↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/131

110話 この調査でわかったこと

「……橙真が、いない」


 その言葉が、夜の森に落ちた。


 誰も、すぐには反応できなかった。


 俺――風宮は、森の奥へ目を向ける。


 暗闇の向こう。


 そこにはもう、日向の姿はない。


「……嘘、でしょ」


 光莉が呟くように声を出した。

 その声は、かすかに震えていた。


「だって……さっきまで、一緒に……」


 光莉が森へ一歩踏み出す。


「光莉!」


 俺は咄嗟に呼び止めた。


「……私、あそこに戻ります」


 光莉は振り返った。


「橙真くんを、置いてきたんですよね?」

「……」


 俺は、何も答えられなかった。

 自分自身も、同じことを考えている。


 逃げることに必死で、日向を確認できていなかった。


「俺たちだけ逃げて……橙真が残ってるなら……」


 蒼太が拳を握りしめる。


「戻って確かめないと」

「……水沢」

「蒼太が行くなら、私も行きたいです」

「待ってくれ」

「でも!」

「気持ちは分かる」


 俺は、蒼太を見る。


「俺だって……今すぐ、あの場所に戻りたい」


 その言葉を口にした瞬間、胸の奥が重くなった。


 戻りたい。

 今すぐにでも。


 だが、俺たちが戻ったところで何ができる?


 カマエル。


 鳥山。


 シエリオ。


 そして、操られた遺体たち。


 俺たちは全員、満身創痍だ。


「……今戻れば、日向だけじゃなく、全員が殺される可能性がある」

「でも……」

「分かっている」


 光莉の言葉を遮るように、俺は答える。


「橙真が、俺たちを逃がすために残ったことくらい分かっている」


 だからこそ、戻れない。


 それが、今の俺たちにとって一番苦しかった。


「……カマエルは、橙真くんを殺すとは言っていませんでした」


 光莉が静かに口を開いた。


「ですが、『橙真以外は全員殺す』と……そう言っていました」

「……そうか」


 俺は森を見る。


 ならば、日向はまだ生きている可能性がある。


 カマエルには、日向をまだ殺さない理由がある。


 いや――殺せない理由があるのかもしれない。


「だったら、今やるべきことは一つです」


 俺は三人を見る。


「日向がどこへ連れていかれたのか。それを突き止める」


 光莉は悔しそうに唇を噛んだ。


「……はい」


 蒼太も拳を開く。


「分かりました」

「そのためにも、まずは防災対策課へ戻る」


 四人はもう一度、森の奥を振り返った。


 やはり、そこに日向の姿は、どこにもなかった。


 だが――まだ、生きている。


 俺たちは、そう信じることにした。


***


 防災対策課へ戻ると、すぐに医療班が水沢と風間の治療を始めた。


 俺と光莉は、そのまま会議室へ向かう。

 しばらくした水沢と風間も会議室に来た。


 机の上には、今回の事件に関する資料が並べられている。


「まずは、今回分かったことを整理しましょう」


 光莉が資料を広げた。


「私たちは、古代に起きた出来事を見ました」


 全員が静かに耳を傾ける。


 神々。


 天使。


 そして――カタストロフ。


 人間の感情が力となる世界。


 日本で起きた飢饉によって、人々の信仰は不安や恐怖、絶望へと変わった。


 その感情と自然災害を取り込んで生まれた存在が、カタストロフだった。


「カタストロフを封じるため、神々と天使たちは扉を作った」

「プロメテウスが鍵を作り、その力を失った」

「そして、一部の天使たちは自らを粒子に変えて、扉へ融合した」

「その扉を守っていたのが……カマエル」

「そうでしたね」


 光莉が頷いた。


 俺は資料を見つめる。


 ここまでは、古代の記憶から分かったことだ。


 だが、現代で新たに判明したことは、もっと重要だった。


「カマエルは、あの巫女だった」

「そして、月影さんを殺したのもカマエルでした」


 光莉の声が低くなる。


「鳥山宗一郎も、シエリオもカマエル側についている」


 俺は、鳥山との戦いを思い出した。


 黒い鎖。


 あの力なら、人間一人を捕らえて連れ去ることも難しくない。


「シエリオは遺体を操り、鳥山は鎖を操る」

「それに……カマエルは日向だけを必要としている」


 部屋の空気が重くなる。


「理由は、まだ分かりません。橙真くん自身も、カマエルに理由を尋ねていました。でも、彼女は『役目』としか答えていない」

「……プロメテウスの力が関係しているんでしょうか」

「その可能性はあります」


 光莉が答える。


「ですが、それだけとは限りません」


 カマエルは、日向にイヤホンを渡した。


 そして、決して外すなと言った。


 これまでに、イヤホンを外した日向は、強大な炎を使った。


 それをカマエルが知らないはずがない。


「……日向の力には、まだ何か秘密がある」


 俺は呟いた。


 誰も否定しなかった。


「なら、調べましょう」


 光莉が資料を閉じる。


「橙真くんがなぜ必要なのか。そして、どこへ連れていかれたのか」

「ああ」


 俺は立ち上がった。


「必ず見つける」


 日向を失うわけにはいかない。


 あいつが俺たちを逃がすために残ったのなら――今度は、俺たちがあいつを迎えに行く。


 ただ助けに戻るだけではない。


 カマエルたちが何を企んでいるのか。


 なぜ日向だけを必要としているのか。


 その答えを突き止めなければ、また同じことが起こる。


 だからこそ、俺たちは立ち止まる選択肢はなかった。


 俺は、そう決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。