15話 ライブハウス 一
夏休みが始まる前から、春子はイケメン四人で構成されたロックバンドに夢中になっていた。
「レッドリップス、本当にカッコいいわー」
その業界に疎い私でも、彼らの名前は知っている。
最近急激に人気が出てきて、テレビ出演も数多く、ネットで名前を見ない日は一日もないくらい世間に浸透している。
動画配信は、日本だけでなく、海外でも大人気なのだそうだ。
「生で見たいけど、チケットが取れないのよね。ファンクラブに入ってても難しいんだって」
そういう春子は、ファンクラブには入っていない。
「でね、私思ったんだけど、レッドリップスは無理だとしても、これから超有名になるバンドだったら、生で見れるんじゃない?」
「まあ、それはそうだけど……?」
春子がこれから言いたいことは、だいたい想像がついた。
「だから、ストーンバレイに行こうと思うの」
やっぱりそうなったか……。
ストーンバレイと言うのは、ライブハウスの名前で、レッドリップスがまだ無名の下積み時代に拠点としていたライブハウスである。
100人規模の小さなライブハウスなのだが、レッドリップスが有名になったお陰で、ストーンバレイの知名度もぐんと上がった。
レッドリップス以外にも、ここから有名になったアーティストはいたのだが、私でも知ってるくらいに有名なライブハウスになったのは、レッドリップスがあってのことだった。
「私一人でライブハウスなんて、ちょっと敷居が高いから、麗奈、一緒に行ってくれない?」
結局、最後はこうなる。
人混みが苦手な私は、本当なら行きたくない。
春子に、一人で行ってねと言えば良いのだが、春子の子犬のようなウルウルした目で見つめられると、無下に断ることもできず……
「わかったわ。一緒に行くわ」
結局OKしてしまった。
「ありがとう。じゃあ、私、予約チケット買っとくね」
春子はヤッターと大喜びで、私の手を握った。
こんなところも可愛いと思う。
実は、私が春子と一緒に行こうと思ったのには、もう一つ理由がある。
ストーンバレイが有名になると、ネットでもストーンバレイの情報が流れてくる。
ライブの今後のスケジュールや、過去に出演してきたバンド名の情報だけでなく、よくある怖い都市伝説みたいなものも流れていたのだ。
演奏が終わって皆が帰った後、誰もいないステージから、ギターの音が聞こえる。
五人組のバンドが演奏していたのに、何故か写真には六人写っていた。とか……。
嘘か本当かわからないのが都市伝説だと思うのだが、春子がそんな場所に行ったら、何が起こるかわからない。
春子を守るためにも、私は一緒に行った方がいい、そう考えたのである。
夏休みになって、裕太の別荘から帰って来てから、三日後、約束の日になった。




