苦茶にかき乱されていた。
しかし、その混沌の中にあってもやるべきことを理解しているのが彼等である。損傷を受けた機体の応急処置や操縦者への戦況伝達も怠らない。
ミーガルたち、学徒上がりの兵士に対しても寛容であった。
「学生上がりはこのまま待機。動けるヤツは、三番格納庫へ行け。補給物資の運搬だ」
整備員が拡声器を使って、機体の合間を走り抜ける。
「死に急ぐことはないからな!」
その一言の重みにミーガルは生唾を飲んだ。
そうだ。無理に前線に復帰しても足手まといになるだけだ。
がむしゃらに逃げ回って、行きがかりで反撃をして、敵を撃墜して……、その苦しい繰り返しをしなければならない。それにいつもうまくいくとは限らない。
このまま、比較的安全な場所でじっとしていたい。
だが、それで本当にいいのだろうか。ちっぽけな良心が恐々と胸を揺する。
揺れ動く彼女の心情を突くように、格納庫内が上下に鋭く揺れた。空気が震え、慟哭するように鳴動する。
「第五層で火災だって!」
「底の方じゃないか……」
「手の空いてるヤツは急げ! 急げよ!」
誰かが叫んだ。
若い操縦者たちはすくみあがる。これ以上の逃げ場はない。だが、何をすればいい。何ができる。
そんな考えが頭を埋め尽くして、体を止めてしまう。
「どうすれば、助かる?」
ミーガルは震えた声でつぶやいた。そして、自分の傲慢さに気づかされた。
助かるためには行動しなければならない。だが、今彼女の胸中には『導師』という強い味方があった。それに無意識のうちに頼ろうとしている。
自分なんか『導師』様に比べたら……、と自己完結している。雲の上の存在と比べたってわかりきっていることではないか。
「何をすれば助けられるっ」
ミーガルは初めて周りをみた。
手はふるえたままだ。膝も笑っている。小娘一人で何ができる、と気弱に肩が落ちる。
しかし、彼女の瞳は揺れ動き、迷っていても逃げ出す意志は微塵もない。
そして、青天の霹靂のごとく本部から通達された指令が彼女の心を決めさせた。
「動ける機体は五番リフトに集結。右翼の避難を支援。『導師』様が戦っている!」
「――っ。了解!」
ミーガルは意志を決めて、再び戦闘装束に顔を覆った。怖がっている自分を隠すようにして、その仮面がわずかに勇気をくれた。
いや、ミーガルの背中を押してくれるものは憧れに一歩でも近づきたい願望からだ。
そして、彼女の乗る〔マッドラ〕は胸を張って、五番リフトへ向けて歩き出す。
* * *
右翼では火の手が上がっていた。気流になぶられて、黒煙が羽毛の絨毯のように張っていた。後方にある巨大プロペラがそれを巻き上げると、黒い螺旋の軌跡が引かれる。
「ダメです! 撃ってはいけません!」
「チィッ」
桜の声にミュウは恨めしい思いを口にした。
〔アル・スカイ〕は右翼の町を俯瞰するようにして滞空していたが、マニピュレーターが握るバリアス・ショットガンを納めるほかなかった。
「よくも持ち直してくれるっ」
ゲムは自機が下に追いやられたことを悔やんだが、〔アル・スカイ〕の挙動が鈍ったのを見逃さない。
家屋の合間を半壊した〔ガム・ガラン〕は滑るように移動し、五連装ビーム砲を撃ち上げる。
〔アル・スカイ〕は五条のビームをマントで弾き飛ばした。カラーガードの旗を彷彿とさせるダイナミックな動きが、ビームを拡散させかっこあるすかいの挙動に花を添える。
「このままこちらに引きつけて――、せめて町からは離しましょう」
桜の判断にミュウも勇子も反論しなかった。この場で闘牛まがいのことをしていても、町の被害を拡大させるだけだ。
人の暮らす場所を壊すようなことはしたくない。
〔アル・スカイ〕は襟元にあるジョイントにマントを付けなおしながら翼の先端へと流れた。
「少しでも町から遠ざけようという魂胆。見え透いている」
ゲムは〔アル・スカイ〕の挙動が安直であることを笑った。町を盾にして戦えば、相手は勝手に躊躇をする。
「そこまでする理由はないだろうによっ」
〔ガム・ガラン〕は右腕部をかかげて、放物線を描いて降下する〔アル・スカイ〕を牽制する。機体は低い家屋の屋根に寄りかかるようにして、砲台として固定する。火災の黒煙が薄く、機体を包む。
五連装のビームが乱発され、〔アル・スカイ〕も高度を低くして避けるほかなかった。
「あやつ、あの場から動かぬつもりだぞ」
ミュウは忌々しげに呟く。今にもトリガースイッチの安全装置を外しかねない。
「ミュウ様、落ち着いてください。まだ避難している人もいるのです」
桜は機体を小さく跳躍させて、ビームを回避。同時に光学センサを最大にして、〔ガム・ガラン〕の背後の光景を探った。
いくつかのウィンドーが表示されると、黒煙の合間に人影の列が映り込んだ。〔ガム・ガラン〕の砲撃に頭を低くし、反動で巻き起こる揺れに彼らは怯えて、走るので精一杯の様子。家屋が崩れ、黒煙にむせて涙を流しながらも避難経路をたどる。
ミュウもその映像を目にしては、歯を食いしばって自制する。少ない犠牲を出すことを覚悟であれば、彼女は引き金を絞っただろう。だが、その方法が正しいとは思わない。
「では、どうする!」
「そ、それは――」
「増援が来てくれたわっ」
勇子の興奮した声とともに、主翼の下から〔マッドラ〕数機が現れる。彼らは低空で町に侵入すると逃げ遅れたヒトたちのために動き始めた。ヒトを掬い上げては運び、あるいは道を塞ぐ瓦礫を押しのけてくれる。
桜にはその姿がとても頼もしかった。
幸い、〔ガム・ガラン〕は〔マッドラ〕の動きに気づいていない。仕掛けるなら、このタイミングだ。
「ミュウ様、勇子様。よろしいでしょうか?」
「しかけるのか?」
ミュウも桜の重たい声に答える。このまま距離を保っていても、いずれ敵は〔マッドラ〕を察知するだろう。それで標的を変えるかどうかはわからない。
〔アル・スカイ〕は向かってきたビームをマントで弾くと、一度町の広場に着地。すぐにスラスターを噴射して跳び上がった。
「やります。勇子様、暗号の打電お願いできますか?」
「了解。カラスードの周波数はわかってるんだから」
勇子は答えるなり、近くを飛行する〔マッドラ〕に打電する。そこに一重、二重のノイズを混じらせて、〔ガム・ガラン〕に電波障害を演出させる。
「え? 導師様たちが……」
ミーガルは主翼の上で迸る光に目を細めながら、ゴーグルモニタに投影された勇子からの打電に息をのむ。
〔アル・スカイ〕は町の上をはね回り、ギリギリまで高度を落として〔ガム・ガラン〕の攻撃を引き受けている。押しては返す波のように挑発的に飛び回る白い鎧は一見、滑稽に思える。
だが、ミーガルにはその行動が果敢なものだと理解できた。
「わたしたちのために――」
「そこのお前!」
惚けていたミーガルの耳元に怒鳴り声が響いた。
「は、はいっ」
「お前は火災した箇所の消火を急げ。この煙はたまったもんじゃない」
「はいっ!」
ミーガル機は足下を通る人たちを見渡し、同じ部隊の〔マッドラ〕を一瞥すると、風上に向かって飛び出した。
屋根の上すれすれを飛び、黒煙に紛れて進んでいく。少しでも敵に見つかるまいとする彼女の本能がそうさせた。
「――見えた」
黒煙に混じって、はらはらと舞う火の粉が強くなる。
そして、〔マッドラ〕のセンサーアイを通して、ミーガルは赤々と燃える炎を認める。
〔マッドラ〕は激しくうなる風の中で、簾の武装を振って炎を叩き消していく。水などない。風は火を増長させるだけ。炎の元を砕いて、消火作業をする。
ひときわ大きく火の粉が舞う。灰が膨れ上がって飛んでいった。炭化した家屋、その灰をかぶった家々の壁が目立つ。
戦況には一切響かない、地味な作業である。
だが、錯綜するビームの中に身を投じるよりも、今この場所で助けが必要な人のためだからこそ彼女は恐れを超えて全力を注げた。
「火災していた場所は減っているのではないか?」
ミュウは黒煙が薄くなってきたのを感じていった。
「こちらも早く、敵をはがさないと」
「はいっ」
〔アル・スカイ〕はビームを回避し、一気に町に居座る敵機へ突っ込んだ。疎らになり始めた敵の射撃が桜に突破口を生み出させる。
「ようやく来たか!」
ゲムは〔アル・スカイ〕の接近に覚悟を決めた。
すでに〔ガム・ガラン〕は正面切って戦える力はほとんど残されていない。エネルギーも底をつきかけている。それでもビームの乱射をやめなかったのは、〔ガム・ガラン〕が疲弊していることを悟らせるためだ。
そして、今、敵はエネルギーが底をつきかけていると判断して突進してきた。
勝算の限りなく低い戦い。
だが、〔ガム・ガラン〕は片足で立ち上がると、残る右腕部を構える。
〔アル・スカイ〕は加速をかけて、右のマニピュレーターが握るビーム・サーベルの発振器を突き出す。
同時に互いの光の刃が瞬いた。
両者の刃は触れ合うと、甲高い音を響かせる。鋭い衝撃波が家屋を粉砕し、資材を吹き飛ばした。
「ぐっ」
先に身を引いたのはゲムである。
彼の〔ガム・ガラン〕はマニピュレーターの出力を押さえると、スラスターを点火して後退する。
〔アル・スカイ〕の体勢が崩れる。
「もらった!」
〔ガム・ガラン〕は崩れそうな体勢をスラスターで無理やり起こしつつ、右腕部を振ってマニピュレーターを射出する。弧を描いてワイヤーが〔アル・スカイ〕をからめとった。
「しまった――」
桜は戦慄した。僅かな反応の遅れが敵に勝機を与えてしまったのだ。
〔アル・スカイ〕は完全に動きを封じられて、脱出ができない。
すると、ぐんっと機体が引っ張られて〔ガム・ガラン〕ともつれ合う。町の上で直立した姿勢で拘束され、敵機の単眼のセンサーアイが〔アル・スカイ〕をのぞき込む。
「うっ。どういうつもりだ?」
ミュウはこの行動の意味を理解できなかった。
「死なばもろともっ」
ゲムは機体のリミッターを解除すると、〔ガム・ガラン〕から不協和音が轟き始めた。すべての主動力が一瞬にして臨界に達して各アクチュエーターが悲鳴を上げる。
そして、メイン、サブのスラスターから爆発したような閃光がほとばしる。
「自爆するつもり!?」
勇子は上擦った声を上げた。操縦席にまで来る振動に恐怖が押し寄せる。
異変に気付いたのは勇子だけではない。
「なにか仕掛けるつもりだぞ! 止めろ!」
避難誘導から外れた〔マッドラ〕たちが簾状の武装を伸ばして、〔ガム・ガラン〕に突き刺していく。しかし、〔アル・スカイ〕がいる手前彼らも本気で撃墜することはできなかった。末端部に食い込ませるのが関の山であった。
「こんなものでぇっ」
ゲムは温度が急上昇する操縦席で叫んだ。
瞬間、〔ガム・ガラン〕は〔アル・スカイ〕ごと目にも留まらぬ速さで後方へと流れる。その先には回転するプロペラが待ち構えていた。
気を抜いていた〔マッドラ〕は機体を倒されて引きずられる。が、中には脚部の爪をくいこませてブレーキをかける機体の姿もある。しかし、長くはもたないだろう。減速させているものの、地面を深く引っ掻いて引きずられ、腕部も肘や肩からもげ取れそうな勢いだ。
万事休す、か。
桜たちの思考は一気に凍り付いた。
このままもろともにプロペラに機体をぶつけるつもりだ。そして、〔ミカミカミ〕の機動力を削ぐつもりだ。そうなれば敵部隊は一気に〔ミカミカミ〕に押し寄せることだろう。
「離れなさいよっ」
「お前を落とせば、いい暮らしをさせてやれるんだよ」
それはあまりに凡庸な願いで、そして切実な言葉であった。
「だからって――!」
桜とてそれを容易に認めるわけにはいかない。
〔アル・スカイ〕はスラスターを噴射して軌道を変えようと試みるが、エンジンの臨界点を超えて加速していく〔ガム・ガラン〕の勢いについていけるものではない。
装甲がきしみだす。ワイヤーの巻き付けが強くなっている。
だが、それ以上に捨て身の〔ガム・ガラン〕は破損個所から漏電を起こし、限界を超えたスラスターが次々に爆損していく。
「そうしなきゃ、死にきれないだろ!」
ゲムは火を噴き始めたモニタの中で叫んだ。
次の瞬間、〔ガム・ガラン〕の装甲の合間から炎が燃え上がる。単眼のセンサーアイの奥からも炎が燃え盛り、油に交じった火が涙と落ちる。
「どうして……」
桜は炎の中に燃え上がるヒトの意思を感じた、気がした。胸を焦がす熱量と脳みそを溶かす怨嗟に体が震えあがる。
〔アル・スカイ〕に燃え移ろうとする炎の熱さが三人の肌にも伝わってくる。直にではない。機体のフィードバックともいえる痛みであった。
プロペラまで数十メートル。
「何とか踏ん張れ!」
「これ以上は――っ」
「町をこれ以上滅茶苦茶にされてたまるか」
〔マッドラ〕の操縦者たちも火だるまになっていく敵機に恐怖しながらも、機体を楔として耐えさせる。しかし、敵の執念の前に脚部の関節が、腕部の関節が引きちぎられる機体も少なくなかった。
「クソッ」
「ここで敵の思い通りにさせるものか」
操縦者たちは推進装置一つ、町ひとつを守るために必死であった。桜たちのことを考えている余裕もない。爆発寸前の敵機が起こすだろう惨事を止められなければ先はないのだ。
「間に合って――」
そして、遅ればせに合流してきた一機の〔マッドラ〕の一撃が〔ガム・ガラン〕の右肩部に幸運にも突き刺さった。その機体は脚部を突き出して、家屋を粉砕しつつ装甲についても滑り続けた。ミーガルの乗る〔マッドラ〕だ。
「導師様、早くっ!」
ミーガルは激しく飛び散る火花に目を細めながらも、桜たちの無事を祈った。
「――――っ」
桜は操縦桿の感触が軽くなったのを敏感に感じ取ると、一気に押し込んだ。
〔アル・スカイ〕は最大出力で両腕部を広げる。一瞬にして、〔ガム・ガラン〕の損傷した右肩がはじけ飛んだ。
撓んだワイヤーを払いのけると〔アル・スカイ〕の巨体が再び青い空へと飛翔する。
しかし、火だるまになった〔ガム・ガラン〕は止まらない。放物線を描いて、プロペラへと突っ込んでいく。
「総員、離脱しろ!」
〔マッドラ〕隊長機が叫んだ。
そういわれなくても、〔マッドラ〕の操縦者は制御ができないと理解して機体をすぐに後退させていた。
執念、偏執で動く機械はやがてプロペラの付け根、シャフトへと転がるように墜落。そして、大爆発を巻き起こして、気流に逆らう爆風を巻き起こした。
巨大な爆炎が柱となってそびえたち、黒煙は機体の数十倍にも膨れ上がった。
その爆発は〔ミカミカミ〕の巨体をも傾けさせた。それはほんの些細な傾きであったが、中にいるヒトビトはこれまでにない激震に阿鼻叫喚と化した。
さらに事態は悪い方へと転がる。
「推進装置が――っ」
高度を取った〔アル・スカイ〕は燃え盛り、金切声をあげて崩れていくプロペラを見やった。濛々と上がる黒煙と炎の勢いはゲム・ブラッヘの執念をくべたように強くなっていく。
そして、プロペラがシャフトを曲げていき、右翼の装甲の一部が盛り上がっていく。強固なボルトがはじけ飛び、ついに巨大シャフトが露出する。海竜が鎌首もたげるように、シャフトは波打つように隆起していく。
装甲がはがれ、曲がっていく怨嗟のように震えた音は怪物の鳴き声のようだ。
「トランスミッションをやられたか――。住民の避難は!?」
「ほぼ完了です。でも、これは……」
〔マッドラ〕の操縦者たちは町を破壊する鋼鉄の大蛇に奥歯を噛みしめる。
家屋が紙細工のようにはじけ飛んで、空の塵と化していく。
「ああ、家が――」
「どうして、こんな……」
内部に避難していく人たちは煤にまみれた体で、次々と飛び散っていく家の残骸を視界の端にとらえて声を震わせた。
「――っ」
桜は〔アル・スカイ〕にビーム・サーベルを両腕部に握らせると急降下していった。
「どうするつもりだ?」
「シャフトを切ります。あとは、プロペラの自重で落ちてくれるはずです」
「一番出っ張っている部分。そこを切り落とすわよ」
「ビーム・サーベル二本を束ねれば――っ」
〔アル・スカイ〕は二つの発振器を束ねるようにして構えると、一気に出力を高める。
〔ガム・ガラン〕の武装がヒントとなって、この使いた方を桜は思いついた。だが、ビームの電磁場共振のプログラムや出力調整を誤れば、自壊して跳ね返ってくる。
それでも三人は実行する。電磁場の磁界を合わせ、出力を調整して同調させる。何より〔アル・スカイ〕はその使い方を思い出したように微調整を加えてくれる。
桜たちの気勢とともに〔アル・スカイ〕のビーム・サーベルが伸び上る。その身を軽々と超える数百メートルはあろう光の刀身はくの字に折れたシャフトを一刀両断。
光の軌跡が円月を描く。首を斬られた龍の叫びのごとく、鋭く擦れ合う金属音が轟いた。
そして、支えを失ったプロペラが轟音を立てて滑り落ちていく。右翼の装甲の一部とトランスミッションを道連れに巨大なシャフトが雲の中に沈んだ。
「成功、しました。けど……」
〔アル・スカイ〕は高度を落として、開けた主翼の一角に着地する。
「被害甚大、か」
桜はミュウの苦々しい声に胸が苦しくなる。
「敵部隊も撤退を開始。味方部隊が健闘してくれたわ」
勇子はカラスード族の頑張りを認めながらも、自分たちの闘いの結果に満足がいかなかった。
〔アル・スカイ〕は激しい気流の中、背中を丸めて両マニピュレーターが持つビーム・サーベルの発振器を見つめた。




