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84話 共闘準備

 俺は神社に着いたとき、ふと足を止めた。


「ここって、前にも来たような……」


 そんなことを考えながらも、俺は長い階段を一気に駆け上がっていく。


 夕暮れの空は、どこか重苦しい雲に覆われていた。


 境内へ入ると、そこにはすでに蒼太と碧羽の姿があった。


「橙真、来たか」


 蒼太が振り返る。


「ごめん、少し遅れた」

「気にしないで」


 碧羽も俺へ視線を向けた。


 蒼太は険しい顔で森の奥を指差す。


「花江さんが言ってたけど、今回三体いるんだよな」

「ああ」


 俺は指された方向へ視線を向ける。


 北側。


 そこでは、巨大な獅子のような姿をした邪神体が、大地を激しく揺らしながらゆっくりと歩いていた。

 歩いた後の地面には、無数の亀裂が走っている。


 南西。


 そこには、巨大な牛のようでもあり、蜘蛛のようでもある邪神体がいた。

 山肌を削りながら進み、そのたびに斜面が大きく崩れていく。

 大量の土砂が森へ流れ落ち、木々を次々と飲み込んでいた。


 そして南東の上空。


 巨大な翼と長い赤い鼻を持つ邪神体が、空を旋回している。

 羽ばたくたびに強烈な竜巻が巻き起こり、周囲の木々が大きく揺れていた。


「……今回の邪神体、全体的に……大きくないか?」

「確かにな」


 蒼太も困ったように笑う。


 碧羽は三体を見比べながら、静かに口を開いた。


「一人一体担当したとしても、私たち三人だけじゃ少し厳しいよね」


 俺は腕を組み、しばらく考えた。


「うーん、そうだな……」


 三体とも、今まで戦ってきた邪神体より明らかに大きい。


 しかも、それぞれが地震、土砂崩れ、竜巻といった自然災害を引き起こしている。


 正直、三人だけで同時に相手をするのは、さすがに厳しい。


 なら――。


「それじゃあ、あいつを呼ぶか」

「あいつって誰だ?」


 そのとき、俺はすでに両手を組み合わせていた。


「ガブリエル、聞こえてるなら来てくれ!」


 俺の声が、静かな森へ響き渡る。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間――俺たちの目の前に、白い粒子が集まり始めた。


 光は徐々に人の形を作り、一人の大剣を背中に背負っている青年が静かに地面へ降り立つ。


「呼んだか、橙真」


 碧羽は思わず息を呑む。


「やっぱり……天使なんだ」


 蒼太も小さく目を見開いた。


「前も見たけど、まだ慣れないな」


 俺は苦笑しながらガブリエルを見る。


「ガブリエル、急に呼び出して悪いんだけどさ。あの邪神体を倒すために協力してほしい」


 ガブリエルは三体の邪神体へ視線を向ける。


 しばらく黙って観察したあと、小さく頷いた。


「分かった。ただ、俺一人で全ての支援に回るのは少々厳しい」


 ガブリエルは空を見上げる。


「ここに天使、全員呼ぶが、構わないか?」


 俺は迷わず答えた。


「もちろん、いいぜ」


***


 ガブリエルがゆっくり空を見上げる。


 その瞬間――四つの白い光が、神社の上空に現れた。


 光は次々と降り注ぎ、白い粒子となって集まっていく。


 一つ。

 また一つ。

 そして、四つ目。


 やがて四人の天使たちが、静かに地面へ降り立った。


「ガブリエル、急に呼び出して何かあったのか?」


 最初に口を開いたのは、長槍を携えた天使だった。


 ガブリエルは邪神体を見据えたまま答える。


「ああ。あれを倒すのに協力してくれ」


 四人の天使は邪神体へ視線を向ける。


 そして、静かに頷いた。


「了解」


 蒼太と碧羽は、目の前に並ぶ五人の天使を見つめていた。


 人間とは違う、静かな気配。


 しかし、不思議と圧迫感はない。


 むしろ、そこにいるだけで安心感を覚えるような存在だった。


 俺は五人の天使を見渡し、小さく息を吐く。


「……よし。一旦、作戦を決めよう」

「わかった」


***


 ガブリエルは三体の邪神体を静かに見据えていた。


 地面を揺らしている獅子のような邪神体。


 土砂を巻き上げている邪神体。


 そして、空を覆うほど大きな翼を広げている邪神体。


 それぞれを見比べたあと、ガブリエルが口を開く。


「……そうだな。この中で一番強そうなのは、あの獅子のような邪神体だろう」


 北の邪神体を指差す。


「あれは俺とウリエルで相手をする」


 ウリエルは短く頷いた。


「了解」


 するとラグエルが、南西の邪神体へ視線を向ける。


「なら俺は、あの牛みたいなやつだな」


 続いてサリエルが、空を見上げる。


「私は空中を担当します」


 最後にラファエルが一歩前へ出る。


「私は後方支援に回ります」


 ガブリエルが俺を見る。


「橙真、お前たちはどうする?」


 俺も三体を見渡した。


「俺はラファエルさんと支援に回る。蒼太と碧羽に、それぞれ一体を任せる」


 ガブリエルは静かに頷いた。


「分かった。ラファエル、橙真を頼む」

「はい。わかりました」


 ラグエルが蒼太の前へ歩み寄る。


「俺はラグエル。よろしくな」


 蒼太は笑みを浮かべる。


「水沢蒼太だ。よろしく」


 今度はサリエルが碧羽の前へ向かう。


「私はサリエル。君は?」


 碧羽は少し緊張しながら頭を下げる。


「風間碧羽です。よろしくお願いします」


 サリエルは優しく微笑んだ。


「そんなに緊張しなくていいよ。よろしくね、碧羽」


 碧羽も少しだけ笑う。


「はい」


 ラファエルは俺へ向き直る。


「私はラファエルです。今回、橙真さんと共にみなさんの支援を担当します」

「よろしくお願いします」


 俺が軽く頭を下げると、ラファエルは神社全体を見渡した。


「みなさんが邪神体へ接近したとき、結界を展開し、自然災害の影響を可能な限り抑えます」


 蒼太は感心したように笑う。


「それなら、思い切り戦えそうだな」

「心強いです」


 碧羽も安心したように頷いた。


 俺は三体の邪神体を見つめる。


 これまでの戦いでは、人間だけで邪神体と戦ってきた。


 天使たちもまた、別の場所で戦っていた。


 だけど今回は違う。


 俺たちは同じ場所で、同じ敵を倒す。


 それなら――俺は俺にできることをするだけだ。


 仲間の動きを見て、必要な場所へ支援を届ける。


 それが、俺の役割だ。


 ガブリエルは全員を見渡し、静かに口を開く。


「それぞれ、配置につけ」


 大剣を背負い直す。


「邪神体を討伐する」


 全員が頷いた。


「了解!!」


***


 次の瞬間――。


 ガブリエルとウリエルは北へ。


 ラグエルと蒼太は南西へ。


 サリエルと碧羽は南東の空へ。


 そしてラファエルと俺は、中央から全体を見渡せる位置へ向かう。


 五人の天使と三人の覚醒者。


 それぞれの邪神体が、一斉に咆哮を上げた。


 地面が震える。


 木々が揺れる。


 空を覆う雲が、さらに厚くなっていく。


 俺は迫り来る戦いを前に、ゆっくりと息を吐いた。


 人間と天使。


 これまで別々に戦っていた存在が、今初めて同じ戦場に立つ。


 そして――俺たちの初めての本格的な共闘が、始まろうとしていた。

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